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第三章:巻き込まれるのはテンプレですか? ふざけんな
9.森の姫君(笑)、リア充爆発しろと思う
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隠密のブレスレットの効果も霞ませる程の音量だったのか、他に要因があったのか、茶色い子犬は耳をピクピクと動かしていたが、すぐにそのまま身動きもせず、再び眠ってしまったようだった。
“ちょ、ちょっと、弟って……どういう…”
傍にいることを気づかれないよう、息を殺して見守っていた私は、子犬が再び寝入ったことを確認すると、慌ててタロウのピアスとつながっている、右耳のピアスに指をあてて尋ねた。
“どういうも何も、昔共に過ごしたことがある兄弟だというだけだ。数十年前に生みの親が死んだとき、我々は離散しているので、互いが再会することもなかった。同族の匂いと魔力の気配でそうと分かったが……体も成長することができず、こんな所で飼われていたとはな”
影に潜んでいるため様子は窺えないが、その語りは淡々としており、元々あまり抑揚のある話し方をする方ではないが、殊更何の感情も浮かんでいるようには思えない程ドライな口調だった。
“そんなもんなの?”
“そんなものだ。親元を離れれば我々は一個の存在となる。序列ができれば群れとなることもあるが、長く離れていれば、お互い関わることもない”
魔獣としての家族観がそういうものなんだろう、タロウはあくまで一般論として淡々と語っているが…
私は、ベンチの傍らでスヤスヤと眠っている子犬を見つめ、家族とのつながりを求めて奔走している自分を顧みると、なんとなくやるせない気持ちになった。
小さな身体を丸めて顔を前足の間に顔を埋めているため、子犬の顔は良く見えないが、茶色い毛並みはフワフワとしていて、出会った頃の子犬姿のタロウの面影を感じた。 ―――いや、初めてお風呂に入れた後からか、フワフワの毛並みになったのは―――出会った頃は毛皮も薄汚れていてきったない灰色だったことを考えると、さすが王宮、ここではちゃんと身ぎれいにしてもらえているのだろう。
…しかし、その体をよく見ると、背中や後ろ脚の付け根などのフワフワとした毛並みの隙間から、大きな古傷のようなものが目に入る。
“でも…この子も、結構大変だったみたいだよ”
危険な獣ばかりが生息する森で、庇護者が現れるまでの間子犬がたった一人で生きて来た境遇に思いを馳せ、しんみりとした気持ちでタロウに話しかけようとした時、子犬が急にビクッと体を震わせ、顔をこちらに向けてきた。 その顔はまるで豆柴のようにフサフサとした毛並みの和犬の様であり、毛足の長いハイイロオオカミみたいな外見のタロウに似てはいなかったが、その額の真ん中や喉のあたりにも大きな爪痕のような古傷があった。
え、何? 私の事見てる…?
急にこちらに顔を向けて凝視してくるので、存在がバレたのだろうかと思ってドキドキしていると、
“ご主人、誰か来るニャ”
と、マーリンが警戒した様子で私の肩越しに首を後ろに覗かせた。
尻尾をピンと立てて警戒しながら子犬が首をもたげて見ているのは私ではなく、その斜め後ろの方であったらしい。
よかった……気づかれたわけじゃなかったんだ。
内心、ホッとしながら胸をなでおろしていると、傍の生垣の影からガサッと微かな音がしたので、思わずそちらへ目を向けようとした時……ドンっとした軽い衝撃が私を襲った。
“ご主人!?……まぁ、大丈夫ニャ”
