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第二章 月の国
2-37
しおりを挟む一度やってみないとわからない。そういう結論。
みんなでご飯を掻き込んで、部署に戻らずにそのまま倉庫へ走る。その途中で、帰ろうとしていたウェーバーを捕まえて。
「巻き込むなよ!」
「だってお前、魔術師適正あるじゃん。ちょっと魔法使ってくれよ」
「はぁ?いったい何するんだ?」
「ウェーバーさん、アイクさんまだ残ってたっスか?あの人も魔術師適正あるっスよね?」
「魔術師適正って?」
「すごく簡単に言うと、中等魔法以上が使える人だよ」
この世界の人たちは、みんな魔法が使える。けれど大体の人は簡単な魔法しか使えない。ちょっとした火を出せたりするだけ。あとはコンロに魔力を流したり、放映具を起動したり、その程度。
それ以上の事ができるような魔力のある人が魔術師になれる。なるかどうかは別として。
倉庫から使えそうなものをかき集める。去年までのモニュメントの部品や、造花の束、テーブルクロス、何に使ったのか分からないカラフルなボール。
アイクとネーターも駆り出され、結局部署の全員で段ボールを抱えて外へと出た。
「さっむい!」
「失敗したわコート欲しい」
「ソウマさん大丈夫?僕の……じゃなくて部長の着てるジャケット借りたらどうだい?」
「部長顔ヤバイよ戻して戻して」
役所の庭の適当な植木を選んで、段ボールを開ける。帰ろうとしていた人が何だ何だと足を止め、まだ残っていた人が窓から覗く。また総合管理部が何かやってるよ、と笑う声がする。
「へぇ、木に飾り付けね。面白い事するんだな」
「こちらの世界ではないのかしら」
「聞いたことないな。樹木の国でもないんじゃないか?あそこはえーと、木の枝を丸くする」
「リース」
「そうそれ」
「リース可愛いですよね。向こうの世界にあったわ」
ウェーバーとアイクと話しながら、テーブルクロスをリボンの形に結ぶ。できたものを手渡せば、それがふわふわ浮かんで木にくっつく。
魔術師適正のある二人以外も、その程度ならできるらしくどんどんと木が賑やかになっていく。
「凄いわ。私もできたらいいのに」
「できるんじゃないか?ほら、やってみな」
手渡されたのは月。天辺につけるもの。責任重大。
「あの本は読んでみた?」
「ええ、読んだわ。読んだけど、」
ウィルフリードが選んでくれた初級の魔道書は休んでいた間に読んでいる。部屋の中で実践するのは怖くて、社宅アパートの前でやるのも気が引けて。結局読んだだけで終わってしまっている。
「風で浮かせたらいいんだよ」
「これをマスターすれば動かずに物を取れるようになって便利なんだぜ」
「だからアーベルさん腹が出るんスよ」
気付けばこれが最後のひとつ。皆が周りに集まってきていた。
見られると余計に緊張する……!
「大丈夫、できるよ」
隣からウィルフリードの優しい声。
(……そうね。きっと、大丈夫)
みんながいる。なんとかなる。
本にかかれていた内容を思い出す。
両手で持った月。手のひらに魔力を集中させる。
とはいえ魔力といわれても分からないから、身体に流れる血液だとか気だとかオーラだとか、何かそういうものを集めるイメージ。
それを風に変えて、手から。
「浮いた!」
ふわり、吹き出た風が髪を揺らした。
月が手を離れて上へ、上へ。でも、
「ここからどうしたらいいの……!」
ただ垂直に昇っていく月。これを木につけるには横へ移動させなければ。でもどうやって?
焦って分からなくなって、風が止む。
ひゅ、と重力に引っ張られて月が落ちる。そのまま結慧の手の中に。
「落ちちゃったわ……」
「風を曲げたらいいんじゃねぇか?」
風を曲げる。……どうやって?
聞けば、イメージらしい。物心つく前から魔法に触れている彼らは何となくイメージで、と言うけれど。結慧はその何となくがわからない。だって風は真っ直ぐに進むもので、
「……風じゃなくて、空気を移動させればいい」
「空気?」
アイクが言う。無口な彼が珍しく話し出す。
「コレの周りにある空気を掴んで動かすようなイメージの方がソウマさんには分かりやすい、多分」
「そうだな。それに、ずっと風を出し続けるのは疲れるだろ?」
魔術師適正のある二人からアドバイスを貰う。
この月の周りにある空気。それを掴む。
ぽわ、と月が手から離れる。
掌の上、十センチ。
「それを投げる。速さと軌道を思い浮かべて」
「強くしすぎると魔力が出すぎるから優しくな。置きにいくくらいでいいと思うぜ」
少しだけ勢いをつけて、そっと放る。
月はふわりと舞い上がってまあるく弧を描く。視線で追う。ゆっくり、そう、たとえば風船みたいに。
ふわりふわり、木の上へ、すとん。
「できた……!」
木の天辺、葉っぱの上へ月が置かれた。
自分の意思で、自分だけで発動した魔法。
うまれてはじめて、使った魔法。
「私、魔法使えたわ!すごい!」
「やったねユエちゃん!」
「初めてでここまでコントロールできるのは凄いな」
「ソウマさんも魔術師適正あるんじゃないかい?」
思わず子供のように跳ねて喜んで。
だって今まで魔法なんて本かテレビの中の話だったから。こちらの世界に来て魔道具は使っているし何度か魔法をみたけれど、どこか自分とは関係のないものに思えていた。
だけど、ついに。まほう、つかっちゃった!
「じゃ、初魔法を祝してライトアップしようぜ!」
アーベルの声でアイクとウェーバーの指先が木に向けられる。
指先に淡い光が灯る。それがパチリと弾けて、
「わぁ!」
誰かの、もしかしたら皆の口から出た驚きの声。
カラフルな装飾のつけられた木が、銀色の小さな光を無数に纏う。道行く人が立ち止まって、残業をしていた人が窓から顔を出す。ねぇ見て!と誰かを呼ぶ声がして、その度にまた感嘆の声。
「なぁ光の色変えれる!?」
「いいぜ。ほら」
「あーーー!いい!!これいいっスよ!!!」
この世界ではじめてのデコレーションツリー。
キラキラして、賑やかで、少し不格好。
それはまるで、今この瞬間を切り取ったようで。
「きれい、」
「うん……すごく綺麗だ。凄いね、君は」
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