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第三章:巻き込まれるのはテンプレですか? ふざけんな
7.森の姫君(笑)、光物に囲まれて探索中
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それから、私は毎朝起床時にスマホを立ち上げ、『揺らぎ』の位置情報を確認する習慣ができた。
朝、起きてはスマホの位置情報を確認し、朝食の時に「今日はこの地点へ行きます」と、2匹に告げると、そのまま出かけて方々を飛び回り、日が暮れる前に帰ってくるという生活リズムに最早馴染んできている。
今の所、5か所程回ったが、やはり『揺らぎ』というだけあって、現れるポイントも一貫性がなく、出現時間もまちまちなため、出現ポイントを確認しながら移動している最中に消失してしまうこともあった。
また、大きな魔獣の洞穴の中だったり、池の主が泳ぎ回る水面上部だったりと、危険な位置もあるため、見つけたところで必ずしも到達できるとも限らなかったのも余計に悔しい。
時間感覚がおおらかな精霊さんでさえも ≪珍しい現象≫ とまで言っているのだから、5件でも発見できれば多い方なのかもしれないけれども。
やっぱりあれだ。 行動範囲をもっと広げていかないとダメだ…。
そう思い立った頃、カーバンクルの里から依頼していた魔道具が出来上がったとの連絡を受け、「ナイスタイミング!」と、喜び勇んでそれらを引き取りに行った。
そうして、いただいて来たのが以下のアイテムとなる。
・隠密のブレスレット:目立たず、騒がれずに…がモットーです。目指すはドラ〇もんの石ころ帽子。
・精霊石の指輪各種:多少の魔法は使えるけど…それよりも、相手に魔法を使われた場合の耐性・無効目的です。全属性の石を揃えたので、死角なし。
・転移用の魔石の腕輪:魔法陣で個人登録させておけば二つの魔石間で転移可能。一つは自宅の庭に埋めてあるので、いつでも帰れます。
・状態異常無効のネックレス:RPGならゲーム終盤で手に入れてずーっと装備しとくほど定番アイテムっしょ
・緊急取り出し用アイテム収納の指輪:あらかじめ登録しておけば念じるだけで手元にポン。5個まで登録可能
・物理攻撃軽減(最強)のブレスレット:この指輪を付けたカーバンクルさんの実例を見た感じ、タロウの本気パンチでもケガしてなかった。…衝撃に吹っ飛んでたけど、それでもかすり傷一つなかったです。マーリンの爪攻撃でも無問題。…服はザクザクになっていたので、カーバンクルさんが『いやん、えっち』になっておりましたが……ラッキースケベのフラグじゃないよね?…(-_-;)
・無線用のピアス:私とタロウ・マーリンで情報のやり取りをできるよう、作成。対になる石をそれぞれの耳にも装着し、指をあてて魔力を流し込み使用。…私は耳にだけ魔力を流すなんて器用なことができないので。
…なんていうか、攻撃力は期待できないだけに、防御力に全フリした感がすごい。そして、この「ガッチガチに守り固めてます」という布陣に、私のやる気が反映されていることがわかるだろう。魔石を産みだすチート加減から金に糸目は付けなかったので、これだけでも一国が買える程の物質的価値と最先端どころかオーパーツレベルの魔法技術がてんこ盛り。
特に隠密のブレスレットには認識阻害・光学迷彩・気配遮断・魔力感知阻害、物音軽減、匂い遮断など、私が思いつく限りのステルス機能を盛り込んでもらい、マーリンには『暗殺者にでもなる気ニャ?』とまで言わしめた逸品に仕上げてくれた。
ちなみに、オンラインゲームでのマイカの職業が暗殺者だったのだが、その経験が活かされているかもしれないと思うと微妙。
『いや、この位あってもいいのではないか? ヘタに攻撃できると逆に危ない場合もある』
『そうニャ。ご主人はどうも危機感に欠けるので、この程度の守りは必要ニャ』
ある意味過保護なペットたちからの意見はこんな感じ。 ならばこれで良し。
ちなみに、作成を頑張ってくれたカーバンクルの彫金師さんや魔法付与師さんからは笑顔で『いい経験ができました。これからも精進していきますので、よろしくお願いします!』との熱い言葉もいただいた。
なんか、渡した魔石が滅多にない程高品質で雑味もなく、自分のやりたい技術を120%叩きこむことができ、大変やりがいがあったらしい。そして、最近スランプに陥って行き詰っていた職人が、私の要望について話し合ううちに、この世界では考えつかないような斬新な発想から、何やら壁を乗り越えることができたそうな。
というのも、転移陣を性能そのままでありつつコンパクトに簡略化し、装飾品として持ち運べる程度の大きさの魔石に取り込むなんて、この世界でも初の試みだったとか。 いや、それでも腕に付けるには結構大きな石なんだけども。
ちなみに、魔法陣を簡略化したのは私ではなくマーリン&カーバンクルのインテリチームだったのだが。日本で使っていたQRコードの話をして、そこからピンときたとかなんとか。……マーリンさんたち、マジで天才かよ!? 利用していた私ですら、ただの便利な模様にしか見えないというのに……発想から刺激を受けたとか…異世界上位魔獣の知能、恐るべし。
一般的に転移は大きな魔法陣を魔法石の床石に彫り込んで設置し、何人もの魔導師を使って膨大な魔力を溜め込んで発動させるシステムらしく、人一人を送り込むのに必要な大きさは、最小でも直径10メートル程度であることが、中央大陸の全人族の国で公表されているらしいので、これまでの技術を刷新してしまう程の偉業であることは推して知るべしとドヤ顔されましたが、ただただ素直に凄いとしか言いようがないため、家猫スタイルの体を抱きしめて頭を「いい子いい子」してやると、フニャフニャ言いながら胸の谷間に顔を埋めてモジモジしていた。 かわいい奴め。
…まあ、難しいことはよくわからないけど、何かのお役に立てたのならば、幸いです。
『お嬢さんたちに助けてもらった謝礼のつもりだったんじゃが、余った魔石や貴重なポーションまでいただいてしまった上に、こんな新技術の発想までもらえて…。ゼンゴロウさまの時もそうでしたが、稀人さま方は常に我々に恩恵を授けて下さる…。 職人たちなんか、もう忠誠どころかすべてを捧げてついて行きそうな勢いですわ。フォッホッホ』
職人が出奔したら笑いごとじゃないだろうに、里長のお爺さんはあくまで明るい。
「…あのー…、なんか嫌な予感しかしないので、簡略化魔法陣のことはこの里だけの秘密…占有知識にしておいてくださいね?」
なんか、カーバンクルさんたち、世間知らずなインテリ系職人集団みたいな感じで危なっかしい気がしてしまう。 あんなイタチに目を付けられるくらいだから、荒事は苦手なのだろう。 同郷人が気にしていただけに、私も何か守ってあげたいような気がしてきてしまうのだ。 ……ポッチャリ系モフモフハムスター……かわいいし。
『フォッホッホ…。お優しい言葉、ありがたく頂戴しておきます。大丈夫ですじゃ。お嬢さんがいいと言うまでは、誰にも売ったり教えたりなどいたしません。 ゼンゴロウさまの時と同じですじゃ』
何百年も前に、日本の製鉄・鍛造技術を持ち込んだ佐々木さんも、こちらでは知識チート炸裂させていたわけで。現在の武器錬成の祖がカーバンクルの知識…ひいては佐々木さんの鍛冶知識になってるらしい。
その時、知識を得ようとした人間や他種族に攫われたりする者が多くいたため、今の隠者のような穴倉生活が始まったとか。
…うん、通信用の魔石もあるし何かあったら対応できるように、気にしておこう。
そう思ったら、住処の奥に大事にしまわれているだろう精霊刀から ≪かたじけない≫ と短い思念が飛んできた気がした。……サムライかよ?
(その後スマホを確認したら、アプリ名“はりのかがみ”にカーバンクルの里が登録されていたので、いつでも遠隔映像が見られるようになった)
そして、やってきました、第6地点。 精霊の森の西側隣接領地、サザーラント領のとある大通りの端っこでございます。
今まで、人が通る場所だということで避けていた『揺らぎ』ポイントではあったのだが、この度やっと来ることができた。
私は、カーバンクルの里で手に入れた装飾品を全装備し、ものすごくゴージャスな光物に囲まれてジャラジャラした状態でスマホを取り出す。
そして、時々通る獣ヘッドの通行人たちは、こんなに怪しい女が怪しい動きをしているのに全く目に入っていないように素通りしてくれるので、私も気にせずに行動できて大変助かる。
……しかし、なんか気にされないとはいえ、人前に出るのに地味な色合いの簡素なローブ姿でコレってのも落ち着かないな……。
せめて、ローブの色は黒の方がミスリルの銀色には良かったか…?