どうやら、私は魔法による攻撃を受けたらしい。 マーリンは一瞬、私が攻撃されたことに衝撃を受けていたが、すぐに魔道具のチート加減を思い出して気を取り直した。 その辺の獣人魔導師の魔法攻撃程度では、防御力を全振りした、私のチート魔道具の護りを破れるような威力があるはずもないらしい。
「何……?」
しかし、驚愕したのは、攻撃してきた方のこと。 恐らく、このベンチで寝転がってる王子様に、必殺の一撃を見舞ったつもりだっただろうに、何故か目的に着弾せず、その手前で急に何かにぶち当たったように霧散したのだ。そら、ビックリしますよね。
まぁ、何かって、不可視状態の私ですけれども。
……すみません、邪魔するつもりないんで、勝手にやって下さい…
そう思いながら、生垣の影からガサガサと、暗殺者らしき人が垣間見え、何故か謝ってしまう私である。
ここで当然、命を狙われている人を見殺しにするとか、それって、人道的にどうなんだ? などと仰る方もいらっしゃると思いますが、そのような意見は却下します。私は別に、ここで体を張って、王宮の陰謀やら権力闘争やらのごたごたに巻き込まれるつもりはないのだから。
大体部外者すぎて、お互いの言い分とかわかんないし、そもそも私は目的があって来ているので邪魔されたくないのだ。
そう思って、元々の目的であった『揺らぎ』の空間を振り返ると………遠くから「ご無事ですか王子っ!」などと叫ぶ騎士のような獣人たちが駆けつけてくるわ、イケメン第2王子さまはすっかり起きだしており、ここで見つかったら斬り捨てられそうな程の殺気を湛えつつ、長剣を構えて臨戦態勢だわ、ワンコは『グルㇽ』と小さな牙を剥いて唸ってるわで、とても家族に電話トライするような状況ではなくなってしまった。
こうなってしまっては、ここは勇気ある撤退が望ましい。電話中に双方から謎の空間(私)に向かって集中攻撃とかされるのは勘弁してほしい。
“”………撤収しよっか……“”
そう念話で2匹に言葉を送ると、私は深くため息をついて転移の腕輪を起動させた。
タイミングが悪すぎたんだよね。
そう結論付けて、再度ロイヤルガーデンを訪れた我々であるが………なんでまたいるかなぁ、この人。
昨日発見したポイントに着くと、やっぱり木陰のベンチでは第2王子がお昼寝タイムを満喫中であった。足元にはやっぱり、タロウの弟であるらしい茶色い豆柴くんが、前回と同じように丸まって眠っている。
暇なの? 王子さまって暇なの? いいわねぇ、悠々自適なセレブ生活。
その余裕ありますって感じの寝姿に思わず、下層民の僻みがチラリと覗いてしまうわけであるが……いや、引きこもりの隠者生活に勝る自由はないだろうって言うの、やめてくださいね? マジで刺さるから。
“ご主人、気にしないでやるニャ”
そう声をかけられ、ハッと我に返った私は気を取り直して、再びクシャクシャにしたセロハンを張り付けたように玉虫色に光を反射している『揺らぎ』に向き直った。
…しかし、やっぱりこの空間に突如現れるという特異点は、人の目には見え難いらしい。 私の目にはこのように映っているのだが、昨日の襲撃者も、襲われた王子たちや騎士たちも、このおかしな現象を気にしている様子が全くなく、普通にドンパチしていたのだから。 目撃者が少ないレア現象だと思われているのは、それも原因の内なんだろう。
そんなことを考えながら、私はコートのポケットからスマホを取り出し、『揺らぎ』の近くに翳して画面を確認した。…すると、ネットワークアイコンの電波アンテナがキッチリ3本立っているではないか!!
「やっ……」 ……やったーーーっ
喜びのあまり思わず叫びそうになったが、私は咄嗟に心の絶叫に切り替えた。 いえぇーーーいっ!
