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第二章:周囲の状況に気を付けましょう
5.森の隠者、信仰される
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さて、自然の障壁に閉じ込められて3か月程が経過し、私は多くの知的存在を抹殺してきたという病に冒されている。 というのも…
暇すぎる………
いや、ほら、よく『退屈が人を殺す』っていうじゃない。そういう感じですよ。
そして、私、庭より外に出てないんですよね…。むしろよくぞ3か月もったと言ってほしい位ですわと思うのだが。
しかしそんな私だってこの3か月ただただ無為に過ごしていた訳じゃないよ、空いた時間を自分磨きに使ってみたんよ、と主張させていただきたいわけで。
私は、この暇な時かn…ゲフゲフッ…これを機会にスキルアップに勤しみ、今では自分で魔石なんかも作っている。ちなみにこの魔石、下位精霊なんかが宿ったりすると、その特性を閉じ込めた精霊石となり、そのまま無属性でも魔力電池として活用できるとか。これをいくつか小袋にいれて紐に通し、首から下げて持っている私も、今では簡単な魔法が使える様になったのは嬉しかった。
他にも、精霊さんが配信してくれる動画アプリ“sei- tube(セイ-チューブ)”なんてギリギリな名称のアプリから、様々な薬やポーションなどの作り方を学んだり、世界情勢を学んだりもしてたわけで。中でも歴代王侯貴族のスキャンダルなんかは下手なゴシップよりよっぽど刺激的でありながら海外の歴史ドラマ見てるみたいな見ごたえのある感じだったので、一時期ハマった不倫ドラマよりも熱中して見てたりもしたわけで。
…ていうか、これ時々LIVE映像って出てくるんだけど、誰が作ってんの? 動画配信文化があるとも思えないんだけど……
マーリンに尋ねると、『……ホントにありえん話ニャ……』と、沈痛な面持ちで去って行ってしまった。
おーい。
そして現在、“はりのかがみ”という、なんかよくわからない名前の新たなアプリがスマホに出現しており、暇を持て余していた(あ、言っちゃった)私は、わくわくとしながらアプリアイコンをタップすると、最初にこのあたりの地図が出てきたので、この家周囲を範囲指定して〈開始〉する。
すると、真っ白な画面の中央にポッカリと穴が開いたような画像が映された。 よく見ると、中央に家のようなものが見える。
「?? 何だこれ?」
思わずつぶやいていると、タロウから
『主、これは、我が家を上空から見た絵ではないのか?』
と返答が返ってきた。 度々上空を跳び回っているため、彼らはこのように家を俯瞰した情景を知っているのだ。
「へぇー…。じゃあ、この画面下の十字キーみたいなところに指をあてると…。おお、私の思うままにカメラが移動・ズームした!」
ググーっと庭をズームしていくと、スライム池のスライムがツイストドーナツのようにグルグル縦回転しながら七色に輝いた。
…何やってるんだ、あいつ。
『ふむ、これは精霊の視点を共有できる仕組みになってるニャ?』
マーリンも興味深そうに画面をのぞき込んで画像の移り変わりを目で追っている。
そして、コントローラー部分に指を当てて家の周辺あたりを見て回っていくのだが…
「……って言っても、ここら辺はどこまでも雪景色なんだね。……なんかないかな~」
そう思って視点を変えていくと、私たちがいつも魚を捕っている池に出た。しかし、やっぱりと言うか何と言うか…
「……凍ってるね……」
池は一面凍っていた。 なーんだ……と思っていたら、突如『ビキビキっ!』と厚い氷に亀裂が入り、かつて見た巨大魚が氷を破って飛び出したではないか。
「ふぉっ!?」
精霊カメラは飛び出してくる魚の画
え
を真正面から捉えており、不覚にも驚かされて声をあげてしまった。
ちょっと、【衝撃映像! 池の中に住む怪魚の正体は!?】とかインチキ臭いテロップ流したのだれだ!?
