【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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第三章:巻き込まれるのはテンプレですか? ふざけんな

1.森の姫君(笑)、状況整理する

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雪で閉ざされた引きこもり生活も5か月程経過し、家の庭の外は雪に一面覆われていた大地が徐々に露わになってきた。
 春の到来によって、長く眠っていた生き物たちも冬眠から目覚めて活動を始めているようであり、私もそろそろお外に出ようかと、タロウの背中に跨ってお散歩に出かけた。
 家にいるとあまり本体の大きさで過ごしていなかったが、外に出ては本来の大きさにもどってノビノビとしている。

 …また大きくなってきたな、2匹とも

 と、そのガッシリしたタロウの背中の安定感から、しみじみ思った。

 冬ごもり前はエゾヒグマ程度の大きさだったタロウは現在ホッキョクグマかグリズリー位あり、マーリンは小柄な豹ぐらいだったが、今ではそのしなやかなフォルムはそのままで大きな虎位の大きさになっている。
 これ以上大きくなるなら、家には入れないと言うと、タロウは大型犬サイズに、マーリンは山猫サイズとなって、お座敷ペットよろしくリビングの敷物の上で寛いでいる。
 そして、人化した時の身長も、以前は小学校低学年程度だったが、今は高学年か中学生位の高さになってきたため、並んで立つと目線が合うようになってきてしまった。
 そうなると、さすがにお風呂もベッドも3人一緒に入るには色々キビシイものがあるので、別々にしてほしいと訴えたのだが、何故か強硬に拒否をしてくる。

いやいやいや、ないから。 さすがにそこまで育っちゃった中学生男子と風呂とかないから!

 そう言って一人でお風呂に入ろうとすると、ドカンドカンと扉に体当たりして強行突破しようとしてくるので、毎回精霊さんに結界を張ってもらって入浴している。そして、時々犬猫サイズになった2匹を洗ってやると、気持ちよさそうに大人しく洗われ、タオルドライして精霊ドライヤーで乾燥後、ブラッシングしてやると、『あふんあふん』と身悶えていた。
 しかし、夜はどんなに犬猫サイズになってリビングで寝る様に言って遠ざけても、朝にはセミダブルのベッドも小柄とはいえ人間3人寝転がっているので狭ぜましい状態になって目が覚める。

 ていうか、なんで全裸なの!? ちっちゃな子供の頃ならまだしも、もうそれは勘弁してほしいんですけど!?

 いや、理由はわかっているのだ。犬猫の時には服を着ておらず、そのままの状態で人化するから服を着ていないことは。

 ……ベッドをキングサイズに変えて、そのまま添い寝を続けるべきだろうか……。
いや、そこまで甘やかす必要はないか…

 どうするべきか、毎朝起きると左右に全裸のショタに囲まれており、頭痛を堪えながらグルグルと葛藤を繰り返している訳で。
 しかし、まあ、そんなこんなはあるけれど、今の所平穏に暮らすことができてはいた。




 元の姿にもどったタロウの背に揺られながら家の周辺地域を見回り、時々冬眠明けでふらりと遭遇した獣や巨大虫なんかはタロウやマーリンが撃退・狩猟してはアイテムボックスに放り込んでいったので、家に着くころにはなかなか大量の収穫物を得ることができていた。 しかし私はそれらをスマホで確認してため息をつく。

 また、アイテムボックスに貯まってきたなぁ……

 少しずつ大きくなり力が満ちてくると、タロウは引きこもり期間中も積極的に狩りに出かけては獲物を持ち帰ってきたので、私はそれをテルミ村に卸したり、その伝手で近隣の都市で売り出してもらったりと せっせと在庫減らしに勤しんでいた。そのため、元々作っていたポーション類やら魔石やらと相まって、今では結構なお金持ちになってしまっていると思う。もちろん目立つのは本意ではないので、ちょっと市場に出せないようなものなんかは2匹に止められたり、自重したりして出さずにとってあるのだが…

 …ここでそんなにお金持ちになっても、使い道があまりないんだけどね……。

 就職活動していた頃は常にカツカツだったというのに、人生ままならないものである。
 なんとはなしにやりきれないものを感じながら、私はキッチンに向かい、夕食の仕込みを始める。


 実は、テルミ村から小麦粉を仕入れているので酵母を育ててパンを作るようになったのだ。容器はいくつかあったので、煮沸消毒した後にピンクベリーやら何やらのベリー類や、ポカリの実なんかの果物をきれいな水…まあ、精霊さんに用意してもらった水ですね…につけこんで、常に一定の温度が保たれている家の中で5日位置いておくと、なかなか良い具合に酵母が完成。そして、我が家には私にも使いやすい仕様のオーブンがあるため、酵母パンは今では我が家の定番メニューとなった。
 そして、その焼きたてパンにキラービーという一匹一匹が500mlのペットボトル位あるデカい蜂のハチミツで作ったミックスベリーのジャムなんかを合わせるともう絶品で、ことある毎に食べるほど病みつきになってしまったのである。
 最初にそれらをふるまった時、2匹もそれなりに喜んでくれたが、やはり基本は肉食であるため、フワフワした食感のパンでは歯ごたえが足りないのか、私程の感動は見られなかった。しかし、酵母パンをテルミ村に差し入れしたら、ロビンや村長なんかは大層喜んでくれ(アプリ越しで確認)、気が良くなった私は、時々製品を卸す際にいくつか村人におすそ分けしたりもしていた。

 しかし、この村の住民もそこかしこで大分様変わりしてきたような気がする…。

 時々製品をタロウかマーリンに持って行ってもらっている際に、視点を合わせているので村の様子を見ているのだが、かつては全体的にスレンダーというかほっそりしていた人が多かった印象だったが、ちょっとふっくら…というか、ガッシリした体形になってきたというか…。ロビンもちょっと大きくなってるし…。

