月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第二章 月の国

2-39

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 冬至祭、当日。

 普段の仕事着よりも少しだけお洒落なワンピース、コートは一着しか持っていないからいつもの。歩きやすいけど可愛いパンプス。いつもよりも入念に髪を梳かして、化粧ポーチは忘れずに鞄の中へ。

 朝、いつもの道だけれど、どこかいつもと違う雰囲気なのは今日がお祭りの本番だから。
 普段ならまだ人通りの少ない時間なのに、今日はチラホラ人がいる。なんとなく、町全体がそわそわしている気がする。

「あ、」

 前の方にいるのは。

「ネーターさん。アイクさん」
「やぁ、おはようユエちゃん」
「……おはよう」
「はい、おはようございます」

 揃って歩いていた二人に声をかけた。二人が一歩ずつ左右へずれたので、空いた真ん中へ入る。なんとなく暖かい気がする。
 そういえば、いつの間にか部署の皆が結慧のことを名前で呼ぶようになった。ウィルフリードが何か言っていたような気がするけれどよく分からない。結慧としては皆と仲良くなれたような気がして嬉しいようなむず痒いような。

「ついに当日ですね」
「そうだね、ここまで長かったなぁ。けれど、今年はユエちゃんが大活躍してくれたからそこまで悲惨な事にはならなかったね」
「嘘、これで?」
「去年はアイクとウェーバーが実行委員だったけれど、アイク、何キロ痩せたのだっけ?」
「七キロ」
「本当?アイクさん元々細いのに」
「逆にウェーバーは激太りしていたよ」

 結慧とネーターが喋ってアイクが時々相槌をうつ。そんな事をしていたら職場まであっという間。街の中心に近づくにつれ、朝早いというのに人も増え、すでに営業している露天もでてきた。

「すごいわ。もうお店が出てるのね」
「今日は特別な日だからさ」

 食べ物、飲み物、土産物。並ぶ露天と、元々ある商店と。そのどれもがキラキラと輝いて見える。

「何か買っていくか」
「ああ、いいね。飲み物でも買っていくとしようか」

 アイクの提案に乗って、近くの露天で立ち止まる。

「本当はホットワインが飲みたいのだけど」

 三つ並んだ可愛らしいカップ。明らかに使い捨てではないけれど、これは持ち帰ってもいいらしい。そこに注がれるのはホットのぶどうジュース。これから仕事だから、ノンアルコール。

「わ、いい香り」

 温かいジュースに溶け込んだスパイスの香りが鼻を擽って、湯気と共に漂っていく。お代は少しのお祭り価格だけれど、鞄に手をいれる前に二人に阻止されてしまった。

「このくらいはな」
「僕たちにも格好つけさせておくれ」

 カップはお揃いの色違い。三人で職場で使おうと話ながらまた歩き出す。両手で包んだカップが暖かい。
 いつもと違う特別なお祭りの日の朝は、やっぱりいつもと違っていた。


「抜け駆け禁止っつったろ!!」
「俺たちが必死にやってる間になんて仕打ちっスか」
「俺もまだお揃いの物なんて持ってないんだけど?」

 出社して早々に手の中の物を見つけられ、買って貰ったのよとちょっと自慢して。荷物を置いて化粧直しに立った後の喧嘩など知る由もない。

 始業して、いつもと違うのは建物の中の静けさと、逆に窓の外の賑やかさ。今日は祝日、役所は休み。かわりに街の賑わいがここまで届く。

「業務はやっと普段通りですね」
「いつもはもっと酷いんだよ。今年は通常業務がさほど貯まらなかったからね」
「ユエのおかげでな。ってことで、ちょっと付き合ってくれないか?」

 郵便物を開封して仕分けして。相変わらず部長のウィルフリードとアーベルとハンスの冬至祭チームは席にいないけれど、それ以外は普段よりもゆっくりと時間がすぎていく午前中。
 ウェーバーに声をかけられ頷けば、何故だかコートを着させられ連れ出される。

「おい」
「せっかくだから昼飯買ってきてやるよ」
「二人きりはズルいんじゃないかい?」

 役所の敷地から一歩出れば、大通り沿いという事もあって結構な賑わいだった。メインの通りではないところにも、至るところに露天が並んでいる。朝よりも数を増やして、未だ準備中のところもある。

「あんま遠くには行けないけどな。沢山買って皆で食おうぜ」
「はい!」

 定番、おすすめ、気になったもの。両手いっぱいになるまで買い込んでいく。
 途中で見かけたラクレットチーズは、ウェーバー曰く「これは出来立て以外はダメ」とのことなので、

「おいしい……」
「買い出しの特権だな」

 パンにチーズをかけてもらって、半分こ。寒さで知らず冷えていたらしい身体を暖めてから役所に帰る。
 いい香りがする袋を抱えて部署のドアを開ければ、ウィルフリードたち三人も戻ってきていた。

「おかえりユエちゃん、ウェーバーは話があるから表出なさい」
「せっかくユエが選んだのに部長は食わねぇの?」
「食べるよ!!」

 書類をどかして、食べ物を広げて、騒ぎながら食べる屋台ご飯は特別な味。
 お腹いっぱいになって、午後眠くならないかしらと心配していたけれど大丈夫。

「さ、行くっスよ!」
「お前らなぁ、」
「見回りの時間なんだよ!」

 今度はアーベルとハンスに連れ出されて、再び外へ。付いて行ってもいいのかと聞けば、見回りと称した休憩時間のようなものらしい。実行委員も祭を楽しめるようにという配慮だそうだ。

「ユエちゃんも実行委員みたいなもんだろ」
「そうっスよ。それにほら、ツリー見なきゃ!」

 二人に手を引かれて、ついに祭の中心へ。
 沢山の人。教会へ行く人、帰る人、露天に並ぶ人、飲む人、食べる人。
 車道は封鎖されて歩行者天国になっていた。そこを行き交う沢山の人はみんな笑顔で、その間を縫って中央広場へ。遠目からでもみえるあれは、

「わ、すごい!」

 飾り付けられた大きな木。頂点に付けられた月のモチーフ。その下は白と銀。所々にネイビーの装飾品で埋め尽くされている。銀のラメを至るところに使っているのだろう、キラキラと輝いてみえて美しい。
 シンプルな色使いだけれど、洗練されて煌めいて。

「ユエさんのおかげっスよ。大成功!」
「私じゃないわ。こんな凄いの作ったのは」
「いーから!誉められとけ!」

 ぐしゃぐしゃ。ぶんぶん。アーベルに頭を乱暴に撫でられ、ハンスに手を握られ振り回され。すごいすごいと全身で表現されて笑ってしまう。
 案を出しただけなのに。しかも一から考えたのではなく、向こうの世界にあったものを伝えただけなのに。それでいいんだと豪快に笑い飛ばされたら、まぁいいかという気分になってくるから不思議。

「この子が考えましたー!って叫ぶか!」
「それはやめて!」


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