69 / 112
修学旅行が生んだ結果
069 災い転じて
しおりを挟む「ったく、おい花音。こいつは誰なんだ?制服を着てるってことは花音と同じ学校ってことでいいんだな?」
「えっ?あっ、うーん、そうなんだけど…………。深沢潤っていう名前のクラスメイトで、ただ―――」
顔を擦りながら反対の手で潤を指差す。明らかに怒っているのだが、兄もまずは状況を確認することに努めている様子が見える。
潤はその状況をもう黙って見ていることしかできず、気まずさから兄らしき男の顔を見れないでいた。花音の方に顔を向けるのだが、花音も潤がどうしてここにいるのか、どういうことなのか理解出来ないでいる。
―――つまり、この場にいる誰もが今のこの状況を理解出来ていない。
ポケットのスマホは未だに断続的に鳴っており、あまりにも鳴っているので誰の何かは多少気にはなるのだが今この場で取り出して確認することなどできるはずもなかった。
「よしそれがわかればまずは十分だ。詳しい事情はこいつから聞くとするよ。 で、お前はどうしてここに来たんだ?」
「えっ、あっ、えっと…………す、すいません、まずは謝らせて下さい!いきなり殴ってしまってすいませんでした!」
質問に答える前に先にしなければいけないことがあった。
謝罪の意を示すために深々と下げる頭を見下ろしながら兄は息を吐く。
「殴ったのと、蹴ったのとだけどな」
「あっ――」
「ただまぁそれについては話を聞いてからお前を責めるかどうか決めるから、まずお前が何しにここに来たのか話せって言ってんだ」
若干蹴ったことに触れなかったことを根に持つのだが、それでも感情を抑えて潤の行動の理由を問いただしてくる。
「は、はい、僕は花音――妹さん、浜崎さんが、危ないと思って――――」
「ほう、危ないって言うのは俺がそういう風に見えたってことだな?」
「い、いえ、そういうわけじゃないんですが――――」
「じゃあどういうわけなんだよ?言ってみろよ、ほれ」
口籠る潤に対してまくしたてる兄。
誤魔化して話すつもりはないのだが、どう話したらいいのか。正直に言うなら、『好きな女の子が旅行先で行方不明になったって聞いて急いで探しに来たところで偶然発見したのです。けどそれが無理やりホテルに連れていかれそうに見えたので不意討ちで殴りかかりました。でもそれは僕の勘違いでした』とこうなってしまうのだから。
さすがに正直に答えるわけにはいかないので多少濁して答えることになってしまう。
「あの、友達から浜崎さんと連絡がつかなくてどこにいるのかわからないって連絡があって、その友達と合流する為に待ち合わせ場所に向かっていたんです。そこで偶然見かけた浜崎さんが男の人に腕を引っ張られて嫌がっている姿を見たので慌てて、助けないとと思って、強引な手段に出ました。それがまさかお兄さんだったなんて思ってなくて…………」
潤個人の気持ちを控えた伝え方をする。これもまた事実であり間違っていないのだから。
しかしどうしてもわからないことがある。それがなければこんな強硬手段に打って出なかった。
潤の行動の理由を伝えると、兄は次に花音を見る。
「だ、そうだ。 で、花音の方はどうなんだ?こいつの言っていることはどれくらい合っている?」
花音は兄に問われると一度だけチラッと潤に視線を向けてすぐに兄に戻す。
「合ってるかどうかはわからないけど、たぶん、行き違いがあったと思うの。さっき潤が――――深沢君が言っていたことなんだけど、確かにお兄ちゃんから連絡があったあと、電波悪くて一時的に同じ班の子と連絡が取れなくなったことがあって、でもそれはさっき連絡ついたの。ただ、今の話を聞く限りだとその子から深沢君にまだ連絡できてないなら…………」
花音はそこまで言って再び潤を見た。見た理由はその連絡があるのかないのかということなのだろう。
花音が潤を見たことで兄もまた潤を見る。
「いや、そんな連絡なんて――――」
と口にしたところで、そういえばと、今は鳴りを潜めたスマホがずっと鳴っていたなと思い出した。途中からどうでも良くなって無視していたのだが、こうなってくるとその内容が気になって仕方ない。ただ、もう一つ気になる方、抜け出して来た方、響花からの連絡だと修学旅行自体が致命的になりそうな気がしなくもない。
確認する様にポケットからスマホを取り出し、画面を確認すると再びスマホがバイブする。電話の着信であり、相手は真吾だった。
「……すいません、出ても?」花音の兄と花音に顔を向け尋ねる。花音は微動だにしないのだが、花音の兄は無言で頷いた。
スマホの受話ボタンをタップすると受話口から大きな声が聞こえて来た。
『おい潤!お前なんで出ないんだよ!ずっと連絡していたんだけど全く繋がらねぇし!もうこっち着く頃か』
「いや、すまん、こっちにも色々とあってな。まだ着きそうにないわ」
『そうか。 あのさ、花音ちゃんのことはもう大丈夫だ。凜のところに連絡があってさ、なんか一人暮らししている兄ちゃんがこの近くに住んでるらしくて、そこに行っているらしくて――』
「――そうみたいだな」
『そうみたい?』
「いや、なんでもない。それで?」
『なんだ?まぁいいや。とにかくあとでまた合流することになったからさ、お前も抜け出して来たのバレたらもう次はないだろうから早く戻った方が良いぞ!』
「そっか、わかった。ありがと」
そこでプツっと終話してスマホを持ったまま花音の兄と花音を見る。
「あのですね――」
「いや、いい、大丈夫だ。全部聞こえて来た。声の大きな友達に感謝するんだな」
どうやら全部聞こえていたらしいので改めて説明の必要がなかった。
「今のでお前が来た理由はわかったし、花音が俺のところに来た理由もわかったな」
「はい」
花音の兄の問いに対して肩を落として返事をすることしかできなかった。兄と花音の顔を直視できない。つまり、潤が慌てて来たこと自体が早まったことで無駄なことであり、それどころか誤解をした挙句兄を蹴り飛ばして殴りつけたのだから。
「それで?お前は修学旅行をなんで抜け出して来たって、何したんだお前?」
「あー、いや、その……単純に昨日夜の自由時間をオーバーして今日の自由行動に教師帯同の制限を付けられたんです」
正直に言うかどうか迷ったが、別にこれも嘘ではない。細かく話すにしても、花音はまだしも兄に対して細かく説明をする必要を感じなかったのだ。花音が理由を聞いているかどうかは定かではないが、様子を見る限りは恐らく聞いてはいないのだろうという風に見える。
「ははっ、なんだそれ?お前あほだろ?」
潤の事情を少し聞いて兄は笑顔になる。笑われることも仕方ない。自分でも十分間抜けなことをしたと反省しているのだから。
「俺からも質問いいですか?」
「なんだ?」
「お兄さんのところに妹が来たっていうのはわかったんですけど、どうして花の――浜崎さんの腕を引っ張ってたんですか?」
それがなければこんなことをしていなかったかもしれない。むしろ雰囲気次第では彼氏だと勘違いしてしまいそのまま見なかったことにしていた可能性は否めないのだが。
「あぁ――」
「あのね、潤」
兄がバツの悪そうな顔で言いにくそうにしている横で花音が代わりに口を開いた。
「私のお兄ちゃん、ここの近くの大学に通ってるの。一人暮らしをしてね」
そういえば駅でやたら大学生らしき人を見たなと思い返す。真吾もさっきの電話でそう言っていたなと。
「それでね、今日、私誕生日なの」
それも知ってる。つい一時間前に買ったばかりだが、プレゼントは鞄の中に入っている。ただ、それがイコールにはならない。
「で、誕生日プレゼントを渡すから間の場所で待ち合わせをしたんだけど、凜と真吾君を二人にさせていて私に時間があることを知ったお兄ちゃんが大学の友達に私を紹介したいから来てくれって。でも私そんな見世物みたいなの嫌だから断っていたのよ」
なるほど、自慢の妹をその字の通りただ自慢したいだけのことだったんだな。なるほどなるほど、納得はできないけど理解はした。
花音が潤に説明する度に徐々に横を向いて素知らぬ顔をする兄は口笛を吹きだした。川の中を覗き込む様に見ている。
「だから潤が来てくれて助かったわ。ありがと」
「えっ?そこお礼言われるとこなの?俺お兄さん殴っちまったけど」
「それはまぁいけないことだと思うけど、結果的に私は助かったからお礼を言ったのよ。お兄ちゃんも悪いんだし」
「それは違うぞ花音!兄ちゃんはこんな可愛い花音をあいつらに見せたいだけなんだ!あいつら写真だけだと全然信用しやがらないんだぜ?俺にこんな可愛い妹がいるってこと!」
「ちょっと何今の!?なんで写真持ってるのよ!? 消してよ!早く消して!今すぐ!!」
「ちょ、ちょっと花音待てって、待ってくれって!わかった、わかったからもう付いて来いなんて言わないから写真だけは勘弁してくれって!」
兄は花音の写真を持っていることを隠していたみたいで、怒った花音と兄が言い合う様子を見ながら潤は、なんだ、結局のところシスコンをこじらせた兄がいただけなのか、と想定していたよりも遥かに下回る事態だったことに安堵の息を吐いた。
「そういえば潤は戻らなくて大丈夫なの?先生が一緒なのよね?どうやって抜けて来たのよ?」
振り返り、花音が問い掛けた。確かにそうだ。なるべく早く戻らないといけない。だがしかし、偶然とはいえ、せっかくの好機を逸したくない。
誕生日プレゼントはもう鞄に入っているのだから。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
婚約破棄のために偽装恋人になったら、ライバル店の天才パティシエに溺愛されすぎています
草加奈呼
恋愛
大学生の佐藤天音は、
“スイーツの神の舌”を持つことで知られる、洋菓子店の一人娘。
毎年、市内のスイーツコンテストで審査を務める天音は、
そこで出会った一人のパティシエのケーキに心を奪われた。
ライバル店〈シャテーニュ〉の若きエース
イケメン天才パティシエ・栗本愁。
父に反対されながらも、どうしてももう一度その味を
確かめたくて店を訪れた天音に、愁は思いがけない言葉を告げる。
「僕と、付き合ってくれないか?」
その告白は、政略的な婚約を断つための偽装恋人の申し出だった。
そして、天音の神の舌を見込んで、レシピ開発の協力を求めてくる。
「報酬はシャテーニュのケーキセットでどうかな?」
甘すぎる条件に負け、
偽装恋人関係を引き受けたはずなのに──
いつの間にか、愁の視線も言葉も、本気の溺愛に変わっていく。
ライバル店×コンテストでの運命の出会い×契約恋人。
敏腕パティシエの独占愛が止まらない、
甘くて危険なシークレットラブストーリー。
🍨🍰🍮🎂🍮🍰🍨
※恋愛大賞に参加中です。
よろしければお気に入り、いいね、
投票よろしくお願いいたします。
∞
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。
入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。
しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。
抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。
※タイトルは「むげん」と読みます。
※完結しました!(2020.7.29)
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
【完】ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
📖2026.2.25完結
本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。
気になった方はぜひそちらもどうぞ!
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる