恋に不器用な俺と彼女のすれ違い

干支猫

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修学旅行が生んだ結果

070 福と……なす?

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「あっ、いや―――」

誕生日プレゼントを渡す絶好の機会なのだが、そこで思わず無意識に兄の顔を見てしまった。花音と二人きりなら鞄に忍ばせたプレゼントをそれとなく自然に渡すことなど多少の勇気は必要になるのだろうが、可能である。
だが、兄がいるとなるとその勇気の必要具合は倍以上に膨れ上がる。溺愛している妹の前で異性から誕生日プレゼントを渡されるところを見てどう思うのか。先程のシスコンぶりが気になって仕方なかった。

「ってか、お前、意外とやるな」
「えっ?」
「いくら花音が心配だからって知らない土地でどこ探したらいいかもわからねぇだろうし、そもそも自分が罰を受けた状態で既にリスク背負ってるのに更にリスクを背負うように抜け出しただけじゃなく俺の事殴りやがったよな?俺が学校に通報したらどうするつもりだったんだ?」
「それはその時考えるつもりでした。とにかく浜崎さんを助けたい一心で…………」
「そうかそうか、嘘はついてなさそうだな。 んー、俺には劣るが顔もそう悪くないし何より女のためにそれだけの行動力を発揮するか…………。 よしっ、お前なら特別に花音と付き合っても良い許可を出してやるぞ」

「「えっ!?」」

潤の行動を見直した様子で更にその男気を称賛した。
しかし、続いて出た言葉に潤も花音も驚きを隠せない。いきなり何を言ってるんだと二人とも顔を見合わせるのだが、すぐに兄の言葉の意味を思い返して赤らめて思わずお互いに顔を逸らしてしまう。

「な、なに言ってるのよお兄ちゃん!?こんなところで!って、場所の問題じゃないわ!」
「あん?だって、嬉しくないか?女の子として?これだけ本気で向き合ってくれることに」
「いや、それは、まぁ、そうだけど―――」

顔を赤らめながら横目に潤を見る花音は兄の言葉を否定しない。それを聞くだけでどこか気持ちが昂る。今回の行いはけして全部が無駄ではなかったのだと。
しかし、とは言ってもそれはもう叶わない。兄は花音の彼氏のことを知らないのだな。

「えっ、いや、けど花音には彼氏が――」
「はぁ?花音お前彼氏いるのか!?」
「いないわよ!もしかしてあのこと?あれ花火の時に一緒にいたのお兄ちゃんだからね!?」

「は? えっ?」

何を言っているのか意味がわからなかった。

「ん?花火?あれか?こないだ一緒に見に行ったやつか?」
「そうよ、お兄ちゃんと一緒のとこ学校の子に見られてて、誰だって聞かれたから彼氏ってことにしたのよ。どうせお兄ちゃんが帰って来ない限り一緒にいるとこなんてもう見られないから丁度良いと思ってさ」
「あぁ、なんだそういうことか。そういや修学旅行中だもんな。花音のとこのジンク―――いてぇな!」

花火大会を兄妹の二人で見に行っていたことを聞いて納得した。兄といるところを見られてカップルだと思われたのだろう。俺も杏奈とよくそういう風に見られるしな、と妙に納得してしまう。
ただ、どうして花音は今怒っているのかは理解出来なかった。

「それは言わないでよ!ってかなんでお兄ちゃんがそれ知ってるのよ!」
「いや、前に聞いたことあるだけだ。まぁ元カノから」
「(ジンクスって言いかけたか?あぁ、確かあれか)」

潤もまたそのジンクス。修学旅行で告白して成功した男女は結婚するという噂、耳にしたことはあったのだが、そういえばそんなのあったなという程度に今の今まで忘れていた。あまりそういうのは信じていないのだが、花音の態度を兄より少し遅れて理解する。
修学旅行で告白してくるやつを排除したってところか。


「はぁ。まぁいいや。それとさっきも聞いただろうけど、花音今日誕生日なんだわ。せっかくだからお前もまぁなんか祝ったってくれ」
「あっ、それはもう―――」
話が逸れたと思えば急展開を迎える。あなたは神か!なんて前振りをしてくれるんだよ。これで自然と渡す口実ができたではないか。彼氏のことも気にしなくて良いんだし。

「あ、あのさ、じじじ実は前に聞いたの覚えてて、それで、これ―――」

都合の良い展開を逃さないように素早く鞄の中から小さな紙袋を取り出し、花音に手渡す。「えっ?」と反応したのは、花音はまさかここでプレゼントを貰えるとは思っていなかったので不思議そうな顔をしながら小さく「ありがと」と返した。

「開けても?」
「もちろん。 俺なりに何が良いか考えたけど、あんまりいいもん思いつかなくてさ。けどこれならと思って、その、喜んでもらえるかどうかわかんないけど」

潤は花音が紙袋の中身を確認する為に開けているのを、地面を見ながら言い訳の様に口にする。紙袋から取り出す音が耳に入って来るのだがどういう反応をするのかわからない。見つけた瞬間はこれ以上の物はないのではとすら思ったのだが、いざ渡してみると反応が気になって仕方ない。彼氏でもない男からネックレス、しかも名前とリンクしたデザインの物なんてもらってどう思うのか。感情の中に若干後悔の色が混ざり始める。


「――――これ、私に? うそっ!? ほんとに?」


言葉だけではどういう反応をしているのかわからないので、恐る恐る花音の顔を見た。喜んでもらえたのだろうか、それとも困らせてしまったのだろうか。多少上ずっている言葉の調子からは悪い方向に受け取られてはいないように感じるのだが――――。


