【R18】「いのちだいじに」隠遁生活ー私は家に帰りたいー

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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ

閑話:ロビンくんとその後の話

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みなさん、お久しぶりです。お元気でしたか? ロビンです。
最近あまり街なかを出歩くことも減りましたが、テルマイアの街で女神マイカを奉じる教団の長となるべく、日々勉強に勤しんでいます。
毎日忙しくて、夜にはヘトヘトになっていますが、魔道具を介してでもお姉さんとお話できると、それだけで明日も頑張ろうと思えます。

愛は世界に彩りを与える…クサい言葉ですが、物事の真実を表しているんだなぁ…なんて思ってしまうような、今思えば若い時(えっ?^^;)もありましたが、最近はちょっと彩りが褪せるような…そんな悩みが出てくるようになりました。
まあ、悩みと言っても、やっぱりお姉さんに関わることになるのはご想像の通りなんですけれども。
早く大人になりたいな…なんて、年相応に思った次第です。



この間の冬に、僕は13歳になって、少し背が伸びたと思うのですが、成長の遅い僕は、多少成長しようとも、まだまだ世間一般の10歳児程度にしか見られません。
お姉さんだけはご自分も若く見られるせいか、年相応に見てくれるようになってきたので、それはちょっとうれしいですけれども、まだ背はお姉さんよりもちょっと低いし、街の人たちにはまだまだ子供扱いされてしまいます。

「ええ…? かわいいロビンのままでいいじゃない…」

エディ兄さんは、よくそうやって僕の頭を撫でながら、やたらとギューギュー抱きついてきますが、そろそろ僕もお姉さんに一人前の男として認められたい…までは行かなくとも、多少は男として意識されたいと思うのです。
子供はエディ兄さんが今僕にしているように、気安くスキンシップをとっても怒られないという利点もありますが、いずれお婿さんにしてほしい女性に、男として意識されないのもちょっとツラい…。複雑です。

「やだなー、こんなに小さくてふわふわでかわいいのに…。 伯父さんみたいなマッチョになったら、泣ける…」

そう言いながら、僕をお膝に座らせようとするエディ兄さんの手をスッと避けると、耳をヘタレさせて落ち込みましたが、僕は無視を決め込みました。

…エディ兄さんは、僕に対してちょっとスキンシップが多すぎる気がします。

エディ兄さんも一人っ子で他に兄弟も年下のいとこなどもいないせいか、僕を年の離れた弟のように可愛がってくれるのはいいのですが、油断すると、すぐに耳やらしっぽやら、際どい所をしつこく撫でようとしてくるので、時々うっとおしくなって、邪険に扱ってしまいます。

そうして、にこやかに微笑みつつ、大きなソファの上なのに、やたらと近い位置にいるエディ兄さんから距離を置こうとしていると、

「いやいや、俺の子供の頃に比べたら、全然大きいぞ。 
俺がおまえの年の頃には、完全に侍女たちの着せかえ人形にされて、似合うからとやたらと可愛らしいデザインの衣装を着せられてはキャーキャー言われていたからなぁ…」

そう言って、遠い目をしてお茶を啜っている男性は、クリスティアン王子様です。
僕と同じ半獣人の男性なので、同じ様な悩みを辿ってきた先輩のようなものなのですが…40歳近い彼は現在、20代半ばの美青年にしか見えないので、いたわりの言葉も心に響かず……。
現在の僕たちの関係性を考えても、若干の苛立ちすら感じます。

そう、関係性。

現在、ポッと出のくせにお姉さんの夫として認知されつつある、立派な大人である彼と、出会ってからずっと愛を囁いてきたのに、未だに弟のような扱いしかされない僕との関係は、正に微妙なものなのです。
しかも、それを気にしているのは僕だけで、この人も、お姉さんですら、僕のことをそういう相手だとは思っていないような…そんな気配にもイラッとします。

