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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
異世界お宅訪問編 SIDE:C ※※
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「マイ……貴女がそんなに『女神』と呼ばれることに傷ついていたなんて、知らなかった。
貴女を愛していると、ずっと側に居させてほしいと言いながら、貴女の辛い気持ちにも気付かずに……。
何て謝ったらいい? どうすれば、貴女に償うことができるのか、教えてほしい……」
寝台の端に座ったクリスティアンに誘導され、開いた長い足の間にチョコンと座らされると、後ろからそっと包み込むようなハグと共に、消え入るような声で囁かれた。
言っている内容は、何か多分に勘違いされているとは思うけど、こんなに萎れた彼の姿は、初めてだ。
惜しむらくは、きっと力なく微笑む表情だってカッコいいと思うのに、背後から私の肩に顔を押し当てたまま動こうとしないので、その様子を見せてはもらえないことである。
そんな事を考えながら私は、肩に乗せられた彼の頭部に顔を寄せ、慰めるように頬ずりした。
波乱に満ちた颯太との対面の後、私は別れの挨拶もままならずに性急な別れ方をした事への謝罪の意味も込めて、今度は一人で王宮を訪れていた。
―――颯太とクリスティアンの乱行は、むしろどっちもどっちだと思うので、無かったことのようにスルーする。
再会した当初から、何故か辛そうな…泣きそうな顔で微笑むクリスティアンは、妙にしおらしい色気を湛えて私を見下ろしていた。
ここで謝るべきは、対面当初から失礼な態度を取っていた不肖の弟―――その保護者である私の方だったと思うのだが、どうも彼にとってはそうではないらしい。
「え…何で? 別に、そんなに傷ついてなんて…何のこと?
貴方に償ってほしいことなんて、ないよ?」
お腹の辺りに置かれた、骨ばって節くれだった彼の左手に私の小さな手を重ねて問うと、クリスティアンは顔を起こしてそっと空いた手―――右手で私の左頬を優しく撫でた。
「ふ……」
ソフトタッチで頬から耳元に指を這わせ、顕になった首筋を辿られるので、心地よさに思わず息が漏れる。
「本当は…『女神』なんて、呼ばれたくなかったって……弟君に…ソータ殿に言っていただろう?
俺は……貴女があんなに泣くほど嫌がっていたなんて、貴女の夫だと嘯きながら今まで気づきもしなかったんだ。
鈍い男だと、愛想をつかされても仕方のないことだと思っているが、それでも、俺の謝罪を受け入れて欲しいと……思って…」
長い髪を左側の胸元に流され、顕にされた右側の項に頬を擦り寄せられる感触に、ゾクリと項が粟立ち、思わず彼の左手に重ねた両手に力が入った。
斜め後ろ側から囁かれる低い声の響きや合間合間の吐息にもイチイチ反応を返し、軽く唇を当てられるとビクリと体を揺らす。
そして、憂いを含んだ吐息を耳穴に吹き込まれれば、腰から駆け上る悪寒に声を漏らし、私の背筋がピンと反った。
「ひっ……いや、あの、そういう意味で、嫌だとか……き、傷ついてるとかじゃ……な、ないからっ!」
ああ、あの『女神』発言にガチ泣きした件だったのかと、ようやくクリスティアンの謝罪の理由に思い当たったけれども、そもそもは『女神』呼びに傷ついていたとか、私をそう呼ぶ人達に怒っているとか、そういう意味での涙ではなかったのだが。
ただ単に、その時の一番強かった感情を述べるなら、それは“羞恥”に他ならない。
夜中のテンションで書き上げた夢小説を、後日身内に見られる恐怖と言うか。
異世界転移で調子に乗って、『私の事は女神様って呼んでね★』とか言ってるイタい女だと、肉親にすら思われていたら、マジ死ぬる!