「えっ?」

そうして顔を上げて見た目の前の光景に思わず目を疑った。


目の前には輝かんばかりの笑顔を潤に向ける花音が居た。その目尻には涙が浮かんでいるようにすら見えたのは都合の良い夢でも見ているのだろうか。
その表情から窺える反応は聞かなくてもわかる。明らかに喜んでくれている。

「これ、私の名前だよね?すぐにわかったわ!嬉しい!すっごい嬉しい!ありがとう!!」
「あっ……いや、そんなに喜んでもらえると思わなかったな」
「そんなことないよ!これ以上のプレゼントなんてないんじゃないって思えるぐらい嬉しいわよ!」

大げさだよなとは思うものの、その感想には見つけた時に潤も同じ感想を抱いた。それもまた嬉しくなる。それだけ喜んでもらえるなら偶然見つけたとはいえ買った甲斐があるというものだ。意外と値が張ったんだよなとは少し思ったのだがそれは絶対口にはすまい。

この笑顔が見られただけで十分満足してしまう。

しかし、ただこのまま満足しただけで終わらせるつもりもない。

今なら言える気がする。


――――花音のことが好きだということを。


いつか言おうと決心していた。しかし、花音に彼氏がいるということを聞いてからタイミングを逸してしまっていた。逸したといっても潤が勝手にそう思っているだけで、そもそもそのタイミングを見計らっていた段階だというのはただの言い訳でしかない。

だがその彼氏も実は男を遠ざけるために花音が使った偽彼氏でしかない。告白した後の事やそもそも明日のこととか他にも色々と気になることや疑問に思うこともあり、偽彼氏ということに既視感も覚えてしまうのだが今この場に於いてはまた別の話だ。

今この笑顔を見ながらなら言える気がする。

結果はどうなったって構わない。瑠璃とした約束を思っていた以上に早く果たすというのは義理でしかないが、その約束があるから、それが、今から言おうとする言葉を後押ししてくれることを有難く感じる。

『花音、お前のことが好きだ。ずっと前から好きだったんだ。中学の時からずっと』 と。



「―――あのさ」
「なに?」

今向けてくれる笑顔が可愛らしい。拗ねた顔も膨れた顔も可愛らしい。
高校で垢抜けた花音は本当にこれ以上ないほど綺麗になっている。その大きな目に長い睫毛、高い鼻に艶のある明るい髪。厚みのある唇に俺より少しだけ低い背。にも関わらずしっかりと起伏があるスタイル。少しだけ触ったことのあるその柔らかな白い肌。外見だけに留まらず、その性格もまた軽妙な掛け合いが心地良い。一緒に居るだけで心落ち着く。願わくばもっと一緒に過ごしたい。まだ見たことがない君を見たい。隣で見ていたい。

掛けられる言葉を待ち、首を傾げて不思議そうにする君もまた愛らしい。


だから、俺と――――。


「おーい、良い感じのところすまんが、俺の事忘れてないか?」

「「!?」」

忘れていた。花音しか目に入っていなかった。

「おいおい、なにびっくりしてんだよ。ってかなんだなんだ。お前結構本気で花音のこと好きなんじゃねぇの?っつか、花音、お前もだ。お前もしかしてこいつのために変わったのか?なぁそれってこいつなんだよな?さっきのプレゼントを貰った時の反応を見て思ったんだけどさ。それたぶんこいつなら余裕でいけるんじゃね?」

衝撃が走った。絶句する。

今俺は何を耳にしているのだ。事態が上手く呑み込めない。

「(は? はぁ? えっ? 今なんて言った? 花音が俺のために変わった?何を?そんなもんその外見に決まってるだろ。 いやいや、そんなまさか?お兄さんは何か勘違いしてるんじゃないかな?いやいやいや、けど、その可能性も―――)」

思考が纏まらないまま、手に持っていたスマホが突然鳴り出した。無意識に現実逃避するためにスマホに視線を向けると、画面に映った名前は響花だった。途端に現実に戻される。響花からの着信が示すことを理解する。

「(ちょっと待て)ヤバい!忘れてた! も、もしもし!?」
『どう?そっちは大丈夫?もう立花先生さっき帰って来て、そろそろ戻ってこないと時間稼ぎにも限界があるわよ?』
「そ、そっか、こっちの問題は解決した!すぐに戻る!」

ここに来た理由と違う問題が発生したのだが、ここで下手を打てない。今すぐ戻らなければ修学旅行はおろか今後の学校生活に影響を与え兼ねない。花音が見つからなければその限りではなかったのだが、見つかって解決した今、問題はない。

という口実が出来た。幸いにも先程同様、受話音量最大なので花音にも兄にも声は聞こえていたらしい。二人とも無言で潤を見る。

「ごめん、花音。俺戻らないと!」
「えっ?あっ、うん、わかった!」
「それじゃ、お兄さん、失礼します」
「お、おぅ」

花音に一声かけて兄に会釈して振り返り走り出す。何故かこの場を逃げ出したくて仕方なかった。

「あいつ、どういう事情があるのか知らねぇけど、逃げやがったぞ?ほんとにあいつで良いのか?」

瞬間、ドゴンと鈍い音が響いた。

「いってぇええええ!花音、お前、それはさすがにやりすぎだろ!」

花音は手に持っていた手提げ鞄を遠心力一杯に兄の腹部に向けて思いっきり振り切っていた。

「お兄ちゃん大っ嫌い!最低!死ね!もう帰って来るな!」

花音もまた振り返り、その場を走って駆けていった。手には潤から贈られた誕生日プレゼントのネックレスを力強く握りしめながら。

「おいおい、お前ら、どんだけなんだよ」

花音の兄は両者の行動でお互いの気持ちの有無を確認してしまっていた。

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