88 / 118
その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
閑話:ロビンくんとその後の話
しおりを挟む
みなさん、お久しぶりです。お元気でしたか? ロビンです。
最近あまり街なかを出歩くことも減りましたが、テルマイアの街で女神マイカを奉じる教団の長となるべく、日々勉強に勤しんでいます。
毎日忙しくて、夜にはヘトヘトになっていますが、魔道具を介してでもお姉さんとお話できると、それだけで明日も頑張ろうと思えます。
愛は世界に彩りを与える…クサい言葉ですが、物事の真実を表しているんだなぁ…なんて思ってしまうような、今思えば若い時(えっ?^^;)もありましたが、最近はちょっと彩りが褪せるような…そんな悩みが出てくるようになりました。
まあ、悩みと言っても、やっぱりお姉さんに関わることになるのはご想像の通りなんですけれども。
早く大人になりたいな…なんて、年相応に思った次第です。
この間の冬に、僕は13歳になって、少し背が伸びたと思うのですが、成長の遅い僕は、多少成長しようとも、まだまだ世間一般の10歳児程度にしか見られません。
お姉さんだけはご自分も若く見られるせいか、年相応に見てくれるようになってきたので、それはちょっとうれしいですけれども、まだ背はお姉さんよりもちょっと低いし、街の人たちにはまだまだ子供扱いされてしまいます。
「ええ…? かわいいロビンのままでいいじゃない…」
エディ兄さんは、よくそうやって僕の頭を撫でながら、やたらとギューギュー抱きついてきますが、そろそろ僕もお姉さんに一人前の男として認められたい…までは行かなくとも、多少は男として意識されたいと思うのです。
子供はエディ兄さんが今僕にしているように、気安くスキンシップをとっても怒られないという利点もありますが、いずれお婿さんにしてほしい女性に、男として意識されないのもちょっとツラい…。複雑です。
「やだなー、こんなに小さくてふわふわでかわいいのに…。 伯父さんみたいなマッチョになったら、泣ける…」
そう言いながら、僕をお膝に座らせようとするエディ兄さんの手をスッと避けると、耳をヘタレさせて落ち込みましたが、僕は無視を決め込みました。
…エディ兄さんは、僕に対してちょっとスキンシップが多すぎる気がします。
エディ兄さんも一人っ子で他に兄弟も年下のいとこなどもいないせいか、僕を年の離れた弟のように可愛がってくれるのはいいのですが、油断すると、すぐに耳やらしっぽやら、際どい所をしつこく撫でようとしてくるので、時々うっとおしくなって、邪険に扱ってしまいます。
そうして、にこやかに微笑みつつ、大きなソファの上なのに、やたらと近い位置にいるエディ兄さんから距離を置こうとしていると、
「いやいや、俺の子供の頃に比べたら、全然大きいぞ。
俺がおまえの年の頃には、完全に侍女たちの着せかえ人形にされて、似合うからとやたらと可愛らしいデザインの衣装を着せられてはキャーキャー言われていたからなぁ…」
そう言って、遠い目をしてお茶を啜っている男性は、クリスティアン王子様です。
僕と同じ半獣人の男性なので、同じ様な悩みを辿ってきた先輩のようなものなのですが…40歳近い彼は現在、20代半ばの美青年にしか見えないので、いたわりの言葉も心に響かず……。
現在の僕たちの関係性を考えても、若干の苛立ちすら感じます。
そう、関係性。
現在、ポッと出のくせにお姉さんの夫として認知されつつある、立派な大人である彼と、出会ってからずっと愛を囁いてきたのに、未だに弟のような扱いしかされない僕との関係は、正に微妙なものなのです。
しかも、それを気にしているのは僕だけで、この人も、お姉さんですら、僕のことをそういう相手だとは思っていないような…そんな気配にもイラッとします。
あくまで子供扱いなお姉さんが、僕が大人になるまで一人で待っててくれるなんて、思ってませんでしたが…
マーリン様やタロウ様方の次、3番目になるのは僕のままだと思いたかった。
まあ、そんなことを願ってもお姉さんを困らせてしまうだけですし、願望の域は出ていないので、自分のわがままだっていうことは承知の上ですけれども。
それでも、やっぱりちょっと、あんまりこれ以上増えないでほしいなぁ
しかも、こんなにかっこいい王子様……そりゃ、その辺の馬の骨(差別用語)を引っ張り込まれるよりは、全然良いですけれども…
お姉さんをゲットするには、僕はもっともっと頑張らないといけないなぁ…
そんな事も考えてしまうのは、仕方ないと思うのです。
僕は、目の前のクリスティアン王子に気づかれないよう、そっとため息をついて、そろそろと伸ばされるエディ兄さんの手を押しやってどかしました。
僕は今、王宮でアレフハイム共和国はアムリア神殿への視察についての打ち合わせに来ています。
あちらの国から国を通しての伝達であったので、王弟のクリスティアン王子の名で王宮に召喚されたからです。
そして、その打ち合わせには、視察団団長として僕と、その保護者兼補佐役としてエディ兄さんが呼ばれ、王宮側の責任者のクリスティアン王子と、補佐のロドリーゴ魔導師長が参加しているのですが…。
「えっ!? …アムリア神殿の神官長が、お姉さんの夫に…!? なんでそんなことに!?」
打ち合わせが始まる前、最近になって急に使者をやり取りする回数が増えてきましたね…なんて話している時のことでした。
何がどうなって、そうなったのか…僕にはよくわかりませんが…隣にいたエディ兄さんも、ポカンと口を開いてびっくりしています。
「ああ、まあ、そうだな。 それに関しては、俺も同意見だが…。
どうも、急に活性化した精霊たちの様子を伺おうと、ヨナ神官長が秘蔵の精霊魔術を駆使して彼女の身辺に探りを入れていたところを見初められた…というか、目をつけられたらしい。
保身は一級品の割には、あまり細かいことを気にするような質ではないので、姫はあっさり受け入れてしまっているが…。
精霊同士の繋がりもあるので、そういった障壁もなく、相手が人類の秘宝とも言われるヨナ神官長であれば、我々が口を出すのも憚られ……。
夫のステイタスが良ければ良いほど、女の勲章みたいな所もあるので、姫には相応しい縁組だと…マーリン殿やタロウ殿も考えたそうだ。
そろそろ他の国もうるさくなってきていたしな…」
「そ、そんな…。あなたも夫の一人ではないですか。
あなたも了承したというのですか? 」
「俺? いや、別に反対はしないぞ?
精霊の加護持ちとしては、先達であり、中央大陸全土に名を知られる聖職者にして政治家でもある方だ。魔具製造にも造型が深いとも聞く。
そんな大物を引き込んだ姫は、さすがだと思うと誇らしいじゃないか
確かに浮世離れして美しい方ではあったが……姫はちゃんと我々のことにも気を使って、どうすれば良いのか聞いてくれるし、一人を寵愛するということもないしな……残念ながら」
…そんなのほほんとしたマヌケな笑顔(暴言)にイラッとします。
これだから坊ちゃん育ちは(偏見)。
アムリア神殿の神官長なんて…人類最高峰の美貌を謳われ、神殿史上最年少で神官長の要職についたという有名人じゃないですか。世界的な名声や知名度なら、この国の王様をも遥かに超えます。
こんなハイスペック過ぎる夫が現れて、なんで焦りとかないんでしょうか?
魔獣のお二人なら、そもそもの次元が違うから気にも留めないかもしれないけれども、はっきり言って、僕には驚異としか感じられないのですが!?
先に夫になったという余裕からでしょうか?
僕が婿入りする前に、なんでそんなにハードル上げちゃうんですか!?
