37 / 91
第二章 月の国
2-21
しおりを挟む約束の十分前。中央広場に到着した。昨日買ったワンピースにカーディガン、店員さんにお勧めされたストール。
大丈夫、店員さんが選んでくれたものだからこちらの世界の感覚でも変じゃないはず。今朝から何度も何度も確認したし。
待ち合わせ場所の大噴水に目を向ける。まだ街に慣れていないだろうと、一番分かりやすい場所を選んでくれた。そこは待ち合わせスポットらしく、他にも人を待っているであろう人たちが結構いる。
「ユエちゃん」
「ウィルさん、こんにちは」
「こんにちは。迷わず来れた?」
そこにはすでにウィルフリードが待っていた。
細身のシャツとジャケット。シンプルだけれど裏地や袖口に差し色が入っている。それが上手いこと彼の柔らかな雰囲気と合わさって派手な印象はない。すっきりとして、けれど茶目っ気があって。それに加えて本人の顔のよさ。
昨日服を買いに走って本当によかった。
「はい。でもお待たせしてしまってごめんなさい」
「いや、楽しみで早く来すぎちゃったんだ。待ってるのも楽しかったから大丈夫だよ」
それに、とウィルフリードが続けた言葉。
「こういうのもデートっぽくていいね」
顔を熱くさせるのには十分すぎて。それをどうにか誤魔化せないかと明後日の方を向く結慧は、ウィルフリードの顔も同じように赤くなっているのに気付かない。
「じゃあ行こうか。お腹空いてる?」
「はい」
街を歩きながら、昼食を食べながら。ウィルフリードは少しずつティコの街のことを教えてくれる。
大きな山の斜面にあるこの都市は、上からオフィス街、商店街、住宅街。横に西から一区、二区、三区、四区、五区。今二人がいる三区が真ん中、行政の中心もあって一番栄えているところ。
ちなみに山の上半分は立ち入り禁止エリア。聖域なんだそうだ。ということは、そのすぐ下、街の頂点にある中央教会の大聖堂は遥拝所の役割もあるのだろうか。
そんな大まかなところから、あそこのパン屋がおいしいとか、あっちのバーはぼったくりだとか。
退屈する暇がないほど楽しい説明。自分のことを考えて話してくれているんだな、という気遣いに心が暖かくなっていく。同時に思うことがもうひとつ。
「ウィルさんは、この街が好きなんですね」
「そうだね。ずっとここで育ってきたし、役所で働こうと思ったのもこの街の役に立ちたいと思ったからなんだ」
そうして笑うウィルフリードはキラキラして見えて、いいな、と素直に思える。
「そうなんですね。素敵なことだわ」
「君には……ごめん、突然こっちに来ちゃったんだよね。俺ばっかりこんな話しちゃって申し訳ない」
「いいえ、ウィルさんのお話は楽しいですよ」
「でもやっぱり寂しいよね、ご家族も心配してるだろうし」
「大丈夫ですよ。私は家族もいないですし」
「え、」
「あ、ここですね本屋さん」
ウィルフリードには行きたい場所をあらかじめ聞かれていたため、大きい本屋を紹介して貰うことになっていた。希望通り、目の前にある本屋はすごく大きい。二階建てで、横幅もものすごく広い。これはわくわくしちゃうわね。
何故か立ち止まっているウィルフリードを急かして店の中へ。ずらりと並んだ書架は背よりも高い。一面の本。
「どんな本を探してるの?」
「とりあえず宗教関係の本は何冊か欲しいな、と。あとは……旅行誌かしら。月の国の」
さすが宗教が盛んな世界だけあって、それ系統の本は入り口近くにあった。目についたそちらに足を向ける。
「なんでまた旅行誌?」
「とにかく地理もなにも知らないので……。旅行誌なら地図も載っているし、その土地の特徴だとか名産なんかも載ってますから」
「なるほど、確かにそっちのほうが分かり易いね」
目の前にはずらりと並んだ月信仰の本。初心者入門、みたいなのはないのかしら。生まれたときから信仰の中にいるから初心者もなにもないのか。だったら子供向けコーナーに行くべき?
「こういう本はオシアスに選んでもらったほうがいいかもね」
「うーん、そうですね……」
「今度、教えるって約束でしょ?その時に本も見繕って貰おうか」
たくさんありすぎて選ぶことができなかった本は専門家に頼むことになった。オシアスは魔術師だけれど月信仰にも篤いらしい。
旅行誌はウィルフリードが選んでくれたし、あとで解説もしてくれるらしい。楽しみ。
あとは、
「魔道書を……」
魔法のない世界から来たから、やっぱり魔法って気になるじゃない。憧れね。
それを説明すれば、ウィルフリードは笑って初心者用の魔道書を選んでくれた。昔からあるベストセラー。十代前半の子が読むような本で、分かりやすいけれど理論なども詳しく載っている。聞けばウィルフリードもこれで魔法を学んだらしい。
数冊の本を抱えてレジへ。財布を出そうとしてくれたウィルフリードに流石に断りを入れてきちんと自分で支払う。帰って読むのが今から楽しみだ。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる