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第三章:巻き込まれるのはテンプレですか? ふざけんな
8.森の姫君(笑)、王都へ行く
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あれから数日後、なんやかんやと情報収集して計画立案を終え、とある日の昼下がりに、私たちは王都の上空から目的地周辺を俯瞰していた。
そしてその姿はというと、当然防御力全振りのミスリルを基調としたゴージャス装備を装着しているのだが、衣装はいつものローブよりも少し高級感のある素材の黒いドレスを着用。しかしそのドレスは胸元も露わなノースリーブのロングドレス。その上、体にやたらフィットしたデザインで、左サイドはちょっと足の角度を変えると腿まで露わになるあたりまでスリットが入っているというエロ仕様だった。加えて、その上からテルミ村から貢がれたフワフワの黒い毛皮のロングコートなんて羽織るともう、「どこの悪の組織の女ボスなんだよ?」などとツッコミが入りそうないで立ちである。
異性からの意見として、タロウやマーリンからの感想は良好だったのだが、正直、現在の少々若返ったと思われる容貌からいくとコスプレ感が強い気がしてやっぱり落ち着かない。 ていうか、真昼間のお日様の下で見る姿にしては、どこか場違い感が否めないと、今頃気づく……あれ?
いや、とりあえず王宮なんてハイソな所に行くわけですから、光物に負けないオシャレをしようと思いましてね? メイクも、最近使い方も忘れそうなほどスッピン生活を送っておりましたが、大事にとっておいた、元の世界から持ってきた化粧品を使用しましたとも。
ただ、この世界では引きこもってるので、自分で服も買ったことなかったんですよね?
そんであり合わせの貢物で何とかしようと思ったのですが、村人たちは未だに私にどうあってほしいのかコンセプトが迷子になってる感がありまして……これでもまだマシな方だったんですよ?
どこの風俗嬢なんだよ? みたいなお尻とか胸の谷間とか横乳覗いてるようなキャミワンピとか、逆に若奥様風フリフリエプロンドレスとか…時代掛かった薄々のキトン風ドレスとか……。
いくら誰にも見えていなくても、セレブが集う王宮内でそんな心もとない恰好して、まかり間違って誰かに見られる事になったら、私の黒歴史がまた1ページ…な事態になりかねないよね?
ていうか、そんな姿で人前にいる自分を想像すると、黒ドレスよりもっと落ち着かねぇ!
それに比べたら、この位のドレスなら、友達の結婚式(披露宴)だと思えば……なくはないかと…無理やり思い込んだ節もありますが………。
なんて、作戦実行前には妙齢の女子として葛藤していたこともあったが……今はそんな事よりもと眼下の欧米の古都を彷彿とさせる王都の街並みを眺めながら、みんなで話し合った時のことを思い出していた。
王宮の旗の位置を確認しに行くと決めた時、とりあえず、王都のザックリした地理と、目的地である王宮内の庭園に至るにはどこから侵入したら良いのかなどを、アプリを駆使して確認し、いつ頃決行すると良いのかなどを話し合った。
侵入手段自体は、私の隠密のブレスレットがいい仕事をしてくれそうで、これを使えば警戒厳しい王都の結界も、更に厳重な王宮の結界も、するっと潜り抜けることも可能であるとか。 何せ、誰にも認識されないことを目的に、魔法チートの上位魔獣たちが粋を集めて作ったものなので、一国の王都を守る結界だって騙し切ってしまうチートっぷり。 以前のサザーラント領内へ入るときの結界も、上空から降り立った私たちを感知することはできなかった。 ホント、作ってもらってよかった。
そして、まあ遭遇するような…というか、見つかって捕まることが無いようにと、ここで要注意な人物についても、精霊さん撮影の機密動画を確認しながらサラッと情報を得る。
地図とか要人の映像とか…こんな中世ヨーロッパっぽい文化レベルの街並みで、CIAも真っ青な情報収集能力持ってる1個人とか、あり得ないんだろうなとは自覚しているが、そういうことを言い出すと話が進まないので、精霊チートスゲーってお話は割愛。 精霊さんがすごいことなんて、私の中では揺るぎない常識なのだ。
王都に着く→周辺を見回って、庭園へ至る最先端のルートを探る→『揺らぎ』確認→電話チャレンジ→転移石にて撤収
