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1 待ち人数ゼロの時、発券機使用の意味とは
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春ももうすぐだなという頃、僕、山本光汰は死んだ。
ブラック企業に勤めてろくに家にも帰れず毎日二十四時間仕事してりゃあマァそうなる。
なんで自分が死んだのが分かったかって、だって仕事でパソコンを見ていたハズなのに気付いたら会社のデスクに突っ伏した自分の後頭部を見ていたらから。
アレ、と思った瞬間、ふわりと身体が浮いて光に包まれた。
んで、今。
目の前にはでっかい門。いや、扉かな。とっても豪華。
見間違いじゃなきゃこれまたでっかい看板にでっかい文字で「天国の門」って書いてある。
そっかぁ。天国の門かぁ。
僕、死んで天国に行けるほど徳積んでたんだ? 小さい頃、近所のお寺のお坊さんに「死んだら閻魔様の裁判を受けるんだよ」って聞いてたんだけど、裁判どころかいつのまに仏教からキリスト教に改宗してたんだろ。
ていうか、書いちゃうんだ。天国の門て。台無しでは?
「えぇ……どうしよ……」
行くべき?行くべきよな?
だってあの門以外になにもない。横を見ても後ろを見ても、ついでに上も下も真っ白。白いモヤモヤ。
僕どうやって立ってるんだろ。いや、浮いてる?
とにかくこうしていても仕方ないから恐る恐る一歩踏み出す。歩けた。大丈夫。扉の前まで行ってそっと手を掛ける。
開くよな? 開いてよ、開かなかったら泣くぞ。
ままよと力を入れれば、案外すっと開いた扉。その先は、
…………市役所……?
並んだ待ち合い椅子、用紙の置かれた記入台、カウンター式の窓口とその向こうに並ぶ事務机。
想像してたのと違う……。いや、実際は想像も何もしてなかったけど絶対にコレジャナイ事だけは確か。でも何度目を擦ってみても市役所。どうして……?
「こんにちは!新規の方ですね。こちらでお待ちください」
「あ、ハイ。あ、新規? え?」
は、羽だーーー!
よくある発券機の横に立っていた綺麗なお姉さんは背中に真っ白な羽が生えていた。
天使って……ちゃんと羽が生えてるんだ……。
番号札を渡されて、お姉さんの前の長椅子へ。市役所の中で異彩を放つお姉さん。いや、市役所のほうがおかしいのか。とにかくとんでもなくミスマッチを目の前にして思考を放棄していたら背後で扉の開く音がした。
そこはさっき僕が入ってきた扉。
こんどはおじいさんが顔を覗かせて口を開けて固まっていた。うん、だよね。わかる。
「こんにちは!新規の方ですね。こちらでお待ちください」
あっこのお姉さん、手慣れてるな。
おじいさんは瞬きの間に番号札を握らされて僕のとなり。視線はやっぱりお姉さん、の羽。うん、だよね。わかる。失礼かなと思うけどやっぱりどうしても見ちゃう。さっきからお姉さんに合わせてちょっと動いてる。
「うふふ、本物ですよ」
「「 ほぁぁ 」」
このお姉さん、実は相当手慣れてるな?
バッサバッサと動かしてくれた羽にちょっと感動してたらピンポーンという音と共に頭上のモニターに番号。
「あ、僕だ……」
番号札一番。三番窓口まで。
三番……あっちか。お姉さんにも促されたのでとにかく進む。こういう時、とりあえずなんの抵抗もしないで流されるのがそこはかとなく日本人気質な気がするよね。アメリカ人とかなら「ヘイ!ココはいったいドコなんだ!?」ってお姉さんに詰め寄りそう。とっても偏見。
「どうぞお掛けになって下さい」
「あっハイ」
三番カウンターにいたのは普通のお姉さんだった。羽とか生えてない。ちょっとがっかり。
「お名前教えて頂けますか?」
「山本光汰です」
「……はい。地球、日本出身のヤマモトコウタ様ですね。まず、この度はご愁傷様でございました」
「あっやっぱり僕死んだんですか」
「はい、過労と睡眠不足から来る急性心不全です」
そっかぁ。やっぱり僕死んだんだ。
現実味が薄すぎるせいでまったく実感ないけど、もうちょっと生きたかったなぁ。
忙しすぎて全然連絡もとれていなかった家族も友達も、もう会えないなんて思いもしなかった。こんなことなら無理してでも電話くらいすればよかった。父さんと母さん、悲しむかな。そりゃそうか。まぁ、兄ちゃんいるから大丈夫かな。
「…………大丈夫ですか?」
「え、あーー……ハイ、すみません」
正直大丈夫なわけないけど、お姉さんを待たせるわけにはいかない。
「死んだらみんなココに来るんですか?」
「いいえ、ここに来られるのはごく一部の方だけです。魂の循環から外れた方……地球の言葉ですと、えーと……アセンション?ニルヴァーナ?あ、日本だと解脱?ですかね」
「僕ったらいつの間にそんな徳を積んだ……?」
なんてこった。僕はいつの間にか輪廻転生から脱出したらしい。まじかよ。悪い事なんてしてないけど、特別いい事をした覚えもないんだけど。
「いえ、貴方の場合そうではなく」
「あ、そうスか……」
違った。やだ恥ずかしい。
まぁ僕みたいなのが生まれ変わらずに天国に行けるんだったら今ごろ誰も地球にいないし天国は人工過密状態になるだろうね。って、
「ここ、天国なんですか……?」
「はい。言葉としてはそれで合っていますよ」
「まじかよ」
確かにさっき「天国の門」って書いてあった扉開けたけど、あれマジのやつだったの?