ていうか、そんなにできた方であるというのならば、この眼の前のヤリチン(偏見)みたいに様々な男も女も千切っては投げのご乱行でもしていてくれれば、さすがにお姉さんも引いただろうに、あんな山奥に男ばかりで暮らしてるもんだから、浮いた話もなくて清廉潔白な身の上…とか。
一説によると、あまりに女性の影がなさすぎて、実は同性愛者なんじゃないかとも噂されていると聞いていたのに。
そのまま、ムサイ神殿騎士たちに偶像化されながら取り巻きの男どもと山奥でキャッキャウフフしてれば良いものを(黒い)……
なんですか、精霊様のお導きって……精霊様は縁結びの能力もお持ちだったんですか?
そんなの聞いたことないですよ!
…なんて、後から後から湧き出る不満を押し込みつつ、王子の緊迫感のない態度に、いつになく、怒りがこみ上げてくるのですが、これが八つ当たりであるということは、自分でも十分自覚しています。
なので、僕は張り付いた笑顔のまま脳裏をよぎった考えをおくびにも出さず、淹れ直された温かいお茶を啜ってコメントを避けました。
僕は……王子のことも、神官長のことも…夫にしてもいいかなんて、何も聞いてもらってないよ…お姉さん。
しかし、そんなことを口走って、このライバルに憐れまれるなんて、死んでも嫌だったので、気持ちが収まるまで長いこと俯いて、ゆっくりお茶を啜っていました。
「ろ、ロビン?」
僕が赤ん坊の頃からみてきたエディ兄さんは、僕の怒りのオーラを察して気遣わしげに伺ってきますが、無視しました。
「くくっ…不機嫌そうだな。 連れが心配しているぞ」
坊っちゃん育ちだのなんだの言ったところで、相手は僕の親よりも年上の王子様です。
普段から貴族相手に腹の読み合いをしているような方にとって、僕のような子供の内心など、手にとるようにわかるらしいです。悔しいですが。
クリスティアン王子は、誂うように鼻で笑って僕を見ていましたが、僕が渋々顔を上げると優しく微笑みました。
「お前が成長して、その時には心が変わるかもしれないからと、姫はあえてお前に伝えなかったと聞いたが…彼女は獣人の一途さを知らない。まして、おまえのように頭も良くて用意周到に物事を運んでいくような男なら、一生心を変えることはないだろう。
良きにつけ悪しきにつけ、しつこくつきまとって、狙った獲物を逃すヘマをすることもない。
姫は…ちょっとそのあたりの認識が甘い。
ふふっ…そういう抜けている所もかわいいんだがな。
…まあ、いずれ俺と同じ位置にくるつもりだろうから、その辺りは彼女にも重々わからせてやってくれ。
…期待してるよ」
お姉さんの、ツメが甘くてスキだらけな所がかわいいなんて、言われなくても知っています。
しかし、その鷹揚な笑顔に嫌味なものがなく、大人の男の包容力のようなものを感じさせ…ああ、こういうところが良かったのかな…と、思いながら、
「……同じじゃないです。 あなたより、上です。
マイカ様に初めて出会って告白した時、あなたはいらっしゃいませんでしたので」
僕はニッコリと笑い返しながら、細めた目で王子を睨みつけた。
「はっはっは…、そうか、先輩だったな。 それは悪いことを言った。 でもな、人生の先輩として言ってやる。
恋愛は、出会った順番で決まるものでもないんだぞ?」
そう言って笑いながら宣った王子の目も、最早笑ってはいませんでした。
僕たちは、クックック と、さも楽しそうに歓談している体ではありましたが、お互いを同じ女を愛する仲間であり、ライバルであると認識しあった、宣戦布告の笑いでした。
横でエディ兄さん(空気)とロドリーゴさん(存在忘れてました)はハラハラしながら僕たちのやり取りを見守っていましたが、その後至って平和に、なんの問題もなく仕事の話を進めていったのでした。
