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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
颯太くんの成長日記 ① ※
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「……おい、もっと気合い入りぇて乳出しぇ」
ペチッ!
チュクチュクと目の前の乳首に吸い付きながら、俺は紅葉の葉っぱのように可愛らしくなった平手で白い乳房を叩いた。
そして、「乳を出せ」と言った所で、子供を産んだわけでもない乳首から出てくるのは母乳ではなく、濃厚な『魔力』という目に見えないアヤシイものなのだが、吸っている内に少しずつ滑舌も滑らかになっていることから、不思議と自分が吸収していると実感できるので、夢中になってチューチューと吸い上げる。
あんまり吸い付きすぎてほんのり赤く色づいたピンクの乳首の舌触りは滑らかで、赤ん坊の俺の頭よりは小さいものの、乳房自体も程よく大きくて張りのある良いおっぱいである。
常ならば、この様な至宝の持ち主は拝んでも惜しくはないと思えるのだが…その持ち主が問題なのだ。
というのも、この良きおっぱい。…実は母親のものではない。しかし、他人でもないし、もちろん彼女でもない。
ぶっちゃけた話、実の姉のものだったりする。
施しを受ける弟の分際で、与えられる姉の乳を叩いて暴力に訴えるなんて、我ながら暴君のような振る舞いだと思わなくもないが、有り難いと思いながらもこの姉を前にすると、どうしてもこのような粗暴な態度になってしまう。
後から一人になって自分の言動を思い返すと、いい年しても治らない思春期反抗期のこじらせ具合に、恥ずかしくなってお包みの中でジタバタと暴れてしまうが、最早長年の習慣のようなものになってしまい、中々態度を改められない。
ホントは、姉ちゃんに会えてすっげー嬉しかったのに…
ふと頭に浮かんだ思いを自覚し、またもや恥ずかしくなって、照れ隠しに胸に吸い付きながらペチペチと白い胸を叩く。
高校生ももうすぐ卒業だというのに、家族に素直になれない自分に嫌気がさすが、素直に表現したらただのキモいシスコンであるので、自重って大事だと思うことにした。
一応、ヤバい奴だという自覚はある。
「痛っ! ちょっと叩くのやめてってば!
大体、人のおっぱい吸いながら何威張ってんのよ!」
姉ちゃんは俺の思いなど全く気づかず、小さな赤ん坊ボディの俺を引き剥がそうと引っ張った。
「あっ、やめりょ、離しゅなバカ!
早く元に戻りゃないといけにゃいんだから、もっと吸わしぇりょーーっ!」
「だから、乳首を…おっぱいを引っ張るなっ!
まだ若いのに、伸びたり垂れたりしたらどうしてくれんのよ!
ていうか、あんた、赤ん坊で呂律もまわらないくせに態度デカイのよ!
もっと可愛らしく『バブー』とかオネダリしてみなさいよ!」
『バブー』…か…赤ちゃんプレイだな。…リアルガチで。
ふと頭に、本来の俺(男子高生)の姿で姉ちゃんのおっぱいに吸い付く妄想が浮かび、そのバブみになんとも言えない魅力を感じた。
悪くない。
しかし、そう思ったものの眼に入る赤ん坊の指先の可愛らしさに、一瞬にして我に返り、
「誰がしょんなことゆうかよ!
外見こんにゃでも、中身は大人…18歳にゃんだじょ!
ちょっとE乳してるからって、調子に乗ってんじゃにぇえ!
いいから黙って乳を…魔力を寄越しぇ!
お前が無駄に溜め込んでる魔力を吸収して、おりぇは早く大人に戻りゅんら!」
大人しく妄想できたのもほんの一時で、俺はすぐに本来の状況を思い出して激高したが…呂律が回りきらないため、どうにもコントにしかならないと気づいて、余計に怒り狂う。
大体、中身は大人…って、実際口に出すとアレだよな。
自分が口走ったセリフを思い出すと余計に羞恥が増して、身悶えた。
「わかったから、ペチペチ叩くのやめろって言ってんのよ!
赤ん坊の小さい掌でも結構地味に痛いんだから!
暴力反対!」
「178cmの大人の体に戻って…おりぇは大学受験のために日本に帰らにゃいといけにゃいんらよぉぉっ!!」
声変わりなど微塵も感じさせない、小さな赤ん坊の甲高い声で泣きながら絶叫するも…その叫びは虚しく空間に吸い込まれていき、『仕方ないわね…やれやれ』という風情の姉のため息が、俺の背中に大きくのしかかる。
俺はただただ、姉の豊かな胸の谷間に顔を埋めてエグエグと涙に暮れ、その背中をそっと撫でる優しい手に慰められていた。
さて、この一見若い母親とその赤ん坊の授乳プレイ―――姉「プレイ言うなし」―――じみたやり取りが、実は姉弟間での事と知って驚いている方もいるだろうが、少し言い訳…というか、事情を聞いていただきたい。
俺だって、いくらシスコンこじらせていても、姉の乳を揉みしだいて、バブみ溢るる授乳プレイに及ぶような妄想など (あんまり) したことはなかった。
そういう意味では、かなり真面目なシスコンであったことは断言しても良い。
だが、体の年齢が退行するとともに、これまで理性と常識で押し込んきた欲望が首をもたげてきたと表現すべきなのだろうか…?
