【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ

エ□フ編その 11:種族的習性なんだろうか…いいや、カルマですー3ー

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 両手首をまとめられ天蓋付きベッドのポールにゆるく繋がれた状態でもぞもぞとベッドの上で体を揺すると、かろうじて掛けられていたシーツが落ちそうになる。
 いくらなんでも、さすがにマッパで寝転んでいる姿は嫌だったので、私は脳内で現状把握に務めながら大人しく部屋の主を見上げた。

 お風呂で気絶したため、裸でベッドで寝かされていたということは…まあ、理解はできる。しかし…

「私…なんで鎖で繋がれてるの?」

 静かにベッドの脇に佇むヨナさんの姿をその目に捉え、私は緊張で口渇を覚えながらも薄っすら微笑んで問いかけた。

 目覚めたら鎖で繋がれているという非常事態に、落ち着きすぎだと思いますか?
 いや、ろくに身動きも取れない状況なので、相手を怒らせたり興奮させたりしないよう慎重に対応しているつもりですが…。
 私もやっぱりちょっと動揺しているかもしれません。


 すると、薄い部屋着のようなものを羽織っただけの彼は、今の今までシャワーを浴びていたのだろうか?
 ホカホカと頭に湯気を立てながらサッパリした顔で、キシ…とベッドマットをたわませて私の側に近寄ると、フッとお花のようなボディソープのいい匂いを漂わせ、慈愛に満ちた微笑みで、スリスリと私の頬に頬ずりをして耳元で囁いた。

「野暮用を片付けてくるので、少し待っていてください」

 そう言って、頬に軽く唇を押し当てた後、静かに部屋を出ていってしまう。
 私は、耳に直接囁かれた低い声に思わずビクッとしたせいで、鎖に繋がれた理由を聞きそびれ…ベッドに横向きに寝転んで「フゥ…」とため息をついた。

 あの様子だと、すぐに戻ってくるのだろう。
 見た感じ、私を拉致監禁してどうのこうの…という風にも見えないし……
 もう少し様子を見てみてもいいだろうか…?

 腕が固定されているなりに身動ぎしつつ、肌触りの良いベッドのリネンの感触を素肌で楽しみながらそんなことを考えていると

『ご主人、まだここにいるニャ? 帰らないニャ?』
『あの男から害意は感じないが……主よ、大丈夫か?』

 私の影に潜んでいる2匹から、姿も見せずに念話で話しかけられた。

 実は、転移する前からずっと2匹は私の影に潜んでおり、単身転移する私の護衛兼新しく出現した相手の見極め役として、今回の転移に同行してきていたのだった。

 今の所、危害を加えようとする素振りもなかったため、私は隠形したままの2匹に私が呼ぶまで出てこないよう言い含めていたのだが…。

『やだやだ参加できなくてもいいから、見たいニャ――!』
『うむ。主が他の男に啼かされている姿を見るのも、滾る!』

 などと謎の抵抗をされて、渋々音声だけは自由にしてもいいと許可をした。

 …本当に、こいつらの文化ってよくわからない。
 NTRが普通に受け入れられるんだから…。
 文化が違うとはこのことか…。

 何度目かになるため息をこぼしながら、私はその時のやり取りを思い出す。
 まあ、いつでもこの2匹が乱入できるという事情もあり、危なくなったらいつでも拘束から逃れることはできるだろうと高を括っているからこその余裕でもある。
 お風呂に入る前、転移の腕輪やら隠遁のブレスレットやらの魔道具は、指に嵌めたままのストレージの指輪に収めてあるのでいつでも装着は可能だし、金属もバターのように断ち切ることができる小刀だって出せるのだ。
 ヨナさんの出方を伺ってからでも遅くはないだろう。


 私は、陰から話しかけてくる2匹の心配そうな声に向かって微笑むと、

「…とりあえず、ヨナさんにどういう意図があるのか、聞いてみてから…ね。ダメそうならあんたたちに手伝ってもらって逃げるから…」

 と、宥めるように声を掛けて、2匹の気配が小さくなっていくのを感じたすぐ後、部屋の扉が開き、閉じた音が『キィ…』と部屋に小さく響いた。


「ああ、お変わりなさそうで良かった」

 そう言いながら、ヨナさんは毛足の長い絨毯の上を、足音も立てずに近寄ってくると、ベッドで寝転ぶ私の傍らに腰をおろした。

「仕事上の、ちょっとした引き継ぎをしてきただけだったのですが…部下も度々私の代行などを務めることもあるため、調整はスムーズに済ませることができました」

「引き継ぎ…?」

 私はキョトンとして、ヨナさんのきれいな顔を仰ぎ見る。

「ええ。これから、婚姻の蜜月に入ると宣言してきたので……3日は邪魔も入らず、愛し合うことができます」

 ヨナさんは、嬉しそうに耳をピコピコ動かしながら、頬を染めてニコリと笑った。

 どうもこの長い耳は、持ち主の心理状況を如実に表現するようである。

 私は、忙しなく動く耳を無意識に目で追ってしまい、その動きに気を取られてしまう。
 しかし、ヨナさんが不意に私の手鎖を軽くつまみ上げ、フフッと声を上げて艶っぽい流し目を送ってきたので、思った以上に至近距離にいたことを改めて意識して、胸がドキンと音を立てた。

 うう……美しい……

 きっと、真っ赤になっているだろうと自覚する程頬が上気しているのを感じるが、私はその視線から目を外す事も、身動ぎもできずに、ただただ口を金魚のようにパクパクさせながらヨナさんの行動を見守っていた

「この手錠と鎖は…私の祖母から贈られた物で、『愛の試し』と呼ばれる魔道具でもあるのです。
 祖母は当時の想い人に使いたかったそうなのですが、相手がいなくなってしまったため、できなかった。
 コレを使うことが思いを果たせなかった祖母の供養…というわけではないですが……。
 この鎖に大人しく繋がれて、不安げに私の動作を見守っているあなたを見ると……とても気持ちが高揚してくるのを感じます。
 …これも我々一族の血なんですかね?」

「え…そんなの……」

 知らんがな。

 そう返したくなったが、お祖母さんを思い出しながら語るヨナさんの瞳がうるうると潤み、美人の儚げな微笑みに思わず見惚れてしまった私は、咄嗟にその言葉を飲み込んだ。

「すみません、こんな拘束…私のわがままですね。
 でも、その手錠は確かに私の魔力で錠を掛けているのですが…あなたが嫌だと思えば、外れるんですよ?
 まあ、いわゆる恋人たちの愛玩具のようなものなので……ふふ……」

 そう言いながら、頭上に挙上した形で固定され、無防備に晒された両腕の内側の敏感なところにすぅっと指を這わされて、思わず擽ったさに体を揺らす。
 私が身動ぎするたびに、鎖がチャラチャラと金属音を奏でるものの、手首は固定されたままで離すことができない。

 付けられて嬉しいなんて、全く思っていないはずなのに…本当に私が嫌がったら、外せるのだろうか…?

 疑問に思い、それを声に出そうとするのだが…そのまま仰向けになった状態で覆いかぶさるように唇を合わされて、その言葉を発する機会を失ってしまう。

「今夜は邪魔が入りません。ゆっくり…じっくりとお互いのことを知っていきましょう」

 軽く啄むようなキスの後、上体を起こしてペロリと自分の唇を舐めながら囁いたヨナさんの色気に当てられて、私は何も考えることができず、ポォ―ッと呆けたように彼の美貌を見上げていたのだった。
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