あくまで子供扱いなお姉さんが、僕が大人になるまで一人で待っててくれるなんて、思ってませんでしたが…

マーリン様やタロウ様方の次、3番目になるのは僕のままだと思いたかった。
まあ、そんなことを願ってもお姉さんを困らせてしまうだけですし、願望の域は出ていないので、自分のわがままだっていうことは承知の上ですけれども。

それでも、やっぱりちょっと、あんまりこれ以上増えないでほしいなぁ
しかも、こんなにかっこいい王子様……そりゃ、その辺の馬の骨(差別用語)を引っ張り込まれるよりは、全然良いですけれども…

お姉さんをゲットするには、僕はもっともっと頑張らないといけないなぁ…


そんな事も考えてしまうのは、仕方ないと思うのです。
僕は、目の前のクリスティアン王子に気づかれないよう、そっとため息をついて、そろそろと伸ばされるエディ兄さんの手を押しやってどかしました。



僕は今、王宮でアレフハイム共和国はアムリア神殿への視察についての打ち合わせに来ています。
あちらの国から国を通しての伝達であったので、王弟のクリスティアン王子の名で王宮に召喚されたからです。
そして、その打ち合わせには、視察団団長として僕と、その保護者兼補佐役としてエディ兄さんが呼ばれ、王宮側の責任者のクリスティアン王子と、補佐のロドリーゴ魔導師長が参加しているのですが…。

「えっ!? …アムリア神殿の神官長が、お姉さんの夫に…!? なんでそんなことに!?」

打ち合わせが始まる前、最近になって急に使者をやり取りする回数が増えてきましたね…なんて話している時のことでした。

何がどうなって、そうなったのか…僕にはよくわかりませんが…隣にいたエディ兄さんも、ポカンと口を開いてびっくりしています。

「ああ、まあ、そうだな。 それに関しては、俺も同意見だが…。
どうも、急に活性化した精霊たちの様子を伺おうと、ヨナ神官長が秘蔵の精霊魔術を駆使して彼女の身辺に探りを入れていたところを見初められた…というか、目をつけられたらしい。
保身は一級品の割には、あまり細かいことを気にするような質ではないので、姫はあっさり受け入れてしまっているが…。
精霊同士の繋がりもあるので、そういった障壁もなく、相手が人類の秘宝とも言われるヨナ神官長であれば、我々が口を出すのも憚られ……。
夫のステイタスが良ければ良いほど、女の勲章みたいな所もあるので、姫には相応しい縁組だと…マーリン殿やタロウ殿も考えたそうだ。
そろそろ他の国もうるさくなってきていたしな…」

「そ、そんな…。あなたも夫の一人ではないですか。
あなたも了承したというのですか? 」

「俺? いや、別に反対はしないぞ? 
精霊の加護持ちとしては、先達であり、中央大陸全土に名を知られる聖職者にして政治家でもある方だ。魔具製造にも造型が深いとも聞く。
そんな大物を引き込んだ姫は、さすがだと思うと誇らしいじゃないか
確かに浮世離れして美しい方ではあったが……姫はちゃんと我々のことにも気を使って、どうすれば良いのか聞いてくれるし、一人を寵愛するということもないしな……残念ながら」

…そんなのほほんとしたマヌケな笑顔(暴言)にイラッとします。

これだから坊ちゃん育ちは(偏見)。

アムリア神殿の神官長なんて…人類最高峰の美貌を謳われ、神殿史上最年少で神官長の要職についたという有名人じゃないですか。世界的な名声や知名度なら、この国の王様をも遥かに超えます。
こんなハイスペック過ぎる夫が現れて、なんで焦りとかないんでしょうか?
魔獣のお二人なら、そもそもの次元が違うから気にも留めないかもしれないけれども、はっきり言って、僕には驚異としか感じられないのですが!?
先に夫になったという余裕からでしょうか? 
僕が婿入りする前に、なんでそんなにハードル上げちゃうんですか!?
ていうか、そんなにできた方であるというのならば、この眼の前のヤリチン(偏見)みたいに様々な男も女も千切っては投げのご乱行でもしていてくれれば、さすがにお姉さんも引いただろうに、あんな山奥に男ばかりで暮らしてるもんだから、浮いた話もなくて清廉潔白な身の上…とか。

