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第三章:巻き込まれるのはテンプレですか? ふざけんな
5-2森の姫君(笑)、同郷人の日記から読み解く
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結論から言おう………手掛かりっぽいものはあった。
衣類は、多分転移前に着ていた物であろう直垂の様な着物と時代劇で見たこのある烏帽子っぽい被り物他、この地の衣装など数枚。
刀剣や装飾品は、ご自身で手掛けた物らしく、里長たちが大事な宝としてしまってあった物らしい。
それらは、確かに珍しかったり懐かしかったりもしたが、それだけだった。
問題は…書物の方。 日記のような書付のようなものがいくつかあったのだ。
稀人さんは、ちゃんと読み書きのできる育ちだったようで、それはそれは美しい文字で記されていた……毛筆で。
ぉおいっ! 今時の大卒なめんな? こんな古文の原文、達筆すぎて読めねえよっ!?
所々、読めそうな所を拾い読みしてみても、内容はちんぷんかんぷん。
『稀人さまの土地の文字らしいのですが、複雑すぎて我々には理解が及ばず…。 どうですかな? 同じ土地からの方ならその内容もお分かりになるかと思って楽しみにしておりましたが…』
いや、無理です。ないですわ~…
傍らでわくわくしながらこちらを窺うカーバンクルさんたちの熱い視線の中、私はおもむろにスマホを取り出す。 同じように期待の眼差しで見ていたタロウとマーリンが、瞬間的に事情を察し『へっ』と鼻で笑った気配を感じてイラっとした。 ……おまえら、後で覚えてろよ。
『すみません、ちょっと時代が違いすぎて同じ国の文字でもほとんど別物なもので……』
そう前振りをしつつ、スマホ越しに覗いてみると、グー〇ル翻訳の直訳程度には読めるようになったので、読解を進めていく。
すごいよ精霊さん!と心の中で絶賛してみたが……カーバンクルさんたちの耳や髭がヘニョンとなったことは知らないふりをした。
ざっと読んだ感じでは、まずはこちらに来ることとなった経緯から始まった。
京都あたりで刀鍛冶をしていた稀人さんは、天皇さまに刀を献上するために御所へ行く途中、こちらへ転移。平地を進んでいたら何の前触れもなく山の中にいたので、大層ビックリしたそうな。
……この辺は私と同じか。
そして、何日間かあてもなくサバイバルしながら彷徨っているうちに、カーバンクルさんたちと出会い、獣が言葉を話し意思疎通のできる、鳥獣戯画のような国にいることに気づく。 最初はカーバンクルさんたちも山の獣のようなものだと思っていたので、食料にするつもりではあったが、さすがに意思疎通出来るものを食べる程鬼畜では…というよりも、孤独で寂しかったので、交流のできる彼らと共に生活することを選ぶ。
時々他の言葉を解する獣や獣人とも出会っていたようだがちょっと性癖には刺さらず、カーバンクルさんたちの愛らしさにヤられて、ついつい離れられなくなっていたそうな……。(この辺りからカーバンクルさんたちのモフモフを愛でる言葉が続いていたので割愛)
………そっか、稀人さんはネズミ(私的にはハムスター)がストライクだったんですね……。
………ケモナーってどこにでもいるんスね…。
そしてしばらく、彼らを外敵から守り自分の持つ知識や技術を伝達しつつ、作物などを融通してもらうような共生期間を3年程経てモフモフを堪能しつつ生活が落ち着くと、やはり元の世界に帰らなくてはと思い立つ。
(この辺りから、仕事のことや、家族や一族のことなどの語りが入ってくるので、そこは割愛)
最初に佩刀していた刀が折れてしまい、生きるためには仕方ないと思って使っていた献上刀であったが、外敵の獣や魔獣たちを討伐しながら、刀や自分から何か尋常でない気配を感じるようになったのもこの頃。当時の里長に相談すると強力な精霊が宿っていたことを告げられる。
そして、その作り手であり使い手でもある自分にもその加護が付き、常人とは隔たる程の膂力や感知能力、身のこなしができるようになっていた。その中の感知能力が鋭くなり、その能力の一端で、自分が精霊と呼ばれる霊的存在と交流ができていたことを知る。
「これなら、旅に出ても生きていけるかもしれない」 そう思って、旅に出る決意を固める。
その後、世話になったカーバンクルの住民たちに見送られ、涙ながらにフワフワ毛皮に別れを告げ、方々を彷徨う旅路へ出ることになり、近隣の領地や王都などを巡って、自分と同じような人間がいないかを探し回った。
何百年も昔にはそんな存在もいたかもしれないというような、伝承化した話は時々耳にしたものの、その地へ行って山犬の様なワフワフした獣人たちに聞いて回るも、何の手掛かりも掴めず断念。そもそも、その存在が残したと言われる物に、文字などの知識を伝達する物がなかったのだ。
時々、自分の様につるりとした顔貌の人間に会うこともあったが、その頭やお尻には、やっぱりケモミミやしっぽがあるため確認させてもらい――毎回確認する必要があったかは謎だが、手触りは最高だったそうだ――その都度期待してはガックリしつつ旅路は中央大陸へ。
そちらには自分と同じような顔貌の人間がいると、旅の途中で立ち寄った店で、胸毛フサフサの熊の獣人(オス)に教えてもらった。 ひょっとしたら…と少し期待したらしい。(その後も自分が出会ったモフモフ獣人たちの毛皮の素晴らしさとか、種族やその部位ごとの毛皮の良さなどの語りが続くので割愛)
移動方法は、飼いならしたワイバーンのような騎獣の乗り継ぎによる陸路か、荒波を乗り越える船かの選択だったが、とりあえず懐具合も寂しかったし、ウサギの船員さん(オス)がモフモフしていたので海路で移動。
……モフモフ関係ないよね?
……さっきからちょいちょいモフモフ語りブッ込んでくるな、この人。
そこでお約束のごとく、船が難破し、稀人さんは大陸の南端に漂着する。木切れに捕まった状態で気絶していたが、精霊刀の加護で何の後遺症もなく漂着することができたそうな。
そこで全人種と呼ばれる、自分と似たような特徴を持つ人々と遭遇することになる。
確かに自分と同じようにツルリとした顔貌で、耳も顔の横にあるが、何故か長くてとがっていた。そして、その顔だちはこれまで遭遇した魔力値の高い獣人たちと同じように彫りの深い異人顔。その上、どの人も一様に色素が薄い。何しろ、自分たちとは種類の違った白い肌を持ち、淡い金髪や銀髪、薄い緑や淡い浅黄・薄紅色の様な色素の薄い毛髪を長く伸ばし、その瞳もやっぱり黄色や蒼、碧といった色とりどりとカラフルだったため、自分とは人種が違うと判断。
黒い髪、黒い瞳の人間など、自分しかいなかったことにやっぱりと思いつつも軽くない衝撃を受ける稀人さん。
しかし、あちら側はそうは思わなかったようで、その強さで様々な外敵を蹴散らす程強いこともあり、完全ウェルカム状態で稀人さんを受け入れた。
精霊の加護を受け、貴色を持つ貴重な人間としてもその都市の長に歓待を受けることになった稀人さんであったが、その長の娘の閨で毎晩・毎夜大層なもてなしを受けつつ、「…なんか物足りない(´・ω・`)」と思っていたそうな。
…………閨……
確かに、その地でも昔々の稀人伝承のようなものが伝説化していたそうであるが、以前立ち寄った村の伝承と大差なく、偉人伝を聞かされるのみで、その後村を救っただの、知識を伝えただのという話の結末は、結局皆この地でなくなったという終わり方ばかりであったとか。
ただ、一つだけ収穫があったとすると、この地の全人種は総じて魔力値が高いためか、感覚的に獣人とは違うものを感知することに優れているという特徴があったということだろうか。違うものとは、魔力の質・波動の様なものらしい。
そしてその全人種が語るには、かつて稀人がこの地に現れた時、なんとも言えない揺らぎのような気配が残る土地があり、数年程その揺らぎが続いてそのまま何事もなく消えていったとか。
もしや…と思った稀人さんは、やはりその地を訪れてみたものの、今では何もない野原が広がっているだけ。
ただ、そういうスポットの様なものが、中央大陸の各地で稀に出没することがあったという。 どのような原理で、どういう条件によって発生して、どの程度の期間存在しているのかは不明。 わからないことだらけなので、ただの自然現象だと言われたそうだが…
これはもしや…? と思った稀人さん、「行かないで」と泣いてすがる都市の長(男性)――読み間違いじゃないです――を振り切って、大陸全土の揺らぎとモフモフを探して再び彷徨の旅に出る。 (ここから、モフモフの偉大さを語る文章が続くので割愛)
