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第一章:生活基盤を整えます
1.フリーター、異世界転移する ※
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無数の大きな木が茂った薄暗い森のすぐ脇、徐々に森の外に出ていこうという小道で、それは起こっていた。
たくさんの小さな人影と、それに群がられる3人の人影が見えて、迷子になっていた私は、安堵に泣きそうになりながら、「すみませーん」と言いかけ走って近寄って行った。
……のだが。
『いやっ、やめてーーーっ!!』と、悲鳴を上げながら逃げる女性と、
『ギャギャッ!ギャッ!ゲゲギーッ』と、ギラギラとした目つきで追いかけるキモい小人たちの姿が目に入り、
……何?
と、彼らの間に不穏な空気を感じ、思わずその足を止めて立ちすくむ。
『ゲッゲッゲ』
と、不気味な奇声を上げて、小人たちは群がって女性の後を追っていくのだが、女性を守ろうとしている青年が、
『やめろーーっ!彼女に手を出すなーーっ!!』
と、声を上げて更にその後を追いかけようとしていた。しかし…
ガッ!
と、後ろに回り込んだ複数の小人が、青年の後頭部に鈍器を振り下ろしたではないか。
『うっ!…この、醜いゴブリンどもめ…っ!!』
ヘルム越しとはいえ、頭部に打撃を負った青年は、衝撃に足をふらつかせたものの、気丈に小人たちへ反撃するが…
ボゴッ!ドカ!ボコボコボコボコ……
多勢に無勢とはこのことか。
更に増えた小人たちにより、袋叩きにあって青年は徐々に動きが鈍くなっていき、身動きもしなくなって地面に放り出された。
そしてそんな青年の様子を目にした女性は
『あああっ!アレン、アレン、やめて、いやーーーーっ!!』
と、小人たちに拘束されながらも叫び声をあげて、駆け寄ろうと暴れ出したので、焦れた小人の一人が女性の頭を殴りつけた。
『きゃぁっ!』
衝撃に声をあげるものの、女性に群がる小人はそのまま拘束を続け、衣服を引き裂く音が、私の耳に無情に響く
ビリビリビリビリ……
『やだ、やめ、放してっ!』
ボロボロになった衣服の隙間から肌が露わに零れ落ち、自分のこれからを予測した女性が狂ったように暴れ出し………
…………………………………………。
…………いやいやいや、こんな地獄のようなエグい光景なんて詳細にお送りできないので、これ以上は勘弁してくださいっ!
一体ここはどこなんですか!? 私は何を見せられているんですか!?
なんて、パニックになって誰ともなしに問いかけるも、私の脳内の問いかけに答える存在はないわけで…
私は、目の前で突然始まったこの世のモノとも思えない惨劇を、木の陰の叢から固唾を飲んで見守りながら、思い出していた。
どうしてこうなっているのかを。
時はつい10分程前に遡る。
私こと 支倉 麻衣は、フリーター脱却を目指して就職すべく少し郊外に本社を置く中小企業へ面接に行く途中だった。
初夏に差し掛かって、やや汗ばむような陽気の中、A4サイズのナイロンバッグを肩から下げつつ、リクルート用のパンツスーツに身を包み、スマホの地図アプリを見ながら目的地の会社を探しつつ歩いていたのだ。
「もうすぐのはずなんだけどなー……。それにしても、暑い…。日傘、持ってくればよかったかも…」
そんなことをつぶやきながら、汗を拭き拭きスマホ片手に俯いて歩いていると、地面が砂利道になり、土色の小道になっていたのに気づく。しかし、面接時間に遅れそうになっているため、そのまま顔を上げず、夢中になってアプリの示す道順を進んでいた。
この会社、一応都内のはずなんだけど…本社は結構田舎にあるよね…。
通うのも大変そうだし、ワンルームマンションとか個人寮とか完備されてたっけ…?
そんなことを考えつつ歩いていると、ふと、日の陰りから木陰に入った気配がすることに気づいて顔をあげ……自分が森の中にいることに気づいた。
「え……どこ、ここ?」
今まで、見晴らしのよい田んぼやら畑やらに囲まれた田舎道を歩いていたはずだったのに、現在自分が立ち止まっている場所は、大きい木が鬱蒼と生えていて、前を見ると先も見えない位森は深く薄暗く、立派な大木が林立しており、戸惑った。
…え?知らないうちに変な道入ってた?