一説によると、あまりに女性の影がなさすぎて、実は同性愛者なんじゃないかとも噂されていると聞いていたのに。
そのまま、ムサイ神殿騎士たちに偶像化されながら取り巻きの男どもと山奥でキャッキャウフフしてれば良いものを(黒い)……
なんですか、精霊様のお導きって……精霊様は縁結びの能力もお持ちだったんですか?
そんなの聞いたことないですよ!


…なんて、後から後から湧き出る不満を押し込みつつ、王子の緊迫感のない態度に、いつになく、怒りがこみ上げてくるのですが、これが八つ当たりであるということは、自分でも十分自覚しています。
なので、僕は張り付いた笑顔のまま脳裏をよぎった考えをおくびにも出さず、淹れ直された温かいお茶を啜ってコメントを避けました。

僕は……王子のことも、神官長のことも…夫にしてもいいかなんて、何も聞いてもらってないよ…お姉さん。

しかし、そんなことを口走って、このライバルに憐れまれるなんて、死んでも嫌だったので、気持ちが収まるまで長いこと俯いて、ゆっくりお茶を啜っていました。

「ろ、ロビン?」

僕が赤ん坊の頃からみてきたエディ兄さんは、僕の怒りのオーラを察して気遣わしげに伺ってきますが、無視しました。

「くくっ…不機嫌そうだな。 連れが心配しているぞ」

坊っちゃん育ちだのなんだの言ったところで、相手は僕の親よりも年上の王子様です。
普段から貴族相手に腹の読み合いをしているような方にとって、僕のような子供の内心など、手にとるようにわかるらしいです。悔しいですが。
クリスティアン王子は、誂うように鼻で笑って僕を見ていましたが、僕が渋々顔を上げると優しく微笑みました。

「お前が成長して、その時には心が変わるかもしれないからと、姫はあえてお前に伝えなかったと聞いたが…彼女は獣人の一途さを知らない。まして、おまえのように頭も良くて用意周到に物事を運んでいくような男なら、一生心を変えることはないだろう。
良きにつけ悪しきにつけ、しつこくつきまとって、狙った獲物を逃すヘマをすることもない。
姫は…ちょっとそのあたりの認識が甘い。
ふふっ…そういう抜けている所もかわいいんだがな。

…まあ、いずれ俺と同じ位置にくるつもりだろうから、その辺りは彼女にも重々わからせてやってくれ。
…期待してるよ」

お姉さんの、ツメが甘くてスキだらけな所がかわいいなんて、言われなくても知っています。
しかし、その鷹揚な笑顔に嫌味なものがなく、大人の男の包容力のようなものを感じさせ…ああ、こういうところが良かったのかな…と、思いながら、

「……同じじゃないです。 あなたより、上です。
マイカ様に初めて出会って告白した時、あなたはいらっしゃいませんでしたので」

僕はニッコリと笑い返しながら、細めた目で王子を睨みつけた。

「はっはっは…、そうか、先輩だったな。 それは悪いことを言った。 でもな、人生の先輩として言ってやる。
恋愛は、出会った順番で決まるものでもないんだぞ?」

そう言って笑いながら宣った王子の目も、最早笑ってはいませんでした。

僕たちは、クックック と、さも楽しそうに歓談している体ではありましたが、お互いを同じ女を愛する仲間であり、ライバルであると認識しあった、宣戦布告の笑いでした。

横でエディ兄さん(空気)とロドリーゴさん(存在忘れてました)はハラハラしながら僕たちのやり取りを見守っていましたが、その後至って平和に、なんの問題もなく仕事の話を進めていったのでした。

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