そして画面を覗きながらビックリしている私に構わず、そのまま魚は頭から凍った水面に突っ込んでいき、『ボガンッ!』とあり得ない破壊音を立てて再び水の中に潜っていった。
ていうか、音声アリもなんですね……
その後、周囲を色々見て回っているうちにコツが掴めてきた私は、交易を始めたテルミ村の様子を見てみることにした。
引きこもり生活でどこにも出られないため、コツコツ作り続けたポーションやら雑貨やら収穫物やらが溜まってくると、マーリンやタロウに持って行ってもらって交易していたが見に行ったことはないので、一体どんなところなんだろうかと思ったのだ。
そして、貨幣や食べ物や日用雑貨などに紛れて時々なんだかおかしなテンションの手紙やら衣類やらが紛れてくるのも妙に気になっている。…まあ、あとは少しだけロビン少年も元気かな?と。
『あー……、やっぱご主人、そうなるかニャ』
「? 何でそんなフレーメン反応みたいな顔してるの? って、タロウも何で顔背けてんの?」
テルミ村を見ようと言っただけでこの反応……。私とは目を合わせようともしない。
……あやしい。 こいつら、何か隠してるな?
『最初に言っておくが、吾輩は何一つ強要などしていないニャ?』
そう、沈痛な面持ちで打ち明けるマーリンの様子には嫌な予感しかしない。
私は黙ってスマホの地図画面をドラッグし、視界をテルミ村に合わせた。
とりあえず、まずは上空から映してみると、雪に埋もれて木の柵のようなものが所々確認されるあたりまでが村…なのかな?
どこかの大学の敷地程度の広さはありそう。
そして、あたりには小さめの石か丸太づくりの一軒家がぽつぽつと点在しており、中央の広場のような平地を囲んで建っている。しかし、雪が積もっているためか、表に出てきている人影は、数人といった程度だった。
出てきていた人影をよく見てみると、寒いためモコモコと着ぶくれた格好の男性であり、頭部は所々グレイが混じった薄茶色のキツネ頭をしていた。フサフサとした尻尾も上着の下から覗いている。
「へぇ、キツネの獣人なんだ…。 動画配信されてる人たちが動物ヘッドの人ばかりだったし、精霊さんやあんたたちにも聞いてたけど、やっぱりこの辺は獣人が住んでる国だったんだねぇ…」
『おかしなところで感心してるニャ。 このキツネ獣人はこの村の村長で、ロビンとかいう子供の祖父ニャ』
「ああ、病気で伏せってたっていう、あの。 こうしてみると、すっかり良くなったんだね」
『ご主人が渡した薬草で、3日程で治ったそうニャ』
「3日。 結構早く治ったんだ…。よかった」
村の様子を実況されつつ、画面のキツネ獣人の頭に旗を立てて視野の起点にするとキツネ獣人に“村長”と矢印がつき、オートでこの人物の視界を合わせてくれる。
村長は、垂れミミの犬獣人の家や茶色い熊獣人の家など、いくつかの家を周り、何かの集まりを招集しているようだった。
村の集会でもあるのかな?
そう思って何気なく見ていると、3軒目に訪れた家から出て来たハスキー犬みたいな毛皮をしたマッチョな犬獣人が、
《村長、姫様に捧げる衣装がやっと王都から届きました。これも皆に見てほしいです》
と鼻息荒く興奮しながら訴えている。 …姫様?
《おお、やっとできたか。うちにもロビンが女衆に依頼していたものが出来上がっているので、皆で吟味しよう》
《そうですか!それは良かった。 毎年この時期になると飢えや寒さでカツカツだったのですが、今年は姫様の恩恵で随分余裕のある生活ができ、しかもその余剰の恵みをもって姫様への貢物を吟味するという名誉あるお役目まで頂戴し、我々も意義のある冬季を過ごすことができるようになりましたね》
《うむ。大変ありがたいことだ。 …そしてそんな充実した時間を過ごさせてくれる姫様は、実は我々にもたらされた女神様なのではないかと、常々思ってしまうな》
《違いない。姫神さまと呼ぶべき存在でいらっしゃる》
《うむ。では、また後程な。皆の家を回って声をかけてあるので、おまえもリリーやケビンに声をかけて連れてくるといい》
《はい。先ほど皆で捕った大猪
ビッグボア
の肉をもっていきますよ》
《おお、それは楽しみだな。では、またな》
そう言って、村長はハスキー犬青年の家を後にして自宅に帰って行った。
……この村のアイドルみたいなものだろうか?