でも、この辺、森林公園なんかあったっけ?
地図アプリにはそんな表示なかったし、こんな森に入るまで気づかないというのもおかしいとは思うけど、周り見て歩いてなかったのもあるから、知らないうちに全く違う道を歩いていたかな…?
などと、不思議に思いながら、もう一度地図アプリを確認するが、地図は表示されず、アンテナは圏外になっている。
田舎だから電波も弱いし、Wi-Fiもないかー…。誰か土地の人とかいないかな…
電波のつながる場所で、会社に遅刻の連絡をさせてもらわないといけないかもしれないし…
なんて、周囲を見まわしたものの、シーンと静かな森の中、風がザワザワと草木の葉を揺らす音だけが響いている。
えっ!?マジで迷った!?
こんな土地勘もない森の中で迷っていることに焦って、来た道を数メートル程引き返してみるが、何故か通った覚えもない細い獣道のような森林道が続いているだけだった。
ええーーーー………。
「ここ、どこぉ…電話ぁ……」
自分が突然森の中に放り出されたような気がして心細くなり、ざわわと木々の枝葉がこすれる音が響くと何故かものすごく焦りを感じて、涙目になりながら立ちすくんでしまう。
そんな時、森の静けさの中から何やら人の声のようなものが聞こえてきて、私は一生懸命耳を澄ませた。
『……ムーンっ……にげ、ろっ!』
……遠くてよく聞き取れないけど…やっぱり人の声がした気がする。
私は声のする方に耳を澄ませ、目を凝らしながら森の外へ近づいて行くと、複数の人影が見えたので、喜び勇んで急いで駆け寄っていく。
きっと地元の人たちに違いない。やっとここから出られる…。電話ができる。
そんな安堵もあったのだが………
数分程走って森の切れ目に差し掛かった時、その人たちの様子が何か変なことに気づいた。
森の外側に出ると私の膝丈程の叢が広がっており、見晴らしは悪くなかったので、すぐにそれがたくさんの子供の様な人たちと、大人が3人程のグループだと思っていた。
しかし、最初に目に入った子供の影は、申し訳程度に布切れを腰に巻いた緑色の肌の小さな人?の姿で、長身で欧米風の顔だちをした3人の大人に襲い掛かっているように見える。
…何かの撮影? コスプレイヤー? ですかね? 撮影隊、いないけど…。
私は、何か不穏な空気を察知しながら、状況を確認しつつ少し走るスピードを緩めてゆっくり近づいていった。
「くそっ!なんでゴブリンがこんなに強いんだよっ!!」
と叫びながら、チェインメイル風の服の上から青い貫頭衣を着て、頭にはヘルメット風の兜にゴーグルを装着した20代と思しき男性が、ロングソードで戦っているように見える…。
彼は某ファンタジーRPGの勇者のような恰好をして、こん棒を手にした緑色の小人に囲まれて、襲われているのを蹴散らそうとしていた。 そしてその足元には、これまでに倒したであろう複数名の小人が黄色い液体に塗れながら様々な形で転がっていたが、小人たちはそのような同朋の様子など毛ほども気にせず仲間たちの残骸を踏みつけ、数名ずつ群がって男性に襲い掛かっているのだ。
彼の足元には、仲間と思しき緑色の貫頭衣を着た男性が血まみれで地面に倒れており、緑の小人に踏みつけられてもピクリともしない。
……そして、3人目の仲間らしい、水色のマントに白いミニワンピースのグラマーな女性が悲鳴をあげながら小人どもに群がられ……
話は冒頭より少し前から再開します。
…………いや、これ、撮影ちゃうやろ。
私は不穏な気配を察知して咄嗟に森から出るのをやめ、叢と大木の陰に隠れて気配を殺しつつも、その暴力シーンを固唾を飲んで見守りながら、信じられない光景に向かって悪態をつく。
どこの指輪物語がこんなR指定上等な撮影するんだよ!?