…………稀人さんは、エルフのハニトラよりもモフモフ派かーーー(棒読み)
………途中から趣旨変わってない? え? いいから進めろって? …はい。
幸い、精霊刀の感知能力をリンクすることによって、何となく魔力の気配などを感じることができるようになっていたので、その後、稀人さんの「揺らぎ」を求める旅が始まる。
中央大陸を無作為に放浪しながら、
東に噂っぽいものがあれば、東に赴き住民(ウサギ風の獣人)を脅かす熊の魔獣を討伐し、
西にその気配を感じることがあれば、西に赴きその土地の豪族(狼風の魔獣)のお姫様を外敵から救う。
南にかつての伝承が色濃く残っていると思えば、南に赴き街道を跋扈していた魔獣の群れ(トカゲ風の害獣)を蹴散らし、
北に感知するものがあれば、北の高山に上ってその土地の主(フサフサお髭の古龍)と友誼を深めた。
などという、八面六臂の大活躍。 (そして、その後毎回何かしらの歓待を受けるまでがセットだったが割愛する)
…………えっと、勇者の伝説とか混じってないよね?………
そうこうしているうちに、大陸の方々や、いくつかの島国を移動しつつ、時に「揺らぎ」に遭遇することもあったが、そのほとんどが平地にポツンと出現したかと思ったら、届きようもない上空にあったり、海のど真ん中やマグマの真上だったりと、大変ランダムに発生し、消えていったため、徒労に終わることが多かった。
その中に、一つだけかろうじて間近に接することのできる「揺らぎ」を発見できた時には、旅に出てからすでに40年以上経っており、稀人さんも疲れ果てていた。
その「揺らぎ」は、何か「ピー――ッ…ガガガガ」という鳥の鳴き声の様な音が微かにしたように思えたが、とても何かが出入りできるような感じでもなく、ただただ空間が歪んでいるようにしか見えなかった。よしんば、どこかに何かが移動できたとしても、とても故郷に繋がってるとも思えない。
あれからもう、50年近く経っているのだ。 今更故郷に帰った所で、妻や兄弟も他界してるだろう。また、父親がいなくなった後の子供たちもどうなっているのか…… そう思ったらしい。
そこで、これまでの年月を思い出した稀人さんの心が折れ、ふと移動してきたばかりの時に世話になったカーバンクルたちの里を思い出した。
あの獣たちは良いモフモフばかりだったな……。
幸い、彼らの寿命は人間と比較にならなため、きっと帰ってもあの頃の知り合いが迎え入れてくれるだろう。
このように老いることも忘れてしまった自分は、この世界で生きていけという神仏からのお告げかもしれない。 ひょっとしたら、自分は知らないうちに死んでこのような世界のいるのかも…とも考えたそうな。
そう思った稀人さんは、故郷に帰るのを諦めて、カーバンクルの里で第二の人生を送ろうと帰路についた。
稀人さんは、結局始まりの土地に戻ることによってその旅路を終えたのだ。
その後、稀人さんはカーバンクルのモフモフたちに囲まれて、幸せな生活を送ったとかなんとか…(その後何枚にも渡ってモフモフ賛美が続くので割愛)
その日記の終わりに署名があり、『佐々木 善五郎』との名前があった。
…………えーっと……、大変長い上に、途中からただのモフモフ漫遊記風になってたんだけど……
なんとも言えない気まずい読後感に、私は読み聞かせていた周囲を窺った。すると、
『うっうっうっ……ゼンゴロウさまぁ……そんなに我々のことをっ…』
里長が滝の様な涙を流して鼻をすすり、お付きのカーバンクルさんたちも一様に男泣きしている。
稀人さん…もとい佐々木さんの名前を思い出すことができたことや、旅を通じてどれだけそのモフモフを愛されていたのかを実感できて感無量らしい。
マーリンとタロウと言えば、『スピースピー』と寝息を立てていた。
……そうですよね~、寝ちゃいますよね~。
私はそっとその本を閉じて、冷め切ったお茶を啜った。 冷めててもおいしい…。
「とりあえず、この日記の中に出て来た「揺らぎ」というものが、何かのヒントになるのではないかと思うんです」
何事もなかったかのように、冒頭で述べた、「手掛かりっぽいもの」がこれに当たると思ってそう切り出す。
何か、怪しい気配がビンビンするではないか。 私の厨二センサーが警報アラームを鳴らしている。
これって、割と異世界転移にありがちな『時空のゆがみ』っていうやつなんじゃないだろうか?
大昔の日本人が、これが何かを想像することなんて難しかったと思うけれど、様々なサブカルに触れて異世界転移ものの物語を嗜んできた私には、ピンとひらめくものがあった。
これは……当たりなんじゃないだろうか? と。
すると、里長のお爺さんが小さなハンカチで涙を拭き拭き
『しかし、この広い島国の中だけでなく、更に大きな中央大陸まで足を延ばしても滅多にお目にかかれなかったという希少な現象だったようですが…? ゼンゴロウさまが現れた時には、わしたちは何も変化を感じることができませんでした。魔力を扱うことに長けた我々であっても…です』
と、訝し気に答えた。 ちょっと無理なんじゃないの? という心の声が透けて見えるような態度だった。
しかし、佐々木さんは、多少ならずとも感知することができていた。精霊刀との感知能力のリンクをもってして…だ。
それならば、私にもできることがあるだろう。しかも、あの頃の稀人さんにはできなかった手段で。
私は、余裕の笑みを浮かべて、里長に返した。
「その辺は、多分大丈夫なんじゃないかな…って思っています。ちょっと思いついたことがあるので。それで、ちょっとお願いがあるのですが…」
そうして、私は手持ちの魔石をいくつか渡し、鍛冶や彫金…中でもそれらへの魔法付与に特化していると言われる一族の職人を紹介してもらった。
「ちょっと作ってほしいものがあるんですよ」……と言って。
その後、スヤスヤ眠る2匹を起こして家路をたどる。
前回帰る時に感じていたほどの不安はなく、「なんとかイケるかもしれない」と、少しの期待感が私の足取りを軽くしていた。
衣類は、多分転移前に着ていた物であろう直垂の様な着物と時代劇で見たこのある烏帽子っぽい被り物他、この地の衣装など数枚。
刀剣や装飾品は、ご自身で手掛けた物らしく、里長たちが大事な宝としてしまってあった物らしい。
それらは、確かに珍しかったり懐かしかったりもしたが、それだけだった。
問題は…書物の方。 日記のような書付のようなものがいくつかあったのだ。
稀人さんは、ちゃんと読み書きのできる育ちだったようで、それはそれは美しい文字で記されていた……毛筆で。
ぉおいっ! 今時の大卒なめんな? こんな古文の原文、達筆すぎて読めねえよっ!?
所々、読めそうな所を拾い読みしてみても、内容はちんぷんかんぷん。
『稀人さまの土地の文字らしいのですが、複雑すぎて我々には理解が及ばず…。 どうですかな? 同じ土地からの方ならその内容もお分かりになるかと思って楽しみにしておりましたが…』
いや、無理です。ないですわ~…
傍らでわくわくしながらこちらを窺うカーバンクルさんたちの熱い視線の中、私はおもむろにスマホを取り出す。 同じように期待の眼差しで見ていたタロウとマーリンが、瞬間的に事情を察し『へっ』と鼻で笑った気配を感じてイラっとした。 ……おまえら、後で覚えてろよ。
『すみません、ちょっと時代が違いすぎて同じ国の文字でもほとんど別物なもので……』
そう前振りをしつつ、スマホ越しに覗いてみると、グー〇ル翻訳の直訳程度には読めるようになったので、読解を進めていく。
すごいよ精霊さん!と心の中で絶賛してみたが……カーバンクルさんたちの耳や髭がヘニョンとなったことは知らないふりをした。
ざっと読んだ感じでは、まずはこちらに来ることとなった経緯から始まった。
京都あたりで刀鍛冶をしていた稀人さんは、天皇さまに刀を献上するために御所へ行く途中、こちらへ転移。平地を進んでいたら何の前触れもなく山の中にいたので、大層ビックリしたそうな。
……この辺は私と同じか。
そして、何日間かあてもなくサバイバルしながら彷徨っているうちに、カーバンクルさんたちと出会い、獣が言葉を話し意思疎通のできる、鳥獣戯画のような国にいることに気づく。 最初はカーバンクルさんたちも山の獣のようなものだと思っていたので、食料にするつもりではあったが、さすがに意思疎通出来るものを食べる程鬼畜では…というよりも、孤独で寂しかったので、交流のできる彼らと共に生活することを選ぶ。
時々他の言葉を解する獣や獣人とも出会っていたようだがちょっと性癖には刺さらず、カーバンクルさんたちの愛らしさにヤられて、ついつい離れられなくなっていたそうな……。(この辺りからカーバンクルさんたちのモフモフを愛でる言葉が続いていたので割愛)
………そっか、稀人さんはネズミ(私的にはハムスター)がストライクだったんですね……。
………ケモナーってどこにでもいるんスね…。
そしてしばらく、彼らを外敵から守り自分の持つ知識や技術を伝達しつつ、作物などを融通してもらうような共生期間を3年程経てモフモフを堪能しつつ生活が落ち着くと、やはり元の世界に帰らなくてはと思い立つ。
(この辺りから、仕事のことや、家族や一族のことなどの語りが入ってくるので、そこは割愛)
最初に佩刀していた刀が折れてしまい、生きるためには仕方ないと思って使っていた献上刀であったが、外敵の獣や魔獣たちを討伐しながら、刀や自分から何か尋常でない気配を感じるようになったのもこの頃。当時の里長に相談すると強力な精霊が宿っていたことを告げられる。
そして、その作り手であり使い手でもある自分にもその加護が付き、常人とは隔たる程の膂力や感知能力、身のこなしができるようになっていた。その中の感知能力が鋭くなり、その能力の一端で、自分が精霊と呼ばれる霊的存在と交流ができていたことを知る。
「これなら、旅に出ても生きていけるかもしれない」 そう思って、旅に出る決意を固める。
その後、世話になったカーバンクルの住民たちに見送られ、涙ながらにフワフワ毛皮に別れを告げ、方々を彷徨う旅路へ出ることになり、近隣の領地や王都などを巡って、自分と同じような人間がいないかを探し回った。
何百年も昔にはそんな存在もいたかもしれないというような、伝承化した話は時々耳にしたものの、その地へ行って山犬の様なワフワフした獣人たちに聞いて回るも、何の手掛かりも掴めず断念。そもそも、その存在が残したと言われる物に、文字などの知識を伝達する物がなかったのだ。
時々、自分の様につるりとした顔貌の人間に会うこともあったが、その頭やお尻には、やっぱりケモミミやしっぽがあるため確認させてもらい――毎回確認する必要があったかは謎だが、手触りは最高だったそうだ――その都度期待してはガックリしつつ旅路は中央大陸へ。
そちらには自分と同じような顔貌の人間がいると、旅の途中で立ち寄った店で、胸毛フサフサの熊の獣人(オス)に教えてもらった。 ひょっとしたら…と少し期待したらしい。(その後も自分が出会ったモフモフ獣人たちの毛皮の素晴らしさとか、種族やその部位ごとの毛皮の良さなどの語りが続くので割愛)
移動方法は、飼いならしたワイバーンのような騎獣の乗り継ぎによる陸路か、荒波を乗り越える船かの選択だったが、とりあえず懐具合も寂しかったし、ウサギの船員さん(オス)がモフモフしていたので海路で移動。
……モフモフ関係ないよね?
……さっきからちょいちょいモフモフ語りブッ込んでくるな、この人。
そこでお約束のごとく、船が難破し、稀人さんは大陸の南端に漂着する。木切れに捕まった状態で気絶していたが、精霊刀の加護で何の後遺症もなく漂着することができたそうな。
そこで全人種と呼ばれる、自分と似たような特徴を持つ人々と遭遇することになる。
確かに自分と同じようにツルリとした顔貌で、耳も顔の横にあるが、何故か長くてとがっていた。そして、その顔だちはこれまで遭遇した魔力値の高い獣人たちと同じように彫りの深い異人顔。その上、どの人も一様に色素が薄い。何しろ、自分たちとは種類の違った白い肌を持ち、淡い金髪や銀髪、薄い緑や淡い浅黄・薄紅色の様な色素の薄い毛髪を長く伸ばし、その瞳もやっぱり黄色や蒼、碧といった色とりどりとカラフルだったため、自分とは人種が違うと判断。
黒い髪、黒い瞳の人間など、自分しかいなかったことにやっぱりと思いつつも軽くない衝撃を受ける稀人さん。
しかし、あちら側はそうは思わなかったようで、その強さで様々な外敵を蹴散らす程強いこともあり、完全ウェルカム状態で稀人さんを受け入れた。
精霊の加護を受け、貴色を持つ貴重な人間としてもその都市の長に歓待を受けることになった稀人さんであったが、その長の娘の閨で毎晩・毎夜大層なもてなしを受けつつ、「…なんか物足りない(´・ω・`)」と思っていたそうな。
…………閨……
確かに、その地でも昔々の稀人伝承のようなものが伝説化していたそうであるが、以前立ち寄った村の伝承と大差なく、偉人伝を聞かされるのみで、その後村を救っただの、知識を伝えただのという話の結末は、結局皆この地でなくなったという終わり方ばかりであったとか。
ただ、一つだけ収穫があったとすると、この地の全人種は総じて魔力値が高いためか、感覚的に獣人とは違うものを感知することに優れているという特徴があったということだろうか。違うものとは、魔力の質・波動の様なものらしい。
そしてその全人種が語るには、かつて稀人がこの地に現れた時、なんとも言えない揺らぎのような気配が残る土地があり、数年程その揺らぎが続いてそのまま何事もなく消えていったとか。
もしや…と思った稀人さんは、やはりその地を訪れてみたものの、今では何もない野原が広がっているだけ。
ただ、そういうスポットの様なものが、中央大陸の各地で稀に出没することがあったという。 どのような原理で、どういう条件によって発生して、どの程度の期間存在しているのかは不明。 わからないことだらけなので、ただの自然現象だと言われたそうだが…
これはもしや…? と思った稀人さん、「行かないで」と泣いてすがる都市の長(男性)――読み間違いじゃないです――を振り切って、大陸全土の揺らぎとモフモフを探して再び彷徨の旅に出る。 (ここから、モフモフの偉大さを語る文章が続くので割愛)
…………稀人さんは、エルフのハニトラよりもモフモフ派かーーー(棒読み)
………途中から趣旨変わってない? え? いいから進めろって? …はい。
幸い、精霊刀の感知能力をリンクすることによって、何となく魔力の気配などを感じることができるようになっていたので、その後、稀人さんの「揺らぎ」を求める旅が始まる。
中央大陸を無作為に放浪しながら、
東に噂っぽいものがあれば、東に赴き住民(ウサギ風の獣人)を脅かす熊の魔獣を討伐し、
西にその気配を感じることがあれば、西に赴きその土地の豪族(狼風の魔獣)のお姫様を外敵から救う。
南にかつての伝承が色濃く残っていると思えば、南に赴き街道を跋扈していた魔獣の群れ(トカゲ風の害獣)を蹴散らし、
北に感知するものがあれば、北の高山に上ってその土地の主(フサフサお髭の古龍)と友誼を深めた。
などという、八面六臂の大活躍。 (そして、その後毎回何かしらの歓待を受けるまでがセットだったが割愛する)
…………えっと、勇者の伝説とか混じってないよね?………
そうこうしているうちに、大陸の方々や、いくつかの島国を移動しつつ、時に「揺らぎ」に遭遇することもあったが、そのほとんどが平地にポツンと出現したかと思ったら、届きようもない上空にあったり、海のど真ん中やマグマの真上だったりと、大変ランダムに発生し、消えていったため、徒労に終わることが多かった。
その中に、一つだけかろうじて間近に接することのできる「揺らぎ」を発見できた時には、旅に出てからすでに40年以上経っており、稀人さんも疲れ果てていた。
その「揺らぎ」は、何か「ピー――ッ…ガガガガ」という鳥の鳴き声の様な音が微かにしたように思えたが、とても何かが出入りできるような感じでもなく、ただただ空間が歪んでいるようにしか見えなかった。よしんば、どこかに何かが移動できたとしても、とても故郷に繋がってるとも思えない。
あれからもう、50年近く経っているのだ。 今更故郷に帰った所で、妻や兄弟も他界してるだろう。また、父親がいなくなった後の子供たちもどうなっているのか…… そう思ったらしい。
そこで、これまでの年月を思い出した稀人さんの心が折れ、ふと移動してきたばかりの時に世話になったカーバンクルたちの里を思い出した。
あの獣たちは良いモフモフばかりだったな……。
幸い、彼らの寿命は人間と比較にならなため、きっと帰ってもあの頃の知り合いが迎え入れてくれるだろう。
このように老いることも忘れてしまった自分は、この世界で生きていけという神仏からのお告げかもしれない。 ひょっとしたら、自分は知らないうちに死んでこのような世界のいるのかも…とも考えたそうな。
そう思った稀人さんは、故郷に帰るのを諦めて、カーバンクルの里で第二の人生を送ろうと帰路についた。
稀人さんは、結局始まりの土地に戻ることによってその旅路を終えたのだ。
その後、稀人さんはカーバンクルのモフモフたちに囲まれて、幸せな生活を送ったとかなんとか…(その後何枚にも渡ってモフモフ賛美が続くので割愛)
その日記の終わりに署名があり、『佐々木 善五郎』との名前があった。
…………えーっと……、大変長い上に、途中からただのモフモフ漫遊記風になってたんだけど……
なんとも言えない気まずい読後感に、私は読み聞かせていた周囲を窺った。すると、
『うっうっうっ……ゼンゴロウさまぁ……そんなに我々のことをっ…』
里長が滝の様な涙を流して鼻をすすり、お付きのカーバンクルさんたちも一様に男泣きしている。
稀人さん…もとい佐々木さんの名前を思い出すことができたことや、旅を通じてどれだけそのモフモフを愛されていたのかを実感できて感無量らしい。
マーリンとタロウと言えば、『スピースピー』と寝息を立てていた。
……そうですよね~、寝ちゃいますよね~。
私はそっとその本を閉じて、冷め切ったお茶を啜った。 冷めててもおいしい…。
「とりあえず、この日記の中に出て来た「揺らぎ」というものが、何かのヒントになるのではないかと思うんです」
何事もなかったかのように、冒頭で述べた、「手掛かりっぽいもの」がこれに当たると思ってそう切り出す。
何か、怪しい気配がビンビンするではないか。 私の厨二センサーが警報アラームを鳴らしている。
これって、割と異世界転移にありがちな『時空のゆがみ』っていうやつなんじゃないだろうか?
大昔の日本人が、これが何かを想像することなんて難しかったと思うけれど、様々なサブカルに触れて異世界転移ものの物語を嗜んできた私には、ピンとひらめくものがあった。
これは……当たりなんじゃないだろうか? と。
すると、里長のお爺さんが小さなハンカチで涙を拭き拭き
『しかし、この広い島国の中だけでなく、更に大きな中央大陸まで足を延ばしても滅多にお目にかかれなかったという希少な現象だったようですが…? ゼンゴロウさまが現れた時には、わしたちは何も変化を感じることができませんでした。魔力を扱うことに長けた我々であっても…です』
と、訝し気に答えた。 ちょっと無理なんじゃないの? という心の声が透けて見えるような態度だった。
しかし、佐々木さんは、多少ならずとも感知することができていた。精霊刀との感知能力のリンクをもってして…だ。
それならば、私にもできることがあるだろう。しかも、あの頃の稀人さんにはできなかった手段で。
私は、余裕の笑みを浮かべて、里長に返した。
「その辺は、多分大丈夫なんじゃないかな…って思っています。ちょっと思いついたことがあるので。それで、ちょっとお願いがあるのですが…」
そうして、私は手持ちの魔石をいくつか渡し、鍛冶や彫金…中でもそれらへの魔法付与に特化していると言われる一族の職人を紹介してもらった。
「ちょっと作ってほしいものがあるんですよ」……と言って。
その後、スヤスヤ眠る2匹を起こして家路をたどる。
前回帰る時に感じていたほどの不安はなく、「なんとかイケるかもしれない」と、少しの期待感が私の足取りを軽くしていた。
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