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第四章:地味に平和が一番です
10.=最終話=精霊の女神様(爆)、元凶は遥か昔の物語
しおりを挟むそれからしばらく後、私はベッドが撤去されて広々と使える様になった書斎の本棚で、とある日記を見つけることとなる。
その日記は、この家の元の持ち主のグレゴリオ魔導師さんのものだったのだが、他の難しそうな現地の言葉で書かれた書物とはまるで違い、私に最も馴染み深い……日本語で書かれた日記だった。
異世界に流された日本人は日記をつけるお約束でもあるのだろうか……?
そんな身もふたもないことを考えつつ、久しぶりに目にする書物形式の日本語を、わくわくしながら読み進めていくのだけど……
『本当に、マジありえないよね。
ケモナーでもない私がこんな厳つい狼獣人に…しかも男に転生するなんて!
確かにみんな可愛いよ?可愛いんだけど……シルバニアファミ〇ーのウサギっ子 (メス)に欲情できるか!?
ア〇パンマンに出てくる、純粋無垢なカバ〇くんを押し倒せるか!?
獣人界広しと言えども、もっと萌える美少年もいるはずだよね!?
なんで、この辺には半獣人の可愛いショタとかいないんだよ!? ああ、自分も男だった!
責任者呼んでこいや!!』
彼 (?)は随分あらぶっている。
私は一瞬、何か間違えただろうかと思って、その日記から目を離して天井を仰ぎ見た。
『それにさ、百歩譲って男のままだとしてもさ、観賞用でもいいから……抜きつ刺されつの関係になれなくても諦めるから、もっと潤いを用意してくれよぉっ!?
ああ…だめよ、はしたないわ、私。
…男生活長くて、恥じらいというものがどこかへ家出しちゃってるわ……
私、女子高生だったのに…享年17歳のピチピチの美少女 (自称)だったのに……(/_;)
ささやかだったけど形は自慢だったBカップのおっぱいが雄っぱいに……推定Eカップの巨乳雄っぱいなんて嬉しくねーよっ!!
前世でも見たことなかった肉棒が、相棒とか……HAHAHA……何言ってんだ。
どこのオヤジだっつーの。
でもさ、普通、女子高生が異世界転生とか言ったら、乙女ゲームみたいな、ときめき冒険異世界ファンタジー的な世界を期待するじゃん!
剣と魔法の異世界ファンタジーよ?
ケモ耳・ケモ尻尾の萌えてんこ盛りよ?
そこに女子高生足したら、もうとんでもないことになるはずじゃない?
肌色率の高いパッケージのゲームが爆売れってもんよね?
…いや、自分が当事者なのに、そんな世界はちょっと…いや、かなり嫌か。
なのに、何これ? よりによって18禁ダークファンタジーのリョナ系エロゲーかよ!?
脳筋俺様のゲス暴君と腐敗しきったクソ貴族ども抱えて、周辺諸国の侵略から国家を守れとか、やってられっか!?
弱小民族ひっとらえてゲヘゲヘしながら奴隷市場でウィンドーショッピングしてるような奴らがどうなろうと知ったこっちゃねぇだろ!?
今度はお前らが奴隷市場のお立ち台でポールダンスしてればいいだろが!
キモ豚貴族に買い手がつくかなんて知るか、ばーかばーかっ!!』
………。
女子高生が異世界転生して、狼獣人 (マッチョ)かーーー……。
ああ、それであのキッチン……。私に使いやすかったわけだわーー……ありがとね。
それにしても…やだ、なんか親近感すら湧くわ、この子。
だけども……なんか伝説に残る程に強力な大魔法使いっていうか、精霊使いだったとか聞いてたんだけどな…。
想像と全然違ったわ…
そう思いながら、彼女 (?)の魂の日記を読み進めていくと、その後も延々と罵詈雑言のオンパレード。
他の現地語で書かれた書物は本当に研究者として、理知的な研究などの考察やら、現在では現存数もほとんどない程貴重な魔法理論の書籍やらばかりだというのに……多分現代日本人の発想を元に展開した画期的な発想で、様々な理論を構築した偉大な魔導師として知られていながらも、内では巨大な猫を飼うタイプだったのだろう…。
日本語で表すことでしか本性を発揮できない、器用何だか不器用何だかわからない感じの人だったようだ。
ていうか、こんなコソコソしながらじゃないと爆発できない程のストレス抱えて平穏に暮らしてる日本人って……悲しい生き物や……
なんともしょっぱいような、切ない様な気持ちになりながらも日記を読み進めていくと、その終盤では彼 (?)が命を失う出来事に至るまでの気持ちが綴られていた。
『………わざわざ隠れ住んでる家まで押しかけて来るんじゃねぇよ!!
リアル鳥貴族が! 串焼きにすんぞっ!