こういう流れでサクッと終わらせる計画でいく予定である。
途中でトラブルになっても、仲間を回収して即撤収。
目的確認前だったら、後日ほとぼりが冷めてから再度トライという、大変シンプルな計画である。
何事も、シンプル イズ ベストが望ましい。
………しかし、こっそり忍び込むなどと話し合っていると、なんていうか、某3人姉妹の猫目怪盗を思い出す……。いや、ウィゲッチュというよりも、むしろシチュエーション的にはやっぱりカリオストロ的なお城のそれだろうか…? 別に父の遺作とかお宝とかお姫様の心とかなんて、いらないけれども。
閑話休題。
家から王都までの道のりは、最速でも王都の竜騎士なんかが使う飛竜だと丸1日程かかるそうだが、空間を縮地しながら早駆けできるタロウの足なら、半日もしないで到着も可能とか。
「へー、手っ取り早くていいね」
そんなことを言って、いつもの散歩と同じような、軽い気持ちで乗せてもらおうとした私がバカでした。
『主と散歩! 遠くまで散歩!』
と、大はしゃぎしたワンコがテンションパーン状態で駆け抜けたので、マーリンを上着の胸元に入れた状態でその背に跨っていた私は、悲鳴も出ないようなハイスピードの風圧にさらされた状態で吹き飛ばされそうになっており、
『ご主人、しっかりするニャ!』
と叱咤するマーリンの声を聞きながら意識を失っていた。 そして、気が付くと何もない原っぱの真ん中、どちらかが敷いた布の上で寝転がされており、その傍らで大きな図体をした狼姿のタロウが、家猫姿のマーリンにガミガミと叱られながら、小さくなってシュンとしていた。 シュールだわ。
…そんなやり取りもありましたが、その後は安全運転を心がけてもらったおかげで、思ったよりも早く、そして快適に王都に到達できたわけで。
そして話は冒頭に戻り、私はポーションをグビッと煽りながら、足元から遥か下方の王宮全体を見渡していた。
いや、さすがにあのままじゃ体力もたないですから…。
ミッションインポッシブルにしないためにも、最低限の体力は回復しておくに限る。
私はそう思いながら、上空で滞空しているタロウの背に横座りし、上着の中からひょっこり顔を出しているマーリンと共に、スマホの地図を確認する。
『ご主人、この下が目的地の庭園ニャ』
そう言ってマーリンが猫手を指した位置を地図で確認すると、その庭園の端っこの上部にクッキリとした紫色の旗が立っていた。
『じゃあ、一旦地面に降り立ったら、タロウは私の影に入って、マーリンはそのまま行くよ』
隠密のブレスレットは、使用者の装備全般だけでなく身体が密着している相手も同様にその効果の範囲内に収めるため、タロウに座って密着した状態で結界を潜り抜け、地面について影ができた瞬間に私の影に潜ればそのまま隠れることができる。そして、マーリンは私の腕の中にいれば大丈夫。抱っこしたマーリンには気配察知と護衛、『揺らぎ』が空中にあった時に飛ばせてもらうための魔法を任せているのだ。
そして、下方に降り立とうと下降していく時、一瞬するりと何かを潜り抜けた感触がしたものの、何の障害もなく目的地へ降り立ったと同時に、タロウは私の影に消えた。
しがみついていた大きな温もりが消え、腕の中の小さな温もりを感じながら周りを見渡すと、そこは、どこかのテーマパークか観光地のフラワーガーデンを思わせるような、華やかな庭園であると同時に、どこかホッとするような色調の草花が計算された配置で植えられているような、見事な庭園だった。 こんな状況でもなければここでピクニックでもしたい気分になる。
ここは地図上では庭園とだけ記載されていたのだが、実は王族専用のロイヤルガーデンであるため、観光客などいるはずもなく、サヤサヤと風が木々や草花を揺らす音だけが響いているほど静かだった。 そして、パッと見た感じは、誰もいないようだったので、私は家猫サイズのマーリンを抱っこしながら空間の『揺らぎ』を見つけようと、ゆっくりと周りを見渡して………自分の3メートル程前の空間にそれが存在していることを確認し、ホッとしながら近づいていくと、更にその数メートル先の木陰のベンチに、誰かが寝転んでいるのを見つけ、ドキっとして声を上げそうになったが、咄嗟に口を押さえて必死に堪えた。…多分、多少声を出しても大丈夫だったろうけど、思わず押さえないといけない気分になるのだ