完全にダークファンタジーの産物やろ!?
そんな理不尽な心の声をこぼしている間に、女性が「助けてーーっ!」と叫びながらゴブリン(?)たちに取り囲まれ、飛び掛かられた。
………いや、むり。 無理だって。出ていけませんよ!
格闘技経験も何もない、都会育ちの23歳の小娘がこんな場面でヒーローよろしく出ていけないって!
なにあれ!? 普通に考えてもおかしいだろうっ!!!
私は必死になって気配を殺しながら、それでも冷静でいられず頭の中で誰ともなく言い訳をしながら逆ギレする。
大体、暴漢とかチーマーとかならまだしも、ゴブリンって何!?
おまえもそんな勇者みたいな恰好してゴブリンにやられてんじゃないよっ!!
もっと経験値上げるために頑張ってよ!
状況の悲惨さにパニックを起こし、見ず知らずの勇者もどきの青年たちに八つ当たりをする私…。
いや、すみません。何もできないビビりのくせに勝手なこと言っててごめんなさい。
謝るからこっちこないでください。
そして、そんな悪態をつきながらもチラチラと目の端に映る、地面に倒れている緑の貫頭衣青年の生死がすごく気になって見てしまうわけで。
果敢に戦う青年の足元で、一人血まみれになって倒れて動かない方がいらっしゃいますが、真っ赤に染まった頭の形がおかしい気がするのですが…っ!
気のせいであってくれと願いながら、見ないように目を逸らしているつもりなのに、やっぱり気になって木陰から彼の姿を確認してしまうのだ。
…マジでちびりそうに怖いんですけど。
そして、さっきから地面を汚したり、小人から吹き上げたりしてる黄色の液体って、小人の血だよね!?
あの男の人、遠慮なく剣でぶった切ってたけど、足元の肉片…肉…ひぃぃ…
私は精神の安定を保つために、どうしても目に入ってしまう彼らの液体や残骸に自ら脳内でモザイクをかけた。
よく最近のバラエティ番組で見かけるようになった、吐しゃ物もキラキラ輝いてみえるアレである。
人間、極限状態に追い込まれると、なんだかよくわからないスキルが発生するらしい。
そして、一番目をそらしたかった存在が、周りから守ってくれる男性2名を失ったためか、孤立無援で立ち尽くし、その体はゴブリンどもに拘束され、AVの不特定多数ものの様に、なすがままになっていた。
(…非常事態なので、なんでそんなこと知ってるのかという質問は受け付けません)
しかし、ナイスバディでいかにもエロい欧米風の女性の姿とか、もはやゴブリン相手にそういうことが問題ではないとわかっていたが、
……なんであの女の人、あんな無防備なノースリーブのミニスカワンピースでこんな所で戦ってるの!?
男二人とおでかけ気分で戦闘するつもりだったのかよ!?
などと、状況を無視した彼女の出で立ちと佇まいに、喪女として何か納得のいかないものを感じてしまい、思わず理不尽とも言えるツッコミをいれる。
いや、本当にどうでもいいんですけどね。
そして私が、危険地帯から離れた場所で無機物に徹して息を殺しながら状況を見守っていると…
ぐっちょぐっちょぐっちょ……パンパンパンパン
と、いかにものな水音と破裂音が響き、それに伴って下卑た笑い声と嬌声が響き渡った。
『ゲヒヒヒヒ……』
『あんっあんっあんっ……イィッ…!(恍惚)』
『ィヒッ、ィヒッ、ィヒッ(ゲス顔)』
………さっきまで果敢に彼女を守ろうとしていた青い貫頭衣の青年が、足元に倒れてピクリとも動かなくなったその横で、女性がゴブリンたちに乱暴狼藉されながらよがり狂っているシーンとか…………誰得ですか?
少なくとも、私はこんなエグいシーンを望んだ覚えなどさらさらない訳で……。
私は目の前の惨劇に完全にビビり、もう耐えられないとばかりに踵を返して反対側の森の奥へ逃げ出した。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ…私には無理ですーーーー!
誰かゴブリンスレイヤーさんに依頼出してくださいーーーーっ!!!