そんなことを気にする余裕すらあるのだから、作ってもらっといてよかったというものだ。
『主よ、どうだ?』
「うーん、電波一本。…でも、安定してる…かもしれない。いける…かな?」
私は、地上1m程度の高さでゆらゆらと光を乱反射している空間にスマホを寄せてタップした……そういえば、こっちに転移した時、何故か携帯アドレスその他のアプリが消失していたことを思い出した。
「あーっ!……まあ、自宅なら覚えてるけど……」
私の大声にビクッとした2匹には申し訳ない。
そして、横を通って行ったウサギ頭の通行人は、間近で声を聞いていたかもしれないのに、「ん?」と耳をピクピクさせてから左右を見渡し、何事もなかったようにそのまま去って行った。
よしよし、隠密さんがちゃんと仕事してるぞ
と、ブレスレットの効果にほくそ笑みながら電話番号を入力し、通話ボタンを押した瞬間……フゥッとやっぱり『揺らぎ』が消失し、電波が途切れた。
はぁ……またか。 コール音すら出る前なのに…。
『だめだったニャ?』
私の浮かない顔に全てを察したマーリンが、ヒョイっと腕の中に入ってきて下から顔を覗き込む。
あ、隠密のブレスレットはマーリンもタロウも登録してあるので、3人一緒に隠密状態です。
「うん。スマホを近づけて電話番号を入力するまではイケたんだけどね…また消えちゃった…」
『うまくいかないニャ』
そうやって、通信の切れたスマホを握ったまま話していると、ヒュコッとメッセージが入った。
≪…その魔道具を起動すると消失が早まっているのではないか?≫
え? …あ…そう…だった?
そう言われると、そうかもしれない気がする。 そうならば……大きな『揺らぎ』を発見しないと意味がないのではないだろうか?
≪え、だったら、ひとのこがんばれ≫
≪くじけるな、がんばって≫
≪いいぞいいぞ≫
≪私たちの嫌なものが減る。良いこと≫
現金な叱咤激励、ありがとうございます。
そうして精霊さんたちのアドバイスの元、位置情報から小さ目だったり安定しなかったりする『揺らぎ』を外してサーチした結果……
王都のど真ん中、王宮の庭園に一つだけポツンと旗が立っていた。
この旗がそびえ立つ位置を2度見して確認すると、呼び名に“フラグ”とつけるべきなんだろうかと、真顔で思った。
朝、起きてはスマホの位置情報を確認し、朝食の時に「今日はこの地点へ行きます」と、2匹に告げると、そのまま出かけて方々を飛び回り、日が暮れる前に帰ってくるという生活リズムに最早馴染んできている。
今の所、5か所程回ったが、やはり『揺らぎ』というだけあって、現れるポイントも一貫性がなく、出現時間もまちまちなため、出現ポイントを確認しながら移動している最中に消失してしまうこともあった。
また、大きな魔獣の洞穴の中だったり、池の主が泳ぎ回る水面上部だったりと、危険な位置もあるため、見つけたところで必ずしも到達できるとも限らなかったのも余計に悔しい。
時間感覚がおおらかな精霊さんでさえも ≪珍しい現象≫ とまで言っているのだから、5件でも発見できれば多い方なのかもしれないけれども。
やっぱりあれだ。 行動範囲をもっと広げていかないとダメだ…。
そう思い立った頃、カーバンクルの里から依頼していた魔道具が出来上がったとの連絡を受け、「ナイスタイミング!」と、喜び勇んでそれらを引き取りに行った。
そうして、いただいて来たのが以下のアイテムとなる。
・隠密のブレスレット:目立たず、騒がれずに…がモットーです。目指すはドラ〇もんの石ころ帽子。
・精霊石の指輪各種:多少の魔法は使えるけど…それよりも、相手に魔法を使われた場合の耐性・無効目的です。全属性の石を揃えたので、死角なし。
・転移用の魔石の腕輪:魔法陣で個人登録させておけば二つの魔石間で転移可能。一つは自宅の庭に埋めてあるので、いつでも帰れます。
・状態異常無効のネックレス:RPGならゲーム終盤で手に入れてずーっと装備しとくほど定番アイテムっしょ
・緊急取り出し用アイテム収納の指輪:あらかじめ登録しておけば念じるだけで手元にポン。5個まで登録可能
・物理攻撃軽減(最強)のブレスレット:この指輪を付けたカーバンクルさんの実例を見た感じ、タロウの本気パンチでもケガしてなかった。…衝撃に吹っ飛んでたけど、それでもかすり傷一つなかったです。マーリンの爪攻撃でも無問題。…服はザクザクになっていたので、カーバンクルさんが『いやん、えっち』になっておりましたが……ラッキースケベのフラグじゃないよね?…(-_-;)
・無線用のピアス:私とタロウ・マーリンで情報のやり取りをできるよう、作成。対になる石をそれぞれの耳にも装着し、指をあてて魔力を流し込み使用。…私は耳にだけ魔力を流すなんて器用なことができないので。
