【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

バセット

文字の大きさ
54 / 118
第四章:地味に平和が一番です

幕間ー王子様の追走ー前

しおりを挟む
『彼女』から譲り受けたポーションを取り扱っている店を特定できたと報告が上がった後に、他にも王都で活躍する情報通な冒険者たちの間でも、とある地方出身の冒険者が使用しているという噂で話題になりだしていたとの話も耳にして、それら冒険者たちからも引き続き情報を集める様、部下に命令しながら、俺は徐々に『彼女』に近づきつつある手ごたえを感じていた。そんなある日

 俺はまたしても襲撃された。

 …しかし今までとは違い、ジェロームが本調子になった今は、あえて逃がした刺客を陰から追跡させて、そのアジトを突き止めることができるようになった。
 そこで、兄貴や宰相、直属の部下たちを交えての作戦会議後、それらと協力してアジトを襲撃し、黒幕の尻尾を掴むことに成功したのだが……やはり、以前から疑わしいと思っていた、ドルワーム侯爵の手のものであると判明した。

 侯爵は、表では王の理解者であるような振る舞いを見せるものの、陰から不穏分子を煽って王の治世を脅かすよう動いていた節があったため、クサいと思っていたのだが…案の定、中央大陸との魔石の利権に絡んで肥え太り、あわよくば兄貴と俺を共倒れさせて王国を乗っ取ろうと画策していたようだった。
 …というのも、侯爵の娘が親父の側室の一人であり、3番目の息子(俺たちの弟)の外祖父でもあるからだ。

 しかし、王太子である兄貴が何不足することない後継者ぶりを発揮していることを差し引いても、あまりにも虚弱で精神的にも不安定な弟であるため、親父は早々から激務であり、支配者として力強さを求められる傾向のあるこの王国の王位を狙うには不十分だと言っていたのだが、侯爵は恭順しているような素振りを見せながらも、内心はそうではなかったらしい。
 密かに他国と協力して俺と兄貴を葬ろうとするのだから、それと引き換えに何を取引したかと思うと、大した売国っぷりだと思うが、そこに何故か俺の母親が絡んできたので、話はややこしくなった。

 普通に考えれば、第二王子である俺の母親が侯爵に協力するなどあり得ない話なのだ。…だが、この王宮の中で出自の低さをコンプレックスにしているだけに諸侯から付け込まれやすく、それに加えて思慮というものが欠如した傾向にある俺の母親の言動を鑑みるに、あながち無いとも言い切れないのが辛い所である。
 恐らく、『あなたの息子が王位に立った時、私の孫を庇護していただけるならば、私が後ろ盾になって貴族たちをまとめ、あなたと共に新王をお守りします。虚弱な私の孫では到底王位など務まりますまい。次期王は、魔力に優れたクリスティアン王子こそがふさわしい』…とでも言われたのだろう。俺に近づいてくる貴族は、こぞってその魔力の高さを誉めそやし、決まったようにそれによる王位の正当性を謳って来たのだから。

 …王たるものは、魔力などで決まるものじゃない。

 俺はいつもそう思っている。
 自分でその資質が欠けていると自覚しているのだから、とんだ茶番だと思いながらも受け流し、我々と敵対する意思があるのか否かを見極める材料の一つとしていた台詞ではあるが、母にはいつも耳障りの良い台詞に聞こえたのだろう。どんなに俺にその気がなくても、いつまでも諦めてくれずにしつこく兄貴や王妃を貶め、王位を継ぐよう言いつのる彼女を、いつしか疎むようになっていたというのに。
 ただ、それだけに母親を放置していた俺にも責任があると思い、この一連の騒動に終止符を打ちたいと言うと、兄貴は、

「実の母親も関わっている問題なのに、そんなことをしなくても良い。これらの粛清は私の手の者が行うから、後は任せておけ」

 と言ってくれたのだが、親父が倒れ、未だに病床にある原因もこの者たちにあることを知り、自分の母親だからこそ、息子の自分の手で片づけたいと打ち明けると、眉を顰め、苦しそうな表情をしながら黙り込んだ。そして、大きなため息をついた後、

「すまん」

 と、一言だけ謝って、俺の肩を抱きしめた。

 その後、王の代理である王太子の命により、侯爵とその一派は王立騎士団によって粛清され、北方の要地を治める領主でもあった侯爵の所領は王族直轄地となった。
 そして、この事件に関わっていたとみなされつつも直接的な行動は見られなかった弟とその母親の側妃は僻地の離宮に幽閉され、生涯をその地で過ごすよう厳命された。
 俺の母親はと言うと…やはり、侯爵にいいように操られ、口車に乗って表立って動いていたことからも処刑は免れない所ではあったのだが、王妃の助命嘆願によって弟たちとは違う領地の離宮に生涯幽閉されることとなった。

「この、親不孝者! 私はあんなにお前のことを思っていたのに! こんなに子を思って尽くしてきた母親を裏切ってのうのうと生きようとしているお前など、あの森の中で魔獣に喰われて死んでしまえば良かったのよ!」

 連日の取り調べによりやつれた姿に、美貌で権勢を誇ったかつての寵姫の面影はなく、毛を逆立てて牙を剥き、野獣の様な形相で息子を罵る母親に、最早何の感慨も浮かばなかった。
 確かに自分が愛されていると思えた時期はあったが、どこか嘘くさい台詞と微笑みであると感じ、王妃が兄貴に向けるような、慈しみの微笑みなど向けられたことなどなかったと気づいた時、いつしかその愛情は俺本人に与えられる物ではなく、『王の子』であり『自分を押し上げる道具』としてのものであったと理解していた。

 その後、親父の状態が良好となったときに、兄貴とともにそれら一連の事件について報告すると、親父は一言「そうか…」と短い返答をした後に、

「…すまなかったな。 王である私がすべきことであったのに…。 お前たちには辛い事をさせたな」

 と、固く目を閉じて黙り込んだ。
 病床にあり、病やつれで一回り痩せた体躯となったせいか、肩を落とした姿がとても小さく見え、その肩を王妃がそっと抱くと、親父の肩は震えていた。


 その王妃の全てを受け入れたような愛情深い表情と、王妃の前では時折弱い所を曝け出すことがある親父の姿を目にして、俺は何故か無性に『彼女』に会いたいと思っていた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...