獣道にも似た森の小道を号泣しつつ走りながら、リクルート用のパンプスは野山を走るのには向いていないけど、パンツスーツで良かったと心底思いました。
たくさんの小さな人影と、それに群がられる3人の人影が見えて、迷子になっていた私は、安堵に泣きそうになりながら、「すみませーん」と言いかけ走って近寄って行った。
……のだが。
『いやっ、やめてーーーっ!!』と、悲鳴を上げながら逃げる女性と、
『ギャギャッ!ギャッ!ゲゲギーッ』と、ギラギラとした目つきで追いかけるキモい小人たちの姿が目に入り、
……何?
と、彼らの間に不穏な空気を感じ、思わずその足を止めて立ちすくむ。
『ゲッゲッゲ』
と、不気味な奇声を上げて、小人たちは群がって女性の後を追っていくのだが、女性を守ろうとしている青年が、
『やめろーーっ!彼女に手を出すなーーっ!!』
と、声を上げて更にその後を追いかけようとしていた。しかし…
ガッ!
と、後ろに回り込んだ複数の小人が、青年の後頭部に鈍器を振り下ろしたではないか。
『うっ!…この、醜いゴブリンどもめ…っ!!』
ヘルム越しとはいえ、頭部に打撃を負った青年は、衝撃に足をふらつかせたものの、気丈に小人たちへ反撃するが…
ボゴッ!ドカ!ボコボコボコボコ……
多勢に無勢とはこのことか。
更に増えた小人たちにより、袋叩きにあって青年は徐々に動きが鈍くなっていき、身動きもしなくなって地面に放り出された。
そしてそんな青年の様子を目にした女性は
『あああっ!アレン、アレン、やめて、いやーーーーっ!!』
と、小人たちに拘束されながらも叫び声をあげて、駆け寄ろうと暴れ出したので、焦れた小人の一人が女性の頭を殴りつけた。
『きゃぁっ!』
衝撃に声をあげるものの、女性に群がる小人はそのまま拘束を続け、衣服を引き裂く音が、私の耳に無情に響く
ビリビリビリビリ……
『やだ、やめ、放してっ!』
ボロボロになった衣服の隙間から肌が露わに零れ落ち、自分のこれからを予測した女性が狂ったように暴れ出し………
…………………………………………。
…………いやいやいや、こんな地獄のようなエグい光景なんて詳細にお送りできないので、これ以上は勘弁してくださいっ!
一体ここはどこなんですか!? 私は何を見せられているんですか!?
なんて、パニックになって誰ともなしに問いかけるも、私の脳内の問いかけに答える存在はないわけで…
私は、目の前で突然始まったこの世のモノとも思えない惨劇を、木の陰の叢から固唾を飲んで見守りながら、思い出していた。
どうしてこうなっているのかを。
時はつい10分程前に遡る。
私こと 支倉 麻衣は、フリーター脱却を目指して就職すべく少し郊外に本社を置く中小企業へ面接に行く途中だった。
初夏に差し掛かって、やや汗ばむような陽気の中、A4サイズのナイロンバッグを肩から下げつつ、リクルート用のパンツスーツに身を包み、スマホの地図アプリを見ながら目的地の会社を探しつつ歩いていたのだ。
「もうすぐのはずなんだけどなー……。それにしても、暑い…。日傘、持ってくればよかったかも…」
そんなことをつぶやきながら、汗を拭き拭きスマホ片手に俯いて歩いていると、地面が砂利道になり、土色の小道になっていたのに気づく。しかし、面接時間に遅れそうになっているため、そのまま顔を上げず、夢中になってアプリの示す道順を進んでいた。
この会社、一応都内のはずなんだけど…本社は結構田舎にあるよね…。
通うのも大変そうだし、ワンルームマンションとか個人寮とか完備されてたっけ…?
そんなことを考えつつ歩いていると、ふと、日の陰りから木陰に入った気配がすることに気づいて顔をあげ……自分が森の中にいることに気づいた。
「え……どこ、ここ?」
今まで、見晴らしのよい田んぼやら畑やらに囲まれた田舎道を歩いていたはずだったのに、現在自分が立ち止まっている場所は、大きい木が鬱蒼と生えていて、前を見ると先も見えない位森は深く薄暗く、立派な大木が林立しており、戸惑った。
…え?知らないうちに変な道入ってた?