なんか、冬の厳しさをやわらげた上に退屈を埋めてくれる存在がいるということなのかな?
…いやいやいやいや……。嫌な予感しかしませんが
「マーリン、タロウ。 どこに行くのかな?」
そろーりと存在を消して移動しようとしていた2匹の尻尾をムンズと掴み引きずり寄せると、2匹は大人しく私の横に正座した。
「ちょおーっと、大人しく最後まで一緒に見ようね?」
『『は、はい』』
久しぶりに強制力を発揮して座らせると、2匹は姿勢を崩さず大人しくちょこんと座っている。…やだ、かわいいじゃないの。
その後しばらく他の家の様子を見回った後、キツネの村長が向かった先は、この辺りの民家と比べるといくらか大きな建物であったが、誰かが住んでいる…という感じではなかった。 村の寄り合い所みたいなところだろうか。
その建物の扉を開けると、中には多数の人間がぎっしり集まっており、上座の簡易的な壇上に向かって放射状に並べられた椅子に座っている。そこはまるで教会の様な厳かな雰囲気すら漂わせる作りではあったのだが、人々の常ならぬテンションに、熱気すら感じる程の高揚を感じさせた。
《おじいちゃん、遅かったね。みんなもう集まってるよ》
壇上には、やや成長したとはいえ妙に懐かしさを感じるロビンの姿があり、祖父である村長が入ってくるとニコニコと出迎えた。
《おお、やってたか。遅くなってすまなかったな》
《いいえ、みんな今来たところですよ》
そう言ったのは、さっきのハスキー犬青年で、傍らには少し小柄でかわいらしい感じの同じようなハスキー犬少女がちょこんと座っている。 頭部はやはり青年と同じくワンコで可愛いのだが、体つきはボンキュボンのメリハリボディ……うらやましい。
《ええ、村長。みんなさっき集まった所なので、会はこれからになります》
《そうか、では、今週の捧げもの集会を始めるとするか。では、皆の者、台上の姫様の像に感謝を捧げるのだ》
そう言って、村長は壇上の奥に設置された、少女の石像に向かって跪き、黙とうした。
…いや、実は目に入ってはいたんですよ…。 何かなーって。
体形も露わな薄いキトンのような衣装に身を包んで、背中を覆う程の長い髪の人間顔の少女の石像が皆を見下ろして微笑んでおり、村長を始めとした村人が祈りを捧げているわけだから、マリア像的なものなのかと思ってたんだけど…。
…その、凹凸の乏しい平たい顔族の少女が、まさか自分に似ているなんて、知りたくなかった。
なんでこんなに忠実に再現された私の像がこんなところでご神体よろしく拝まれているのか!? とか。
少女像の纏う衣装が薄々で、乳首すらクッキリ掘り出す必要性があったのか!? とか
ほんっとうに知りたくなかった。
そして、祈りの儀が終わると、全員厳かに着席し、それを見渡すとロビンが神の子よろしく演説を始めた。
《あの時、お姉ちゃんは僕にそっとリモーの花と根を渡して、「これ、家の庭にあったから…」と貴重な花を惜しげもせずに渡して微笑んでくれたのです!》
などと当時の状況をやたら身振りと感想を加えて熱弁している。
おい、ちょっと再現するの待って! やめて、恥ずかしいからっ!!
私は幼子に向かって何言っちゃってたんだと、スマホを掲げながら羞恥に身悶えた。
《そして、隷属獣の魔獣様を遣わせて送ってもらい、おじいちゃんのために貴重な果実と魚の干物まで与えてくれました。
それ以降のおじいちゃんの復活は、みなさんも知っていることかと思います》
《そうだそうだ。 いくらリモーの花から薬ができても、体力がそれに追いつかなければ村長の命は危なかったかもしれない。姫様は、その英知でもってしても、村長を救ってくれたのだ》
なんか、垂れミミの犬獣人が拳を握って力説している。
すみません、そこまで考えてませんでした! ホントすみません!
《そして、我々がこの様に余裕をもって冬を過ごせているのも、姫様のもたらされた恩恵に他ならない!》
そう言って、村長が口火を切ると
《うちの子は、姫様のお作りになったポーションで、風邪もひかずに過ごせています》
《うちは、姫様の下さった魚や獣の肉で飢えもせず、こんなに元気に生活できているぞ》
《俺の父ちゃんは、魔獣に襲われた傷であわやというところを、姫様の上級ポーションで復活を遂げた!》
《姫様の下さった薬草で、今年は病に倒れる住民がほとんどいない》
《姫様、姫様、ひめさまぁっ! ぶほっ!》
と、村人たちが通販の怪しい読者レビューみたいな感想を口々に述べだした。 いや、最後の奴キモいな、どうした?
《そして、姫様が下されたポーションや美容洗剤や希少な薬草、魔石などを王都に売り出すことで、わが村は大いに潤った!
その恩恵を少しでもお返ししたいとの想いから、今週も姫様へ捧げる貢物の吟味を始める!》
おおーーーっ!!!
村長の口上を皮切りに、一丸となった出席者の熱い意気込みがここまで伝わってくる。
《一番、ケビンいきます! 王都で見つけた、奥様方推奨の若妻風フリフリエプロン!》
そう言って、垂れミミで白地にこげ茶のブチ柄の犬獣人が、レースフリフリなエプロンを掲げると、ロビンや村長を始めとした上座に位置する長老的な方々が
《まあ、いいだろう。姫様は精霊様が見守る台所でお料理もなさると言うしな》
と、頷いている。
《2番手リリーは、兄さんと捕ってきた大猪の肉を》
そう言って、先ほどハスキー犬のマッチョ獣人と見かけた、ハスキー犬のナイスバディ少女が大きな柵切りされた肉の塊をもって掲げる。
《新鮮な肉は、姫様だけでなく魔獣様方もお召し上がりになるという。これも良し》
《3番、セオドア…………》
などと、合間合間の歓声と共に貢物選考会は続いていったわけで…………。
いつの間にか画面下部には【今週の捧げものランキング、1位から3位発表!】とテロップが流れていったが、目に入っていなかった。
「ねえ、マーリン、タロウ……」
画面から目を離さず、2匹に声を掛けると、2匹はわかりやすく『びくっ』と体を震わせた。
「あんたたち、知ってたよね? なんかおかしなことになってるって…」
『誤解、誤解ニャ! 吾輩たちだって、あいつらがあんなにノリやすい奴らだったなんて知らなかったニャ!』
『そうなのだ、我々は無実であることを主張したい!!』
「なんか、おかしな手紙や妙な贈り物が入ってきてるとは思ってたけど!」
『いや、あいつらが王都から手に入れて来たという薄い布なんかは、割と悪くないと我は……』
『あ、バカっ!それは言うニャって…っ』
「精霊さーん、2匹がスライム池で泳ぎたいっていうから、連れてってあげてくださーい」
『いや、待って、それはないニャっ!』
『主、それだけは、それだけはっ!!』
2匹の弁明には耳を貸さず、彼らは無情にも人化したままピンクのエロスライムの温床へ放り込まれた。
放り込まれる瞬間、スライムは興奮して点滅し、荒々しく2匹を包み込むと、縦横無尽に蹂躙を始める。
『あっ、やめ、やめるのニャ! そんなとこいじっちゃらめぇっ!』
『ンはっ!はぅっ、くぅんっ!!』
そうしてややすると、2匹の『『アッーーーー!!』』という、あられもない艶声が、庭に響いた。
その後、家には若妻風フリフリレースのエプロンと、サク切された肉の塊、石像が着ていた様な高級素材のキトン風ドレスと、一見普通のシルクランジェリーのようであるが大事な所がパックリ開いたエロ下着の上下が届けられた。