“”やった! 電波ビンビンだよ!!“”
その喜びを分かち合おうと、念話でも叫ぶ私だったが、2匹からは“………欲求不満?”と、失礼な返答が返ってきた。
“”では、これから電話トライ始めます!“”
そう宣言して、自宅の番号をタップしようとした、その時だった。
「クリスティアンさまぁ~…こちらにいらしたのですね? 探してしまいましたわ」
と、後方から女性の高い声が聞こえて来て、一瞬手が止まった。…しかし、「関係ない、気にしないで続けよう」と思い、再びナンバープッシュ画面に向き合い…
「ああ、シャルロッテ嬢。 見つかってしまったな」
ムクリと起きだしたクリスティアン王子が、少し困ったような声色で応じている気配を背中に感じた。
すると、小走りで人が近づいてくる気配があり、私はスマホをタップしようと人差し指を掲げたまま動けなくなった。
「あぁん、こんなにお探ししましたのに。いつも職場に詰めてばかりでいらして、滅多にこちらにおいでにならないのですもの。 私、寂しかったですわ」
「それは申し訳ない。あちらで好きなことばかりしていると、ついつい王宮から足が遠のいてしまいます。シャルロッテ嬢のような美しい方に探してもらえていると知っていたら、もう少し帰ってくるべきだったかな?」
「まぁ美しいだなんて…誰にでもおっしゃっているのでしょう?」
多分、シャルロッテ嬢はクネクネと体を揺すりながら、つぶらな瞳をパチパチと瞬いて見上げているのだろう。…背中越しの気配からの想像ですが。
こいつら、早くいなくならないかな~
と、若干苛つき始めたその時、縦に抱っこされたスタイルで私の肩越しに背後を見ていたマーリンが
“……また誰かきたニャ……”
と、呆れた口調でつぶやいた。 すると、ややあって複数の足音がカサカサと短く整えられた芝生を踏んで近寄ってくる音が聞こえて来た。
「クリスティアン王子さまぁん。お会いしたかったですわぁ」
「私もですわ。お美しい王子様にお会いできて、精霊様にお礼申し上げたい気分ですわ」
更に2名程の若い女性の声がしてくるが、この二人、いや、シャルロッテ嬢も含めて3人か……絶対普段より2トーン位高めの声なんだろうなと想像がつく。
「まぁまぁ、あなた方、そんなに殿方にすり寄って行くなんて、品がないのではなくて?」
すると、不機嫌さをにじませたシャルロッテ嬢の声が二人に向かって放たれた。しかし、相手も黙っていない。
「シャルロッテ様だって、そんなにしなだれかかって、はしたないですわ」
「そうですわ。お一人でなんて、抜け駆けですわよ」
なんだ、こいつら。親衛隊か? どうでもいいから消えろ。 …段々苛つきが増して来た。
「おやおや、このような美しい方々に囲まれてしまうと、どこに目を向けようか迷ってしまう。あなた方の美しさに目もくらんでしまう気持ちですよ。 今日のドレスも皆さんの魅力を引き出す、可愛らしいものだ」
割と適当なこと言ってるなと思ったが…、お美しいですか、そうですか。 先程肩越しにチラリとみた感じ、ドレス姿のウサギとリスと猫の小動物系着ぐるみ女子に囲まれて、新手のシルバニアファミリーか? という風にしか見えなかったのだが……ああ、私の感性の方が異常なんでしたね。そうですね。 いいから消えろ。
そして、社交辞令なのか、本気で言っているかはわからないが、王子は随分場慣れしているようで、このような見かけはリアルに草食系でありながら、全員中身は肉食系女子に囲まれても、全く動揺した様子もなく、落ち着いて対応している。 そして、茶色の子犬はその傍らで警戒した様に立ち上がって『ウウゥゥ』と小さく唸っていたが、女子たちは目もくれない。
「「「きゃっ、美しいなんて」」」
…きっと、三者三様、頬を染めて上目遣いでロックオンしながら嬉しそうにクネクネしてんだろうな…顔色とかわからんけど…
猛禽系女子の生態なんて、容易く想像がつくのだが………私は一体ここで何をやっているのだろう……
私はふと、高校生時代、教室の真ん中でリア充イケメンとそれに群がるギャルたちの集いの傍らで、「その席、私の……」と言えずにもごもごしていた過去を思い出してしょっぱい気持ちになった。
しかしこいつら…、全然去って行く様子が見えない。
リア充の祭典? 人気アイドルのファンミーティング? みたいな集いの横で、ただひたすら電話をするタイミングを窺っていると、大変虚しくなってくる。 というか、こんなキャッキャウフフしている横で電話して、私の声だけでなく、こいつらの音声があっちにも聞こえてしまったら、大変辛いことになるのが想像できる。
“…………帰ろうか……”
パトラッシュ…僕はもう、疲れたよ…… そんな気分で念話を送ると、
“”……了解“”
と、全てを察した仲間たちが神妙に頷いた気配を感じた。
“ちょ、ちょっと、弟って……どういう…”
傍にいることを気づかれないよう、息を殺して見守っていた私は、子犬が再び寝入ったことを確認すると、慌ててタロウのピアスとつながっている、右耳のピアスに指をあてて尋ねた。
“どういうも何も、昔共に過ごしたことがある兄弟だというだけだ。数十年前に生みの親が死んだとき、我々は離散しているので、互いが再会することもなかった。同族の匂いと魔力の気配でそうと分かったが……体も成長することができず、こんな所で飼われていたとはな”
影に潜んでいるため様子は窺えないが、その語りは淡々としており、元々あまり抑揚のある話し方をする方ではないが、殊更何の感情も浮かんでいるようには思えない程ドライな口調だった。
“そんなもんなの?”
