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第一章
9.ネットに繋がっていないスマホですら現地データをアップロードする現実―――泣きたい。
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この世界に来て半年が経過すると、そんな日常にも変化が訪れた。
『子供たちも大きくなったことですし、今日は獲物を獲る練習をしていきましょうね』
いつもの空間からようやく出ることが叶ったものの、最初に言われたのはそんな言葉で。
突然ママンに強制的に運び出された場所は、住処のある森の真ん中に位置する開けた草原だった。
ママンの高速飛行で15分程度の時間だったとは言え、住処からはかなりの距離があると見た。
そして、住処から出るとスマホの位置情報マップが起動していたことには驚かされる。
…もちろん詳しく見たって、このあたりの地理なんて全然わかんないけど。
明らかに大陸全容が地球のものですらなかったし。
でも、多少なりとでも住処の位置がわかれば、少しは安心できるので、これはこれで良しと思った。
……スマホさん、思った以上にやればできる子やーーん。
そうして、ワクワクとスマホをタップして、現在位置を検索しようとしていると、突然辺りが暗くなり、『なんだろう?』と、天を仰いだ。
『ギャ――っ!ギャ―――っ!!』
急に陰って煩くなった空を見上げると、上空にセスナ機程はある大きな鳥が旋回しており、何やらこちらを見て鳴いているのが目に入ったので、瞬時に顔から血が引いて真っ青になる。
その鳥は、サイズこそ規格外であるが、地球の図鑑でみた鷲のような猛禽類に見え…私と数秒見つめ合った後、急降下してきた。
「ひっ!」
襲われる!
思わず目を閉じ体を縮こませて衝撃に備えたのだったが、予測した事態は私を襲って来ず……
おずおずと目を開けると、その巨大な鷲はいつのまにか地面でママンに取り押さえられ、喉笛に食いつかれていた。
どうも、私を狙って攫う直前に、横からママンに飛びかかられて、地面に引き落とされた様である。
『ふふふ、自分から獲物が降りてきてくれるなんて、ラッキーね。
ロック鳥の肉なんて久しぶりだわ。』
余裕あふれる姿で巨大鷲を制圧するママンの姿は、巨大な肉食獣そのものの姿で……私は密かに戦慄した。
自分は、こういう捕食者たちと一緒にいるんだと、ようやく気がついたと言っても過言ではない。
他にも私のことを狙っていたと思われる鳥も何羽かいたようだったが、仲間の悲鳴を聞いた瞬間、バサバサと小さくない羽音を立て散り散りになって逃げていった。
ちなみに足元の鷲さんは、急所を一噛みされた後しばらく暴れたが、数分もしない内に動かなくなってしまった。
その後、ママンの勇姿に触発された双子が目をキラキラさせて獲物を探して飛び出して行ったのだが…私は体も気持ちもドン引く程置いてけぼりになり……木陰で一人休ませてもらうことにした。
ママンがいつでも対応出来るように結界を張ってくれたので、私はそこで彼らを見守ることにしてもらうと、ブーブー言って側に控えていようとしていた双子はママンに魔力で放り出され、狩りの訓練をさせられていたが。
…私には無理強いしないと言っていたが………普通の人間女子が、野生の狼どころか神獣の狩りになんて、ついて行けるわけがないので、永久的に参加できるはずがない。
『姉ちゃん、見て見てっ! これ、俺が獲ったの! でっかいくま!』
『姉さん、これ……こっちのウサギの方がでかくてきっとおいしいよ』
そうして、飼い主に狩りの成果を見せるペットのような無邪気さで、木陰に座り込む私の前にどんどん哀れな獲物たちが山を成していく。
見たことないような大きなトカゲ(名称:レッサードラゴン)や、紫色のパンダ(名称:ポイズンベア)や、シシガミ様みたいな大きなイノシシ(名称:ジャイアントボア)などなど……
「わーーー…すごーい、おっきーーい。ふたりともすごいねーーー………」
私は最早情緒が死滅したかの様に、何の感情も籠もらない棒読みで、彼らの成果を褒め称える。
純粋に、こちらの動物ってみんなこんなにでかいのかな。
一番小さくても、森のボスクラスのイノシシ程度には大きいんだけど……。
それらがフェンリル達に急所を食いちぎられて絶命し、無残にも何も映さなくなった目ン玉でこちらを見ている姿が恐ろしい。
私はかなり現実逃避を決めた遠い目で、獲物たちの姿をあまり視界に入れないよう、深く考えないようにしていた。
しかし、見せつけるように獲物を見せびらかしてくる彼らの成果を労っていくも、顔から血の気が引いてブルブルと震える体を止めることはできなかった。
ドン引きしている私をそっちのけに、興に乗ってきたママンや弟たちが野生に帰ってヒャッハーしている間、いつの間にかスマホですら画像検索すると獲物の種類とか出してくれるよう進化していた。
そのことからも、私は少しだけこの世界の知識と…無常観を学び―――スマホのページをスライドすると、あまりに滑らかに検索できるようになっていた相棒……一緒に転移してきたスマホさんですらこちらの風土に馴染んでいるようで、ちょっとさみしくなった。
そしてそんなエグい出来事を経験してしまった後、私は寝床に戻って一人考える。
うん、やっぱりこの一家の一員だと思ったなんて、錯覚だったわ。
獲物ポジションだったのに、半年も一緒にいたから違うと思い掛けてたけど…私、この世界じゃ被捕食者で間違いない。だから―――
ママンの勘違いが正される前に逃走しなきゃ。
獲物を生で捕食した彼らのやたらと湿っぽく生臭い吐息にさらされながら、そんな結論に達したのだった。
『子供たちも大きくなったことですし、今日は獲物を獲る練習をしていきましょうね』
いつもの空間からようやく出ることが叶ったものの、最初に言われたのはそんな言葉で。
突然ママンに強制的に運び出された場所は、住処のある森の真ん中に位置する開けた草原だった。
ママンの高速飛行で15分程度の時間だったとは言え、住処からはかなりの距離があると見た。
そして、住処から出るとスマホの位置情報マップが起動していたことには驚かされる。
…もちろん詳しく見たって、このあたりの地理なんて全然わかんないけど。
明らかに大陸全容が地球のものですらなかったし。
でも、多少なりとでも住処の位置がわかれば、少しは安心できるので、これはこれで良しと思った。
……スマホさん、思った以上にやればできる子やーーん。
そうして、ワクワクとスマホをタップして、現在位置を検索しようとしていると、突然辺りが暗くなり、『なんだろう?』と、天を仰いだ。
『ギャ――っ!ギャ―――っ!!』
急に陰って煩くなった空を見上げると、上空にセスナ機程はある大きな鳥が旋回しており、何やらこちらを見て鳴いているのが目に入ったので、瞬時に顔から血が引いて真っ青になる。
その鳥は、サイズこそ規格外であるが、地球の図鑑でみた鷲のような猛禽類に見え…私と数秒見つめ合った後、急降下してきた。
「ひっ!」
襲われる!
思わず目を閉じ体を縮こませて衝撃に備えたのだったが、予測した事態は私を襲って来ず……
おずおずと目を開けると、その巨大な鷲はいつのまにか地面でママンに取り押さえられ、喉笛に食いつかれていた。
どうも、私を狙って攫う直前に、横からママンに飛びかかられて、地面に引き落とされた様である。
『ふふふ、自分から獲物が降りてきてくれるなんて、ラッキーね。
ロック鳥の肉なんて久しぶりだわ。』
余裕あふれる姿で巨大鷲を制圧するママンの姿は、巨大な肉食獣そのものの姿で……私は密かに戦慄した。
自分は、こういう捕食者たちと一緒にいるんだと、ようやく気がついたと言っても過言ではない。
他にも私のことを狙っていたと思われる鳥も何羽かいたようだったが、仲間の悲鳴を聞いた瞬間、バサバサと小さくない羽音を立て散り散りになって逃げていった。
ちなみに足元の鷲さんは、急所を一噛みされた後しばらく暴れたが、数分もしない内に動かなくなってしまった。
その後、ママンの勇姿に触発された双子が目をキラキラさせて獲物を探して飛び出して行ったのだが…私は体も気持ちもドン引く程置いてけぼりになり……木陰で一人休ませてもらうことにした。
ママンがいつでも対応出来るように結界を張ってくれたので、私はそこで彼らを見守ることにしてもらうと、ブーブー言って側に控えていようとしていた双子はママンに魔力で放り出され、狩りの訓練をさせられていたが。
…私には無理強いしないと言っていたが………普通の人間女子が、野生の狼どころか神獣の狩りになんて、ついて行けるわけがないので、永久的に参加できるはずがない。
『姉ちゃん、見て見てっ! これ、俺が獲ったの! でっかいくま!』
『姉さん、これ……こっちのウサギの方がでかくてきっとおいしいよ』
そうして、飼い主に狩りの成果を見せるペットのような無邪気さで、木陰に座り込む私の前にどんどん哀れな獲物たちが山を成していく。
見たことないような大きなトカゲ(名称:レッサードラゴン)や、紫色のパンダ(名称:ポイズンベア)や、シシガミ様みたいな大きなイノシシ(名称:ジャイアントボア)などなど……
「わーーー…すごーい、おっきーーい。ふたりともすごいねーーー………」
私は最早情緒が死滅したかの様に、何の感情も籠もらない棒読みで、彼らの成果を褒め称える。
純粋に、こちらの動物ってみんなこんなにでかいのかな。
一番小さくても、森のボスクラスのイノシシ程度には大きいんだけど……。
それらがフェンリル達に急所を食いちぎられて絶命し、無残にも何も映さなくなった目ン玉でこちらを見ている姿が恐ろしい。
私はかなり現実逃避を決めた遠い目で、獲物たちの姿をあまり視界に入れないよう、深く考えないようにしていた。
しかし、見せつけるように獲物を見せびらかしてくる彼らの成果を労っていくも、顔から血の気が引いてブルブルと震える体を止めることはできなかった。
ドン引きしている私をそっちのけに、興に乗ってきたママンや弟たちが野生に帰ってヒャッハーしている間、いつの間にかスマホですら画像検索すると獲物の種類とか出してくれるよう進化していた。
そのことからも、私は少しだけこの世界の知識と…無常観を学び―――スマホのページをスライドすると、あまりに滑らかに検索できるようになっていた相棒……一緒に転移してきたスマホさんですらこちらの風土に馴染んでいるようで、ちょっとさみしくなった。
そしてそんなエグい出来事を経験してしまった後、私は寝床に戻って一人考える。
うん、やっぱりこの一家の一員だと思ったなんて、錯覚だったわ。
獲物ポジションだったのに、半年も一緒にいたから違うと思い掛けてたけど…私、この世界じゃ被捕食者で間違いない。だから―――
ママンの勘違いが正される前に逃走しなきゃ。
獲物を生で捕食した彼らのやたらと湿っぽく生臭い吐息にさらされながら、そんな結論に達したのだった。
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