そういう意味での“羞恥”なのである。
自分以外の人間その他の存在が、ただの人間でしかない私をそう呼んでいる事自体については、なんかもう諦めができている。
また、誹謗中傷されている訳でもなく、そこに傷つくような要素もないので、クリスティアンがそんな辛そうな顔をして謝る必要なんて、全く無い。
そう言おうと思って口を開くのだが……
「ひぁっ……」
不意に項を啄まれて、意図せぬ悲鳴の様な声を漏らす。
「…貴女はいつも多くを語らず、人の営みを見守りながら笑って多くのことを受け入れている。
俺が森の中に捨てられて彷徨った時の様に、異世界からたった一人で迷い込んだ貴女にも、辛いことはあっただろう。
そんな貴女の孤独を癒やし、ともに在りたいと俺は願っている。
だから…貴女の本当の想いを聞かせてほしいんだ…」
後ろから回された大きな左手で腿を…内股を優しく擦られ、頬を撫でる右手に顔を引き寄せられるので、抵抗らしい抵抗も試みぬまま厚い胸板にもたれ掛かった。
本当に、私のことを考えてくれているんだと感じて、温かい気持ちに胸が満たされる。
確かに転移したばかりの頃は、日本の事を思い出しながら泣いた夜が無かったわけじゃない。
でも、元々親元離れて一人で暮らしていたこともあり、一人ぼっちの生活にすぐ慣れることができていた。
加えて、どっかズレててやかましい精霊さん達の存在に慰められ、タロウやマーリンとの忙しない日常に、寂しいとか辛いとか、考える暇も無くなっていたことも確かで。
「ん…別に…、怒ってないし……ホントに、辛いわけでもないの。
私、結構幸せに暮らしてると思うよ?」
「本当か?
『女神』という呼称が嫌だと言うのなら、国中に触れを出して…誰も…私や国王たる兄ですらそう呼ぶ事がないよう、戒めることもできるんだぞ?
……ただ、二人きりの時くらいは、許してくれるといいんだが……」
最初は訴えるような言葉だったのに、終わりの方になると急に遠慮がちになる声に、クスッと小さな笑いが漏れた。
クリスティアンの胸板につけた耳から低い声が伝導し、私はその心地よさにうっとりと目を閉じた。
「ふふふ……もう、どっかズレてる会話になるのが、ちょっと楽しくなっても来てるの。
だから……本当に、気にしなくていいのに。
弟に言ったことは……多分、私達にしか通じない……あちらの世界でのことだから…
むしろ、いつまでも通じないで居てくれた方が助かる………」
スリスリと、薄い部屋着越しに伝わる体温を心地よく思いながら、私は微睡むように呟いて、頬に当たる温もりに頰ずりする。
細身に見えるけれども、毎日それなりに鍛えている胸板は厚みがあり、筋肉質だから体温も高いのだろう。
身につけている部屋着も肌触りが良く、質の高い布地であることを感じさせる。
淡く香る柑橘系混じりの――クリスティアンの香りを吸い込みながら、穏やかな気持ちで背後を支える夫に身を任せた。
「マイ……」
後ろから耳元に囁くように名を呼ばれ、キスをせがむ様に顎を持ち上げられれば、応じるように薄く開いた唇に、クリスティアンのそれが被さった。
ちゅ…んちゅ…
こじ開けるような性急さはなく、そっと合わせた唇を舌で撫でられ、その動きに応じるように、私は自らおずおずと舌を差し出す。
じゅる…ちゅう
舌を吸われ、口の端に溜まる唾液を啜られる音が、口腔の内部から私の鼓膜を震わせた。
「ふぁっ……あぁんっ」
口の中を弄られながら、ローブの上から擦る手が、私の内腿をそっと開くよう促し始め、頬を支える手が首筋をたどって耳穴を擽るので、キスの合間に声が漏れる。
されるがままに開かされた股間が、直接的な刺激を待ち望む様に潤むのを感じていた。
「マイ…マイ…っ」
ここでは余り呼ばれることが無くなった、私の名前。
<我々が守るから、そこまで秘密にしなくても良い>と、大精霊様にも言われた事もあったから、ホントはもっと早く教えても良かったのに。
マイカって偽名も呼ばれ慣れていたし、呼び名なんて、そんなに気にしたことはなかったんだけど、やっぱり実際に心を込めて呼ばれれば、訴えかけるものがあったのだろうか?