「ねえ、なんか、村の人たち大きくなってない?」

 横で一緒にスマホをのぞき込んでいたマーリンに聞くと

『ご主人や我々が、今まで手の出なかった色々貴重な栄養源やら薬やら持ち込むからニャ。栄養状態が改善されただけでなく、精霊の力や魔力も取り込んで、あいつらちょっと特殊な育成をされつつあるニャ』

「え、育成? …ちょっとおすそ分けのつもりだったんだけど……」

『それに、ご主人が目を掛けているというだけで、あの村も少し精霊の恩恵を受けやすくなっているニャ。そのため、おいそれと下級の魔獣なんかは踏み込めないようになり、畑の作物や家畜なんか土地の恵みを効率よく吸収できるようになって育ちも良く、飢える村人が激減したと村長が言っていたニャ』

「ええ……。それは、良かったというべきことなんだろうけど…やりすぎちゃった…?」

『…そうとも言うかもしれニャいが、ご主人がこの村を配下に収める計画があったとしたら、満点の結果を得られたと言っても良いかと思うニャ。何せ、この村の人間の武力は元々人間にしては強い方だったようではあるが、今ではちょっとした都市の軍隊を相手取ってもいい線行くレベルにあると、吾輩は推測するニャ』

「ぐ、軍隊って…。そんな計画なんてないよぉ…」

『え、そうだったニャ? 奴らの体躯に変化を与える程の過大な恩恵を与えていたのは“手近な人間を鍛え上げて兵と成し、恩と崇拝でもって忠実な下僕を量産する”為だと思ってたニャ。……ふふ…ご主人、吾輩はもうわかってるので、そんなに隠さなくてもいいニャ』

 そんなしたり顔で「へへへ」と鼻の下をこすりながら言われても……。
 私は本当に「ちょっと欲しいものもあるし、この位ならいいよね?」程度の肩入れをしたつもりだったのに…
 さすが精霊さま中心の世界。ちょっとした付き合い程度で土地神様みたいな恩恵与えてくれちゃうんですね…

 しかし、私は“地方の田舎で爪を研ぎながら虎視眈々と国家を制圧する野望を抱く戦国武将”みたいな立ち位置になる気はこれっぽっちもないのだ。 平和が一番! である。 また、地方とは言え目立つのは厳禁であると心得る。

“気が付いたら巻き込まれていました” なんてテンプレ、ハッキリ言って私には適用されたくはないので、これからちょっと関りを控えないといけない。
 私は密かに、“自重” の2文字を心に刻んだ。


 そんなことを思い出しながらパン作りの作業は終了し、あとは発酵を待ってから焼き上げるだけとなった。
 そこで活躍するのが家精霊さん。実は、一度発生した酵母菌なら、自在に活性化させることもできるため、本来何時間も寝かさないとできない1次発酵や2次発酵もチョチョイのチョイ。 ホント、精霊さんってチートだわ。
 そして、10分程度でふわふわに膨らんだパン生地をオーブンにセットした頃、テルミ村に行っていたタロウが何やら手土産を持って帰ってきた。

 「おかえり、タロウ。もうすぐごはんだよ」

 声をかけると、大型犬サイズとなったタロウが亜空間から取り出した5L程度の小さな樽を私に差し出した。

『村長から預かった。行商人から手に入れたので、主に捧げたいそうだ』

 そう言われ、テーブルに樽を置いて蓋を開けると、中には何やらフルーティな香りがする果実酒が入っており、私のテンションは一気に上がった。

「え、何々、これ、お酒じゃない? やだ、嬉しい」

 正直、私はそんなにお酒を飲む方ではなかったが、飲めないとなるとやはり時々飲みたくなるもので。しかし、なんとなくどんな物が出てくるかもわからないのに村人に所望するのもためらわれ、今に至っている。
 樽を開けた感じでは、中のお酒はリキュールみたいなものだろうか? 女性受けしそうな甘い花の香りも漂ってくる。

『子供も飲める程度の軽い物だから、主も大丈夫だろうと言っていた』

 シードルみたいなものかな? 欧米では子供も飲める程軽いリンゴのお酒だって聞いたことがある。
 そんなにお酒に強い方じゃなかったけど、それなら私も飲めそうだ。

『へえ、これは結構良い酒ニャ? 吾輩も最近久しく飲んでいなかったので楽しみニャ』

ノソリと近寄ってきたマーリンも、ペロペロと猫手を舐めて顔をこすりながら言っている。

「うん、私も夕飯が楽しみになったよ」


 そうして、焼きあがったパンを籠に盛りつけ、出来上がった夕食を並べると同時に、果実酒をカップに注いでいった。

「じゃあ、今日の恵みに感謝して、カンパーイ!」

 私が適当な音頭をとってカップを掲げると、人化した2匹も同じように『カンパーイ!』とカップを掲げて同時にカップを飲み干した。 まあ、二人とも、言ってる意味はわからないが、なんとなくといった感じではあったが。

 何かの果実から作ったと思われる果実酒は、期待した通りに仄かに甘くフルーティないい香りのする上等なお酒だったようで、まるでジュースを飲んでいる様な滑らかな飲み口が後を引き、夕食を摂りながらも2杯、3杯とお代わりをしていった。 
 普段の酒量ならこの程度のアルコール度数など問題ないとの判断もあって盃を重ねていったわけだったのだが…

 …最初は上機嫌でいい気分になっていたのは覚えている。しかしそのうちどんどん意識が怪しくなっていき……


 気づいたらベッドの上、マッパになった私の足元で、人化した2匹が同じく全裸で座り込んでシクシク泣いていた。


 ……私、やっちまいましたか?
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