春の女神の再転移――気づいたらマッパで双子の狼神獣のお姉ちゃんになっていました――

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第二章 お母様…勘弁してください(=_=;)

3.プリマヴェーラ様の事情説明(1)

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 貴女が生まれる前からのお話を始める前に―――そう言えば、自己紹介をしていないって言われたから、ちゃんとするわね。
 私の名前はプリマヴェーラ。この世界で春を司る女神をしています。
 で、貴女を迎えに行ってくれた黒髪で綺麗な紅い目をした背の高い彼が、エンディミオン。
 この黒い衣装で見ての通り、執事みたいなことをして、うちの神殿の中から対外的な事まで取り仕切ってくれているの。
 ホントは貴女のために用意した護衛で従者のつもりだったのだけれども―――ほら、貴女、こちらにいなかったから―――手持ち無沙汰になってしまってブラブラしてたら、近所の魔族にお願いされて魔王になっちゃったって言ってたわね……黒龍って神獣なのに。
「あんまりしつこく懇願され、断るのが面倒だし暇だったので…」なんて、言っていたけど……イケメンなんだけど、ちょっと主体性がないのが玉にキズかしらね。

 ―――エンディ、そんな風にスネてもだめよ? 本当に興味のないことには無頓着なんだから。

 あら、楓ちゃん、不思議そうな顔をしているわね? 無表情にしか見えないって?
 ふふ、貴女にもそのうちわかるわよ。案外この赤い目は感情豊かなの。
 子供のエンディに、「うちの子の従者として仕える気はないかしら?」って聞いただけなのに、勝手に一生を捧げる誓いを捧げてしまうような子だけど、あのときは嬉しそうな目をしていたわ。
 そもそも、この子が卵のカラをひっつけてるような子龍の頃に、魔獣に襲われて死にかけていた所を拾ったんだけど……
 まだ受肉前の魂でしかなかった貴女を一目見て、その輝きに魅せられたって言ってて……こういう形での一目惚れってあるものなのねぇって思ったわ。
 子供のくせに、すでにギラギラしたオスの目をしてて…まだ形もない魂相手に、ちょっと怖かったわね。
 だから…今後は貴女にひっついて離れないわよ? 
 龍とは言え、蛇の性の男はしつこいから―――覚悟してね。

 「…………」


 ―――で、魂の貴女が出てきたところで、貴女が異世界に行っていた理由もお話をした方がいいわね。

 うん、割と単純な理由なんだけど……実は、貴女のお父様と喧嘩しちゃって……その力のぶつかり合いで、時空が割れちゃって…流されちゃった…。
 お互い神同士だから、全力の攻防に空間が耐えられなかったのね。てへ。

「……………」

 ―――ご、ごめんなさいっ! そんな「何言ってるの?この人」みたいな冷たい目で見ないでっ!

 だって、だって! あの人、ひどいのよ?
「この綺麗な魂が、貴方と私の子供になって……いずれ私の胎内に宿るの」って、打ち明けたら、真っ青な顔して…「嘘でしょう?」って言うのよ!! 第一声がそれなんて、サイテーでしょ?
 そりゃ、私は春を司るから、色々なオスの種は扱うけど……それでもあの人としか寝てないのに!!!
 胎内で子種を搾り取った人なんて、あの人だけなのに!! 

「……………」

 ―――そんなこと言われてもって顔しないで!? ちょっと赤くなった頬がかわいいけど!

 ……そりゃ、無防備な寝込みを襲ったのは申し訳ないと思ったけど……だってだって……
 彼の寝顔を見てたら、急に子供が欲しくなっちゃったんですもの!! こういうものって、理屈じゃないでしょう!?
 それでも真っ赤になってアンアン言うのが可愛かったから、私もついついやりすぎちゃったとは思ったけど。

 ―――えっ!? 逆レイプって? ち・違うものっ! 
 あの人悦んでたし、私の事好きだって――ベッド上での睦言だから言ってた訳じゃない筈よ!
 え、エンディミオンまで顔逸らさないで!?

 そりゃ、ちょっと彼もまだ若かったし……年の差はあるかもしれないけど……私は今でも彼のことを愛してるのに。
 あんなに可愛いくてカッコ良くて…優しい人…いないもの。……あれから会ってないけど。

 「…………」

 うっ…うっ……ありがとワンコちゃん、お鼻チーンして慰めてくれて。
 ワンコちゃんだけよね、私のことを慰めてくれるのは。やっぱりあなた達は私の癒やしだわ。
 結局エンディは、いつもこの話をすると、何も言わないけど微妙な顔するし。
 私の思い込みじゃないもの。子供までできてるんだから。ちゃんと、きっと、私のこと、好きな筈…。
 だから…落ち着いたら、父様に会いに行きましょうね。
 楓ちゃんの可愛さにメロメロになればいいんだわ。でも、絶対に渡さないけど!
 ……あら、怖がらせてしまったかしら? 
 大丈夫よ、冷たそうに見えても心は優しい人だから―――冷たいのは、私に対してだけだと思うし……グスン。
 ………うん、まぁ、この話については楓ちゃんにも追々詳しく話を聞いてもらうとして―――話が逸れたわね。

 そういことで、楓ちゃんの魂は不幸な事故で異世界―――日本に流されていったの。
 魂だけだったから、ろくに導き手もいなくても異世界転移なんてできてしまったのでしょうね。
 あちらに何も被害がなかったことは、不幸中の幸いだったけど。
 下手に肉体があったら…貴女の体もあちらの世界も、大きな被害が出ていたかもしれない。
 それこそ時空が損傷するレベルの大災害になった可能性もあったから…何事もなくて良かった。
 その上、貴女の転移の小さな衝撃を日本を統べる神の何柱かは気づいてくれて……その中に、私の友神である佐保姫がいたことは幸運だったわ。私たちメル友だから、すぐに連絡できた。
 佐保姫には色々協力してもらったけど、近くにいた夫婦の子として―――死産しかかっていた胎児にその魂を宿し、無事出産してもらったって、教えてもらったの。
 その後は貴女の魂が2度めの転移に耐えられる程成長するのを見守ってもらいながら、20年近い歳月を待って―――やっと、この世界に帰って来たというわけ。
 これが、貴女の魂が日本にいた理由。

 あちらのご両親のことは―――ごめんなさい、元々あの二人に子供が生まれる予定はなくって……
 貴女が転移したときに、時を元に―――子供はいないけれども仲の良い夫婦に―――戻してもらったわ。
 もともといない子供である、貴女の記憶や記録を抹消することによって。

「………」

 ごめんね、楓ちゃん。あの二人は良いお父様・お母様だったのよね? それを突然奪う形になってしまって…本当にごめんなさい。
 貴女を愛してくれたあの二人は、死ぬまであちらの神様が見守ってくれるって約束してくれたから……だから、少なくとも、ご両親の今後については安心してね。


 ご両親が自分のことを忘れてしまう哀しみはすぐには消えないでしょうけど、それ以上に貴女を大事にするから……だから、泣き止んだら私達にも笑ってね。お願いね。
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