恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

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修学旅行が生んだ結果

069 災い転じて

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「ったく、おい花音。こいつは誰なんだ?制服を着てるってことは花音と同じ学校ってことでいいんだな?」

「えっ?あっ、うーん、そうなんだけど…………。深沢潤っていう名前のクラスメイトで、ただ―――」

顔を擦りながら反対の手で潤を指差す。明らかに怒っているのだが、兄もまずは状況を確認することに努めている様子が見える。
潤はその状況をもう黙って見ていることしかできず、気まずさから兄らしき男の顔を見れないでいた。花音の方に顔を向けるのだが、花音も潤がどうしてここにいるのか、どういうことなのか理解出来ないでいる。

―――つまり、この場にいる誰もが今のこの状況を理解出来ていない。

ポケットのスマホは未だに断続的に鳴っており、あまりにも鳴っているので誰の何かは多少気にはなるのだが今この場で取り出して確認することなどできるはずもなかった。

「よしそれがわかればまずは十分だ。詳しい事情はこいつから聞くとするよ。 で、お前はどうしてここに来たんだ?」

「えっ、あっ、えっと…………す、すいません、まずは謝らせて下さい!いきなり殴ってしまってすいませんでした!」

質問に答える前に先にしなければいけないことがあった。
謝罪の意を示すために深々と下げる頭を見下ろしながら兄は息を吐く。

「殴ったのと、蹴ったのとだけどな」
「あっ――」
「ただまぁそれについては話を聞いてからお前を責めるかどうか決めるから、まずお前が何しにここに来たのか話せって言ってんだ」

若干蹴ったことに触れなかったことを根に持つのだが、それでも感情を抑えて潤の行動の理由を問いただしてくる。

「は、はい、僕は花音――妹さん、浜崎さんが、危ないと思って――――」
「ほう、危ないって言うのは俺がそういう風に見えたってことだな?」
「い、いえ、そういうわけじゃないんですが――――」
「じゃあどういうわけなんだよ?言ってみろよ、ほれ」

口籠る潤に対してまくしたてる兄。
誤魔化して話すつもりはないのだが、どう話したらいいのか。正直に言うなら、『好きな女の子が旅行先で行方不明になったって聞いて急いで探しに来たところで偶然発見したのです。けどそれが無理やりホテルに連れていかれそうに見えたので不意討ちで殴りかかりました。でもそれは僕の勘違いでした』とこうなってしまうのだから。

さすがに正直に答えるわけにはいかないので多少濁して答えることになってしまう。

「あの、友達から浜崎さんと連絡がつかなくてどこにいるのかわからないって連絡があって、その友達と合流する為に待ち合わせ場所に向かっていたんです。そこで偶然見かけた浜崎さんが男の人に腕を引っ張られて嫌がっている姿を見たので慌てて、助けないとと思って、強引な手段に出ました。それがまさかお兄さんだったなんて思ってなくて…………」

潤個人の気持ちを控えた伝え方をする。これもまた事実であり間違っていないのだから。
しかしどうしてもわからないことがある。それがなければこんな強硬手段に打って出なかった。

潤の行動の理由を伝えると、兄は次に花音を見る。

「だ、そうだ。 で、花音の方はどうなんだ?こいつの言っていることはどれくらい合っている?」

花音は兄に問われると一度だけチラッと潤に視線を向けてすぐに兄に戻す。

「合ってるかどうかはわからないけど、たぶん、行き違いがあったと思うの。さっき潤が――――深沢君が言っていたことなんだけど、確かにお兄ちゃんから連絡があったあと、電波悪くて一時的に同じ班の子と連絡が取れなくなったことがあって、でもそれはさっき連絡ついたの。ただ、今の話を聞く限りだとその子から深沢君にまだ連絡できてないなら…………」

花音はそこまで言って再び潤を見た。見た理由はその連絡があるのかないのかということなのだろう。
花音が潤を見たことで兄もまた潤を見る。

「いや、そんな連絡なんて――――」
と口にしたところで、そういえばと、今は鳴りを潜めたスマホがずっと鳴っていたなと思い出した。途中からどうでも良くなって無視していたのだが、こうなってくるとその内容が気になって仕方ない。ただ、もう一つ気になる方、抜け出して来た方、響花からの連絡だと修学旅行自体が致命的になりそうな気がしなくもない。

確認する様にポケットからスマホを取り出し、画面を確認すると再びスマホがバイブする。電話の着信であり、相手は真吾だった。

「……すいません、出ても?」花音の兄と花音に顔を向け尋ねる。花音は微動だにしないのだが、花音の兄は無言で頷いた。

スマホの受話ボタンをタップすると受話口から大きな声が聞こえて来た。

『おい潤!お前なんで出ないんだよ!ずっと連絡していたんだけど全く繋がらねぇし!もうこっち着く頃か』
「いや、すまん、こっちにも色々とあってな。まだ着きそうにないわ」
『そうか。 あのさ、花音ちゃんのことはもう大丈夫だ。凜のところに連絡があってさ、なんか一人暮らししている兄ちゃんがこの近くに住んでるらしくて、そこに行っているらしくて――』
「――そうみたいだな」
『そうみたい?』
「いや、なんでもない。それで?」
『なんだ?まぁいいや。とにかくあとでまた合流することになったからさ、お前も抜け出して来たのバレたらもう次はないだろうから早く戻った方が良いぞ!』
「そっか、わかった。ありがと」

そこでプツっと終話してスマホを持ったまま花音の兄と花音を見る。

「あのですね――」
「いや、いい、大丈夫だ。全部聞こえて来た。声の大きな友達に感謝するんだな」

どうやら全部聞こえていたらしいので改めて説明の必要がなかった。

「今のでお前が来た理由はわかったし、花音が俺のところに来た理由もわかったな」
「はい」

花音の兄の問いに対して肩を落として返事をすることしかできなかった。兄と花音の顔を直視できない。つまり、潤が慌てて来たこと自体が早まったことで無駄なことであり、それどころか誤解をした挙句兄を蹴り飛ばして殴りつけたのだから。

「それで?お前は修学旅行をなんで抜け出して来たって、何したんだお前?」
「あー、いや、その……単純に昨日夜の自由時間をオーバーして今日の自由行動に教師帯同の制限を付けられたんです」

正直に言うかどうか迷ったが、別にこれも嘘ではない。細かく話すにしても、花音はまだしも兄に対して細かく説明をする必要を感じなかったのだ。花音が理由を聞いているかどうかは定かではないが、様子を見る限りは恐らく聞いてはいないのだろうという風に見える。

「ははっ、なんだそれ?お前あほだろ?」
潤の事情を少し聞いて兄は笑顔になる。笑われることも仕方ない。自分でも十分間抜けなことをしたと反省しているのだから。

「俺からも質問いいですか?」
「なんだ?」
「お兄さんのところに妹が来たっていうのはわかったんですけど、どうして花の――浜崎さんの腕を引っ張ってたんですか?」

それがなければこんなことをしていなかったかもしれない。むしろ雰囲気次第では彼氏だと勘違いしてしまいそのまま見なかったことにしていた可能性は否めないのだが。

「あぁ――」
「あのね、潤」

兄がバツの悪そうな顔で言いにくそうにしている横で花音が代わりに口を開いた。

「私のお兄ちゃん、ここの近くの大学に通ってるの。一人暮らしをしてね」
そういえば駅でやたら大学生らしき人を見たなと思い返す。真吾もさっきの電話でそう言っていたなと。
「それでね、今日、私誕生日なの」
それも知ってる。つい一時間前に買ったばかりだが、プレゼントは鞄の中に入っている。ただ、それがイコールにはならない。
「で、誕生日プレゼントを渡すから間の場所で待ち合わせをしたんだけど、凜と真吾君を二人にさせていて私に時間があることを知ったお兄ちゃんが大学の友達に私を紹介したいから来てくれって。でも私そんな見世物みたいなの嫌だから断っていたのよ」
なるほど、自慢の妹をその字の通りただ自慢したいだけのことだったんだな。なるほどなるほど、納得はできないけど理解はした。

花音が潤に説明する度に徐々に横を向いて素知らぬ顔をする兄は口笛を吹きだした。川の中を覗き込む様に見ている。

「だから潤が来てくれて助かったわ。ありがと」
「えっ?そこお礼言われるとこなの?俺お兄さん殴っちまったけど」
「それはまぁいけないことだと思うけど、結果的に私は助かったからお礼を言ったのよ。お兄ちゃんも悪いんだし」

「それは違うぞ花音!兄ちゃんはこんな可愛い花音をあいつらに見せたいだけなんだ!あいつら写真だけだと全然信用しやがらないんだぜ?俺にこんな可愛い妹がいるってこと!」
「ちょっと何今の!?なんで写真持ってるのよ!? 消してよ!早く消して!今すぐ!!」
「ちょ、ちょっと花音待てって、待ってくれって!わかった、わかったからもう付いて来いなんて言わないから写真だけは勘弁してくれって!」

兄は花音の写真を持っていることを隠していたみたいで、怒った花音と兄が言い合う様子を見ながら潤は、なんだ、結局のところシスコンをこじらせた兄がいただけなのか、と想定していたよりも遥かに下回る事態だったことに安堵の息を吐いた。


「そういえば潤は戻らなくて大丈夫なの?先生が一緒なのよね?どうやって抜けて来たのよ?」

振り返り、花音が問い掛けた。確かにそうだ。なるべく早く戻らないといけない。だがしかし、偶然とはいえ、せっかくの好機を逸したくない。

誕生日プレゼントはもう鞄に入っているのだから。

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