…なんていうか、攻撃力は期待できないだけに、防御力に全フリした感がすごい。そして、この「ガッチガチに守り固めてます」という布陣に、私のやる気が反映されていることがわかるだろう。魔石を産みだすチート加減から金に糸目は付けなかったので、これだけでも一国が買える程の物質的価値と最先端どころかオーパーツレベルの魔法技術がてんこ盛り。
特に隠密のブレスレットには認識阻害・光学迷彩・気配遮断・魔力感知阻害、物音軽減、匂い遮断など、私が思いつく限りのステルス機能を盛り込んでもらい、マーリンには『暗殺者にでもなる気ニャ?』とまで言わしめた逸品に仕上げてくれた。
ちなみに、オンラインゲームでのマイカの職業が暗殺者だったのだが、その経験が活かされているかもしれないと思うと微妙。
『いや、この位あってもいいのではないか? ヘタに攻撃できると逆に危ない場合もある』
『そうニャ。ご主人はどうも危機感に欠けるので、この程度の守りは必要ニャ』
ある意味過保護なペットたちからの意見はこんな感じ。 ならばこれで良し。
ちなみに、作成を頑張ってくれたカーバンクルの彫金師さんや魔法付与師さんからは笑顔で『いい経験ができました。これからも精進していきますので、よろしくお願いします!』との熱い言葉もいただいた。
なんか、渡した魔石が滅多にない程高品質で雑味もなく、自分のやりたい技術を120%叩きこむことができ、大変やりがいがあったらしい。そして、最近スランプに陥って行き詰っていた職人が、私の要望について話し合ううちに、この世界では考えつかないような斬新な発想から、何やら壁を乗り越えることができたそうな。
というのも、転移陣を性能そのままでありつつコンパクトに簡略化し、装飾品として持ち運べる程度の大きさの魔石に取り込むなんて、この世界でも初の試みだったとか。 いや、それでも腕に付けるには結構大きな石なんだけども。
ちなみに、魔法陣を簡略化したのは私ではなくマーリン&カーバンクルのインテリチームだったのだが。日本で使っていたQRコードの話をして、そこからピンときたとかなんとか。……マーリンさんたち、マジで天才かよ!? 利用していた私ですら、ただの便利な模様にしか見えないというのに……発想から刺激を受けたとか…異世界上位魔獣の知能、恐るべし。
一般的に転移は大きな魔法陣を魔法石の床石に彫り込んで設置し、何人もの魔導師を使って膨大な魔力を溜め込んで発動させるシステムらしく、人一人を送り込むのに必要な大きさは、最小でも直径10メートル程度であることが、中央大陸の全人族の国で公表されているらしいので、これまでの技術を刷新してしまう程の偉業であることは推して知るべしとドヤ顔されましたが、ただただ素直に凄いとしか言いようがないため、家猫スタイルの体を抱きしめて頭を「いい子いい子」してやると、フニャフニャ言いながら胸の谷間に顔を埋めてモジモジしていた。 かわいい奴め。
…まあ、難しいことはよくわからないけど、何かのお役に立てたのならば、幸いです。
『お嬢さんたちに助けてもらった謝礼のつもりだったんじゃが、余った魔石や貴重なポーションまでいただいてしまった上に、こんな新技術の発想までもらえて…。ゼンゴロウさまの時もそうでしたが、稀人さま方は常に我々に恩恵を授けて下さる…。 職人たちなんか、もう忠誠どころかすべてを捧げてついて行きそうな勢いですわ。フォッホッホ』
職人が出奔したら笑いごとじゃないだろうに、里長のお爺さんはあくまで明るい。
「…あのー…、なんか嫌な予感しかしないので、簡略化魔法陣のことはこの里だけの秘密…占有知識にしておいてくださいね?」
なんか、カーバンクルさんたち、世間知らずなインテリ系職人集団みたいな感じで危なっかしい気がしてしまう。 あんなイタチに目を付けられるくらいだから、荒事は苦手なのだろう。 同郷人が気にしていただけに、私も何か守ってあげたいような気がしてきてしまうのだ。 ……ポッチャリ系モフモフハムスター……かわいいし。
『フォッホッホ…。お優しい言葉、ありがたく頂戴しておきます。大丈夫ですじゃ。お嬢さんがいいと言うまでは、誰にも売ったり教えたりなどいたしません。 ゼンゴロウさまの時と同じですじゃ』
何百年も前に、日本の製鉄・鍛造技術を持ち込んだ佐々木さんも、こちらでは知識チート炸裂させていたわけで。現在の武器錬成の祖がカーバンクルの知識…ひいては佐々木さんの鍛冶知識になってるらしい。
その時、知識を得ようとした人間や他種族に攫われたりする者が多くいたため、今の隠者のような穴倉生活が始まったとか。
…うん、通信用の魔石もあるし何かあったら対応できるように、気にしておこう。
そう思ったら、住処の奥に大事にしまわれているだろう精霊刀から ≪かたじけない≫ と短い思念が飛んできた気がした。……サムライかよ?
