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第二章 月の国
2-17
しおりを挟む「ソウマさんは元の世界でも仕事してたのかい?」
「はい。事務で働いてました」
「じゃあ異世界の人の目から見てこの職場はどうかな?向こうではこうしてたとか、もっとこうした方がいい、みたいな事あるかい?」
そんな質問を投げ掛けてきたのは陽菜の隣の席だったネーター。今は陽菜がいなくなったから、結慧の右隣。
彼の質問に少し考えて、
「……整理整頓?」
「それは知ってた」
という訳で、無事に短期雇用契約をかわした結慧の最初の仕事は部署内の整理整頓となった。
とにかくこの見渡す限りの書類の山をどうにかせねば。結慧は総務部から大きな段ボール箱を二つもらってきてそこに「すてる」「すてない」と大きく書いた。結慧には判断できないから、とにかくここに入れてもらう。捨てる方は後日廃棄。捨てない方は分類ごとにまとめてファイリング。
バサバサと入れられていく紙たちを見て、段ボールを追加で貰うべく部屋を出る。机の引き出しの中からも沢山の紙が出るわ出るわ。機密文書は捨てるのが面倒だから机の中なんかに溜めがちになるのは分かる。裁断するだけでは魔法で復元できてしまうから駄目なんだそう。破って燃やすらしい。魔法って不便なこともあるのね。
「次は何してるんだ?」
「仮の書類棚を作ってます」
「ソウマさん器用だなぁ!」
会社でよく見るレタートレーを段ボールとガムテープで作っていく。
この部署、とにかく処理件数が多い。デスクの整理なんて手が回るはずもなく、どんどん散らかっていく。そしてそこに積み上げられていく書類たち。
「急ぐものと急がないものを分けるだけでも余裕が出るんじゃないかしら」
「そうそう、そうなんだよ本当は」
優先順位の高いものからと思っても、それを発掘するのに時間がかかっては意味がない。見落としも紛失もあり得る。だったら最初から分けておけばいい。
やはり、分かってはいるが改善に手が回らなかったらしい。
「この棚の一番上に今日中のもの。二段目に明日までのもの。三段目に今週中のもの。四段目にそれ以降でいいもの……で、いかがでしょう」
棚の壁は長辺のみ。デスク前からも奥からも出し入れができるように。最後に処理済みボックスを上に乗せれば完成。
それを試しに一番処理件数の多いウィルフリードの席に置いてみることにする。使い勝手がよければ後日全員分、きちんとしたものを買えばいい。
「終わったらここに入れておいて貰えたら、私が次の部署に持っていきます。急ぎのものは声をかけてください」
「うん、分かりやすくていいね」
「やってみて駄目だったりしたらすぐに言ってくださいね」
少しはやりやすくなればいいけれど。
結局六箱にもなった捨てる段ボールをとりあえず部屋の隅に。これは後日焼却処分。各部署で責任もってやらなければいけないらしい。
「さて、」
捨てない書類たちを整理していかなければ。
段ボールに入れられたものを束ごとに取り出して仕分けしていく。とりあえず国、街、教会の三種類に。そのあとで細かく分けていけばいい。
「ユエちゃんごめん、この清書先にして貰っていいかな」
「こっちもお願い~!」
「はいもちろん」
気づけば昼休憩の時間まであとすこし。
会議と契約、整理に時間をとられた分、今日の業務は押している。気合い入れてやっていこう。
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