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第三章 月の神殿
3-11
しおりを挟む「ユエは本当に華奢ですのね」
「細いっていうより薄いですわ~」
作戦を詰める以外にもやることはある。
水神ミヅハノメと花神フローラ、それからドロリス。三人に囲まれて結慧は遠い目をする。
今日はドレスの調整。さっきから着ては脱いで、着ては脱いでを繰り返している。
月の神殿に残っていたドレスはどれもドロリスが管理を怠らずにいてくれたおかげで状態がよく、綺麗。ただしすべて二十六年前のものだから当然形が古い。
今時のドレスにアレンジできそうなものを三人が事前にピックアップしてある。それを試着してみて一番良さそうなものに手を加えるのだという。
だけど、
「どれも相当詰めないと駄目ですわね」
先代月神の妻、つまりたぶん結慧の母親……のはずだが体型がずいぶん違うらしい。この世界、周りを見渡した限り結慧のような見た目、つまりザ・日本人体型が存在しない。身長が高くて出るところがきちんと出ている。結慧だって日本にいれば平均以上の身長だったし、年頃の女性らしく体型にはそこそこ気をつかってきたからそれなりのスタイルのはず。けれど、彼女たちと比べるとどうしたって凹凸は控えめだし薄さと細さが際立って見える。
ミヅハノメは名前だけは日本の神である罔象女神だけれど見た目は日本人とは程遠い。樹木神のククノチ、久久能智神もそうだ。ちょっと裏切られた気分だけれど、そんなこと言ったら結慧だってこちらでの名前はヘカテーらしいからなんとも言えない気分になる。
「次はアクセサリーですわ!」
なんとかできそうなドレスを選び、次。
まだまだ先は長そう。
結慧もドレスやアクセサリーは好きだ。キラキラして綺麗なものは見ていて楽しいし、憧れる。けれどそれを実際に自分が着たりつけたりするとなると。
「……もうちょっと地味なやつは」
「「駄目ですわ!」」
「……はい……」
どうにも腰が引けてしまう。今まで多少のお洒落はしたけれど、豪華に着飾ったりなんてした事がない。そんな贅沢は夢のまた夢、高価な宝石など触ったこともない一般人だった身としては。
「ユエは綺麗なのだから、もっと自信を持って」
自信を持って。そんな事言われても。
でもそれは、以前にも。
「誰か、綺麗な姿を見せたいと思う殿方はいらっしゃらないの?」
「ぅ、……」
「あら、いらっしゃるのね!じゃあもっと気合いをいれなくてはいけませんわ!」
顔が熱い。そう、世界中の放映具で映像を流すということはきっとあの人もそれを見ることになる。
ドレス姿を、彼に。ウィルフリードに。
それはとても
「……恥ずかしい……!」
「どうしてそうなっちゃうんですの~!?」
だって。だってだってだって。
今まで彼の前で着ていたものなんてほぼ仕事着。どこにでもあるカットソーとかカーディガンとかスカート。柄も色味もないような。それがいきなりドレスだなんて
「デートの時は何を着ていらしたの?」
「ワンピースとか……」
「色は?」
「グレー」
「地味ッ!!」
陽菜にも言われた地味をまた言われて心が抉られる。
いいじゃない地味だって。似合ってないよりマシよ。
「いい?ユエ。ドレスもアクセサリーも貴女の剣であり盾なのよ」
太陽神に挑むのも、月の威信を回復するのも、人前に姿を見せるのも、丸腰では到底無理な話。
「何かに勝利するにも、誰かの心を掴むにも、持っているもの全てで戦わなくては」
化粧も服装も装飾品も、心を支えて自信をくれる。
その自信が力になるはず。
「お洒落はいつだって、自分の為にするものよ」
だから背を伸ばして、顔を上げて。
私たちが貴女を強くしてあげる。
そう真っ直ぐに言われ、手を握られて。勇気を直接心に流し込まれてしまったら。
「……うん、頑張ってみるわ」
「ええ、その意気よ」
「最強目指しますわよ!」
「さ!ぐずぐずしている暇はありませんわ。ユエに詳しくお話を聞かなくてはならないもの」
「え?何の?」
「ミヅハったら、相変わらず恋バナ大好きですわね~」
「私の生き甲斐ですもの!ああ~わくわくしちゃう!」
「ちょっと、ねぇ」
「こうなったミヅハは止まりませんの。諦めた方が良いですわ」
「うふふ、観念なさって。根掘り葉掘り聞いてあげる」
「勘弁してちょうだい……!」
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