(その後スマホを確認したら、アプリ名“はりのかがみ”にカーバンクルの里が登録されていたので、いつでも遠隔映像が見られるようになった)
そして、やってきました、第6地点。 精霊の森の西側隣接領地、サザーラント領のとある大通りの端っこでございます。
今まで、人が通る場所だということで避けていた『揺らぎ』ポイントではあったのだが、この度やっと来ることができた。
私は、カーバンクルの里で手に入れた装飾品を全装備し、ものすごくゴージャスな光物に囲まれてジャラジャラした状態でスマホを取り出す。
そして、時々通る獣ヘッドの通行人たちは、こんなに怪しい女が怪しい動きをしているのに全く目に入っていないように素通りしてくれるので、私も気にせずに行動できて大変助かる。
……しかし、なんか気にされないとはいえ、人前に出るのに地味な色合いの簡素なローブ姿でコレってのも落ち着かないな……。
せめて、ローブの色は黒の方がミスリルの銀色には良かったか…?
そんなことを気にする余裕すらあるのだから、作ってもらっといてよかったというものだ。
『主よ、どうだ?』
「うーん、電波一本。…でも、安定してる…かもしれない。いける…かな?」
私は、地上1m程度の高さでゆらゆらと光を乱反射している空間にスマホを寄せてタップした……そういえば、こっちに転移した時、何故か携帯アドレスその他のアプリが消失していたことを思い出した。
「あーっ!……まあ、自宅なら覚えてるけど……」
私の大声にビクッとした2匹には申し訳ない。
そして、横を通って行ったウサギ頭の通行人は、間近で声を聞いていたかもしれないのに、「ん?」と耳をピクピクさせてから左右を見渡し、何事もなかったようにそのまま去って行った。
よしよし、隠密さんがちゃんと仕事してるぞ
と、ブレスレットの効果にほくそ笑みながら電話番号を入力し、通話ボタンを押した瞬間……フゥッとやっぱり『揺らぎ』が消失し、電波が途切れた。
はぁ……またか。 コール音すら出る前なのに…。
『だめだったニャ?』
私の浮かない顔に全てを察したマーリンが、ヒョイっと腕の中に入ってきて下から顔を覗き込む。
あ、隠密のブレスレットはマーリンもタロウも登録してあるので、3人一緒に隠密状態です。
「うん。スマホを近づけて電話番号を入力するまではイケたんだけどね…また消えちゃった…」
『うまくいかないニャ』
そうやって、通信の切れたスマホを握ったまま話していると、ヒュコッとメッセージが入った。
≪…その魔道具を起動すると消失が早まっているのではないか?≫
え? …あ…そう…だった?
そう言われると、そうかもしれない気がする。 そうならば……大きな『揺らぎ』を発見しないと意味がないのではないだろうか?
≪え、だったら、ひとのこがんばれ≫
≪くじけるな、がんばって≫
≪いいぞいいぞ≫
≪私たちの嫌なものが減る。良いこと≫
現金な叱咤激励、ありがとうございます。
そうして精霊さんたちのアドバイスの元、位置情報から小さ目だったり安定しなかったりする『揺らぎ』を外してサーチした結果……
王都のど真ん中、王宮の庭園に一つだけポツンと旗が立っていた。
この旗がそびえ立つ位置を2度見して確認すると、呼び名に“フラグ”とつけるべきなんだろうかと、真顔で思った。
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