誰もいないと思っていたところに、突然人が現れたと思うと、大体の人がビックリすると思う。
ドキドキと鼓動が逸るのを感じながら、そっとベンチで寝転ぶその人物を見ると、それが事前の情報収集で確認した人物である気がして、少し近づいて確認してみることにした。
“ご主人……こいつ、第二王子ニャ”
耳のピアスから、マーリンの念話が聞こえてくる。ナイショの話にはもってこいの通信魔道具で通話が可能になっているのである。いくら隠密のブレスレットで音声も制限されているとはいえ、敏感な存在がいないわけではない。実際に、サザーラント領のウサギの獣人は、近くで叫ぶ私の声に違和感を感じる程度には察知することができていた。なので、用心のために念話で話すことに異論はない。
このピンクゴールドの派手でクセのある、長めでフサフサとした髪…ライオンのような猫科の丸い耳……そして、彫りの深い人間の顔…間違えようもない。
うわ…のっけから、面倒くさそうな…… 思わず内心でそうつぶやく。
その体躯は猫系肉食獣のようにしなやかな印象がありながら、仰向けになって呼吸で上下する胸板はそれなりに逞しく鍛え上げられているようであった。しかし、あまり日に焼けた感じが見られず白い肌をしており、顔だちも彫りが深くて欧米のモデルの様に端正な顔貌をしている。寝ている印象は、少し吊り上がった目元のせいか、真面目で神経質そうな20代半ばの賢そうなイケメン。 …起きればもう少し違う印象になるだろうか?
女子として、ここは滅多にお目にかかることができないレベルのイケメンに見とれるところなのかもしれないが、生憎今はそれどころではないため、ついつい内心とはいえ、正直な感想が出てしまう。
今はもっと大事なことを控えているため、関わって面倒なことにしかならなさそうなイケメンはお呼びではないのだ。
さっさと目的を果たそうと思い、寝そべる青年から視線を逸らすと、そのベンチの足元に小さな動物が丸くなって寝ているのが目に入った。
ん? 茶色い子犬?
ふと、視線を惹かれて、その小さな茶色い塊を見ていると、タロウから念話が入った。
“……弟だ”
「えっ!?」
思わず大きな声を上げてしまい、慌てて口を押さえると、その茶色い子犬は丸まって眠りながら、その三角の耳をピクピクと動かした。
そしてその姿はというと、当然防御力全振りのミスリルを基調としたゴージャス装備を装着しているのだが、衣装はいつものローブよりも少し高級感のある素材の黒いドレスを着用。しかしそのドレスは胸元も露わなノースリーブのロングドレス。その上、体にやたらフィットしたデザインで、左サイドはちょっと足の角度を変えると腿まで露わになるあたりまでスリットが入っているというエロ仕様だった。加えて、その上からテルミ村から貢がれたフワフワの黒い毛皮のロングコートなんて羽織るともう、「どこの悪の組織の女ボスなんだよ?」などとツッコミが入りそうないで立ちである。
異性からの意見として、タロウやマーリンからの感想は良好だったのだが、正直、現在の少々若返ったと思われる容貌からいくとコスプレ感が強い気がしてやっぱり落ち着かない。 ていうか、真昼間のお日様の下で見る姿にしては、どこか場違い感が否めないと、今頃気づく……あれ?
いや、とりあえず王宮なんてハイソな所に行くわけですから、光物に負けないオシャレをしようと思いましてね? メイクも、最近使い方も忘れそうなほどスッピン生活を送っておりましたが、大事にとっておいた、元の世界から持ってきた化粧品を使用しましたとも。
ただ、この世界では引きこもってるので、自分で服も買ったことなかったんですよね?
そんであり合わせの貢物で何とかしようと思ったのですが、村人たちは未だに私にどうあってほしいのかコンセプトが迷子になってる感がありまして……これでもまだマシな方だったんですよ?
どこの風俗嬢なんだよ? みたいなお尻とか胸の谷間とか横乳覗いてるようなキャミワンピとか、逆に若奥様風フリフリエプロンドレスとか…時代掛かった薄々のキトン風ドレスとか……。
いくら誰にも見えていなくても、セレブが集う王宮内でそんな心もとない恰好して、まかり間違って誰かに見られる事になったら、私の黒歴史がまた1ページ…な事態になりかねないよね?
ていうか、そんな姿で人前にいる自分を想像すると、黒ドレスよりもっと落ち着かねぇ!
