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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
エ□フ編その よん:神官長とその部下の会話
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「北東のノルステン島…現在のゴルトライヒ王国で異変が起こっているらしい」
精霊様の方の会話がただの世間話のようなおしゃべりに変わり、私の能力も限界に近付いて来たためその場を辞させていただくと、少しの休息を挟んで執務室に側近たちを呼び出して、挨拶もそこそこに話を切り出した。
「異変…とは? あちらの国とはそれなりに交易もしているため、何か問題があれば知らされるはずです。しかし、今の所そのような報告は、上がっておりませんが…」
訝し気な表情でそう言う男は、神殿運営の中でも主に外交や広報を任せている側近の一人。
名はその淡いオレンジの髪と濃い橙色の瞳のまま、オランジェという。
彼はあどけない少年のような容貌をしていながらも外交的な問題を担当している。そのため、対外的な交渉や情報収集なども行っており、何か他国で異変があれば、まず彼に報せが行くこととなっている。
なので、自分が知りえない情報が私の元に一足飛びに行ったのだろうかと疑問に思ったのだろう、突然の私の言葉に眉を顰めながら声を上げる。
「心配するな、オランジェ神官。精霊様方の語らいの中で知り得た話なので、そちらを通っていなくても仕方ない情報だ。
かの方々が仰るには、ノルステン島の聖地に棲まう大精霊さまの寵愛を受けた存在が現れ、その力を以て幼い精霊様の成長を促していると言う。そして、それにより居場所の定まらない他方の精霊さまが引き寄せられ、新たな精霊様を産みだす流れを作っているということだ」
そう言って、執務室の円卓に集った3名を見回すと、各者は一様に驚き、目を見開いて注視してくる。
「…それは、驚異的な存在が現れたものですね。 大気に混じって漂う精霊様は、何千何百の年月をかけて魔素を取りこみ、徐々に自我を形成させていくと言います。 それが、ほんの短い数年の間に他国の聖地にまで知られるほどの規模で行われているとなると……例え力ある古竜が誕生したと言っても、それ程にはなりますまい。
…あちらに常駐させている配下の者を一度呼び戻し、本当にかの国に変わりはないか詳しく話を聞いておきましょう」
そう言って喉の渇きを覚えたのか、すでに冷めたお茶で喉を潤した後に、軍部担当のコンスタンは深いため息をついた。
彼はこの聖地を武力によって守る防衛の主要人物でもあるのだが、それ以外の知識も造詣が深いため、精霊様の生態や魔獣の特徴についても様々な意見を出してくれる。
状況変化に対応しながらも、神殿騎士出身らしく逞しい体躯を持つ彼の堂々とした態度に頼もしさすら感じつつ、私は言葉を続けた。
「うむ。今はあちらの聖地の精霊様も、その存在を隠そうとされているらしく、詳しい情報は得られてないと仰っているので、他国が察知している様子もないが……。そのような異変がいつまでも隠し通せる物でもないとも仰っている。
それ以降もあちらの変化に注意して見ていただいているが、我々も偵察を送り込んで情報を得るために動く必要があるだろう。また、場合によってはアルフハイム共和国、もしくは我らアムリア神殿の名で、正式な交渉を行うこととなるかもしれない」
「神官長、でしたら国家元首や都市長どのたちにも、このことをお知らせになりますか?」
私の言葉の合間に滑り込むように声を上げるのは、前代神官長から引き続いて側近を務める、イシュト神官である。彼も、神殿運営に加わって長いため、自国や諸外国の機関とのやり取りにも精通しており、この様な時には我々がスムーズに動けるように面倒な手続きなどを一手に引き受け、調整役をこなしてくれる有能な男だ。
「いや、これといって確かな情報はないので、まだいいだろう。いずれ何某かの報告は必要となるかもしれないが、ある程度の情報を得てからあちらに流したいと思っている。…流しても良さそうな情報であるかどうかを精査してから…な」