でも、この辺、森林公園なんかあったっけ?
地図アプリにはそんな表示なかったし、こんな森に入るまで気づかないというのもおかしいとは思うけど、周り見て歩いてなかったのもあるから、知らないうちに全く違う道を歩いていたかな…?
などと、不思議に思いながら、もう一度地図アプリを確認するが、地図は表示されず、アンテナは圏外になっている。
田舎だから電波も弱いし、Wi-Fiもないかー…。誰か土地の人とかいないかな…
電波のつながる場所で、会社に遅刻の連絡をさせてもらわないといけないかもしれないし…
なんて、周囲を見まわしたものの、シーンと静かな森の中、風がザワザワと草木の葉を揺らす音だけが響いている。
えっ!?マジで迷った!?
こんな土地勘もない森の中で迷っていることに焦って、来た道を数メートル程引き返してみるが、何故か通った覚えもない細い獣道のような森林道が続いているだけだった。
ええーーーー………。
「ここ、どこぉ…電話ぁ……」
自分が突然森の中に放り出されたような気がして心細くなり、ざわわと木々の枝葉がこすれる音が響くと何故かものすごく焦りを感じて、涙目になりながら立ちすくんでしまう。
そんな時、森の静けさの中から何やら人の声のようなものが聞こえてきて、私は一生懸命耳を澄ませた。
『……ムーンっ……にげ、ろっ!』
……遠くてよく聞き取れないけど…やっぱり人の声がした気がする。
私は声のする方に耳を澄ませ、目を凝らしながら森の外へ近づいて行くと、複数の人影が見えたので、喜び勇んで急いで駆け寄っていく。
きっと地元の人たちに違いない。やっとここから出られる…。電話ができる。
そんな安堵もあったのだが………
数分程走って森の切れ目に差し掛かった時、その人たちの様子が何か変なことに気づいた。
森の外側に出ると私の膝丈程の叢が広がっており、見晴らしは悪くなかったので、すぐにそれがたくさんの子供の様な人たちと、大人が3人程のグループだと思っていた。
しかし、最初に目に入った子供の影は、申し訳程度に布切れを腰に巻いた緑色の肌の小さな人?の姿で、長身で欧米風の顔だちをした3人の大人に襲い掛かっているように見える。
…何かの撮影? コスプレイヤー? ですかね? 撮影隊、いないけど…。
私は、何か不穏な空気を察知しながら、状況を確認しつつ少し走るスピードを緩めてゆっくり近づいていった。
「くそっ!なんでゴブリンがこんなに強いんだよっ!!」
と叫びながら、チェインメイル風の服の上から青い貫頭衣を着て、頭にはヘルメット風の兜にゴーグルを装着した20代と思しき男性が、ロングソードで戦っているように見える…。
彼は某ファンタジーRPGの勇者のような恰好をして、こん棒を手にした緑色の小人に囲まれて、襲われているのを蹴散らそうとしていた。 そしてその足元には、これまでに倒したであろう複数名の小人が黄色い液体に塗れながら様々な形で転がっていたが、小人たちはそのような同朋の様子など毛ほども気にせず仲間たちの残骸を踏みつけ、数名ずつ群がって男性に襲い掛かっているのだ。
彼の足元には、仲間と思しき緑色の貫頭衣を着た男性が血まみれで地面に倒れており、緑の小人に踏みつけられてもピクリともしない。
……そして、3人目の仲間らしい、水色のマントに白いミニワンピースのグラマーな女性が悲鳴をあげながら小人どもに群がられ……
話は冒頭より少し前から再開します。
…………いや、これ、撮影ちゃうやろ。
私は不穏な気配を察知して咄嗟に森から出るのをやめ、叢と大木の陰に隠れて気配を殺しつつも、その暴力シーンを固唾を飲んで見守りながら、信じられない光景に向かって悪態をつく。
どこの指輪物語がこんなR指定上等な撮影するんだよ!?
完全にダークファンタジーの産物やろ!?
そんな理不尽な心の声をこぼしている間に、女性が「助けてーーっ!」と叫びながらゴブリン(?)たちに取り囲まれ、飛び掛かられた。
………いや、むり。 無理だって。出ていけませんよ!
格闘技経験も何もない、都会育ちの23歳の小娘がこんな場面でヒーローよろしく出ていけないって!
なにあれ!? 普通に考えてもおかしいだろうっ!!!
私は必死になって気配を殺しながら、それでも冷静でいられず頭の中で誰ともなく言い訳をしながら逆ギレする。
大体、暴漢とかチーマーとかならまだしも、ゴブリンって何!?
おまえもそんな勇者みたいな恰好してゴブリンにやられてんじゃないよっ!!
もっと経験値上げるために頑張ってよ!
状況の悲惨さにパニックを起こし、見ず知らずの勇者もどきの青年たちに八つ当たりをする私…。
いや、すみません。何もできないビビりのくせに勝手なこと言っててごめんなさい。
謝るからこっちこないでください。
そして、そんな悪態をつきながらもチラチラと目の端に映る、地面に倒れている緑の貫頭衣青年の生死がすごく気になって見てしまうわけで。
果敢に戦う青年の足元で、一人血まみれになって倒れて動かない方がいらっしゃいますが、真っ赤に染まった頭の形がおかしい気がするのですが…っ!
気のせいであってくれと願いながら、見ないように目を逸らしているつもりなのに、やっぱり気になって木陰から彼の姿を確認してしまうのだ。
…マジでちびりそうに怖いんですけど。
そして、さっきから地面を汚したり、小人から吹き上げたりしてる黄色の液体って、小人の血だよね!?
あの男の人、遠慮なく剣でぶった切ってたけど、足元の肉片…肉…ひぃぃ…
私は精神の安定を保つために、どうしても目に入ってしまう彼らの液体や残骸に自ら脳内でモザイクをかけた。
よく最近のバラエティ番組で見かけるようになった、吐しゃ物もキラキラ輝いてみえるアレである。
人間、極限状態に追い込まれると、なんだかよくわからないスキルが発生するらしい。
そして、一番目をそらしたかった存在が、周りから守ってくれる男性2名を失ったためか、孤立無援で立ち尽くし、その体はゴブリンどもに拘束され、AVの不特定多数ものの様に、なすがままになっていた。
(…非常事態なので、なんでそんなこと知ってるのかという質問は受け付けません)
しかし、ナイスバディでいかにもエロい欧米風の女性の姿とか、もはやゴブリン相手にそういうことが問題ではないとわかっていたが、
……なんであの女の人、あんな無防備なノースリーブのミニスカワンピースでこんな所で戦ってるの!?
男二人とおでかけ気分で戦闘するつもりだったのかよ!?
などと、状況を無視した彼女の出で立ちと佇まいに、喪女として何か納得のいかないものを感じてしまい、思わず理不尽とも言えるツッコミをいれる。
いや、本当にどうでもいいんですけどね。
そして私が、危険地帯から離れた場所で無機物に徹して息を殺しながら状況を見守っていると…
ぐっちょぐっちょぐっちょ……パンパンパンパン
と、いかにものな水音と破裂音が響き、それに伴って下卑た笑い声と嬌声が響き渡った。
『ゲヒヒヒヒ……』
『あんっあんっあんっ……イィッ…!(恍惚)』
『ィヒッ、ィヒッ、ィヒッ(ゲス顔)』
………さっきまで果敢に彼女を守ろうとしていた青い貫頭衣の青年が、足元に倒れてピクリとも動かなくなったその横で、女性がゴブリンたちに乱暴狼藉されながらよがり狂っているシーンとか…………誰得ですか?
少なくとも、私はこんなエグいシーンを望んだ覚えなどさらさらない訳で……。
私は目の前の惨劇に完全にビビり、もう耐えられないとばかりに踵を返して反対側の森の奥へ逃げ出した。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ…私には無理ですーーーー!
誰かゴブリンスレイヤーさんに依頼出してくださいーーーーっ!!!
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