7歳年上の姉とは、年が離れていることもあって、こんなに赤裸々な口論などしたことはない。
大体、姉が実家で暮らしていた時は、いつも「姉ちゃん姉ちゃん」と、ちょっと困った顔しながら、されるがままに流されている姉の周りにまとわり付いていたのだから。
俺が思春期をこじらせる前に姉は家から離れていったので、後は―――俺からの一方的な―――冷戦状態に突入して現在に至る。
なので、まるで時間を巻き戻したようなこの状況も案外悪くないのだ。
赤ん坊特権も発動しているため、姉も俺に甘いし。
これから少しずつ…少しずつ以前のように関係を修復して、仲の良い姉弟に戻れれば……
姉の乳首をモギュモギュと舐りつつ白い肌に小さな指を立ててめり込ませながら、クフフと笑いがこみ上げた。
俺の名前は支倉 颯太(18歳)。
現在は生後半年程度の赤ん坊の姿になっているが、元々は都内の公立高校に通う高校3年生だった。
今は、突然おかしな世界に迷い込み、その影響で赤ん坊ボディになってしまったショックから立ち直り、元の体で元の世界に戻るために、ひたすら姉から魔力を摂取(搾取)する日々を送っている。
弟に授乳するなんて…中々できたことじゃないわよ、おねーちゃん。仲のいい姉弟なのね。
この様子を見て、そんなふうに思う人もいるかもしれないが、実はまるでそんな関係ではなく…
6年前、姉の麻衣が大学進学する時に一人暮らしを始め、それ以降は普通の姉弟程度には疎遠な生活を送っていた。
当時小学6年生だった俺は、大好きな姉が家から出ていってしまうことがショックで、まるで置いていかれた様な気持ちになって悲しみ、姉が引っ越す当日になっても口を利かないほど静かに怒り狂っていた。
その後、当時飼っていたペットのタロウ(柴犬系雑種)の臨終の際にも帰って来なかったのも、怒りもあったが、寂しくもあった。
…あの犬は姉ちゃんばかりに懐いていて、俺のことはできの悪い弟のようなものだと思っていたフシがあるが…あいつも俺なんかに看取られて、可哀想なやつだったと思う。
そして、勝手に俺から離れてしまう時の悲しみから、姉への反抗期が始まったとも言えるのだが…未だに素直になれないのは、俺もまだあの時の気持ちを乗り越えられていないからだろう。
時々実家に帰ってくる姉が、そんな俺の態度の変化にショックを受け…思春期真っ最中で可愛げの無くなっていく俺に近寄らなくなってしまったので、余計に素直になるタイミングを逸し続け、更に避けられるという悪循環が続いていたのだ。
そして、最後に姉の姿を見たのは、今年の冬休み。
俺が高校2年の正月に、姉が実家に帰省していた時だった。
とは言え、俺は俺で予備校に通い始めていたし、ツレと受験前の旅行に行く計画も立っていた。
姉も、地元の友だちと会うのに忙しいのか、あまり家で一緒にいることもできなくて…気づいたら、知らない内にアパートに帰って行ってしまっていたのだった。
…素っ気ないにも程がある。
姉が出ていった後の姉の部屋で、俺は姉の匂いに包まれながら、その日も彼女のベッドで静かに涙に暮れていた。
憔悴して部屋を出る俺の姿を見た母親の、「ホントに…。誰に似たのかしら…不器用な子(-_-)」というセリフが胸を抉ったが、何も言えなかった。
そんな、仲が悪いとまでは言えないものの、どこか余所余所しい俺たち姉弟だったが、その関係性が変化することとなった始まりは、10日ほど前。
夏期講習に忙しかった夏も終わりが近づき、もうすぐ高校生活最後の夏休みが終わるなぁ…なんて思っていた時のことだった。
駅前の予備校で受けた夏期講習の帰り道、俺は夕暮れ時に熱をもったアスファルトの地面をスニーカー越しに感じながら、家の近くの駅から自宅まで、スマホのメールをチェックしつつ家路を辿っていた。
そろそろ秋口に差し掛かる時期だというのに風もなく、湿度の高い蒸し暑い日だったのだが、急にヒヤッとした冷たい風が体に吹付け、思わずスマホの画面から目を離してブルッと体を震わせた―――その瞬間。
周囲が真っ黒な暗闇に覆われたと感じた時には、むき出しの砂利道の真ん中で、両足を投げ出した全裸の状態でポカン空を見上げて座り込んでいた。
全裸と言っても、大人の体でストリーキング状態だったら、住民からの通報案件だったし、人に見つからないよう速攻物陰に逃げ込んでいただろう。
だが、不幸中の幸い…と言って良いのかどうかと思われるが、その時すでに赤ん坊の体になっていて、公序良俗違反的な問題はないな…と、咄嗟に考えたのは現実逃避だったのだと、今ではわかっていた。
そして、やたらとバランスの悪い自分の体に絡まって動きを抑制している布切れが、つい今まで着ていたTシャツやらGパンやら下着やらだったことに気づいた瞬間。
「ふぎゃああああっ!!」
地面に座り込んで空を仰いだまま、ショックのあまり心の底から泣き出した。
中身は18歳の大人…とまでは言わないが、人前で声を上げて泣くような年齢の子供でもないはずだったが、やはり体の年齢に引きずられていたのだと言うのは言い訳じゃないと思う―――今でもちょっとした精神的ショックでやたらと涙が止まらないから。
仰いで見上げた空は家の近くで見慣れた淀んだものではなく、田舎のじいちゃん家から見上げた青空の様に澄んでいて、高かった。
住宅街を歩いていたはずだったのに、見渡す周りは木々に覆われていて、人のいる気配など何もなかった。
そして…自分の体はこんなに…赤ん坊の様に小さくなかった。
ここは一体どこなのか?