そう言うと、イシュト神官は穏やかな微笑みをより深くして、「わかりました」と言葉少なく頷いた。
国家に属しているとはいえ、我々は自治を認められている独立地域でもあるのだ。政治家どもに余計な介入をされないためにも、伏せるべき情報は伏せておかねばならない。
「では、各々何かわかったら早急に報告してくれ。
…これは、我らの聖地のみならず、世界をも巻き込む、大きな流れの一端なのかもしれない。今後、どのような問題に発展するかはわからないが……あの東北の国で無視できない何かが起こっていることは確か。
決して、他国の政府や聖地に先んじられることがないよう、慎重に推し進めていきたいと思っている」
そう言って、集まった部下たちに言わずもがなな注意を促すと、彼らは「はっ」と短い返答の後、各々の役割を果たすために本来の職場へ戻って行ったのだが……命令に対する彼らの素早い行動を頼もしいと思いながらも、精霊様から知り得た <ひとのこのおんなのこ> については何故か何も明かすことができず、胸に小さな重石がかかったような、妙な息苦しさを感じていた。
それから3か月程の時が経ち………
「神官長。予てから潜ませてた配下から、かの聖地に女神が降り立ったとの報告が上がりました」
と、ゴルトライヒ王国の情報収集に勤しんでいたオランジェから予想もしなかった報告が舞い込んだのだが…常に穏やかで人好きのする彼にしては、妙に興奮気味であることが気になった。
私は彼の常ならぬ様子やその言葉を受けて、少々の驚きと共に聞き返す。
「女神? 何だ、それは。何かの隠喩か?」
精霊信仰が主流のこの世界において、神と言われる存在は様々な種類に分類される。
それは、精霊信仰篤い地域においては、大精霊様に寵愛を受け、そのお力を自在に操る存在である人や獣であったり、強大な力を持つ精霊様そのもののことであることが多い。
この神殿も当初はこの地に住まう大精霊さまのことを神と崇めていた歴史を持っているのだ。
ただそれら以外では、かなり胡散臭い存在に成り下がるが、単に周囲に比べて格段に魔力の高い優れた人であるだけであったりすることもあり、崇める者によって様々な呼ばれ方をする。
私はその存在が、どのような種類のものであるかを確認したかったのだが……
「なんでも、森の聖地に突如降り立った若い女性のことのようですが、半年ほど前からその女性のことを“女神”と崇める者たちが出始めたと言われております」
…出現時期は、精霊様方が騒ぎ始めたあたりと重なっている。
「ふむ。なるほど。…続けてくれ」
私は、腕を組んで顎を撫でながら話の続きを促した。
「はい。 その存在は、大精霊さまの寵愛を受けて上位魔獣を2頭も従属させているとも聞いております。そして、聖地の端の寒村に精霊の加護を与えてその村を外敵から守り、その地に精霊様のご加護を与えて肥沃なる土地に変え、繁栄させたと。そのため、今ではその村の住民たちが主になってその存在を女神と崇め、信仰するようになったと報告されています」
「大精霊さまの…寵愛?」
私はその報告で一番聞き捨てならない言葉を拾い、思わずオランジェの顔を見つめて問いかける。
確かにその存在がそのような者であるならば、気にかかる寒村の一つや二つ、庇護を与えて余りある。
それ程に偉大なのだ。
精霊様方には身分というような差はないが、対外的に大精霊と呼ばれる存在は、聖地を掲げる土地の中核的な存在であり、例え加護を持つ我々であっても、そのお声を賜ることすら滅多に…というか、ほとんどない。
正にその存在そのものが”精霊”と称される者であり、内実は”尊い神”といっても過言ではなく、かの方の意志を受け、お声を聞くことすら生中な魔力と感受性では叶わない。
そして、その寵愛を受けた者というならば……
「それは……“愛し子さま”が、現れた…ということか?」
思わず声が震えるのを自覚しつつ、私はその問いに頬を緩ませながら何度も頷く部下の姿を見つめていた。
「話を聞くに、その女神とは、大精霊様の愛し子であることは間違いないようです。ならば、その方は人とはすでに乖離した存在と御成りになっていらっしゃることでしょう。
そして、かの女神を信仰する総本山と化した村では、信仰の対象とするための女神の石像が置かれており、村人たちは日々の祈りや感謝を奉げるためにそこに神殿を建立して集っております」
「それは………かの聖地に、我々と同様の――というには、規模が小さいが――教団が成立したと言う事か?」
その問いの答えとして、オランジェは、私を真摯な眼差しで見つめながら、力強く頷いた。
他国で我らと同様に精霊様を…そして大精霊の愛し子さまを崇める教団が立ったのなら、最早無視することなどできない。
もちろん、他国の宗教にまで干渉することなどできないが、その国の精霊様や女神と呼ばれる愛し子さまは、世界にあまねく精霊様方を巻き込みかねない力を持つと言うのだ。その教団の教義や目的、そして…愛し子さまの真偽を確認する必要がある。
そして、もしもそれらが我々の予想通りの存在であったとしたら、そこに我らがどのように介入していくのが最良であるかを判断しなくてはならないのだ。
「……かの地の現状を確認するためにも、早急に視察団を組んだ方が良さそうな案件だな。
…しかし、私が直接行くわけにもいかないし…。人選を考えないと……」
私は腕を組んで顎を撫でながら呟き、目の前にいるオランジェ神官の存在を忘れかかる程思案に耽っていたのだが、静かに笑みを浮かべて座っていたオランジェ神官が、腰に下げているマジックバッグから掌程の大きさの何かを取り出していることに気づいた。
そして私は、二人の間にある机に、コトリと何かが置かれた音がして、ふと目をやると、
「これが、かの聖地で崇められている女神だそうです」
と、得意そうな表情で、石像を差し出してくる。
最初は、軽いようでいて実は真面目なこの男が、珍しく土産でも持ってきたのかと思い、少々意外に思ったのだが、その女神像の造形を目にして、言葉を失った。
「………似ていらっしゃるでしょう?」
そうして置かれた石像は、薄絹を羽織る少女の胸像だったのだが…その表情は、優し気に微笑んでおり……
私は思わずこの部屋の壁一杯に掛けられている勇者様の肖像画を振り返り、呟いた。
「……似ているな」
白い石造りの胸像なのに、何故か黒を連想させた。
精霊様の方の会話がただの世間話のようなおしゃべりに変わり、私の能力も限界に近付いて来たためその場を辞させていただくと、少しの休息を挟んで執務室に側近たちを呼び出して、挨拶もそこそこに話を切り出した。
「異変…とは? あちらの国とはそれなりに交易もしているため、何か問題があれば知らされるはずです。しかし、今の所そのような報告は、上がっておりませんが…」
訝し気な表情でそう言う男は、神殿運営の中でも主に外交や広報を任せている側近の一人。
名はその淡いオレンジの髪と濃い橙色の瞳のまま、オランジェという。
彼はあどけない少年のような容貌をしていながらも外交的な問題を担当している。そのため、対外的な交渉や情報収集なども行っており、何か他国で異変があれば、まず彼に報せが行くこととなっている。
なので、自分が知りえない情報が私の元に一足飛びに行ったのだろうかと疑問に思ったのだろう、突然の私の言葉に眉を顰めながら声を上げる。
「心配するな、オランジェ神官。精霊様方の語らいの中で知り得た話なので、そちらを通っていなくても仕方ない情報だ。
かの方々が仰るには、ノルステン島の聖地に棲まう大精霊さまの寵愛を受けた存在が現れ、その力を以て幼い精霊様の成長を促していると言う。そして、それにより居場所の定まらない他方の精霊さまが引き寄せられ、新たな精霊様を産みだす流れを作っているということだ」
そう言って、執務室の円卓に集った3名を見回すと、各者は一様に驚き、目を見開いて注視してくる。
「…それは、驚異的な存在が現れたものですね。 大気に混じって漂う精霊様は、何千何百の年月をかけて魔素を取りこみ、徐々に自我を形成させていくと言います。 それが、ほんの短い数年の間に他国の聖地にまで知られるほどの規模で行われているとなると……例え力ある古竜が誕生したと言っても、それ程にはなりますまい。
…あちらに常駐させている配下の者を一度呼び戻し、本当にかの国に変わりはないか詳しく話を聞いておきましょう」
そう言って喉の渇きを覚えたのか、すでに冷めたお茶で喉を潤した後に、軍部担当のコンスタンは深いため息をついた。
彼はこの聖地を武力によって守る防衛の主要人物でもあるのだが、それ以外の知識も造詣が深いため、精霊様の生態や魔獣の特徴についても様々な意見を出してくれる。
状況変化に対応しながらも、神殿騎士出身らしく逞しい体躯を持つ彼の堂々とした態度に頼もしさすら感じつつ、私は言葉を続けた。
「うむ。今はあちらの聖地の精霊様も、その存在を隠そうとされているらしく、詳しい情報は得られてないと仰っているので、他国が察知している様子もないが……。そのような異変がいつまでも隠し通せる物でもないとも仰っている。
それ以降もあちらの変化に注意して見ていただいているが、我々も偵察を送り込んで情報を得るために動く必要があるだろう。また、場合によってはアルフハイム共和国、もしくは我らアムリア神殿の名で、正式な交渉を行うこととなるかもしれない」
「神官長、でしたら国家元首や都市長どのたちにも、このことをお知らせになりますか?」
私の言葉の合間に滑り込むように声を上げるのは、前代神官長から引き続いて側近を務める、イシュト神官である。彼も、神殿運営に加わって長いため、自国や諸外国の機関とのやり取りにも精通しており、この様な時には我々がスムーズに動けるように面倒な手続きなどを一手に引き受け、調整役をこなしてくれる有能な男だ。
「いや、これといって確かな情報はないので、まだいいだろう。いずれ何某かの報告は必要となるかもしれないが、ある程度の情報を得てからあちらに流したいと思っている。…流しても良さそうな情報であるかどうかを精査してから…な」
そう言うと、イシュト神官は穏やかな微笑みをより深くして、「わかりました」と言葉少なく頷いた。
国家に属しているとはいえ、我々は自治を認められている独立地域でもあるのだ。政治家どもに余計な介入をされないためにも、伏せるべき情報は伏せておかねばならない。
「では、各々何かわかったら早急に報告してくれ。
…これは、我らの聖地のみならず、世界をも巻き込む、大きな流れの一端なのかもしれない。今後、どのような問題に発展するかはわからないが……あの東北の国で無視できない何かが起こっていることは確か。
決して、他国の政府や聖地に先んじられることがないよう、慎重に推し進めていきたいと思っている」
そう言って、集まった部下たちに言わずもがなな注意を促すと、彼らは「はっ」と短い返答の後、各々の役割を果たすために本来の職場へ戻って行ったのだが……命令に対する彼らの素早い行動を頼もしいと思いながらも、精霊様から知り得た <ひとのこのおんなのこ> については何故か何も明かすことができず、胸に小さな重石がかかったような、妙な息苦しさを感じていた。
それから3か月程の時が経ち………
「神官長。予てから潜ませてた配下から、かの聖地に女神が降り立ったとの報告が上がりました」
と、ゴルトライヒ王国の情報収集に勤しんでいたオランジェから予想もしなかった報告が舞い込んだのだが…常に穏やかで人好きのする彼にしては、妙に興奮気味であることが気になった。
私は彼の常ならぬ様子やその言葉を受けて、少々の驚きと共に聞き返す。
「女神? 何だ、それは。何かの隠喩か?」
精霊信仰が主流のこの世界において、神と言われる存在は様々な種類に分類される。
それは、精霊信仰篤い地域においては、大精霊様に寵愛を受け、そのお力を自在に操る存在である人や獣であったり、強大な力を持つ精霊様そのもののことであることが多い。
この神殿も当初はこの地に住まう大精霊さまのことを神と崇めていた歴史を持っているのだ。
ただそれら以外では、かなり胡散臭い存在に成り下がるが、単に周囲に比べて格段に魔力の高い優れた人であるだけであったりすることもあり、崇める者によって様々な呼ばれ方をする。
私はその存在が、どのような種類のものであるかを確認したかったのだが……