“そんなものだ。親元を離れれば我々は一個の存在となる。序列ができれば群れとなることもあるが、長く離れていれば、お互い関わることもない”
魔獣としての家族観がそういうものなんだろう、タロウはあくまで一般論として淡々と語っているが…
私は、ベンチの傍らでスヤスヤと眠っている子犬を見つめ、家族とのつながりを求めて奔走している自分を顧みると、なんとなくやるせない気持ちになった。
小さな身体を丸めて顔を前足の間に顔を埋めているため、子犬の顔は良く見えないが、茶色い毛並みはフワフワとしていて、出会った頃の子犬姿のタロウの面影を感じた。 ―――いや、初めてお風呂に入れた後からか、フワフワの毛並みになったのは―――出会った頃は毛皮も薄汚れていてきったない灰色だったことを考えると、さすが王宮、ここではちゃんと身ぎれいにしてもらえているのだろう。
…しかし、その体をよく見ると、背中や後ろ脚の付け根などのフワフワとした毛並みの隙間から、大きな古傷のようなものが目に入る。
“でも…この子も、結構大変だったみたいだよ”
危険な獣ばかりが生息する森で、庇護者が現れるまでの間子犬がたった一人で生きて来た境遇に思いを馳せ、しんみりとした気持ちでタロウに話しかけようとした時、子犬が急にビクッと体を震わせ、顔をこちらに向けてきた。 その顔はまるで豆柴のようにフサフサとした毛並みの和犬の様であり、毛足の長いハイイロオオカミみたいな外見のタロウに似てはいなかったが、その額の真ん中や喉のあたりにも大きな爪痕のような古傷があった。
え、何? 私の事見てる…?
急にこちらに顔を向けて凝視してくるので、存在がバレたのだろうかと思ってドキドキしていると、
“ご主人、誰か来るニャ”
と、マーリンが警戒した様子で私の肩越しに首を後ろに覗かせた。
尻尾をピンと立てて警戒しながら子犬が首をもたげて見ているのは私ではなく、その斜め後ろの方であったらしい。
よかった……気づかれたわけじゃなかったんだ。
内心、ホッとしながら胸をなでおろしていると、傍の生垣の影からガサッと微かな音がしたので、思わずそちらへ目を向けようとした時……ドンっとした軽い衝撃が私を襲った。
“ご主人!?……まぁ、大丈夫ニャ”
どうやら、私は魔法による攻撃を受けたらしい。 マーリンは一瞬、私が攻撃されたことに衝撃を受けていたが、すぐに魔道具のチート加減を思い出して気を取り直した。 その辺の獣人魔導師の魔法攻撃程度では、防御力を全振りした、私のチート魔道具の護りを破れるような威力があるはずもないらしい。
「何……?」
しかし、驚愕したのは、攻撃してきた方のこと。 恐らく、このベンチで寝転がってる王子様に、必殺の一撃を見舞ったつもりだっただろうに、何故か目的に着弾せず、その手前で急に何かにぶち当たったように霧散したのだ。そら、ビックリしますよね。
まぁ、何かって、不可視状態の私ですけれども。
……すみません、邪魔するつもりないんで、勝手にやって下さい…