しかも…、どこで探し当てたか知らないが、弟一家の命を盾にあのバカ王を守って侵略者どもを蹴散らせとか、あり得ねえ。
侵略者とか言ってるが、この内乱やら侵略やらはお前たちが不当な理由で虐殺して奴隷に落としたやつらの正当な復讐戦争だ。
あちら側に頼まれるならまだしも、お前たちに与することだけはない。
…そう言いたかったのだが……今まで散々迷惑かけてきた弟たちの命を引き換えに出されると…断れない。
だから、国外に出ろと言ったのに……。
ごめん、精霊さま。今まで匿ってくれて、生活まで面倒みてくれて、ありがとう。
もっと長い事一緒にいてあげたかったんだけど、世捨て人気取ってても、やっぱり柵って捨てられなかったみたい。
弟たちの無事を確認したら中央大陸に逃がして、私はそのままバカ王たちを道連れにするつもりだから……。 もう、疲れちゃったんだ。
好みじゃなくても…可愛いケモっ子たちが虐げられてる姿はやっぱりキツかったよ。
私はあいつらをのさばらせ過ぎた。良かれと思って言う事聞いてたけど、その責任はとらないとね。
今度生まれ変わったら、前世の日本ほどじゃなくてもいいから、平和な世界の平凡な女の子がいいな。
うん、精霊にそんな力はないって知ってるけど、ちょっと思っただけだから。
考えるだけならいいよね、贅沢は言わないよ…ただ、望むなら……』
この家に匿ってもらいながら、平穏な世捨て人生活を漫喫していたようであるが、その結末は、割と伝説で知られる悲劇と変わりなかったので、私は鼻にツーンと来るような悲しい気持ちを堪えながら、最後のページをめくった。
『平凡な容姿に平凡な家柄の女の子だけど、魔力はピカイチ。そして、幼い頃に王子様 (金)と出会って初恋に落ちるの。
15歳位になったら平民なのに高い魔力で魔法学校の特待生になったりすると、学園ものっぽくていいわね。
当然そこで、初恋の王子様と再会しつつ、ドリルみたいな髪型で残念美人の悪役令嬢や、その取り巻きたちに意地悪されながらも健気で頑張る主人公の姿に惚れる王子は鉄板よ。
そんな主人公を影日向でフォローする、幼馴染の豪商の跡取り息子 (茶)とか、クラスメイトの爽やか脳筋騎士候補 (赤)とか、クールでマザコンな秀才魔導師(青)、王子の幼馴染でチャラ男の生徒会役員 (紫)に、優しくて癒し系だけど闇が深い担任教師 (緑)とか……バラエティに富んでると、嬉しいわ。そして、忘れちゃいけないのがちょいちょい美味しいところで主人公を守り見つめる不良くん(黒)。もちろん、全員イケメンであることが絶対条件。……そんなイケメンたちに取り合いされながら、結局誰のモノにもならないで、逆ハーレムルートで終えるような……そんな波瀾万丈なラブライフを送りたい……』
………もう一度言おう。
このグレゴリオ魔導師は、マッチョな狼獣人 (雄)である。
しかし、日本のJK(女子高生)が転生した後の姿であり、この世界ではとても優秀な伝説の魔導師にして精霊使いであったと謳われる、悲劇の英雄的存在でもあった。……らしい。
途中から、あまりに陳腐で使い古されたような乙女ゲー設定に、砂を吐きそうになったのだが……( )の中の色は、きっとイメージカラーの髪の色なんだろうということは想像できた。
この子の生きてた年代…、絶対私と近い。
そんなこと言ってた時代があった気がするわ……主に14歳ごろ。
そう思うと、心の古傷を掻きむしられて身悶えしそうになる自分を、強靭な自制心で抑え込んだ。
しかし、私は気づいてしまったのだ。今の自分の状況が誰によるものだったのかを…
『精霊たちが、ご主人をこの地に留め置くために、様々な夫を当てがって…』
そんなことを、マーリン達が言っていることはなかっただろうか? どこで聞いただろう。
精霊さんたちは…、かつて失った友人のグレゴリオ魔導師の希望を参考に、私に逆ハーレムを与えたのだろうか?
私はブルブル震える手でスマホを取り出して、その真相を尋ねようとしたのだが…………
それを知ってしまった所で、今更何もできないだろうと思い直し、そのまま電源を落として、離れの部屋の床についた。
二人が心配そうに覗き込んでいたが、この二人のパートは何だったんだろうと一瞬思いかけ、無機質な精霊たちにそんな微妙なニュアンスが分かるわけないかと考えて、無理やり眠りに落ちてやったのだった。
<あのね、ぎゃくはーれむはおとめのゆめなんだって>
<ぐれちゃん、いっつもさけんでたもんね。ものすごくひくいいけぼで>
<いけめんにちやほやされながら、えいえんにいきていたいって>
<えいえんにいきていてくれるんだよ>
<うむ。素晴らしい。異性の概念がない我々にはわからない世界だが、たくさんいればそれだけ喜んでくれるだろう>
<ぐれちゃんは、イケメンにかぎるっ!(きりっ)ていってたけど、けものへっどはそういうたいしょうじゃないんだって>
<やっぱり、自分と似たような感じじゃないとだめなんだね。いけめんおおかみだったけど>
<だから、姫は喜んでくれるよね。ペットも半獣人タイプのイケメンにしたよ?>
<俺様王子さまも、可愛いショタも取り揃えました>
<あとはなんだろう…。なにがいいかな?おっさん?>
<おっさんはしこみちゅう。おきゃくにだせるれべるじゃないよ>
<ひめのこのみをもっとしらべなきゃ>
<いっぱいいれば、いっぱいしあわせ>
<うんうん、がんばろうね。ひめがずっとぼくたちといっしょにいてくれるように>
<ひめがはなれていかないように>
……深い眠りに落ちているはずなのに、何故だか震えがとまらなかった。
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