「なんでも、森の聖地に突如降り立った若い女性のことのようですが、半年ほど前からその女性のことを“女神”と崇める者たちが出始めたと言われております」
…出現時期は、精霊様方が騒ぎ始めたあたりと重なっている。
「ふむ。なるほど。…続けてくれ」
私は、腕を組んで顎を撫でながら話の続きを促した。
「はい。 その存在は、大精霊さまの寵愛を受けて上位魔獣を2頭も従属させているとも聞いております。そして、聖地の端の寒村に精霊の加護を与えてその村を外敵から守り、その地に精霊様のご加護を与えて肥沃なる土地に変え、繁栄させたと。そのため、今ではその村の住民たちが主になってその存在を女神と崇め、信仰するようになったと報告されています」
「大精霊さまの…寵愛?」
私はその報告で一番聞き捨てならない言葉を拾い、思わずオランジェの顔を見つめて問いかける。
確かにその存在がそのような者であるならば、気にかかる寒村の一つや二つ、庇護を与えて余りある。
それ程に偉大なのだ。
精霊様方には身分というような差はないが、対外的に大精霊と呼ばれる存在は、聖地を掲げる土地の中核的な存在であり、例え加護を持つ我々であっても、そのお声を賜ることすら滅多に…というか、ほとんどない。
正にその存在そのものが”精霊”と称される者であり、内実は”尊い神”といっても過言ではなく、かの方の意志を受け、お声を聞くことすら生中な魔力と感受性では叶わない。
そして、その寵愛を受けた者というならば……
「それは……“愛し子さま”が、現れた…ということか?」
思わず声が震えるのを自覚しつつ、私はその問いに頬を緩ませながら何度も頷く部下の姿を見つめていた。
「話を聞くに、その女神とは、大精霊様の愛し子であることは間違いないようです。ならば、その方は人とはすでに乖離した存在と御成りになっていらっしゃることでしょう。
そして、かの女神を信仰する総本山と化した村では、信仰の対象とするための女神の石像が置かれており、村人たちは日々の祈りや感謝を奉げるためにそこに神殿を建立して集っております」
「それは………かの聖地に、我々と同様の――というには、規模が小さいが――教団が成立したと言う事か?」
その問いの答えとして、オランジェは、私を真摯な眼差しで見つめながら、力強く頷いた。
他国で我らと同様に精霊様を…そして大精霊の愛し子さまを崇める教団が立ったのなら、最早無視することなどできない。
もちろん、他国の宗教にまで干渉することなどできないが、その国の精霊様や女神と呼ばれる愛し子さまは、世界にあまねく精霊様方を巻き込みかねない力を持つと言うのだ。その教団の教義や目的、そして…愛し子さまの真偽を確認する必要がある。
そして、もしもそれらが我々の予想通りの存在であったとしたら、そこに我らがどのように介入していくのが最良であるかを判断しなくてはならないのだ。
「……かの地の現状を確認するためにも、早急に視察団を組んだ方が良さそうな案件だな。
…しかし、私が直接行くわけにもいかないし…。人選を考えないと……」
私は腕を組んで顎を撫でながら呟き、目の前にいるオランジェ神官の存在を忘れかかる程思案に耽っていたのだが、静かに笑みを浮かべて座っていたオランジェ神官が、腰に下げているマジックバッグから掌程の大きさの何かを取り出していることに気づいた。
そして私は、二人の間にある机に、コトリと何かが置かれた音がして、ふと目をやると、
「これが、かの聖地で崇められている女神だそうです」
と、得意そうな表情で、石像を差し出してくる。
最初は、軽いようでいて実は真面目なこの男が、珍しく土産でも持ってきたのかと思い、少々意外に思ったのだが、その女神像の造形を目にして、言葉を失った。
「………似ていらっしゃるでしょう?」
そうして置かれた石像は、薄絹を羽織る少女の胸像だったのだが…その表情は、優し気に微笑んでおり……
私は思わずこの部屋の壁一杯に掛けられている勇者様の肖像画を振り返り、呟いた。
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