ていうか天国ってこんな感じなの?もっとこう、ふわふわの雲の上にあってウフフアハハみたいな場所じゃないの?僕の貧相な想像もひどいと思うけど、でもやっぱ市役所じゃない。絶対に違う。
「一般的に“天国“というと、苦しみも悲しみもない場所という意味があるかと思いますが、そのような理想郷という意味の”天国”は存在しません。あるのは人類から”神”と呼ばれる者たちの住む世界です。天界と言った方が分かりやすいかもしれません」
「……なる、ほど……?」
「ここは天界ですが何の不自由もなく暮らせるなら私は今働いていませんし、さっき紙で指切りました痛いです」
「なるほど理解」
つまり神様はいるけど仕事はある。お姉さんの目からハイライトが消え去ったから、どんな世界でも仕事はクソ。はっきりわかんだね。
「人類でこちらに移住される方は別ですよ」
「え、そうなんですか」
「こちらに来る方はすでに輪廻という魂の修行のようなものを終えていらっしゃる方が殆どで……そうですね、魂の余生という言い方で分かりますか?」
「はい」
「つまり年金が出ます」
「なんと」
「生活に必要な金額は毎月支給されます。金額はそれほど多くはありませんが、こちらの指定する住居に住めば住居費と水道光熱費等は不要です。ちなみに、人類の皆様は身体はお亡くなりになっているので病気はしませんし、食事の必要がありません。もちろん、娯楽として食べることはできますよ」
「天国かな……?」
天国だったわ。
年金がもらえて固定費がかからない。怪我はあるらしいけど病気はない。つまり医療費がほぼかからない。食事は娯楽。ということは出費はほとんど娯楽費として使えるということでは?それなんて天国?
「ん?でも僕、解脱して来た訳じゃないんですよね?」
「はい、そうですね」
「じゃあ何で……」
「企業からスカウトが来ているので」
「なんで??」
いやホントになんで???
ブラック企業に勤めてろくに家にも帰れず毎日二十四時間仕事してりゃあマァそうなる。
なんで自分が死んだのが分かったかって、だって仕事でパソコンを見ていたハズなのに気付いたら会社のデスクに突っ伏した自分の後頭部を見ていたらから。
アレ、と思った瞬間、ふわりと身体が浮いて光に包まれた。
んで、今。
目の前にはでっかい門。いや、扉かな。とっても豪華。
見間違いじゃなきゃこれまたでっかい看板にでっかい文字で「天国の門」って書いてある。
そっかぁ。天国の門かぁ。
僕、死んで天国に行けるほど徳積んでたんだ? 小さい頃、近所のお寺のお坊さんに「死んだら閻魔様の裁判を受けるんだよ」って聞いてたんだけど、裁判どころかいつのまに仏教からキリスト教に改宗してたんだろ。
ていうか、書いちゃうんだ。天国の門て。台無しでは?
「えぇ……どうしよ……」
行くべき?行くべきよな?
だってあの門以外になにもない。横を見ても後ろを見ても、ついでに上も下も真っ白。白いモヤモヤ。
僕どうやって立ってるんだろ。いや、浮いてる?
とにかくこうしていても仕方ないから恐る恐る一歩踏み出す。歩けた。大丈夫。扉の前まで行ってそっと手を掛ける。
開くよな? 開いてよ、開かなかったら泣くぞ。
ままよと力を入れれば、案外すっと開いた扉。その先は、
…………市役所……?
並んだ待ち合い椅子、用紙の置かれた記入台、カウンター式の窓口とその向こうに並ぶ事務机。
想像してたのと違う……。いや、実際は想像も何もしてなかったけど絶対にコレジャナイ事だけは確か。でも何度目を擦ってみても市役所。どうして……?
「こんにちは!新規の方ですね。こちらでお待ちください」
「あ、ハイ。あ、新規? え?」
は、羽だーーー!
よくある発券機の横に立っていた綺麗なお姉さんは背中に真っ白な羽が生えていた。
天使って……ちゃんと羽が生えてるんだ……。
番号札を渡されて、お姉さんの前の長椅子へ。市役所の中で異彩を放つお姉さん。いや、市役所のほうがおかしいのか。とにかくとんでもなくミスマッチを目の前にして思考を放棄していたら背後で扉の開く音がした。
そこはさっき僕が入ってきた扉。
こんどはおじいさんが顔を覗かせて口を開けて固まっていた。うん、だよね。わかる。
「こんにちは!新規の方ですね。こちらでお待ちください」
あっこのお姉さん、手慣れてるな。
おじいさんは瞬きの間に番号札を握らされて僕のとなり。視線はやっぱりお姉さん、の羽。うん、だよね。わかる。失礼かなと思うけどやっぱりどうしても見ちゃう。さっきからお姉さんに合わせてちょっと動いてる。
「うふふ、本物ですよ」
「「 ほぁぁ 」」
このお姉さん、実は相当手慣れてるな?
バッサバッサと動かしてくれた羽にちょっと感動してたらピンポーンという音と共に頭上のモニターに番号。
「あ、僕だ……」
番号札一番。三番窓口まで。
三番……あっちか。お姉さんにも促されたのでとにかく進む。こういう時、とりあえずなんの抵抗もしないで流されるのがそこはかとなく日本人気質な気がするよね。アメリカ人とかなら「ヘイ!ココはいったいドコなんだ!?」ってお姉さんに詰め寄りそう。とっても偏見。
「どうぞお掛けになって下さい」
「あっハイ」
三番カウンターにいたのは普通のお姉さんだった。羽とか生えてない。ちょっとがっかり。
「お名前教えて頂けますか?」
「山本光汰です」
「……はい。地球、日本出身のヤマモトコウタ様ですね。まず、この度はご愁傷様でございました」
「あっやっぱり僕死んだんですか」
「はい、過労と睡眠不足から来る急性心不全です」
そっかぁ。やっぱり僕死んだんだ。
現実味が薄すぎるせいでまったく実感ないけど、もうちょっと生きたかったなぁ。
忙しすぎて全然連絡もとれていなかった家族も友達も、もう会えないなんて思いもしなかった。こんなことなら無理してでも電話くらいすればよかった。父さんと母さん、悲しむかな。そりゃそうか。まぁ、兄ちゃんいるから大丈夫かな。
「…………大丈夫ですか?」
「え、あーー……ハイ、すみません」
正直大丈夫なわけないけど、お姉さんを待たせるわけにはいかない。
「死んだらみんなココに来るんですか?」
「いいえ、ここに来られるのはごく一部の方だけです。魂の循環から外れた方……地球の言葉ですと、えーと……アセンション?ニルヴァーナ?あ、日本だと解脱?ですかね」
「僕ったらいつの間にそんな徳を積んだ……?」
なんてこった。僕はいつの間にか輪廻転生から脱出したらしい。まじかよ。悪い事なんてしてないけど、特別いい事をした覚えもないんだけど。
「いえ、貴方の場合そうではなく」
「あ、そうスか……」
違った。やだ恥ずかしい。
まぁ僕みたいなのが生まれ変わらずに天国に行けるんだったら今ごろ誰も地球にいないし天国は人工過密状態になるだろうね。って、
「ここ、天国なんですか……?」
「はい。言葉としてはそれで合っていますよ」
「まじかよ」
確かにさっき「天国の門」って書いてあった扉開けたけど、あれマジのやつだったの?
ていうか天国ってこんな感じなの?もっとこう、ふわふわの雲の上にあってウフフアハハみたいな場所じゃないの?僕の貧相な想像もひどいと思うけど、でもやっぱ市役所じゃない。絶対に違う。
「一般的に“天国“というと、苦しみも悲しみもない場所という意味があるかと思いますが、そのような理想郷という意味の”天国”は存在しません。あるのは人類から”神”と呼ばれる者たちの住む世界です。天界と言った方が分かりやすいかもしれません」
「……なる、ほど……?」
「ここは天界ですが何の不自由もなく暮らせるなら私は今働いていませんし、さっき紙で指切りました痛いです」
「なるほど理解」
つまり神様はいるけど仕事はある。お姉さんの目からハイライトが消え去ったから、どんな世界でも仕事はクソ。はっきりわかんだね。
「人類でこちらに移住される方は別ですよ」
「え、そうなんですか」
「こちらに来る方はすでに輪廻という魂の修行のようなものを終えていらっしゃる方が殆どで……そうですね、魂の余生という言い方で分かりますか?」
「はい」
「つまり年金が出ます」
「なんと」
「生活に必要な金額は毎月支給されます。金額はそれほど多くはありませんが、こちらの指定する住居に住めば住居費と水道光熱費等は不要です。ちなみに、人類の皆様は身体はお亡くなりになっているので病気はしませんし、食事の必要がありません。もちろん、娯楽として食べることはできますよ」
「天国かな……?」
天国だったわ。
年金がもらえて固定費がかからない。怪我はあるらしいけど病気はない。つまり医療費がほぼかからない。食事は娯楽。ということは出費はほとんど娯楽費として使えるということでは?それなんて天国?
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「はい、そうですね」
「じゃあ何で……」
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いやホントになんで???
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