そう思いながら、生垣の影からガサガサと、暗殺者らしき人が垣間見え、何故か謝ってしまう私である。
ここで当然、命を狙われている人を見殺しにするとか、それって、人道的にどうなんだ? などと仰る方もいらっしゃると思いますが、そのような意見は却下します。私は別に、ここで体を張って、王宮の陰謀やら権力闘争やらのごたごたに巻き込まれるつもりはないのだから。
大体部外者すぎて、お互いの言い分とかわかんないし、そもそも私は目的があって来ているので邪魔されたくないのだ。
そう思って、元々の目的であった『揺らぎ』の空間を振り返ると………遠くから「ご無事ですか王子っ!」などと叫ぶ騎士のような獣人たちが駆けつけてくるわ、イケメン第2王子さまはすっかり起きだしており、ここで見つかったら斬り捨てられそうな程の殺気を湛えつつ、長剣を構えて臨戦態勢だわ、ワンコは『グルㇽ』と小さな牙を剥いて唸ってるわで、とても家族に電話トライするような状況ではなくなってしまった。
こうなってしまっては、ここは勇気ある撤退が望ましい。電話中に双方から謎の空間(私)に向かって集中攻撃とかされるのは勘弁してほしい。
“”………撤収しよっか……“”
そう念話で2匹に言葉を送ると、私は深くため息をついて転移の腕輪を起動させた。
タイミングが悪すぎたんだよね。
そう結論付けて、再度ロイヤルガーデンを訪れた我々であるが………なんでまたいるかなぁ、この人。
昨日発見したポイントに着くと、やっぱり木陰のベンチでは第2王子がお昼寝タイムを満喫中であった。足元にはやっぱり、タロウの弟であるらしい茶色い豆柴くんが、前回と同じように丸まって眠っている。
暇なの? 王子さまって暇なの? いいわねぇ、悠々自適なセレブ生活。
その余裕ありますって感じの寝姿に思わず、下層民の僻みがチラリと覗いてしまうわけであるが……いや、引きこもりの隠者生活に勝る自由はないだろうって言うの、やめてくださいね? マジで刺さるから。
“ご主人、気にしないでやるニャ”
そう声をかけられ、ハッと我に返った私は気を取り直して、再びクシャクシャにしたセロハンを張り付けたように玉虫色に光を反射している『揺らぎ』に向き直った。
…しかし、やっぱりこの空間に突如現れるという特異点は、人の目には見え難いらしい。 私の目にはこのように映っているのだが、昨日の襲撃者も、襲われた王子たちや騎士たちも、このおかしな現象を気にしている様子が全くなく、普通にドンパチしていたのだから。 目撃者が少ないレア現象だと思われているのは、それも原因の内なんだろう。
そんなことを考えながら、私はコートのポケットからスマホを取り出し、『揺らぎ』の近くに翳して画面を確認した。…すると、ネットワークアイコンの電波アンテナがキッチリ3本立っているではないか!!
「やっ……」 ……やったーーーっ
喜びのあまり思わず叫びそうになったが、私は咄嗟に心の絶叫に切り替えた。 いえぇーーーいっ!
