恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

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修学旅行が生んだ結果

068 誤解

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橋の上の花音と明るい茶髪の男は押し問答を繰り返している様子が見られた。閑散とした場所なので、日中で陽が高いにも関わらず周囲には他に人の姿は見られない。つまり今トラブルがあっても誰も花音を助けることが適わない。


「いや!放してよ!」
「いいじゃん、ちょっとだけだからよ!頼むって、すぐ済ますから」
「行かないって言ってるじゃない!」

もうすぐ橋に着く頃、近く、声が微かに聞こえる程度に走って向かうとそんな声が聞こえて来た。

ちょっと待て、どういう状況だ。行かないってどこに連れていかれようとしてるんだ?状況的に見る限りでは花音がナンパされて無理やりどこかに連れて行かれそうになっているように見えるんだけど。
そういやさっきラブホ街を通ってきたな。もしかして強引に連れ込まれようとしているのか?
そうなるとその先は―――。


ダメだ!マズい!なんとかしないと!――――けど、相手は俺よりも背が高く年上っぽいな。大丈夫なのか?


走りながら対応をどうしようかと考える。
警察を呼ぶか?いや、ダメだ。修学旅行中の俺達が警察沙汰になったりすればどんなことが起きるか想像もつかない。良くて停学、退学もあり得るな。最悪なのはSNSなどで拡散されてマスコミやメディアに取り上げられるってことも――――。
想像するだけで恐ろしい。結果、最終手段にその選択肢を持つことにするのだが、とりあえず他の方法を選ぼう。

――――俺だけならどんな目に遭ったってかまわない。花音がそれで助かるなら。

「ってか俺、そもそも喧嘩なんてしたことないんだけどな――」

だがこればかりは仕方ないと息を吐く。弱っちいつもりがないのは運動をそれなりにしてきたからだ。しかし、喧嘩となると話は別。喧嘩は度胸があるやつが勝つって聞いたことがある。度胸があるのかないのかなんてわからないが、今なら足りていなくても花音のためなら補える自信が十分にある。

ただそれでも、マイナス方向に思考を回してしまう。ここで下手は打てない。
相手が気弱であれば助かるのだがと思ってはみるものの、花音があれだけ嫌がっているのに強引に連れて行こうとする姿から見ても気が弱いということはまずないだろう。
そうなると、あとは相手が自分より弱いことを祈るだけ。

腹を括り、行動を決める。

幸いにも男は潤が向かっている方向に対して背を向けている。今なら接近に気付かれない。

そうしてあと十メートルといった程度まで近付いた。勢い余って花音を傷つけないようにしないとな。やれるだけの注意を払う。


「おぉぉりゃあぁぁぁっ!」
「はぁ?」「えっ?潤!?」

明るい茶髪の男の背に向かって思いっきり飛び蹴りをかました。

「うげっ!」

突然背後から聞こえた潤の声に対して男は顔だけ振り返り潤の姿を見て驚き掴んでいた花音の腕を離す。しかし潤の迫る勢いには間に合わずに背中に衝撃を受けて前転してその場に転がった。

この隙を逃すわけにはいかない。
転がった先でまだ背を向けている男の後ろ姿をどこかで見た気がするなと一瞬思ったのだが、そんなことを考えている余裕はない。ここはもう何発かいっておいた方がいいだろう。それに明らかに男は怒っている。蹴られたのだから当然だ。

「なんだ、てめぇ!いきなりなにしやが―――」
「くらえっ!」

起き上がり振り向いたところで胸倉を思いっきりつかんで顔面に拳を振るう。できればこの一撃で怯んでくれたら花音を連れて逃げることができるので考える中でも一番望ましい。
こんな状況でも思考は意外と冷静だなと思いながら男の顔を確認する。
「(こいつ、めちゃくちゃ男前だな。けど誰かに似てるな)」
その男前の顔を殴ることに少しだけ気が引けたのだが、そんなこと関係ない。これだけ男前なら強引にナンパなんかしなくてもいいだろう。まぁこれで顔を腫らせばしばらくナンパもできないだろ。自業自得だ。

殴る瞬間にそんなことを考えたのだが、もう拳は振るわれている。

「――潤!やめて!それ私のお兄ちゃんなの!」

「へっ?」

もう遅かった。振るった拳を引っ込めるには間に合わない。声を掛けられたことで拳の勢いは多少おさまるのだが、鈍い音を立てて男の側頭部に拳を突き立てた。


――。

――――。

――――――。


えっと、これどういう状況だ?

よしっ、まずは落ち着いて今の状況を考えることから始めようじゃないか。

えー、まず俺達は今修学旅行中で当然知らない土地にいる。これは当然間違えようがない。
それで?そうそう、俺は花音がいなくなったという連絡を真吾から受けて花音を探しに来た。うん、ここまでも特に何も間違っていないな。
そして真吾と合流する前にその途中で花音を見つけたのだが、見つけた状況が不味かったと判断したんだったな。切迫性があり緊急性があると。とにかく花音を助けたい一心だったのは間違いない。

あれ?何も間違ってないんじゃないか?


心に問い掛けるように状況を確認する。


それで、どういうことだ?花音は間違いなく嫌がっていた。これは確実に断言できる。聞こえてくる会話がそう言っていた。だから俺は不意討ちをして花音をこいつから助けようとしたんだよな。
で、それは途中まで上手くいっていた筈だ。

それで、こいつが――――いや、この人が花音のお兄さん?

うん、なら俺の行動は全部間違ってるな。

えっ?

は?


頭の中がこんがらがって仕方がない。状況を整理しようと思ったのだが整理がつかない。ポケットにしまったスマホがずっとバイブを鳴らしているのだが、それがまた鬱陶しい。

「じゅ、潤!?どうしてここにいるの?」
「えっ?あっ、いや、だって、花音がいなくなったって聞いたから」
「そ、それはもう凜に行き先を言ってあるわよ!?ちょっと行き違いがあったけど、それよりも―――」
「…………そっか―――」

花音の言葉を聞きながら花音が視線を向けた先を確認して、潤も恐る恐る視線の先を確認する。

「あいっててて―――。 で、花音、こいつは誰なんだ?いきなり蹴り飛ばすわ殴りかかって来るわ」

視線のその先には、当然花音が兄と叫んだ男が頬を擦りながら身体を起こしていた。

「…………えっと、この人が花音のお兄さん?」

小さく花音に問い掛けると、花音は小さく首肯していた。理解出来ないことは多々あるのだが、その動きだけでもう十分過ぎる程に関係性だけは理解出来た。

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