月の叙事詩~聖女召喚に巻き込まれたOL、異世界をゆく~

野々宮友祐

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第三章 月の神殿

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 眠れない。

 ついに明日、作戦本番。決行は早朝だから、寝て起きたらすぐだ。朝四時前には最低でも起きねばならないからと、ドロリスに夜の二十一時にはベッドに押し込まれてしまった。
 横になってからもう一時間も経つけれど、一向に来ない眠気。何度も寝返りを打ってシーツはすでにくしゃくしゃになってしまっている。

 不安で仕方ない。
 この二週間で何度も話し合った作戦。そんな短期間でできる事などたかがしれている。けれど、時間がない。

 この世界はもう、限界が近い。

 太陽が昇らなくなって三年。気温が下がり草木は枯れ、食物は育たない。増える失業者、悪化する治安、衛生環境が悪くなって感染症が流行り始めている。今はまだギリギリのところで踏ん張っている人間も、いつ限界がきてもおかしくはない。

 月神がいないことも問題のようだ。
 この世界は神の存在によって均衡を保っているのだとアストライオスが言っていた。それが、月神の死から時間が経つにつれどんどんと傾いていっている。今年、太陽神の力が最大値になっているのも大きな要因。
 
 崩れ始めたら、一瞬。

 一刻も早く正さねばならない。そうしなければ、この世界は終末を迎えて滅び去る。

 けれど太陽神は夏至に向け、日に日に力を増している。元より神たちの中でも一番と言って良い力の強さ。次代の太陽と月、そしてその他すべての神たちが向かっていっても単純な力比べになれば勝てるかどうか。

(……私、関係ないのに)

 何の関係があるというのだろう。
 聖女の召喚に巻き込まれただけの会社員が。

 結慧はまだ、自分がこの世界で生まれたのだと信じてはいない。二十年以上あちらの世界で一般人として生きてきたのだ。今さら、しかも神だなんて言われて信じられるわけがない。
 
 関係ないのに。この世界がどうなろうと、知った事ではないのに。どうしてここまでしなくてはいけないのだろう。どうして、どうして。

 溜め息をついて、ベッドを抜け出る。
 カーテンを開ければそれだけでひんやりとした空気が身体にあたる。冷たい窓枠、その向こう。

 ティコの街が見下ろせる。
 山の裾野に広がる住宅街は、まるで星空のよう。商店街は飲食店のエリアだけがまだ明るさを保っている。暗くなったオフィス街、教会の後ろ姿。
 役所は、あそこ。
 大きな建物は、もうほとんどが明かりを落としている。ついているのは夜勤のある部署と、他にチラホラ。
 その中で、当然のように明かりのついている一角。こちらから見れば廊下側だというのに、それでも分かるくらい漏れている光に笑ってしまう。

 もしも、世界が終わったら。
 あの人も、あの人たちもいなくなってしまう。

(――――それは、嫌ね)

 関係ない、どうでもいい。
 そう思えないものができた。

 こつん、窓硝子に額を当てる。真冬の夜風にさらされた硝子で頭が冷えていく。
 いい加減もう寝なければ。失敗できない明日はもうすぐそこまで来ているのだから。

 
 大切な人たちのために、自分にできることをする。

 たとえ太陽が元に戻っても、彼らと会うことはもうないけれど。

 
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