“”やった! 電波ビンビンだよ!!“”
その喜びを分かち合おうと、念話でも叫ぶ私だったが、2匹からは“………欲求不満?”と、失礼な返答が返ってきた。
“”では、これから電話トライ始めます!“”
そう宣言して、自宅の番号をタップしようとした、その時だった。
「クリスティアンさまぁ~…こちらにいらしたのですね? 探してしまいましたわ」
と、後方から女性の高い声が聞こえて来て、一瞬手が止まった。…しかし、「関係ない、気にしないで続けよう」と思い、再びナンバープッシュ画面に向き合い…
「ああ、シャルロッテ嬢。 見つかってしまったな」
ムクリと起きだしたクリスティアン王子が、少し困ったような声色で応じている気配を背中に感じた。
すると、小走りで人が近づいてくる気配があり、私はスマホをタップしようと人差し指を掲げたまま動けなくなった。
「あぁん、こんなにお探ししましたのに。いつも職場に詰めてばかりでいらして、滅多にこちらにおいでにならないのですもの。 私、寂しかったですわ」
「それは申し訳ない。あちらで好きなことばかりしていると、ついつい王宮から足が遠のいてしまいます。シャルロッテ嬢のような美しい方に探してもらえていると知っていたら、もう少し帰ってくるべきだったかな?」
「まぁ美しいだなんて…誰にでもおっしゃっているのでしょう?」
多分、シャルロッテ嬢はクネクネと体を揺すりながら、つぶらな瞳をパチパチと瞬いて見上げているのだろう。…背中越しの気配からの想像ですが。
こいつら、早くいなくならないかな~
と、若干苛つき始めたその時、縦に抱っこされたスタイルで私の肩越しに背後を見ていたマーリンが
“……また誰かきたニャ……”
と、呆れた口調でつぶやいた。 すると、ややあって複数の足音がカサカサと短く整えられた芝生を踏んで近寄ってくる音が聞こえて来た。
「クリスティアン王子さまぁん。お会いしたかったですわぁ」
「私もですわ。お美しい王子様にお会いできて、精霊様にお礼申し上げたい気分ですわ」
更に2名程の若い女性の声がしてくるが、この二人、いや、シャルロッテ嬢も含めて3人か……絶対普段より2トーン位高めの声なんだろうなと想像がつく。
「まぁまぁ、あなた方、そんなに殿方にすり寄って行くなんて、品がないのではなくて?」
すると、不機嫌さをにじませたシャルロッテ嬢の声が二人に向かって放たれた。しかし、相手も黙っていない。
「シャルロッテ様だって、そんなにしなだれかかって、はしたないですわ」
「そうですわ。お一人でなんて、抜け駆けですわよ」
なんだ、こいつら。親衛隊か? どうでもいいから消えろ。 …段々苛つきが増して来た。
「おやおや、このような美しい方々に囲まれてしまうと、どこに目を向けようか迷ってしまう。あなた方の美しさに目もくらんでしまう気持ちですよ。 今日のドレスも皆さんの魅力を引き出す、可愛らしいものだ」
割と適当なこと言ってるなと思ったが…、お美しいですか、そうですか。 先程肩越しにチラリとみた感じ、ドレス姿のウサギとリスと猫の小動物系着ぐるみ女子に囲まれて、新手のシルバニアファミリーか? という風にしか見えなかったのだが……ああ、私の感性の方が異常なんでしたね。そうですね。 いいから消えろ。
そして、社交辞令なのか、本気で言っているかはわからないが、王子は随分場慣れしているようで、このような見かけはリアルに草食系でありながら、全員中身は肉食系女子に囲まれても、全く動揺した様子もなく、落ち着いて対応している。 そして、茶色の子犬はその傍らで警戒した様に立ち上がって『ウウゥゥ』と小さく唸っていたが、女子たちは目もくれない。
「「「きゃっ、美しいなんて」」」
…きっと、三者三様、頬を染めて上目遣いでロックオンしながら嬉しそうにクネクネしてんだろうな…顔色とかわからんけど…
猛禽系女子の生態なんて、容易く想像がつくのだが………私は一体ここで何をやっているのだろう……
私はふと、高校生時代、教室の真ん中でリア充イケメンとそれに群がるギャルたちの集いの傍らで、「その席、私の……」と言えずにもごもごしていた過去を思い出してしょっぱい気持ちになった。
しかしこいつら…、全然去って行く様子が見えない。
リア充の祭典? 人気アイドルのファンミーティング? みたいな集いの横で、ただひたすら電話をするタイミングを窺っていると、大変虚しくなってくる。 というか、こんなキャッキャウフフしている横で電話して、私の声だけでなく、こいつらの音声があっちにも聞こえてしまったら、大変辛いことになるのが想像できる。
“…………帰ろうか……”
パトラッシュ…僕はもう、疲れたよ…… そんな気分で念話を送ると、
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