それに比べたら、この位のドレスなら、友達の結婚式(披露宴)だと思えば……なくはないかと…無理やり思い込んだ節もありますが………。
なんて、作戦実行前には妙齢の女子として葛藤していたこともあったが……今はそんな事よりもと眼下の欧米の古都を彷彿とさせる王都の街並みを眺めながら、みんなで話し合った時のことを思い出していた。
王宮の旗の位置を確認しに行くと決めた時、とりあえず、王都のザックリした地理と、目的地である王宮内の庭園に至るにはどこから侵入したら良いのかなどを、アプリを駆使して確認し、いつ頃決行すると良いのかなどを話し合った。
侵入手段自体は、私の隠密のブレスレットがいい仕事をしてくれそうで、これを使えば警戒厳しい王都の結界も、更に厳重な王宮の結界も、するっと潜り抜けることも可能であるとか。 何せ、誰にも認識されないことを目的に、魔法チートの上位魔獣たちが粋を集めて作ったものなので、一国の王都を守る結界だって騙し切ってしまうチートっぷり。 以前のサザーラント領内へ入るときの結界も、上空から降り立った私たちを感知することはできなかった。 ホント、作ってもらってよかった。
そして、まあ遭遇するような…というか、見つかって捕まることが無いようにと、ここで要注意な人物についても、精霊さん撮影の機密動画を確認しながらサラッと情報を得る。
地図とか要人の映像とか…こんな中世ヨーロッパっぽい文化レベルの街並みで、CIAも真っ青な情報収集能力持ってる1個人とか、あり得ないんだろうなとは自覚しているが、そういうことを言い出すと話が進まないので、精霊チートスゲーってお話は割愛。 精霊さんがすごいことなんて、私の中では揺るぎない常識なのだ。
王都に着く→周辺を見回って、庭園へ至る最先端のルートを探る→『揺らぎ』確認→電話チャレンジ→転移石にて撤収
こういう流れでサクッと終わらせる計画でいく予定である。
途中でトラブルになっても、仲間を回収して即撤収。
目的確認前だったら、後日ほとぼりが冷めてから再度トライという、大変シンプルな計画である。
何事も、シンプル イズ ベストが望ましい。
………しかし、こっそり忍び込むなどと話し合っていると、なんていうか、某3人姉妹の猫目怪盗を思い出す……。いや、ウィゲッチュというよりも、むしろシチュエーション的にはやっぱりカリオストロ的なお城のそれだろうか…? 別に父の遺作とかお宝とかお姫様の心とかなんて、いらないけれども。
閑話休題。
家から王都までの道のりは、最速でも王都の竜騎士なんかが使う飛竜だと丸1日程かかるそうだが、空間を縮地しながら早駆けできるタロウの足なら、半日もしないで到着も可能とか。
「へー、手っ取り早くていいね」
そんなことを言って、いつもの散歩と同じような、軽い気持ちで乗せてもらおうとした私がバカでした。
『主と散歩! 遠くまで散歩!』
と、大はしゃぎしたワンコがテンションパーン状態で駆け抜けたので、マーリンを上着の胸元に入れた状態でその背に跨っていた私は、悲鳴も出ないようなハイスピードの風圧にさらされた状態で吹き飛ばされそうになっており、
『ご主人、しっかりするニャ!』
と叱咤するマーリンの声を聞きながら意識を失っていた。 そして、気が付くと何もない原っぱの真ん中、どちらかが敷いた布の上で寝転がされており、その傍らで大きな図体をした狼姿のタロウが、家猫姿のマーリンにガミガミと叱られながら、小さくなってシュンとしていた。 シュールだわ。
…そんなやり取りもありましたが、その後は安全運転を心がけてもらったおかげで、思ったよりも早く、そして快適に王都に到達できたわけで。
そして話は冒頭に戻り、私はポーションをグビッと煽りながら、足元から遥か下方の王宮全体を見渡していた。
いや、さすがにあのままじゃ体力もたないですから…。
ミッションインポッシブルにしないためにも、最低限の体力は回復しておくに限る。
私はそう思いながら、上空で滞空しているタロウの背に横座りし、上着の中からひょっこり顔を出しているマーリンと共に、スマホの地図を確認する。
『ご主人、この下が目的地の庭園ニャ』
そう言ってマーリンが猫手を指した位置を地図で確認すると、その庭園の端っこの上部にクッキリとした紫色の旗が立っていた。