最近あまり街なかを出歩くことも減りましたが、テルマイアの街で女神マイカを奉じる教団の長となるべく、日々勉強に勤しんでいます。
毎日忙しくて、夜にはヘトヘトになっていますが、魔道具を介してでもお姉さんとお話できると、それだけで明日も頑張ろうと思えます。
愛は世界に彩りを与える…クサい言葉ですが、物事の真実を表しているんだなぁ…なんて思ってしまうような、今思えば若い時(えっ?^^;)もありましたが、最近はちょっと彩りが褪せるような…そんな悩みが出てくるようになりました。
まあ、悩みと言っても、やっぱりお姉さんに関わることになるのはご想像の通りなんですけれども。
早く大人になりたいな…なんて、年相応に思った次第です。
この間の冬に、僕は13歳になって、少し背が伸びたと思うのですが、成長の遅い僕は、多少成長しようとも、まだまだ世間一般の10歳児程度にしか見られません。
お姉さんだけはご自分も若く見られるせいか、年相応に見てくれるようになってきたので、それはちょっとうれしいですけれども、まだ背はお姉さんよりもちょっと低いし、街の人たちにはまだまだ子供扱いされてしまいます。
「ええ…? かわいいロビンのままでいいじゃない…」
エディ兄さんは、よくそうやって僕の頭を撫でながら、やたらとギューギュー抱きついてきますが、そろそろ僕もお姉さんに一人前の男として認められたい…までは行かなくとも、多少は男として意識されたいと思うのです。
子供はエディ兄さんが今僕にしているように、気安くスキンシップをとっても怒られないという利点もありますが、いずれお婿さんにしてほしい女性に、男として意識されないのもちょっとツラい…。複雑です。
「やだなー、こんなに小さくてふわふわでかわいいのに…。 伯父さんみたいなマッチョになったら、泣ける…」
そう言いながら、僕をお膝に座らせようとするエディ兄さんの手をスッと避けると、耳をヘタレさせて落ち込みましたが、僕は無視を決め込みました。
…エディ兄さんは、僕に対してちょっとスキンシップが多すぎる気がします。
エディ兄さんも一人っ子で他に兄弟も年下のいとこなどもいないせいか、僕を年の離れた弟のように可愛がってくれるのはいいのですが、油断すると、すぐに耳やらしっぽやら、際どい所をしつこく撫でようとしてくるので、時々うっとおしくなって、邪険に扱ってしまいます。
そうして、にこやかに微笑みつつ、大きなソファの上なのに、やたらと近い位置にいるエディ兄さんから距離を置こうとしていると、
「いやいや、俺の子供の頃に比べたら、全然大きいぞ。
俺がおまえの年の頃には、完全に侍女たちの着せかえ人形にされて、似合うからとやたらと可愛らしいデザインの衣装を着せられてはキャーキャー言われていたからなぁ…」
そう言って、遠い目をしてお茶を啜っている男性は、クリスティアン王子様です。
僕と同じ半獣人の男性なので、同じ様な悩みを辿ってきた先輩のようなものなのですが…40歳近い彼は現在、20代半ばの美青年にしか見えないので、いたわりの言葉も心に響かず……。
現在の僕たちの関係性を考えても、若干の苛立ちすら感じます。
そう、関係性。
現在、ポッと出のくせにお姉さんの夫として認知されつつある、立派な大人である彼と、出会ってからずっと愛を囁いてきたのに、未だに弟のような扱いしかされない僕との関係は、正に微妙なものなのです。
しかも、それを気にしているのは僕だけで、この人も、お姉さんですら、僕のことをそういう相手だとは思っていないような…そんな気配にもイラッとします。
あくまで子供扱いなお姉さんが、僕が大人になるまで一人で待っててくれるなんて、思ってませんでしたが…
