世界管理協会 異世界課 〜異世界転生申請書のご記入はお済みですか?〜

野々宮友祐

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2 六文銭はいつ入金されますか?

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「スカウト……?」
「はい。こちらです」

 お姉さんが取り出した紙はいわゆる求人情報だった。



【会社名】
 世界管理協会
【募集職種】
 総合職(世界のマネジメント、管理)、事務
【勤務地】
 三層第七区
【交通】
 セントラルライン七区中央駅 徒歩十分
 交通費全額支給、自家用車通勤可
【給与】
 月三十五万マニ(昇給あり)
 *三ヶ月間は研修期間として月三十万マニ
【諸手当】
 役職手当、勤務手当、住宅手当、家族手当 等
【昇給】
 年一回(九月)、随時(昇給による)
【勤務時間】
 八時三十分~十七時三十分(実働八時間)
 部署によりシフト制、夜勤あり
 *残業なし
【休日】
 週休二日、土日祝休み
 夏季・冬季休暇、有給休暇、慶弔休暇(結婚、忌引、配偶者出産)、特別休暇(介護、産前産後、育児)
【福利厚生】
 各種保険(健康、厚生年金、労災、雇用)、慶弔見舞金、育児・介護休暇制度、退職金制度、車両補助金制度、社宅あり




「いやめっちゃ待遇いいじゃん!」

 こわいこわいこわい。好待遇すぎて恐怖。なに? 残業なしってなに? 知らない世界すぎて詐欺かなって思う。
 いやでも待って。僕は天界のお金の相場を知らない。もしかしたら待遇はよくても給料が低いとかあり得ない話じゃない。

「お姉さん、ランチの相場は?」
「ん~安くて五百マニ、誰かと食べに行こうってすると千ちょっと、休日にお洒落なランチを食べようと思うと二千マニくらいですかね」
「円相場ぁ!」

 一緒だった。円と一緒。なぜランチと思うかもしれないけれど、サラリーマンはランチの相場で貨幣価値を計れるのである。ビッグ○ック指数みたいなもん。
 じゃあこの給与も、えっだって僕、固定費かからないし医療費も食費もいらないんでしょう?
 なに?この……なに??

「ご一考いただけるのでしたら面接の日程を組みますが」
「ちなみに、蹴ったらどうなるんです……?」

 そうだ。死んだのになんでこれ以上働く必要があるんだ。しかも僕の死因ってつまり働きすぎじゃん。ここでもまた死ねってことか。

「ヤマモト様の場合は解脱をされた訳ではありませんので、もう一度魂の循環に戻っていただく事になります」

 つまり、転職するか人生ガチャ引き直して赤ちゃんから再出発するか。なにその二択。いまここで決めろと?あんまりじゃない?

「……住むところってどんな感じですか」
「こちらでご用意があるのはこの三つですね。スカウトを受ける場合は社宅も選べますよ。その場合は費用が発生して給料天引きになりますが」

 出してもらった間取りぜんぶ、今までの僕の部屋よりぜんぜん広かった。ボロアパートで、壁が薄くて隣の声とか丸聞こえだった僕のワンルーム。まったく帰ってなかったから問題にもならなかったけど。

「……途中で辞めたくなった場合は?」
「定年までお勤めいただければそのまま解脱扱いになります。これは転職した場合も適用になります。ですが、退職後二ヶ月以内に別の職に就かなかった時は魂の循環にお戻りいただくことになります」
「それって、」
「絶対に嫌という訳じゃなければ、やってみたらいいんじゃないですかね」
「……そっかぁ…………」

 働きたくない!って言って拒否しても、ちょっと働いてみてやっぱ辞める!って言っても変わらないってこと。もしやってみて、うまくいったらそのまま暮らしていける。それなら……。

「やってみようかな……」

 スカウトということは、きっと僕の今までを神様的フシギぱわぁみたいなもので確認した上で声をかけてくれたんだろう。だからきっと今までみたいに「こんなに使えないと思わなかった」とか「もっと仕事ができるやつがほしかった」とかは言われない、はず、だよね?

「はい。では、先方に連絡しますので少々お待ちくださいね」

 にっこり笑ったお姉さんが手元のパソコンを操作しながらどこかに電話をかけ始めた。ああ、もうやっぱやめますができない。ていうか天界にもパソコンと電話が普及してるんだね……?

「……はい、では確認しますのでお待ちください」
「ん?」
「ヤマモト様すみません、面接今からでも大丈夫ですか?」
「えっ今!? あ、ハイ大丈夫ですけど」
「大丈夫だそうです。はい、こちらも……オーケーです。六Bミーティングルームとれました」

 めっちゃ急~~~……。
 展開早すぎない? もうちょっと心の準備……っていうか僕、着てた服そのままだからワイシャツよれよれなんだけどこれで面接すんのマジ? 落とされない?
 
「ではご案内します」
「ぅ、はい……」

 昨日、会社の近くのネカフェでシャワーは浴びたから臭いは大丈夫だと思いたいけど、汗もかいてるしもしかするかも。どうしよう。やっぱ後日にしてもらえばよかったかもしれない。
 そうこう考えている内にエレベーターに乗り六階へたどり着いてしまって、受付の前を通りすぎて小さな部屋に通される。デスクと椅子、壁には飾り棚。そこには本がお洒落に配置され……これ何語……?

「終わったら手続きなどありますので戻ってきてくださいね。担当の方はもうすぐ来ると思いますので……あ、いらっしゃいましたね」
「早くない!?」
「隣のビルからなので」
「そりゃ早いわ!」

 近い近い。すぐそこじゃん。ていうか待って待って、僕の心の準備とかそんな時間は一切ない感じ?
 うう、どうしよ、緊張する。お姉さんが廊下のむこうに向かって手を振っている。ああーどんな人なんだろ、どうかお願いだからこわい人じゃありませんように。

「こんにちは、はじめまして」
「ピッッッ」


 ドドドドド美人のお姉さんがきた。


 艶々とした黒髪はゆったり編まれて片側に垂らしてある。同じ漆黒の長い睫毛に縁取られた垂れ目、その下に完璧配置された泣き黒子がスーパーセクシー。すっと通った鼻筋に、ぽってりとした唇。どこからどうみても完成された美。それだけでも素晴らしいのに、その下で激しく主張なさっているウルトラでっかいおっぱい。開け放たれたワイシャツのボタン。みたことないような谷間。しなやかなくびれ。細身のスカートは引き締まったおしりを引き立ててすらりと伸びた長い足を惜しげもなく晒している。つまりとっても


 エッッッッッチですね!?!?!?


 いいにおいがする。甘くてちょっと蠱惑的な大輪の花みたいないいにおい。

「あっ、ぁ……ッ、ぉ……」
「じゃあ私は戻りますね」
「ええ、ありがとう。終わったらお知らせするわね」
「……お、お風呂に入らせてください……!!」
「「――――うん??」」

 なんかもういろんなものの限界がきた。
 耐えられない。こんなエッチなお姉さんとこのまま二人きりになるのは無理すぎる。
 
「えーと、ヤマモト様?」
「ぼく、いっぱい汗かいてて多分ちょっと臭いとおもうので……!」
「特に何の臭いもしないけれど……」
「先に、せめてシャワーを、っ」
「今さら無理ですよ、諦めて面接受けてくださいね。じゃあ私はこれで」
「あっ、やだ、だめ、いかないでぇ……!」

 密室で二人っきりにしないで!!
 あーーーーー!!いいにおいがするぅ!!
 

「いや、だめぇ……汚いからぁ……!あぁッ――――!」
 
 
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