俺はどうなってしまったのか。
それに答える者はどこにもおらず、もぞもぞと自分が着ていたはずのTシャツに包まりながら、助けを求めてひたすら泣き叫んでいたのだった。
そしてどれ位の間泣いていたのかは分からなかったが、小さな体の水分をかなり失ってしまったのだろう。
声も涙も枯れ、ヒックヒックとしゃくり上げながら、目の前に少しずつモヤが掛かっていく様な感じを自覚しつつ、緩やかに意識を消失していったのだった。
「…なんかこの子、すっごい見覚えあるのよね…でも、この世界で獣人でもない赤ん坊なんて見たことないし…」
フワフワと柔らかくて温かいものに包まれながら、どこかで聞いた懐かしい声がして、俺は顔に当たる柔らかいものに頬を擦り付けると、優しい手に背中を擦られて、頬が緩む。
トクントクンと耳を打つ穏やかな音を聞いていると、妙に安心できて…やっぱりあれは夢だったんだと思いながら、遠くで聞こえる複数の声に意識が覚醒していくのを感じていた。
『いや、この赤子、主と血縁ではないか? 匂いが近い』
『ニャにっ!? ご主人の隠し子にゃ!?
…確かに、顔も魔力の気配もご主人に似てるニャぁ…。
こんな存在が他にいるわけもなし…ご主人、我々に内緒でどこで産んだのニャ!?
我々という者が在りながら、内緒で子を産み落とすなんて、裏切りニャ!』
何か間抜けな猫みたいな喋り方をする奴がいるけども…ちょっとキャラ作りすぎじゃね?
なんかキャラ作りがあざとすぎて、ニャーニャー言ってる女子とか…引くよなぁ…。
大体、「我々」ってなんなんだよ。複数プレイはいいのか?
てか、内緒で子を産むって…不倫? 昼ドラ?
こいつら乱れてるなぁ…
俺は、頬に当たる弾力を楽しみながら、ニャーニャーとあざとイタイ奴含め、周囲の状況について、フワフワしながら遠慮もなく考えた。
「いや、落ち着いてよ。ずっと一緒にいるのに、産んでる暇なかったでしょ?
どう見たって、この子1歳にもなってない赤ちゃんじゃない。
確かに…この世界では見かけない…私と同じ人種だとは思うよ。耳も肌の質感も。
ソレを差し引いても、顔も似てる……。
でも、この世界で獣人でもエルフでもない赤ちゃんって、見たことないのよね…。
赤ちゃんなのに…私と同じ様に異世界転移とかだったら…親御さん、探してるだろうなぁ…」
『だが、確かにご主人と同じ…妙に懐かしい匂いがするのだが……』
声変わりが終わった…中坊位の年齢の男が二人と、若い女が一人。
しかし女の声は、なぜか懐かしいような、ずっと逢いたかった人のような…切ない気持ちになる。
『ご主人、この赤ん坊が包まってた布やら、周囲にあった荷物やらも持ってきてるニャ』
その言葉を聞いた瞬間、肩掛けカバンの中に入れた大学受験グッズの存在を思い出してハッとなり、ガバっと顔を上げて体を起こした。
「てきしゅと!!」
その時最初に目に入った女の顔が、―――俺の記憶に焼き付いている―――家から出て行く時の…18歳の時の姉の顔に重なって……
「…えっ? テキスト?」
ポカンと表現するのがふさわしい程目を丸くした女が俺の姉ちゃんだと直感し、
「えっ、えっ…? …まさか……颯太……?」
名を呼ばれた瞬間、再び壊れたように泣き出したのだった。
その後、この世界が俺たちが生まれ育った世界とは違う世界であり、姉もこの世界で数年前に突然転移してきたことを聞かされた。
最初は「そんなまさか」と鼻で笑おうとしたのだが、自分の姿を鏡で確認して声も出ない程驚き、姉と一緒にいた二人の少年の姿が犬や猫に変わる瞬間を目の当たりにして、この状況を受け入れざるを得ないと理解した。だが…
そうだ、これは夢だ…。 夢に決まっている。
つい直前まで、受験戦争というシビアな戦闘に身を投じていた俺が、こんなおかしな世界に放り込まれるわけがない!
もうすぐ本番だと言うのに、中々伸びない成績に思い悩んで、こんな夢まで見始めてしまったのだ!
がんばれ俺。早く起きろ、俺。
こんな所で現実逃避している場合じゃないぞ!
そんな意識が、ジリジリと俺の焦燥感を掻き立てているのも現実なわけで…。
俺は、姉がどこぞから調達してきたお包みに身を包まれ、やたらと大きなベッドに寝かせられながら、ムニャムニャと独り言を呟いてジタバタと手足を動かした。
俺の傍らで寝そべってスマホの画面をチェックしている姉は、落ち着きのない動きをする俺に気づいて覗き込む。
姉の頭元にはペットの犬と猫が丸くなって、俺を囲んで眠っていた。
「……おしっこ?」
「ちぁうわっ!!」
急に大人しくなった俺を覗き込んで、まるで見当違いな心配をする姉にイラッとして、反射的に叫ぼうとするものの、思ったような言葉も出ない自分がもどかしい。
しかし、姉はそんな俺の言いたいことを正しく理解したわけではないようだが、そっと俺の体を抱き上げて背中をポンポンした。
「まーまー、そんなに怒らないでよ。
今ちょっとお世話になってる人…たち? に聞いてみたんだけど、あんたのその体、魔力欠乏によるものなんだって。
こっちの世界に移動する衝撃で魔力がゴッソリ奪われて、防衛本能のようなものが働いたために、魔力消費の少ない赤ん坊の体になったんだろうって。
だから魔力を補充すれば………って、ええええっ!?」
片手で俺を抱っこしながら、空いた片手でスマホの画面を操作していた姉は、急に驚いて声を上げる。
突然至近距離で大きな声を上げられて、俺は思わずビクッとした。
近くで寝そべっていたペットも驚いて、パッと2匹同時に顔を上げる。
「にゃ、にゃに?」
姉の驚愕ぶりに驚いて、恐る恐る声をかけるも、姉は真っ赤になったり真っ青になったりと忙しなく顔色を変えて震えている。
その動揺加減がこちらにも伝わってくるので、不安で仕方ない。
「にぇえ、にゃんにゃの? まりょくって、にゃに?」
2匹のペットも、姉の様子に不安を掻き立てられたのか、にゃーにゃークンクンと鳴き声を上げて、姉の肩口から顔を出して顔を覗き込んでいる。
「ちょっと、マジで言ってるの? 嘘でしょ!?
いやいやいやいや…ないわー…マジないわー…」
一体何を言われたというのか…
俺はただただ不安になって、ガバガバになった涙腺から溢れる涙を溜めながら姉の顔を見上げ…
「あーー、うーーー…。仕方ないの…? 本当? でも、速攻性というには、ソレしかない…のね…?
ほんと? また騙してない? え、嘘じゃないって? なるべく早くした方がいいの?
ああああ………マ ジ で か――――……」
ツイッターだかチャットだかの相手と話し合いながら、何やらえらい葛藤しているような姉だったが、俺の涙をお包みの端で拭うと俺の体を目の前まで持ち上げて、意を決した様に口を開いた。
「…失った魔力を補充するには、自然に回復するのを待つか、他から補充するしかないそうです。
だけど、あんたが失った魔力の量が膨大過ぎて、回復を待とうとすると、何十年…何百年と掛かるだろうと…」
はい?
……いやいやいや、何言ってんの、この体で何十何百って…普通に死ぬるわ!
「そしてもう一つ…他からの補充…となると、他の存在から吸収する…という手段と成るわけですが…」
そこで一度言葉を切って、姉はゴクリと喉を鳴らした。
のほほんとした姉の、常にない切迫した様子につられて、俺も思わず息を呑んだ。
「…私から摂取するのが…一番効率が良いだろうと言われました」
………実は魔力というものがよくわからんのだが、実の姉からもらえると言うのなら、下手に他人に迷惑をかけるより、それはそれで一番丸く収まるような気がする。
それなのに、何で姉ちゃんはこんなに悲壮な顔をしているのだろうか?
俺はキョトンとしながら、煮え切らない態度の姉の言葉の続きを待った。
「確かに、こう言ってはなんですが、私の魔力総量は、人外さん達にもパねえレベルまであるとの太鼓判を押される程あるそうです。なので、私が一番適任であるとの言い分もわかります。だけど…その手段が…」
『ああ、ご主人の溢れ出る魔力を吸い込み、体液を啜らせるわけニャ!』
姉の肩にぶら下がる白い猫からそんな言葉が飛び出し、猫から言葉が出たことにも気づかないまま、その言葉に激しく震える姉の体にシンクロして、同じ様にビクリと体を震わせた。
だが、その言葉の内容がよく理解できず、「?」と首をかしげていると、姉は真っ赤になって目をそらしたまま、
「そそそそ…そういう訳だから…。
私の体液…唾液や汗、涙…とか愛えk…はないとして、むむむ…胸…とか…から……」
しどろもどろになって、キョトンとして見つめる俺になんとか理解してもらおうと頑張っている。
察しの悪い方でもない俺は、流石にここまでくると羞恥に悶える姉が何を言わんとしているのか正確に理解しており、
何ソレ!?
どんなエロゲの世界に迷い込んだわけ?
実の姉の体を舐め回して、体液を啜れとか……こんな尖ったコンセプトの良作がどこのレーベルから売り出されてたの!?
汗だくになって羞恥に震える姉の姿を見上げながら、ニヤリとほくそ笑んだ。
そして話は冒頭に移る。
あれから10日程、主に乳首から魔力を吸収した結果、1歳を超えた程度の姿まで成長しており、言葉の滑舌も、まだまだ呂律は回っていないが、最初の頃に比べると格段に滑らかになっていると実感できたのだった。
何で乳首なのかって?
いや、やっぱ貴重な赤ん坊体験は授乳プレイから始まるもんじゃね?
姉も、「口から唾液を…」と言われるよりは、幾分抵抗がないようだったし……
とは言え、やっぱり体液を直接啜った方が効率もいいって言うし、俺はそっちも諦めていないけどな!
目の前に迫るおっぱいに頬を寄せ、フヒヒとくぐもった笑いを含みながら、チュッチュと忙しなく乳首から漏れ出ている濃厚で甘みのある魔力を吸い上げながら、スリスリと愛おしげに撫で回してやると、不穏な気配を察したのか、姉の体がビクリと震えていた。
いかんいかん。まだだ、まだ警戒されないように大人しくしなくては。
焦りは禁物だ。
こちらとあちらの世界は時間の流れが大分違うので、このままじっくり体を成長させていっても、受験には間に合うだろうと、姉は言う。
実際、こちらに転移してから数年経っていたが、まだ数ヶ月しか経っていなかったことに大層驚いたそうで。
しかし、それもかなりアバウトな計算なんだろうとも言っていたが、少なくとも1ヶ月位こっちにいた所で、大した時間経過もないだろうという言葉を信じるしかない。
最悪でも、浪人を覚悟するべきだろうか…
いや、考えても仕方ないので、ここまできたら、夢の世界に迷い込んだと割り切って、楽しんでやろう。
姉の体験を聞いた俺は、一時の妄想バカンスモードに入ったのだと、気持ちを切り替えた。
そして早く戻って受験に備えるためには…、同時にこのボーナスタイムを目一杯堪能するためには、もう少し成長するまでちゃんと真面目に魔力を吸い上げて…実の弟にあるまじき下心があるなんて、微塵も気取られないように務めていこうと誓ったのだった。
ペチッ!
チュクチュクと目の前の乳首に吸い付きながら、俺は紅葉の葉っぱのように可愛らしくなった平手で白い乳房を叩いた。
そして、「乳を出せ」と言った所で、子供を産んだわけでもない乳首から出てくるのは母乳ではなく、濃厚な『魔力』という目に見えないアヤシイものなのだが、吸っている内に少しずつ滑舌も滑らかになっていることから、不思議と自分が吸収していると実感できるので、夢中になってチューチューと吸い上げる。
あんまり吸い付きすぎてほんのり赤く色づいたピンクの乳首の舌触りは滑らかで、赤ん坊の俺の頭よりは小さいものの、乳房自体も程よく大きくて張りのある良いおっぱいである。
常ならば、この様な至宝の持ち主は拝んでも惜しくはないと思えるのだが…その持ち主が問題なのだ。
というのも、この良きおっぱい。…実は母親のものではない。しかし、他人でもないし、もちろん彼女でもない。
ぶっちゃけた話、実の姉のものだったりする。
施しを受ける弟の分際で、与えられる姉の乳を叩いて暴力に訴えるなんて、我ながら暴君のような振る舞いだと思わなくもないが、有り難いと思いながらもこの姉を前にすると、どうしてもこのような粗暴な態度になってしまう。
後から一人になって自分の言動を思い返すと、いい年しても治らない思春期反抗期のこじらせ具合に、恥ずかしくなってお包みの中でジタバタと暴れてしまうが、最早長年の習慣のようなものになってしまい、中々態度を改められない。
ホントは、姉ちゃんに会えてすっげー嬉しかったのに…
ふと頭に浮かんだ思いを自覚し、またもや恥ずかしくなって、照れ隠しに胸に吸い付きながらペチペチと白い胸を叩く。
高校生ももうすぐ卒業だというのに、家族に素直になれない自分に嫌気がさすが、素直に表現したらただのキモいシスコンであるので、自重って大事だと思うことにした。
一応、ヤバい奴だという自覚はある。
「痛っ! ちょっと叩くのやめてってば!
大体、人のおっぱい吸いながら何威張ってんのよ!」
姉ちゃんは俺の思いなど全く気づかず、小さな赤ん坊ボディの俺を引き剥がそうと引っ張った。
「あっ、やめりょ、離しゅなバカ!
早く元に戻りゃないといけにゃいんだから、もっと吸わしぇりょーーっ!」
「だから、乳首を…おっぱいを引っ張るなっ!
まだ若いのに、伸びたり垂れたりしたらどうしてくれんのよ!
ていうか、あんた、赤ん坊で呂律もまわらないくせに態度デカイのよ!
もっと可愛らしく『バブー』とかオネダリしてみなさいよ!」
『バブー』…か…赤ちゃんプレイだな。…リアルガチで。
ふと頭に、本来の俺(男子高生)の姿で姉ちゃんのおっぱいに吸い付く妄想が浮かび、そのバブみになんとも言えない魅力を感じた。
悪くない。
しかし、そう思ったものの眼に入る赤ん坊の指先の可愛らしさに、一瞬にして我に返り、
「誰がしょんなことゆうかよ!
外見こんにゃでも、中身は大人…18歳にゃんだじょ!
ちょっとE乳してるからって、調子に乗ってんじゃにぇえ!
いいから黙って乳を…魔力を寄越しぇ!
お前が無駄に溜め込んでる魔力を吸収して、おりぇは早く大人に戻りゅんら!」
大人しく妄想できたのもほんの一時で、俺はすぐに本来の状況を思い出して激高したが…呂律が回りきらないため、どうにもコントにしかならないと気づいて、余計に怒り狂う。
大体、中身は大人…って、実際口に出すとアレだよな。
自分が口走ったセリフを思い出すと余計に羞恥が増して、身悶えた。
「わかったから、ペチペチ叩くのやめろって言ってんのよ!
赤ん坊の小さい掌でも結構地味に痛いんだから!
暴力反対!」
「178cmの大人の体に戻って…おりぇは大学受験のために日本に帰らにゃいといけにゃいんらよぉぉっ!!」
声変わりなど微塵も感じさせない、小さな赤ん坊の甲高い声で泣きながら絶叫するも…その叫びは虚しく空間に吸い込まれていき、『仕方ないわね…やれやれ』という風情の姉のため息が、俺の背中に大きくのしかかる。
俺はただただ、姉の豊かな胸の谷間に顔を埋めてエグエグと涙に暮れ、その背中をそっと撫でる優しい手に慰められていた。
さて、この一見若い母親とその赤ん坊の授乳プレイ―――姉「プレイ言うなし」―――じみたやり取りが、実は姉弟間での事と知って驚いている方もいるだろうが、少し言い訳…というか、事情を聞いていただきたい。
俺だって、いくらシスコンこじらせていても、姉の乳を揉みしだいて、バブみ溢るる授乳プレイに及ぶような妄想など (あんまり) したことはなかった。
そういう意味では、かなり真面目なシスコンであったことは断言しても良い。
だが、体の年齢が退行するとともに、これまで理性と常識で押し込んきた欲望が首をもたげてきたと表現すべきなのだろうか…?
7歳年上の姉とは、年が離れていることもあって、こんなに赤裸々な口論などしたことはない。
大体、姉が実家で暮らしていた時は、いつも「姉ちゃん姉ちゃん」と、ちょっと困った顔しながら、されるがままに流されている姉の周りにまとわり付いていたのだから。
俺が思春期をこじらせる前に姉は家から離れていったので、後は―――俺からの一方的な―――冷戦状態に突入して現在に至る。
なので、まるで時間を巻き戻したようなこの状況も案外悪くないのだ。
赤ん坊特権も発動しているため、姉も俺に甘いし。
これから少しずつ…少しずつ以前のように関係を修復して、仲の良い姉弟に戻れれば……
姉の乳首をモギュモギュと舐りつつ白い肌に小さな指を立ててめり込ませながら、クフフと笑いがこみ上げた。
俺の名前は支倉 颯太(18歳)。
現在は生後半年程度の赤ん坊の姿になっているが、元々は都内の公立高校に通う高校3年生だった。
今は、突然おかしな世界に迷い込み、その影響で赤ん坊ボディになってしまったショックから立ち直り、元の体で元の世界に戻るために、ひたすら姉から魔力を摂取(搾取)する日々を送っている。
弟に授乳するなんて…中々できたことじゃないわよ、おねーちゃん。仲のいい姉弟なのね。
この様子を見て、そんなふうに思う人もいるかもしれないが、実はまるでそんな関係ではなく…
6年前、姉の麻衣が大学進学する時に一人暮らしを始め、それ以降は普通の姉弟程度には疎遠な生活を送っていた。
当時小学6年生だった俺は、大好きな姉が家から出ていってしまうことがショックで、まるで置いていかれた様な気持ちになって悲しみ、姉が引っ越す当日になっても口を利かないほど静かに怒り狂っていた。
その後、当時飼っていたペットのタロウ(柴犬系雑種)の臨終の際にも帰って来なかったのも、怒りもあったが、寂しくもあった。
…あの犬は姉ちゃんばかりに懐いていて、俺のことはできの悪い弟のようなものだと思っていたフシがあるが…あいつも俺なんかに看取られて、可哀想なやつだったと思う。
そして、勝手に俺から離れてしまう時の悲しみから、姉への反抗期が始まったとも言えるのだが…未だに素直になれないのは、俺もまだあの時の気持ちを乗り越えられていないからだろう。
時々実家に帰ってくる姉が、そんな俺の態度の変化にショックを受け…思春期真っ最中で可愛げの無くなっていく俺に近寄らなくなってしまったので、余計に素直になるタイミングを逸し続け、更に避けられるという悪循環が続いていたのだ。
そして、最後に姉の姿を見たのは、今年の冬休み。
俺が高校2年の正月に、姉が実家に帰省していた時だった。
とは言え、俺は俺で予備校に通い始めていたし、ツレと受験前の旅行に行く計画も立っていた。
姉も、地元の友だちと会うのに忙しいのか、あまり家で一緒にいることもできなくて…気づいたら、知らない内にアパートに帰って行ってしまっていたのだった。
…素っ気ないにも程がある。
姉が出ていった後の姉の部屋で、俺は姉の匂いに包まれながら、その日も彼女のベッドで静かに涙に暮れていた。
憔悴して部屋を出る俺の姿を見た母親の、「ホントに…。誰に似たのかしら…不器用な子(-_-)」というセリフが胸を抉ったが、何も言えなかった。
そんな、仲が悪いとまでは言えないものの、どこか余所余所しい俺たち姉弟だったが、その関係性が変化することとなった始まりは、10日ほど前。
夏期講習に忙しかった夏も終わりが近づき、もうすぐ高校生活最後の夏休みが終わるなぁ…なんて思っていた時のことだった。
駅前の予備校で受けた夏期講習の帰り道、俺は夕暮れ時に熱をもったアスファルトの地面をスニーカー越しに感じながら、家の近くの駅から自宅まで、スマホのメールをチェックしつつ家路を辿っていた。
そろそろ秋口に差し掛かる時期だというのに風もなく、湿度の高い蒸し暑い日だったのだが、急にヒヤッとした冷たい風が体に吹付け、思わずスマホの画面から目を離してブルッと体を震わせた―――その瞬間。
周囲が真っ黒な暗闇に覆われたと感じた時には、むき出しの砂利道の真ん中で、両足を投げ出した全裸の状態でポカン空を見上げて座り込んでいた。
全裸と言っても、大人の体でストリーキング状態だったら、住民からの通報案件だったし、人に見つからないよう速攻物陰に逃げ込んでいただろう。
だが、不幸中の幸い…と言って良いのかどうかと思われるが、その時すでに赤ん坊の体になっていて、公序良俗違反的な問題はないな…と、咄嗟に考えたのは現実逃避だったのだと、今ではわかっていた。
そして、やたらとバランスの悪い自分の体に絡まって動きを抑制している布切れが、つい今まで着ていたTシャツやらGパンやら下着やらだったことに気づいた瞬間。
「ふぎゃああああっ!!」
地面に座り込んで空を仰いだまま、ショックのあまり心の底から泣き出した。
中身は18歳の大人…とまでは言わないが、人前で声を上げて泣くような年齢の子供でもないはずだったが、やはり体の年齢に引きずられていたのだと言うのは言い訳じゃないと思う―――今でもちょっとした精神的ショックでやたらと涙が止まらないから。
仰いで見上げた空は家の近くで見慣れた淀んだものではなく、田舎のじいちゃん家から見上げた青空の様に澄んでいて、高かった。
住宅街を歩いていたはずだったのに、見渡す周りは木々に覆われていて、人のいる気配など何もなかった。
そして…自分の体はこんなに…赤ん坊の様に小さくなかった。
ここは一体どこなのか?
俺はどうなってしまったのか。
それに答える者はどこにもおらず、もぞもぞと自分が着ていたはずのTシャツに包まりながら、助けを求めてひたすら泣き叫んでいたのだった。
そしてどれ位の間泣いていたのかは分からなかったが、小さな体の水分をかなり失ってしまったのだろう。
声も涙も枯れ、ヒックヒックとしゃくり上げながら、目の前に少しずつモヤが掛かっていく様な感じを自覚しつつ、緩やかに意識を消失していったのだった。
「…なんかこの子、すっごい見覚えあるのよね…でも、この世界で獣人でもない赤ん坊なんて見たことないし…」
フワフワと柔らかくて温かいものに包まれながら、どこかで聞いた懐かしい声がして、俺は顔に当たる柔らかいものに頬を擦り付けると、優しい手に背中を擦られて、頬が緩む。
トクントクンと耳を打つ穏やかな音を聞いていると、妙に安心できて…やっぱりあれは夢だったんだと思いながら、遠くで聞こえる複数の声に意識が覚醒していくのを感じていた。
『いや、この赤子、主と血縁ではないか? 匂いが近い』
『ニャにっ!? ご主人の隠し子にゃ!?
…確かに、顔も魔力の気配もご主人に似てるニャぁ…。
こんな存在が他にいるわけもなし…ご主人、我々に内緒でどこで産んだのニャ!?
我々という者が在りながら、内緒で子を産み落とすなんて、裏切りニャ!』
何か間抜けな猫みたいな喋り方をする奴がいるけども…ちょっとキャラ作りすぎじゃね?
なんかキャラ作りがあざとすぎて、ニャーニャー言ってる女子とか…引くよなぁ…。
大体、「我々」ってなんなんだよ。複数プレイはいいのか?
てか、内緒で子を産むって…不倫? 昼ドラ?
こいつら乱れてるなぁ…
俺は、頬に当たる弾力を楽しみながら、ニャーニャーとあざとイタイ奴含め、周囲の状況について、フワフワしながら遠慮もなく考えた。
「いや、落ち着いてよ。ずっと一緒にいるのに、産んでる暇なかったでしょ?
どう見たって、この子1歳にもなってない赤ちゃんじゃない。
確かに…この世界では見かけない…私と同じ人種だとは思うよ。耳も肌の質感も。
ソレを差し引いても、顔も似てる……。
でも、この世界で獣人でもエルフでもない赤ちゃんって、見たことないのよね…。
赤ちゃんなのに…私と同じ様に異世界転移とかだったら…親御さん、探してるだろうなぁ…」
『だが、確かにご主人と同じ…妙に懐かしい匂いがするのだが……』
声変わりが終わった…中坊位の年齢の男が二人と、若い女が一人。
しかし女の声は、なぜか懐かしいような、ずっと逢いたかった人のような…切ない気持ちになる。
『ご主人、この赤ん坊が包まってた布やら、周囲にあった荷物やらも持ってきてるニャ』
その言葉を聞いた瞬間、肩掛けカバンの中に入れた大学受験グッズの存在を思い出してハッとなり、ガバっと顔を上げて体を起こした。
「てきしゅと!!」
その時最初に目に入った女の顔が、―――俺の記憶に焼き付いている―――家から出て行く時の…18歳の時の姉の顔に重なって……
「…えっ? テキスト?」
ポカンと表現するのがふさわしい程目を丸くした女が俺の姉ちゃんだと直感し、
「えっ、えっ…? …まさか……颯太……?」
名を呼ばれた瞬間、再び壊れたように泣き出したのだった。
その後、この世界が俺たちが生まれ育った世界とは違う世界であり、姉もこの世界で数年前に突然転移してきたことを聞かされた。
最初は「そんなまさか」と鼻で笑おうとしたのだが、自分の姿を鏡で確認して声も出ない程驚き、姉と一緒にいた二人の少年の姿が犬や猫に変わる瞬間を目の当たりにして、この状況を受け入れざるを得ないと理解した。だが…
そうだ、これは夢だ…。 夢に決まっている。
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もうすぐ本番だと言うのに、中々伸びない成績に思い悩んで、こんな夢まで見始めてしまったのだ!
がんばれ俺。早く起きろ、俺。
こんな所で現実逃避している場合じゃないぞ!
そんな意識が、ジリジリと俺の焦燥感を掻き立てているのも現実なわけで…。
俺は、姉がどこぞから調達してきたお包みに身を包まれ、やたらと大きなベッドに寝かせられながら、ムニャムニャと独り言を呟いてジタバタと手足を動かした。
俺の傍らで寝そべってスマホの画面をチェックしている姉は、落ち着きのない動きをする俺に気づいて覗き込む。
姉の頭元にはペットの犬と猫が丸くなって、俺を囲んで眠っていた。
「……おしっこ?」
「ちぁうわっ!!」
急に大人しくなった俺を覗き込んで、まるで見当違いな心配をする姉にイラッとして、反射的に叫ぼうとするものの、思ったような言葉も出ない自分がもどかしい。
しかし、姉はそんな俺の言いたいことを正しく理解したわけではないようだが、そっと俺の体を抱き上げて背中をポンポンした。
「まーまー、そんなに怒らないでよ。
今ちょっとお世話になってる人…たち? に聞いてみたんだけど、あんたのその体、魔力欠乏によるものなんだって。
こっちの世界に移動する衝撃で魔力がゴッソリ奪われて、防衛本能のようなものが働いたために、魔力消費の少ない赤ん坊の体になったんだろうって。
だから魔力を補充すれば………って、ええええっ!?」
片手で俺を抱っこしながら、空いた片手でスマホの画面を操作していた姉は、急に驚いて声を上げる。
突然至近距離で大きな声を上げられて、俺は思わずビクッとした。
近くで寝そべっていたペットも驚いて、パッと2匹同時に顔を上げる。
「にゃ、にゃに?」
姉の驚愕ぶりに驚いて、恐る恐る声をかけるも、姉は真っ赤になったり真っ青になったりと忙しなく顔色を変えて震えている。
その動揺加減がこちらにも伝わってくるので、不安で仕方ない。
「にぇえ、にゃんにゃの? まりょくって、にゃに?」
2匹のペットも、姉の様子に不安を掻き立てられたのか、にゃーにゃークンクンと鳴き声を上げて、姉の肩口から顔を出して顔を覗き込んでいる。
「ちょっと、マジで言ってるの? 嘘でしょ!?
いやいやいやいや…ないわー…マジないわー…」
一体何を言われたというのか…
俺はただただ不安になって、ガバガバになった涙腺から溢れる涙を溜めながら姉の顔を見上げ…
「あーー、うーーー…。仕方ないの…? 本当? でも、速攻性というには、ソレしかない…のね…?
ほんと? また騙してない? え、嘘じゃないって? なるべく早くした方がいいの?
ああああ………マ ジ で か――――……」
ツイッターだかチャットだかの相手と話し合いながら、何やらえらい葛藤しているような姉だったが、俺の涙をお包みの端で拭うと俺の体を目の前まで持ち上げて、意を決した様に口を開いた。
「…失った魔力を補充するには、自然に回復するのを待つか、他から補充するしかないそうです。
だけど、あんたが失った魔力の量が膨大過ぎて、回復を待とうとすると、何十年…何百年と掛かるだろうと…」
はい?
……いやいやいや、何言ってんの、この体で何十何百って…普通に死ぬるわ!
「そしてもう一つ…他からの補充…となると、他の存在から吸収する…という手段と成るわけですが…」
そこで一度言葉を切って、姉はゴクリと喉を鳴らした。
のほほんとした姉の、常にない切迫した様子につられて、俺も思わず息を呑んだ。
「…私から摂取するのが…一番効率が良いだろうと言われました」
………実は魔力というものがよくわからんのだが、実の姉からもらえると言うのなら、下手に他人に迷惑をかけるより、それはそれで一番丸く収まるような気がする。
それなのに、何で姉ちゃんはこんなに悲壮な顔をしているのだろうか?
俺はキョトンとしながら、煮え切らない態度の姉の言葉の続きを待った。
「確かに、こう言ってはなんですが、私の魔力総量は、人外さん達にもパねえレベルまであるとの太鼓判を押される程あるそうです。なので、私が一番適任であるとの言い分もわかります。だけど…その手段が…」
『ああ、ご主人の溢れ出る魔力を吸い込み、体液を啜らせるわけニャ!』
姉の肩にぶら下がる白い猫からそんな言葉が飛び出し、猫から言葉が出たことにも気づかないまま、その言葉に激しく震える姉の体にシンクロして、同じ様にビクリと体を震わせた。
だが、その言葉の内容がよく理解できず、「?」と首をかしげていると、姉は真っ赤になって目をそらしたまま、
「そそそそ…そういう訳だから…。
私の体液…唾液や汗、涙…とか愛えk…はないとして、むむむ…胸…とか…から……」
しどろもどろになって、キョトンとして見つめる俺になんとか理解してもらおうと頑張っている。
察しの悪い方でもない俺は、流石にここまでくると羞恥に悶える姉が何を言わんとしているのか正確に理解しており、
何ソレ!?
どんなエロゲの世界に迷い込んだわけ?
実の姉の体を舐め回して、体液を啜れとか……こんな尖ったコンセプトの良作がどこのレーベルから売り出されてたの!?
汗だくになって羞恥に震える姉の姿を見上げながら、ニヤリとほくそ笑んだ。
そして話は冒頭に移る。
あれから10日程、主に乳首から魔力を吸収した結果、1歳を超えた程度の姿まで成長しており、言葉の滑舌も、まだまだ呂律は回っていないが、最初の頃に比べると格段に滑らかになっていると実感できたのだった。
何で乳首なのかって?
いや、やっぱ貴重な赤ん坊体験は授乳プレイから始まるもんじゃね?
姉も、「口から唾液を…」と言われるよりは、幾分抵抗がないようだったし……
とは言え、やっぱり体液を直接啜った方が効率もいいって言うし、俺はそっちも諦めていないけどな!
目の前に迫るおっぱいに頬を寄せ、フヒヒとくぐもった笑いを含みながら、チュッチュと忙しなく乳首から漏れ出ている濃厚で甘みのある魔力を吸い上げながら、スリスリと愛おしげに撫で回してやると、不穏な気配を察したのか、姉の体がビクリと震えていた。
いかんいかん。まだだ、まだ警戒されないように大人しくしなくては。
焦りは禁物だ。
こちらとあちらの世界は時間の流れが大分違うので、このままじっくり体を成長させていっても、受験には間に合うだろうと、姉は言う。
実際、こちらに転移してから数年経っていたが、まだ数ヶ月しか経っていなかったことに大層驚いたそうで。
しかし、それもかなりアバウトな計算なんだろうとも言っていたが、少なくとも1ヶ月位こっちにいた所で、大した時間経過もないだろうという言葉を信じるしかない。
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いや、考えても仕方ないので、ここまできたら、夢の世界に迷い込んだと割り切って、楽しんでやろう。
姉の体験を聞いた俺は、一時の妄想バカンスモードに入ったのだと、気持ちを切り替えた。
そして早く戻って受験に備えるためには…、同時にこのボーナスタイムを目一杯堪能するためには、もう少し成長するまでちゃんと真面目に魔力を吸い上げて…実の弟にあるまじき下心があるなんて、微塵も気取られないように務めていこうと誓ったのだった。
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