淫らな水音が響く寝台の上で、下半身の奥の方まで何度も穿たれながら、合間に響く名に全身が慄くように震えるのは。
「あっあっ……やぁんっ……っ……ふぁっ……」
厚い胸板に自分の胸が潰されるほど強く抱きこまれ、漏れる吐息も吸い上げられるような口づけに、私は何度も絶頂を繰り返す。
苦しげな余裕のない表情で、欲情して潤む碧色の瞳に見下されながら突きあげられれば、それだけで下腹部がキュンとなり、最早まともに考えられなくなる程乱された。
「マイっ…マイ…俺の…女神…っ……」
グチュグチュと蜜と精液が交じる音を響かせながら出し入れされ、時折ゆっくりじっとり混ぜる様に腰を回される。
その緩急極まる腰使いに翻弄され、喉が枯れ果てる程嬌声を上げ続けることとなり、息も絶え絶えだ。
何度も背を反らし、腰を浮かせて絶頂に至る衝撃に耐えようとするのに、イってようが何だろうがお構いなしに奥までガンガンと突かれる容赦のなさに、止めどなく生理的な涙が溢れた。
もう、何言われてもわかんない。考えらんない。
「…ふっ…ぁっ…マイっ……マイっ……好きだっ……」
睦言の合間に溢れるクリスティアンの吐息や、滴り落ちる汗の雫にもビクビクと反応し、その都度小さな悲鳴を上げた。
そして、開いた唇から覗く舌を絡め取られ、人間にしては尖った犬歯で甘噛されれば、反射的に目の前の温かい存在にギュッとしがみつき―――直後全身に襲い来る痙攣をやり過ごすと、抱きしめ合ったままグイッと体を起こされて、対面に座る体位に変わる。
「ふぁっ……ふかっ…奥…奥までっ…はぁんっ」
腕の中に抱きとめられたまま、繋がった部分に全身の重みを掛けるように貫かれ、ゆさゆさと前後左右に揺さぶられれば、派手な動きは無くとも、太くて固い性器に膣の中全体を蹂躙されるので、たまらない。
膝の上に座り込む様な形になって、胸元に埋める様に屈み込んだクリスティアンの頭部を抱きしめようとするのだが、それより早く胸を寄せられ、天を仰ぐ。
無防備になった胸を下から揉み上げられ、左右の乳首を一纏めにぢゅうっと吸われれば、その刺激に…快楽に溺れる様に頭を振って唇を噛んだ。
腰に這わされた大きな手に支えられながら、脊椎を下から辿るように指先で撫でられるので、力尽きて脱力する暇もなく「ひぁん」と小さく呟いて背を反らす。
そして、タイミングを見計らっていた様に、クリスティアンは目の前に差し出す様に突き出された胸に、再び舌を這わせて吸い付いた。
ちゅうっ、ぢゅぢゅっ…ちゅぱっ
固く凝って敏感になった尖りが熱い口内に吸われ、時折背から回した手で器用に揉みしだきながら指先で転がすように弄ばれ……
「あっあっ…クリスっ……クリスっ……それ、すきっすきぃっ……」
ピンクゴールドの髪に埋もれる、可愛い獅子の耳に頬を擦り付けて、本能の赴くままに腰を振った。
快楽に任せて思わず口にしたようなセリフであり、喉も枯れ、囁くような声量だったけれども、ナカを穿つモノが質量を増したのを感じると、反射的に蜜孔がキュンっとした。
彼の中の何かを呼び起こす様な言葉だったらしい。
そして、ふるんふるんと胸を震わせる様に揉みしだいていた手を、するりと私の腰に回して力を込め始めたのを感じて、息を呑んだ―――その瞬間、これまで以上の激しい突き上げに、ぐちゅんぐちゅんと鳴り響く水音と共に腰が浮き上がった。
「あっあっあっ……やっ…あぁんっ! ダメダメダメぇっ……」
一瞬の浮遊感の直後に訪れる、自重によって奥の奥まで貫かれる快感が絶え間なく続き、目の前が真っ白になる。
目の前の夫の頭部に頬を擦り寄せ、振り落とされまいとしがみつくと、腰を支えながらもお尻の肉が割り開かれ、より深く、最奥に至る辺りまで抉る様に穿たれた。
「やぁんっ!やだっ……もうだめ、もうだめぇぇっ!」
「はっ……ぁっ…マイっマイっ……もう、イク。イクぞっ」
二人で悲鳴のような声をあげて、絡みつくように抱き合いながらビクビクっと全身の筋肉を引きつらせ――――――体内に熱い飛沫が放たれたのを感じながら、私はフッと意識を手放した。
「……貴女が、誰と寝ようと、どんな存在を愛そうと―――それが例え血の繋がった弟であっても―――問題はないんだ。
俺の女神が、俺の側から離れていく事がないならば、それでいい。
もちろん側にいてくれるというならば、それ以上に嬉しいことはないが。
ただ毎日その温もりを感じ、言葉を交わすことができなくなっても、同じ世界にその存在を感じることができるだけで、気持ちは満たされる」
広い寝台の中、温かな人の体温に包まれて、ウトウトと微睡んでいる時に、誰に聞かせるでもなく呟いた声に、うっとりと耳を傾けた。
言ってる内容が頭に染み込んでこない程、意識はぼんやりしていたけれども、耳元で囁く低い声音が心地よかった。
「ん……大丈夫だよ、リオ」
心配しないで。
私は、この世界にいるって言ったよね?
無意識に出た言葉だったけど、ホントは言わないと決めた名前だから、それに気づいて続きの言葉は心の中で囁いた。
『リオ』は、私の大事な人の、大事な名前。
この世界屈指の魔力量を抱えることとなった私が、相手の真名を呼んで命令すれば、相手はどんなことだってやってしまう程の強制力が働くらしい。
だから、ホントは知らなくても良かったんだけど、クリスティアンは、私と真名の交換をしたがった。
本当の婚姻の契約をしたいからと。
人間の国において、書類による婚姻契約に真名は必要ない。
それはそれぞれの国の法律で、人の営みに属するものが行う戸籍上のものだけど、精霊を介した真名の交換は、魂の契約になるらしい。
どこにいても、自分の伴侶が分かるように。
婚姻契約で結ばれた私達に、奴隷契約ほどの強制力は働かないはずらしいけど―――それでも私は、無意識に彼の意志を曲げるような言葉を言ってしまうのを恐れて、二人きりでも滅多に彼の真名を呼ばなかった。
ホントはタロウやマーリンとの従属契約だって、婚姻契約に代えても良いんだけど……何故か二人に断られて今に至っている。
「あんなに理性を無くすほど抱き潰されても、本当の名を呼ぶのは、こんな時だけなんだな。
もっと俺の人生を狂わせる程自分勝手に、ワガママに呼んでくれてもいいのに……」
耳元でクスリと笑う声が…漏れる吐息がくすぐったい。
俺様っぽい言動が多いけど、振り回される程のわがままを許してくれるなんて、彼は本当に優しい人だ。
こんなにカッコいいのに、こんなに優しい人が一緒にいてくれるなんて本当に幸せだと、私は多幸感に包まれながら眠りに落ちていく―――けれども、
「それでも貴女が俺の側から離れると言い出したら、それがどんな理由であろうとも。
世界の平和と引き換えの条件だったとしても……
俺は貴女の全てを奪って、精霊も存在しないような世界の果で監禁するか、共に滅びるしかない。
もちろん、その原因となる者は真っ先に排除しないといけないがな……」
クックック……
……耳にする者がいたらゾッとするような、低い低い忍び笑いが部屋に響いていたことを、夢の中にいる私は知る由もなかった。
貴女を愛していると、ずっと側に居させてほしいと言いながら、貴女の辛い気持ちにも気付かずに……。
何て謝ったらいい? どうすれば、貴女に償うことができるのか、教えてほしい……」
寝台の端に座ったクリスティアンに誘導され、開いた長い足の間にチョコンと座らされると、後ろからそっと包み込むようなハグと共に、消え入るような声で囁かれた。
言っている内容は、何か多分に勘違いされているとは思うけど、こんなに萎れた彼の姿は、初めてだ。
惜しむらくは、きっと力なく微笑む表情だってカッコいいと思うのに、背後から私の肩に顔を押し当てたまま動こうとしないので、その様子を見せてはもらえないことである。
そんな事を考えながら私は、肩に乗せられた彼の頭部に顔を寄せ、慰めるように頬ずりした。
波乱に満ちた颯太との対面の後、私は別れの挨拶もままならずに性急な別れ方をした事への謝罪の意味も込めて、今度は一人で王宮を訪れていた。
―――颯太とクリスティアンの乱行は、むしろどっちもどっちだと思うので、無かったことのようにスルーする。
再会した当初から、何故か辛そうな…泣きそうな顔で微笑むクリスティアンは、妙にしおらしい色気を湛えて私を見下ろしていた。
ここで謝るべきは、対面当初から失礼な態度を取っていた不肖の弟―――その保護者である私の方だったと思うのだが、どうも彼にとってはそうではないらしい。
「え…何で? 別に、そんなに傷ついてなんて…何のこと?
貴方に償ってほしいことなんて、ないよ?」
お腹の辺りに置かれた、骨ばって節くれだった彼の左手に私の小さな手を重ねて問うと、クリスティアンは顔を起こしてそっと空いた手―――右手で私の左頬を優しく撫でた。
「ふ……」
ソフトタッチで頬から耳元に指を這わせ、顕になった首筋を辿られるので、心地よさに思わず息が漏れる。
「本当は…『女神』なんて、呼ばれたくなかったって……弟君に…ソータ殿に言っていただろう?
俺は……貴女があんなに泣くほど嫌がっていたなんて、貴女の夫だと嘯きながら今まで気づきもしなかったんだ。
鈍い男だと、愛想をつかされても仕方のないことだと思っているが、それでも、俺の謝罪を受け入れて欲しいと……思って…」
長い髪を左側の胸元に流され、顕にされた右側の項に頬を擦り寄せられる感触に、ゾクリと項が粟立ち、思わず彼の左手に重ねた両手に力が入った。
斜め後ろ側から囁かれる低い声の響きや合間合間の吐息にもイチイチ反応を返し、軽く唇を当てられるとビクリと体を揺らす。
そして、憂いを含んだ吐息を耳穴に吹き込まれれば、腰から駆け上る悪寒に声を漏らし、私の背筋がピンと反った。
「ひっ……いや、あの、そういう意味で、嫌だとか……き、傷ついてるとかじゃ……な、ないからっ!」
ああ、あの『女神』発言にガチ泣きした件だったのかと、ようやくクリスティアンの謝罪の理由に思い当たったけれども、そもそもは『女神』呼びに傷ついていたとか、私をそう呼ぶ人達に怒っているとか、そういう意味での涙ではなかったのだが。
ただ単に、その時の一番強かった感情を述べるなら、それは“羞恥”に他ならない。
夜中のテンションで書き上げた夢小説を、後日身内に見られる恐怖と言うか。
異世界転移で調子に乗って、『私の事は女神様って呼んでね★』とか言ってるイタい女だと、肉親にすら思われていたら、マジ死ぬる!
そういう意味での“羞恥”なのである。
自分以外の人間その他の存在が、ただの人間でしかない私をそう呼んでいる事自体については、なんかもう諦めができている。
また、誹謗中傷されている訳でもなく、そこに傷つくような要素もないので、クリスティアンがそんな辛そうな顔をして謝る必要なんて、全く無い。
そう言おうと思って口を開くのだが……
「ひぁっ……」
不意に項を啄まれて、意図せぬ悲鳴の様な声を漏らす。
「…貴女はいつも多くを語らず、人の営みを見守りながら笑って多くのことを受け入れている。
俺が森の中に捨てられて彷徨った時の様に、異世界からたった一人で迷い込んだ貴女にも、辛いことはあっただろう。
そんな貴女の孤独を癒やし、ともに在りたいと俺は願っている。
だから…貴女の本当の想いを聞かせてほしいんだ…」
後ろから回された大きな左手で腿を…内股を優しく擦られ、頬を撫でる右手に顔を引き寄せられるので、抵抗らしい抵抗も試みぬまま厚い胸板にもたれ掛かった。
本当に、私のことを考えてくれているんだと感じて、温かい気持ちに胸が満たされる。
確かに転移したばかりの頃は、日本の事を思い出しながら泣いた夜が無かったわけじゃない。
でも、元々親元離れて一人で暮らしていたこともあり、一人ぼっちの生活にすぐ慣れることができていた。
加えて、どっかズレててやかましい精霊さん達の存在に慰められ、タロウやマーリンとの忙しない日常に、寂しいとか辛いとか、考える暇も無くなっていたことも確かで。
「ん…別に…、怒ってないし……ホントに、辛いわけでもないの。
私、結構幸せに暮らしてると思うよ?」
「本当か?
『女神』という呼称が嫌だと言うのなら、国中に触れを出して…誰も…私や国王たる兄ですらそう呼ぶ事がないよう、戒めることもできるんだぞ?
……ただ、二人きりの時くらいは、許してくれるといいんだが……」
最初は訴えるような言葉だったのに、終わりの方になると急に遠慮がちになる声に、クスッと小さな笑いが漏れた。
クリスティアンの胸板につけた耳から低い声が伝導し、私はその心地よさにうっとりと目を閉じた。
「ふふふ……もう、どっかズレてる会話になるのが、ちょっと楽しくなっても来てるの。
だから……本当に、気にしなくていいのに。
弟に言ったことは……多分、私達にしか通じない……あちらの世界でのことだから…
むしろ、いつまでも通じないで居てくれた方が助かる………」
スリスリと、薄い部屋着越しに伝わる体温を心地よく思いながら、私は微睡むように呟いて、頬に当たる温もりに頰ずりする。
細身に見えるけれども、毎日それなりに鍛えている胸板は厚みがあり、筋肉質だから体温も高いのだろう。
身につけている部屋着も肌触りが良く、質の高い布地であることを感じさせる。
淡く香る柑橘系混じりの――クリスティアンの香りを吸い込みながら、穏やかな気持ちで背後を支える夫に身を任せた。
「マイ……」
後ろから耳元に囁くように名を呼ばれ、キスをせがむ様に顎を持ち上げられれば、応じるように薄く開いた唇に、クリスティアンのそれが被さった。
ちゅ…んちゅ…
こじ開けるような性急さはなく、そっと合わせた唇を舌で撫でられ、その動きに応じるように、私は自らおずおずと舌を差し出す。
じゅる…ちゅう
舌を吸われ、口の端に溜まる唾液を啜られる音が、口腔の内部から私の鼓膜を震わせた。
「ふぁっ……あぁんっ」
口の中を弄られながら、ローブの上から擦る手が、私の内腿をそっと開くよう促し始め、頬を支える手が首筋をたどって耳穴を擽るので、キスの合間に声が漏れる。
されるがままに開かされた股間が、直接的な刺激を待ち望む様に潤むのを感じていた。
「マイ…マイ…っ」
ここでは余り呼ばれることが無くなった、私の名前。
<我々が守るから、そこまで秘密にしなくても良い>と、大精霊様にも言われた事もあったから、ホントはもっと早く教えても良かったのに。
マイカって偽名も呼ばれ慣れていたし、呼び名なんて、そんなに気にしたことはなかったんだけど、やっぱり実際に心を込めて呼ばれれば、訴えかけるものがあったのだろうか?
淫らな水音が響く寝台の上で、下半身の奥の方まで何度も穿たれながら、合間に響く名に全身が慄くように震えるのは。
「あっあっ……やぁんっ……っ……ふぁっ……」
厚い胸板に自分の胸が潰されるほど強く抱きこまれ、漏れる吐息も吸い上げられるような口づけに、私は何度も絶頂を繰り返す。
苦しげな余裕のない表情で、欲情して潤む碧色の瞳に見下されながら突きあげられれば、それだけで下腹部がキュンとなり、最早まともに考えられなくなる程乱された。
「マイっ…マイ…俺の…女神…っ……」
グチュグチュと蜜と精液が交じる音を響かせながら出し入れされ、時折ゆっくりじっとり混ぜる様に腰を回される。
その緩急極まる腰使いに翻弄され、喉が枯れ果てる程嬌声を上げ続けることとなり、息も絶え絶えだ。
何度も背を反らし、腰を浮かせて絶頂に至る衝撃に耐えようとするのに、イってようが何だろうがお構いなしに奥までガンガンと突かれる容赦のなさに、止めどなく生理的な涙が溢れた。
もう、何言われてもわかんない。考えらんない。
「…ふっ…ぁっ…マイっ……マイっ……好きだっ……」
睦言の合間に溢れるクリスティアンの吐息や、滴り落ちる汗の雫にもビクビクと反応し、その都度小さな悲鳴を上げた。
そして、開いた唇から覗く舌を絡め取られ、人間にしては尖った犬歯で甘噛されれば、反射的に目の前の温かい存在にギュッとしがみつき―――直後全身に襲い来る痙攣をやり過ごすと、抱きしめ合ったままグイッと体を起こされて、対面に座る体位に変わる。
「ふぁっ……ふかっ…奥…奥までっ…はぁんっ」
腕の中に抱きとめられたまま、繋がった部分に全身の重みを掛けるように貫かれ、ゆさゆさと前後左右に揺さぶられれば、派手な動きは無くとも、太くて固い性器に膣の中全体を蹂躙されるので、たまらない。
膝の上に座り込む様な形になって、胸元に埋める様に屈み込んだクリスティアンの頭部を抱きしめようとするのだが、それより早く胸を寄せられ、天を仰ぐ。
無防備になった胸を下から揉み上げられ、左右の乳首を一纏めにぢゅうっと吸われれば、その刺激に…快楽に溺れる様に頭を振って唇を噛んだ。
腰に這わされた大きな手に支えられながら、脊椎を下から辿るように指先で撫でられるので、力尽きて脱力する暇もなく「ひぁん」と小さく呟いて背を反らす。
そして、タイミングを見計らっていた様に、クリスティアンは目の前に差し出す様に突き出された胸に、再び舌を這わせて吸い付いた。
ちゅうっ、ぢゅぢゅっ…ちゅぱっ
固く凝って敏感になった尖りが熱い口内に吸われ、時折背から回した手で器用に揉みしだきながら指先で転がすように弄ばれ……
「あっあっ…クリスっ……クリスっ……それ、すきっすきぃっ……」
ピンクゴールドの髪に埋もれる、可愛い獅子の耳に頬を擦り付けて、本能の赴くままに腰を振った。
快楽に任せて思わず口にしたようなセリフであり、喉も枯れ、囁くような声量だったけれども、ナカを穿つモノが質量を増したのを感じると、反射的に蜜孔がキュンっとした。
彼の中の何かを呼び起こす様な言葉だったらしい。
そして、ふるんふるんと胸を震わせる様に揉みしだいていた手を、するりと私の腰に回して力を込め始めたのを感じて、息を呑んだ―――その瞬間、これまで以上の激しい突き上げに、ぐちゅんぐちゅんと鳴り響く水音と共に腰が浮き上がった。
「あっあっあっ……やっ…あぁんっ! ダメダメダメぇっ……」
一瞬の浮遊感の直後に訪れる、自重によって奥の奥まで貫かれる快感が絶え間なく続き、目の前が真っ白になる。
目の前の夫の頭部に頬を擦り寄せ、振り落とされまいとしがみつくと、腰を支えながらもお尻の肉が割り開かれ、より深く、最奥に至る辺りまで抉る様に穿たれた。
「やぁんっ!やだっ……もうだめ、もうだめぇぇっ!」
「はっ……ぁっ…マイっマイっ……もう、イク。イクぞっ」
二人で悲鳴のような声をあげて、絡みつくように抱き合いながらビクビクっと全身の筋肉を引きつらせ――――――体内に熱い飛沫が放たれたのを感じながら、私はフッと意識を手放した。
「……貴女が、誰と寝ようと、どんな存在を愛そうと―――それが例え血の繋がった弟であっても―――問題はないんだ。
俺の女神が、俺の側から離れていく事がないならば、それでいい。
もちろん側にいてくれるというならば、それ以上に嬉しいことはないが。
ただ毎日その温もりを感じ、言葉を交わすことができなくなっても、同じ世界にその存在を感じることができるだけで、気持ちは満たされる」
広い寝台の中、温かな人の体温に包まれて、ウトウトと微睡んでいる時に、誰に聞かせるでもなく呟いた声に、うっとりと耳を傾けた。
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「ん……大丈夫だよ、リオ」
心配しないで。
私は、この世界にいるって言ったよね?
無意識に出た言葉だったけど、ホントは言わないと決めた名前だから、それに気づいて続きの言葉は心の中で囁いた。
『リオ』は、私の大事な人の、大事な名前。
この世界屈指の魔力量を抱えることとなった私が、相手の真名を呼んで命令すれば、相手はどんなことだってやってしまう程の強制力が働くらしい。
だから、ホントは知らなくても良かったんだけど、クリスティアンは、私と真名の交換をしたがった。
本当の婚姻の契約をしたいからと。
人間の国において、書類による婚姻契約に真名は必要ない。
それはそれぞれの国の法律で、人の営みに属するものが行う戸籍上のものだけど、精霊を介した真名の交換は、魂の契約になるらしい。
どこにいても、自分の伴侶が分かるように。
婚姻契約で結ばれた私達に、奴隷契約ほどの強制力は働かないはずらしいけど―――それでも私は、無意識に彼の意志を曲げるような言葉を言ってしまうのを恐れて、二人きりでも滅多に彼の真名を呼ばなかった。
ホントはタロウやマーリンとの従属契約だって、婚姻契約に代えても良いんだけど……何故か二人に断られて今に至っている。
「あんなに理性を無くすほど抱き潰されても、本当の名を呼ぶのは、こんな時だけなんだな。
もっと俺の人生を狂わせる程自分勝手に、ワガママに呼んでくれてもいいのに……」
耳元でクスリと笑う声が…漏れる吐息がくすぐったい。
俺様っぽい言動が多いけど、振り回される程のわがままを許してくれるなんて、彼は本当に優しい人だ。
こんなにカッコいいのに、こんなに優しい人が一緒にいてくれるなんて本当に幸せだと、私は多幸感に包まれながら眠りに落ちていく―――けれども、
「それでも貴女が俺の側から離れると言い出したら、それがどんな理由であろうとも。
世界の平和と引き換えの条件だったとしても……
俺は貴女の全てを奪って、精霊も存在しないような世界の果で監禁するか、共に滅びるしかない。
もちろん、その原因となる者は真っ先に排除しないといけないがな……」
クックック……
……耳にする者がいたらゾッとするような、低い低い忍び笑いが部屋に響いていたことを、夢の中にいる私は知る由もなかった。
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