『じゃあ、一旦地面に降り立ったら、タロウは私の影に入って、マーリンはそのまま行くよ』
隠密のブレスレットは、使用者の装備全般だけでなく身体が密着している相手も同様にその効果の範囲内に収めるため、タロウに座って密着した状態で結界を潜り抜け、地面について影ができた瞬間に私の影に潜ればそのまま隠れることができる。そして、マーリンは私の腕の中にいれば大丈夫。抱っこしたマーリンには気配察知と護衛、『揺らぎ』が空中にあった時に飛ばせてもらうための魔法を任せているのだ。
そして、下方に降り立とうと下降していく時、一瞬するりと何かを潜り抜けた感触がしたものの、何の障害もなく目的地へ降り立ったと同時に、タロウは私の影に消えた。
しがみついていた大きな温もりが消え、腕の中の小さな温もりを感じながら周りを見渡すと、そこは、どこかのテーマパークか観光地のフラワーガーデンを思わせるような、華やかな庭園であると同時に、どこかホッとするような色調の草花が計算された配置で植えられているような、見事な庭園だった。 こんな状況でもなければここでピクニックでもしたい気分になる。
ここは地図上では庭園とだけ記載されていたのだが、実は王族専用のロイヤルガーデンであるため、観光客などいるはずもなく、サヤサヤと風が木々や草花を揺らす音だけが響いているほど静かだった。 そして、パッと見た感じは、誰もいないようだったので、私は家猫サイズのマーリンを抱っこしながら空間の『揺らぎ』を見つけようと、ゆっくりと周りを見渡して………自分の3メートル程前の空間にそれが存在していることを確認し、ホッとしながら近づいていくと、更にその数メートル先の木陰のベンチに、誰かが寝転んでいるのを見つけ、ドキっとして声を上げそうになったが、咄嗟に口を押さえて必死に堪えた。…多分、多少声を出しても大丈夫だったろうけど、思わず押さえないといけない気分になるのだ
誰もいないと思っていたところに、突然人が現れたと思うと、大体の人がビックリすると思う。
ドキドキと鼓動が逸るのを感じながら、そっとベンチで寝転ぶその人物を見ると、それが事前の情報収集で確認した人物である気がして、少し近づいて確認してみることにした。
“ご主人……こいつ、第二王子ニャ”
耳のピアスから、マーリンの念話が聞こえてくる。ナイショの話にはもってこいの通信魔道具で通話が可能になっているのである。いくら隠密のブレスレットで音声も制限されているとはいえ、敏感な存在がいないわけではない。実際に、サザーラント領のウサギの獣人は、近くで叫ぶ私の声に違和感を感じる程度には察知することができていた。なので、用心のために念話で話すことに異論はない。
このピンクゴールドの派手でクセのある、長めでフサフサとした髪…ライオンのような猫科の丸い耳……そして、彫りの深い人間の顔…間違えようもない。
うわ…のっけから、面倒くさそうな…… 思わず内心でそうつぶやく。
その体躯は猫系肉食獣のようにしなやかな印象がありながら、仰向けになって呼吸で上下する胸板はそれなりに逞しく鍛え上げられているようであった。しかし、あまり日に焼けた感じが見られず白い肌をしており、顔だちも彫りが深くて欧米のモデルの様に端正な顔貌をしている。寝ている印象は、少し吊り上がった目元のせいか、真面目で神経質そうな20代半ばの賢そうなイケメン。 …起きればもう少し違う印象になるだろうか?
女子として、ここは滅多にお目にかかることができないレベルのイケメンに見とれるところなのかもしれないが、生憎今はそれどころではないため、ついつい内心とはいえ、正直な感想が出てしまう。
今はもっと大事なことを控えているため、関わって面倒なことにしかならなさそうなイケメンはお呼びではないのだ。
さっさと目的を果たそうと思い、寝そべる青年から視線を逸らすと、そのベンチの足元に小さな動物が丸くなって寝ているのが目に入った。
ん? 茶色い子犬?
ふと、視線を惹かれて、その小さな茶色い塊を見ていると、タロウから念話が入った。
“……弟だ”
「えっ!?」
思わず大きな声を上げてしまい、慌てて口を押さえると、その茶色い子犬は丸まって眠りながら、その三角の耳をピクピクと動かした。
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