彼らは一体、私に何を求めているのか、甚だ疑問である。
暇すぎる………
いや、ほら、よく『退屈が人を殺す』っていうじゃない。そういう感じですよ。
そして、私、庭より外に出てないんですよね…。むしろよくぞ3か月もったと言ってほしい位ですわと思うのだが。
しかしそんな私だってこの3か月ただただ無為に過ごしていた訳じゃないよ、空いた時間を自分磨きに使ってみたんよ、と主張させていただきたいわけで。
私は、この暇な時かn…ゲフゲフッ…これを機会にスキルアップに勤しみ、今では自分で魔石なんかも作っている。ちなみにこの魔石、下位精霊なんかが宿ったりすると、その特性を閉じ込めた精霊石となり、そのまま無属性でも魔力電池として活用できるとか。これをいくつか小袋にいれて紐に通し、首から下げて持っている私も、今では簡単な魔法が使える様になったのは嬉しかった。
他にも、精霊さんが配信してくれる動画アプリ“sei- tube(セイ-チューブ)”なんてギリギリな名称のアプリから、様々な薬やポーションなどの作り方を学んだり、世界情勢を学んだりもしてたわけで。中でも歴代王侯貴族のスキャンダルなんかは下手なゴシップよりよっぽど刺激的でありながら海外の歴史ドラマ見てるみたいな見ごたえのある感じだったので、一時期ハマった不倫ドラマよりも熱中して見てたりもしたわけで。
…ていうか、これ時々LIVE映像って出てくるんだけど、誰が作ってんの? 動画配信文化があるとも思えないんだけど……
マーリンに尋ねると、『……ホントにありえん話ニャ……』と、沈痛な面持ちで去って行ってしまった。
おーい。
そして現在、“はりのかがみ”という、なんかよくわからない名前の新たなアプリがスマホに出現しており、暇を持て余していた(あ、言っちゃった)私は、わくわくとしながらアプリアイコンをタップすると、最初にこのあたりの地図が出てきたので、この家周囲を範囲指定して〈開始〉する。
すると、真っ白な画面の中央にポッカリと穴が開いたような画像が映された。 よく見ると、中央に家のようなものが見える。
「?? 何だこれ?」
思わずつぶやいていると、タロウから
『主、これは、我が家を上空から見た絵ではないのか?』
と返答が返ってきた。 度々上空を跳び回っているため、彼らはこのように家を俯瞰した情景を知っているのだ。
「へぇー…。じゃあ、この画面下の十字キーみたいなところに指をあてると…。おお、私の思うままにカメラが移動・ズームした!」
ググーっと庭をズームしていくと、スライム池のスライムがツイストドーナツのようにグルグル縦回転しながら七色に輝いた。
…何やってるんだ、あいつ。
『ふむ、これは精霊の視点を共有できる仕組みになってるニャ?』
マーリンも興味深そうに画面をのぞき込んで画像の移り変わりを目で追っている。
そして、コントローラー部分に指を当てて家の周辺あたりを見て回っていくのだが…
「……って言っても、ここら辺はどこまでも雪景色なんだね。……なんかないかな~」
そう思って視点を変えていくと、私たちがいつも魚を捕っている池に出た。しかし、やっぱりと言うか何と言うか…
「……凍ってるね……」
池は一面凍っていた。 なーんだ……と思っていたら、突如『ビキビキっ!』と厚い氷に亀裂が入り、かつて見た巨大魚が氷を破って飛び出したではないか。
「ふぉっ!?」
精霊カメラは飛び出してくる魚の画
え
を真正面から捉えており、不覚にも驚かされて声をあげてしまった。
ちょっと、【衝撃映像! 池の中に住む怪魚の正体は!?】とかインチキ臭いテロップ流したのだれだ!?
そして画面を覗きながらビックリしている私に構わず、そのまま魚は頭から凍った水面に突っ込んでいき、『ボガンッ!』とあり得ない破壊音を立てて再び水の中に潜っていった。
ていうか、音声アリもなんですね……
その後、周囲を色々見て回っているうちにコツが掴めてきた私は、交易を始めたテルミ村の様子を見てみることにした。
引きこもり生活でどこにも出られないため、コツコツ作り続けたポーションやら雑貨やら収穫物やらが溜まってくると、マーリンやタロウに持って行ってもらって交易していたが見に行ったことはないので、一体どんなところなんだろうかと思ったのだ。
そして、貨幣や食べ物や日用雑貨などに紛れて時々なんだかおかしなテンションの手紙やら衣類やらが紛れてくるのも妙に気になっている。…まあ、あとは少しだけロビン少年も元気かな?と。
『あー……、やっぱご主人、そうなるかニャ』
「? 何でそんなフレーメン反応みたいな顔してるの? って、タロウも何で顔背けてんの?」
テルミ村を見ようと言っただけでこの反応……。私とは目を合わせようともしない。
……あやしい。 こいつら、何か隠してるな?
『最初に言っておくが、吾輩は何一つ強要などしていないニャ?』
そう、沈痛な面持ちで打ち明けるマーリンの様子には嫌な予感しかしない。
私は黙ってスマホの地図画面をドラッグし、視界をテルミ村に合わせた。
とりあえず、まずは上空から映してみると、雪に埋もれて木の柵のようなものが所々確認されるあたりまでが村…なのかな?
どこかの大学の敷地程度の広さはありそう。
そして、あたりには小さめの石か丸太づくりの一軒家がぽつぽつと点在しており、中央の広場のような平地を囲んで建っている。しかし、雪が積もっているためか、表に出てきている人影は、数人といった程度だった。
出てきていた人影をよく見てみると、寒いためモコモコと着ぶくれた格好の男性であり、頭部は所々グレイが混じった薄茶色のキツネ頭をしていた。フサフサとした尻尾も上着の下から覗いている。
「へぇ、キツネの獣人なんだ…。 動画配信されてる人たちが動物ヘッドの人ばかりだったし、精霊さんやあんたたちにも聞いてたけど、やっぱりこの辺は獣人が住んでる国だったんだねぇ…」
『おかしなところで感心してるニャ。 このキツネ獣人はこの村の村長で、ロビンとかいう子供の祖父ニャ』
「ああ、病気で伏せってたっていう、あの。 こうしてみると、すっかり良くなったんだね」
『ご主人が渡した薬草で、3日程で治ったそうニャ』
「3日。 結構早く治ったんだ…。よかった」
村の様子を実況されつつ、画面のキツネ獣人の頭に旗を立てて視野の起点にするとキツネ獣人に“村長”と矢印がつき、オートでこの人物の視界を合わせてくれる。
村長は、垂れミミの犬獣人の家や茶色い熊獣人の家など、いくつかの家を周り、何かの集まりを招集しているようだった。
村の集会でもあるのかな?
そう思って何気なく見ていると、3軒目に訪れた家から出て来たハスキー犬みたいな毛皮をしたマッチョな犬獣人が、
《村長、姫様に捧げる衣装がやっと王都から届きました。これも皆に見てほしいです》
と鼻息荒く興奮しながら訴えている。 …姫様?
《おお、やっとできたか。うちにもロビンが女衆に依頼していたものが出来上がっているので、皆で吟味しよう》
《そうですか!それは良かった。 毎年この時期になると飢えや寒さでカツカツだったのですが、今年は姫様の恩恵で随分余裕のある生活ができ、しかもその余剰の恵みをもって姫様への貢物を吟味するという名誉あるお役目まで頂戴し、我々も意義のある冬季を過ごすことができるようになりましたね》
《うむ。大変ありがたいことだ。 …そしてそんな充実した時間を過ごさせてくれる姫様は、実は我々にもたらされた女神様なのではないかと、常々思ってしまうな》
《違いない。姫神さまと呼ぶべき存在でいらっしゃる》
《うむ。では、また後程な。皆の家を回って声をかけてあるので、おまえもリリーやケビンに声をかけて連れてくるといい》
《はい。先ほど皆で捕った大猪
ビッグボア
の肉をもっていきますよ》
《おお、それは楽しみだな。では、またな》
そう言って、村長はハスキー犬青年の家を後にして自宅に帰って行った。
……この村のアイドルみたいなものだろうか?
なんか、冬の厳しさをやわらげた上に退屈を埋めてくれる存在がいるということなのかな?
…いやいやいやいや……。嫌な予感しかしませんが
「マーリン、タロウ。 どこに行くのかな?」
そろーりと存在を消して移動しようとしていた2匹の尻尾をムンズと掴み引きずり寄せると、2匹は大人しく私の横に正座した。
「ちょおーっと、大人しく最後まで一緒に見ようね?」
『『は、はい』』
久しぶりに強制力を発揮して座らせると、2匹は姿勢を崩さず大人しくちょこんと座っている。…やだ、かわいいじゃないの。
その後しばらく他の家の様子を見回った後、キツネの村長が向かった先は、この辺りの民家と比べるといくらか大きな建物であったが、誰かが住んでいる…という感じではなかった。 村の寄り合い所みたいなところだろうか。
その建物の扉を開けると、中には多数の人間がぎっしり集まっており、上座の簡易的な壇上に向かって放射状に並べられた椅子に座っている。そこはまるで教会の様な厳かな雰囲気すら漂わせる作りではあったのだが、人々の常ならぬテンションに、熱気すら感じる程の高揚を感じさせた。
《おじいちゃん、遅かったね。みんなもう集まってるよ》
壇上には、やや成長したとはいえ妙に懐かしさを感じるロビンの姿があり、祖父である村長が入ってくるとニコニコと出迎えた。
《おお、やってたか。遅くなってすまなかったな》
《いいえ、みんな今来たところですよ》
そう言ったのは、さっきのハスキー犬青年で、傍らには少し小柄でかわいらしい感じの同じようなハスキー犬少女がちょこんと座っている。 頭部はやはり青年と同じくワンコで可愛いのだが、体つきはボンキュボンのメリハリボディ……うらやましい。
《ええ、村長。みんなさっき集まった所なので、会はこれからになります》
《そうか、では、今週の捧げもの集会を始めるとするか。では、皆の者、台上の姫様の像に感謝を捧げるのだ》
そう言って、村長は壇上の奥に設置された、少女の石像に向かって跪き、黙とうした。
…いや、実は目に入ってはいたんですよ…。 何かなーって。
体形も露わな薄いキトンのような衣装に身を包んで、背中を覆う程の長い髪の人間顔の少女の石像が皆を見下ろして微笑んでおり、村長を始めとした村人が祈りを捧げているわけだから、マリア像的なものなのかと思ってたんだけど…。
…その、凹凸の乏しい平たい顔族の少女が、まさか自分に似ているなんて、知りたくなかった。
なんでこんなに忠実に再現された私の像がこんなところでご神体よろしく拝まれているのか!? とか。
少女像の纏う衣装が薄々で、乳首すらクッキリ掘り出す必要性があったのか!? とか
ほんっとうに知りたくなかった。
そして、祈りの儀が終わると、全員厳かに着席し、それを見渡すとロビンが神の子よろしく演説を始めた。
《あの時、お姉ちゃんは僕にそっとリモーの花と根を渡して、「これ、家の庭にあったから…」と貴重な花を惜しげもせずに渡して微笑んでくれたのです!》
などと当時の状況をやたら身振りと感想を加えて熱弁している。
おい、ちょっと再現するの待って! やめて、恥ずかしいからっ!!
私は幼子に向かって何言っちゃってたんだと、スマホを掲げながら羞恥に身悶えた。
《そして、隷属獣の魔獣様を遣わせて送ってもらい、おじいちゃんのために貴重な果実と魚の干物まで与えてくれました。
それ以降のおじいちゃんの復活は、みなさんも知っていることかと思います》
《そうだそうだ。 いくらリモーの花から薬ができても、体力がそれに追いつかなければ村長の命は危なかったかもしれない。姫様は、その英知でもってしても、村長を救ってくれたのだ》
なんか、垂れミミの犬獣人が拳を握って力説している。
すみません、そこまで考えてませんでした! ホントすみません!
《そして、我々がこの様に余裕をもって冬を過ごせているのも、姫様のもたらされた恩恵に他ならない!》
そう言って、村長が口火を切ると
《うちの子は、姫様のお作りになったポーションで、風邪もひかずに過ごせています》
《うちは、姫様の下さった魚や獣の肉で飢えもせず、こんなに元気に生活できているぞ》
《俺の父ちゃんは、魔獣に襲われた傷であわやというところを、姫様の上級ポーションで復活を遂げた!》
《姫様の下さった薬草で、今年は病に倒れる住民がほとんどいない》
《姫様、姫様、ひめさまぁっ! ぶほっ!》
と、村人たちが通販の怪しい読者レビューみたいな感想を口々に述べだした。 いや、最後の奴キモいな、どうした?
《そして、姫様が下されたポーションや美容洗剤や希少な薬草、魔石などを王都に売り出すことで、わが村は大いに潤った!
その恩恵を少しでもお返ししたいとの想いから、今週も姫様へ捧げる貢物の吟味を始める!》
おおーーーっ!!!
村長の口上を皮切りに、一丸となった出席者の熱い意気込みがここまで伝わってくる。
《一番、ケビンいきます! 王都で見つけた、奥様方推奨の若妻風フリフリエプロン!》
そう言って、垂れミミで白地にこげ茶のブチ柄の犬獣人が、レースフリフリなエプロンを掲げると、ロビンや村長を始めとした上座に位置する長老的な方々が
《まあ、いいだろう。姫様は精霊様が見守る台所でお料理もなさると言うしな》
と、頷いている。
《2番手リリーは、兄さんと捕ってきた大猪の肉を》
そう言って、先ほどハスキー犬のマッチョ獣人と見かけた、ハスキー犬のナイスバディ少女が大きな柵切りされた肉の塊をもって掲げる。
《新鮮な肉は、姫様だけでなく魔獣様方もお召し上がりになるという。これも良し》
《3番、セオドア…………》
などと、合間合間の歓声と共に貢物選考会は続いていったわけで…………。
いつの間にか画面下部には【今週の捧げものランキング、1位から3位発表!】とテロップが流れていったが、目に入っていなかった。
「ねえ、マーリン、タロウ……」
画面から目を離さず、2匹に声を掛けると、2匹はわかりやすく『びくっ』と体を震わせた。
「あんたたち、知ってたよね? なんかおかしなことになってるって…」
『誤解、誤解ニャ! 吾輩たちだって、あいつらがあんなにノリやすい奴らだったなんて知らなかったニャ!』
『そうなのだ、我々は無実であることを主張したい!!』
「なんか、おかしな手紙や妙な贈り物が入ってきてるとは思ってたけど!」
『いや、あいつらが王都から手に入れて来たという薄い布なんかは、割と悪くないと我は……』
『あ、バカっ!それは言うニャって…っ』
「精霊さーん、2匹がスライム池で泳ぎたいっていうから、連れてってあげてくださーい」
『いや、待って、それはないニャっ!』
『主、それだけは、それだけはっ!!』
2匹の弁明には耳を貸さず、彼らは無情にも人化したままピンクのエロスライムの温床へ放り込まれた。
放り込まれる瞬間、スライムは興奮して点滅し、荒々しく2匹を包み込むと、縦横無尽に蹂躙を始める。
『あっ、やめ、やめるのニャ! そんなとこいじっちゃらめぇっ!』
『ンはっ!はぅっ、くぅんっ!!』
そうしてややすると、2匹の『『アッーーーー!!』』という、あられもない艶声が、庭に響いた。
その後、家には若妻風フリフリレースのエプロンと、サク切された肉の塊、石像が着ていた様な高級素材のキトン風ドレスと、一見普通のシルクランジェリーのようであるが大事な所がパックリ開いたエロ下着の上下が届けられた。
彼らは一体、私に何を求めているのか、甚だ疑問である。
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これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
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