マーリン様やタロウ様方の次、3番目になるのは僕のままだと思いたかった。
まあ、そんなことを願ってもお姉さんを困らせてしまうだけですし、願望の域は出ていないので、自分のわがままだっていうことは承知の上ですけれども。
それでも、やっぱりちょっと、あんまりこれ以上増えないでほしいなぁ
しかも、こんなにかっこいい王子様……そりゃ、その辺の馬の骨(差別用語)を引っ張り込まれるよりは、全然良いですけれども…
お姉さんをゲットするには、僕はもっともっと頑張らないといけないなぁ…
そんな事も考えてしまうのは、仕方ないと思うのです。
僕は、目の前のクリスティアン王子に気づかれないよう、そっとため息をついて、そろそろと伸ばされるエディ兄さんの手を押しやってどかしました。
僕は今、王宮でアレフハイム共和国はアムリア神殿への視察についての打ち合わせに来ています。
あちらの国から国を通しての伝達であったので、王弟のクリスティアン王子の名で王宮に召喚されたからです。
そして、その打ち合わせには、視察団団長として僕と、その保護者兼補佐役としてエディ兄さんが呼ばれ、王宮側の責任者のクリスティアン王子と、補佐のロドリーゴ魔導師長が参加しているのですが…。
「えっ!? …アムリア神殿の神官長が、お姉さんの夫に…!? なんでそんなことに!?」
打ち合わせが始まる前、最近になって急に使者をやり取りする回数が増えてきましたね…なんて話している時のことでした。
何がどうなって、そうなったのか…僕にはよくわかりませんが…隣にいたエディ兄さんも、ポカンと口を開いてびっくりしています。
「ああ、まあ、そうだな。 それに関しては、俺も同意見だが…。
どうも、急に活性化した精霊たちの様子を伺おうと、ヨナ神官長が秘蔵の精霊魔術を駆使して彼女の身辺に探りを入れていたところを見初められた…というか、目をつけられたらしい。
保身は一級品の割には、あまり細かいことを気にするような質ではないので、姫はあっさり受け入れてしまっているが…。
精霊同士の繋がりもあるので、そういった障壁もなく、相手が人類の秘宝とも言われるヨナ神官長であれば、我々が口を出すのも憚られ……。
夫のステイタスが良ければ良いほど、女の勲章みたいな所もあるので、姫には相応しい縁組だと…マーリン殿やタロウ殿も考えたそうだ。
そろそろ他の国もうるさくなってきていたしな…」
「そ、そんな…。あなたも夫の一人ではないですか。
あなたも了承したというのですか? 」
「俺? いや、別に反対はしないぞ?
精霊の加護持ちとしては、先達であり、中央大陸全土に名を知られる聖職者にして政治家でもある方だ。魔具製造にも造型が深いとも聞く。
そんな大物を引き込んだ姫は、さすがだと思うと誇らしいじゃないか
確かに浮世離れして美しい方ではあったが……姫はちゃんと我々のことにも気を使って、どうすれば良いのか聞いてくれるし、一人を寵愛するということもないしな……残念ながら」
…そんなのほほんとしたマヌケな笑顔(暴言)にイラッとします。
これだから坊ちゃん育ちは(偏見)。
アムリア神殿の神官長なんて…人類最高峰の美貌を謳われ、神殿史上最年少で神官長の要職についたという有名人じゃないですか。世界的な名声や知名度なら、この国の王様をも遥かに超えます。
こんなハイスペック過ぎる夫が現れて、なんで焦りとかないんでしょうか?
魔獣のお二人なら、そもそもの次元が違うから気にも留めないかもしれないけれども、はっきり言って、僕には驚異としか感じられないのですが!?
先に夫になったという余裕からでしょうか?
僕が婿入りする前に、なんでそんなにハードル上げちゃうんですか!?
ていうか、そんなにできた方であるというのならば、この眼の前のヤリチン(偏見)みたいに様々な男も女も千切っては投げのご乱行でもしていてくれれば、さすがにお姉さんも引いただろうに、あんな山奥に男ばかりで暮らしてるもんだから、浮いた話もなくて清廉潔白な身の上…とか。
一説によると、あまりに女性の影がなさすぎて、実は同性愛者なんじゃないかとも噂されていると聞いていたのに。
そのまま、ムサイ神殿騎士たちに偶像化されながら取り巻きの男どもと山奥でキャッキャウフフしてれば良いものを(黒い)……
なんですか、精霊様のお導きって……精霊様は縁結びの能力もお持ちだったんですか?
そんなの聞いたことないですよ!
…なんて、後から後から湧き出る不満を押し込みつつ、王子の緊迫感のない態度に、いつになく、怒りがこみ上げてくるのですが、これが八つ当たりであるということは、自分でも十分自覚しています。
なので、僕は張り付いた笑顔のまま脳裏をよぎった考えをおくびにも出さず、淹れ直された温かいお茶を啜ってコメントを避けました。
僕は……王子のことも、神官長のことも…夫にしてもいいかなんて、何も聞いてもらってないよ…お姉さん。
しかし、そんなことを口走って、このライバルに憐れまれるなんて、死んでも嫌だったので、気持ちが収まるまで長いこと俯いて、ゆっくりお茶を啜っていました。
「ろ、ロビン?」
僕が赤ん坊の頃からみてきたエディ兄さんは、僕の怒りのオーラを察して気遣わしげに伺ってきますが、無視しました。
「くくっ…不機嫌そうだな。 連れが心配しているぞ」
坊っちゃん育ちだのなんだの言ったところで、相手は僕の親よりも年上の王子様です。
普段から貴族相手に腹の読み合いをしているような方にとって、僕のような子供の内心など、手にとるようにわかるらしいです。悔しいですが。
クリスティアン王子は、誂うように鼻で笑って僕を見ていましたが、僕が渋々顔を上げると優しく微笑みました。
「お前が成長して、その時には心が変わるかもしれないからと、姫はあえてお前に伝えなかったと聞いたが…彼女は獣人の一途さを知らない。まして、おまえのように頭も良くて用意周到に物事を運んでいくような男なら、一生心を変えることはないだろう。
良きにつけ悪しきにつけ、しつこくつきまとって、狙った獲物を逃すヘマをすることもない。
姫は…ちょっとそのあたりの認識が甘い。
ふふっ…そういう抜けている所もかわいいんだがな。
…まあ、いずれ俺と同じ位置にくるつもりだろうから、その辺りは彼女にも重々わからせてやってくれ。
…期待してるよ」
お姉さんの、ツメが甘くてスキだらけな所がかわいいなんて、言われなくても知っています。
しかし、その鷹揚な笑顔に嫌味なものがなく、大人の男の包容力のようなものを感じさせ…ああ、こういうところが良かったのかな…と、思いながら、
「……同じじゃないです。 あなたより、上です。
マイカ様に初めて出会って告白した時、あなたはいらっしゃいませんでしたので」
僕はニッコリと笑い返しながら、細めた目で王子を睨みつけた。
「はっはっは…、そうか、先輩だったな。 それは悪いことを言った。 でもな、人生の先輩として言ってやる。
恋愛は、出会った順番で決まるものでもないんだぞ?」
そう言って笑いながら宣った王子の目も、最早笑ってはいませんでした。
僕たちは、クックック と、さも楽しそうに歓談している体ではありましたが、お互いを同じ女を愛する仲間であり、ライバルであると認識しあった、宣戦布告の笑いでした。
横でエディ兄さん(空気)とロドリーゴさん(存在忘れてました)はハラハラしながら僕たちのやり取りを見守っていましたが、その後至って平和に、なんの問題もなく仕事の話を進めていったのでした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。
具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。
※表紙はAI画像です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる