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着いた時には日が傾き始めた夕刻になっていた。
しかし、馬車で1日かからずに着いた保養地は王都からほど近いにも関わらず自然豊かな素晴らしい所だった。
比較的なだらかな丘にある林を少し行くと小さいながらも美しい湖があり、そのほとりに可愛らしい見目の立派な洋館が建っている。
周りには花が咲き乱れ夕陽に照らされたその場所は一枚の絵画のようである。
「とても美しい場所ですね」
シル様に声をかけるとシル様も景色に見入っていたらしい。
「えぇ、とても美しいわね」
フッとシル様の表情が柔らかくなる。
そのあまりの美しさに思わず見惚れた。
「ディディ、今…俺にも分かった…驚いたよ」
セルディが一瞬惚けたようになり小声で続ける。
「ツィルフェール公爵令嬢ってあんなにきれいなんだな」
人形姫と揶揄されているが裏を返せば造形物の様に美しい方なのだ。
その微笑みの威力にセルディが惚けてしまうのも気付いたシグルスが夢中になるのも無理はない。
「そんな笑顔は初めて見たな…。シルが気に入ってくれて嬉しいよ」
蕩けそうな笑顔でシル様の手を取るシグルス。
「さあ、花畑を通って邸まで行けるんだ」
シグルスのエスコートに戸惑いこちらを見るシル様へ親指を立てて『グッ!』と笑顔で送り出した。
少し間を開けてお兄様のエスコートで私達もついて行く。
「ディディとシグルス様がツィルフェール公爵令嬢に夢中になるのがやっと分かったよ。あの笑顔を理解できるのが自分だけとなると…ヤバいな」
「何がヤバいのですか?」
「いや…もの凄く自分が彼女の特別に思える気がする…」
「なるほど…?」
分かったような分からないような…まぁ男心ってやつなのだろうと放っておく事にする。
「シル様は美しいだけでなく、とてもお優しい方なんですから!…って、お兄様ってそんなに面食いでしたっけ?」
ちょっとからかうとアッと言う間にセルディは真っ赤になってしまった。どうやら図星なのか?
「お兄様、お顔が夕焼けのようですわよ」
「あの双子は本当に仲が良いな」
はしゃぐディルアーナとセルディにロマンチックな雰囲気になるのを邪魔されたシグルスは若干呆れたような声を出した。
「微笑ましいですし…少し羨ましいですわ。…あ…ディディには羨ましいと言っていたのは秘密ですわよ?心配かけますから」
リュシルファは『しぃっ』とその細い指を立てて唇に当てた。
兄妹で仲良く出来るのは憧れのような羨ましいような気持ちがある。
ツィルフェール公爵家では自分は蔑まれているし、妹と弟の仲はどちらが優遇されているかと常に争い互いを比べていて険悪だ。
そんな息の詰まる家から離れ、ずっと厳しく扱われ挙げ句虐げられるようになったリュシルファにとって、初めて見る美しい景色は彼女の心を浮き足立たせた。
しかも好きだった人がエスコートしてくれている。
その表情も仕草も淑女らしく、人形姫らしく、とても分かりにくいが彼女は今、幼子の様にテンション高くはしゃいでいるのだ。
なんとなくそれがシグルスには分かった。
優雅な動きではあるがあちこちに視線を巡らせ口元が緩んでいるのを初めて見た。
自分に手を引かれながら安心してこの景色を、花々を楽しんでいる。
そして指を唇に当てるような仕草をしながら話す姿の可愛らしさ。
きっとディルアーナ嬢も見たことがないだろう!
「花畑は気に入ったかい?」
邸まで様々な花が咲いているが色とりどりのポピーの様な可憐な花が通路を飾り立てている。
「えぇ、特にこの道の側に植えられている花は特に私の好きな花なのです。あ、水色のものまで…色々な花があって…珍しい色の花もあって…夢のような道ですわ」
フワッとほんのり微笑むリュシルファ。
「それは良かった。邸の中も沢山の花を飾らせているから楽しみにしていて」
そう言って自身も微笑みながら王子らしく優雅に手を引くシグルス。
「シグルス様…ありがとうございます」
「シルが喜んでくれたなら庭師も喜ぶよ」
余裕たっぷりに見えるシグルス、その脳内は悶えていた。
(良かった!植え替えさせて良かった!こんな話すシル、初めてだ!庭師たち!良くやった!)
実は『リュシルファは花が好きらしい』とディルアーナ(から聞いたセルディ)から伝えられたシグルスは普通に美しい庭園だった邸の庭を知ってすぐ花畑に作り替えさせていた。
だが休暇に入る直前、ケシ科の植物が一番好きということを偶然知り庭師に直接頼んだのだ。
「そんな…今からニ週間で全部ケシ科に替えるのは無理です。植え替えは出来たとしても全ての花が良い状態でお出迎え出来るかが分かりません」
邸の庭は広い。今からニ週間後に花を咲かせそうな苗を揃えるだけでも大変である。
「なんとかならないのか?」
「もし他の花もお好きなのでしたら道の側だけ植え替えさせて頂くのはどうでしょうか?色とりどりの花畑は美しいですよ」
庭師的にはそれでも充分厳しかったが全面植え替えるより余程マシである。
迷うシグルスにあと一押し、ついでに負担を少しでも軽くなるようにと頭を捻り話し続ける。
「ケシ科の植物は今植えてある花々より少し背があるので縁取る花の道は良い通路となることでしょう!その…花を際立たせる葉の美しい植物も合間に入れ可愛らしい道にするのは?好きな花を引き立てるものがあれば目に楽しいのではないでしょうか?」
背の高い物は奥に…特に花が小ぶりで豪華さの無いケシ科の植物など遠目に沢山ある方が美しいだろうと庭師は思っていた。
しかし花の植え替えを最小限に抑えられればこの際何でもいい。
道を縁取る程度なら苗も用意出来るだろう。
「なるほど…確かに『一番好き』ということは他の花も好きだろうしな。ではケシ科のものが目立つように良いようにしてくれ」
無茶を言われた庭師が内心ホッとしたのは言うまでもない。
こうして元々通路脇に植えてあった花々は邸を飾るのに使われる事となり、ケシ科の花々が揺れる道が出来たのだった。
しかし、馬車で1日かからずに着いた保養地は王都からほど近いにも関わらず自然豊かな素晴らしい所だった。
比較的なだらかな丘にある林を少し行くと小さいながらも美しい湖があり、そのほとりに可愛らしい見目の立派な洋館が建っている。
周りには花が咲き乱れ夕陽に照らされたその場所は一枚の絵画のようである。
「とても美しい場所ですね」
シル様に声をかけるとシル様も景色に見入っていたらしい。
「えぇ、とても美しいわね」
フッとシル様の表情が柔らかくなる。
そのあまりの美しさに思わず見惚れた。
「ディディ、今…俺にも分かった…驚いたよ」
セルディが一瞬惚けたようになり小声で続ける。
「ツィルフェール公爵令嬢ってあんなにきれいなんだな」
人形姫と揶揄されているが裏を返せば造形物の様に美しい方なのだ。
その微笑みの威力にセルディが惚けてしまうのも気付いたシグルスが夢中になるのも無理はない。
「そんな笑顔は初めて見たな…。シルが気に入ってくれて嬉しいよ」
蕩けそうな笑顔でシル様の手を取るシグルス。
「さあ、花畑を通って邸まで行けるんだ」
シグルスのエスコートに戸惑いこちらを見るシル様へ親指を立てて『グッ!』と笑顔で送り出した。
少し間を開けてお兄様のエスコートで私達もついて行く。
「ディディとシグルス様がツィルフェール公爵令嬢に夢中になるのがやっと分かったよ。あの笑顔を理解できるのが自分だけとなると…ヤバいな」
「何がヤバいのですか?」
「いや…もの凄く自分が彼女の特別に思える気がする…」
「なるほど…?」
分かったような分からないような…まぁ男心ってやつなのだろうと放っておく事にする。
「シル様は美しいだけでなく、とてもお優しい方なんですから!…って、お兄様ってそんなに面食いでしたっけ?」
ちょっとからかうとアッと言う間にセルディは真っ赤になってしまった。どうやら図星なのか?
「お兄様、お顔が夕焼けのようですわよ」
「あの双子は本当に仲が良いな」
はしゃぐディルアーナとセルディにロマンチックな雰囲気になるのを邪魔されたシグルスは若干呆れたような声を出した。
「微笑ましいですし…少し羨ましいですわ。…あ…ディディには羨ましいと言っていたのは秘密ですわよ?心配かけますから」
リュシルファは『しぃっ』とその細い指を立てて唇に当てた。
兄妹で仲良く出来るのは憧れのような羨ましいような気持ちがある。
ツィルフェール公爵家では自分は蔑まれているし、妹と弟の仲はどちらが優遇されているかと常に争い互いを比べていて険悪だ。
そんな息の詰まる家から離れ、ずっと厳しく扱われ挙げ句虐げられるようになったリュシルファにとって、初めて見る美しい景色は彼女の心を浮き足立たせた。
しかも好きだった人がエスコートしてくれている。
その表情も仕草も淑女らしく、人形姫らしく、とても分かりにくいが彼女は今、幼子の様にテンション高くはしゃいでいるのだ。
なんとなくそれがシグルスには分かった。
優雅な動きではあるがあちこちに視線を巡らせ口元が緩んでいるのを初めて見た。
自分に手を引かれながら安心してこの景色を、花々を楽しんでいる。
そして指を唇に当てるような仕草をしながら話す姿の可愛らしさ。
きっとディルアーナ嬢も見たことがないだろう!
「花畑は気に入ったかい?」
邸まで様々な花が咲いているが色とりどりのポピーの様な可憐な花が通路を飾り立てている。
「えぇ、特にこの道の側に植えられている花は特に私の好きな花なのです。あ、水色のものまで…色々な花があって…珍しい色の花もあって…夢のような道ですわ」
フワッとほんのり微笑むリュシルファ。
「それは良かった。邸の中も沢山の花を飾らせているから楽しみにしていて」
そう言って自身も微笑みながら王子らしく優雅に手を引くシグルス。
「シグルス様…ありがとうございます」
「シルが喜んでくれたなら庭師も喜ぶよ」
余裕たっぷりに見えるシグルス、その脳内は悶えていた。
(良かった!植え替えさせて良かった!こんな話すシル、初めてだ!庭師たち!良くやった!)
実は『リュシルファは花が好きらしい』とディルアーナ(から聞いたセルディ)から伝えられたシグルスは普通に美しい庭園だった邸の庭を知ってすぐ花畑に作り替えさせていた。
だが休暇に入る直前、ケシ科の植物が一番好きということを偶然知り庭師に直接頼んだのだ。
「そんな…今からニ週間で全部ケシ科に替えるのは無理です。植え替えは出来たとしても全ての花が良い状態でお出迎え出来るかが分かりません」
邸の庭は広い。今からニ週間後に花を咲かせそうな苗を揃えるだけでも大変である。
「なんとかならないのか?」
「もし他の花もお好きなのでしたら道の側だけ植え替えさせて頂くのはどうでしょうか?色とりどりの花畑は美しいですよ」
庭師的にはそれでも充分厳しかったが全面植え替えるより余程マシである。
迷うシグルスにあと一押し、ついでに負担を少しでも軽くなるようにと頭を捻り話し続ける。
「ケシ科の植物は今植えてある花々より少し背があるので縁取る花の道は良い通路となることでしょう!その…花を際立たせる葉の美しい植物も合間に入れ可愛らしい道にするのは?好きな花を引き立てるものがあれば目に楽しいのではないでしょうか?」
背の高い物は奥に…特に花が小ぶりで豪華さの無いケシ科の植物など遠目に沢山ある方が美しいだろうと庭師は思っていた。
しかし花の植え替えを最小限に抑えられればこの際何でもいい。
道を縁取る程度なら苗も用意出来るだろう。
「なるほど…確かに『一番好き』ということは他の花も好きだろうしな。ではケシ科のものが目立つように良いようにしてくれ」
無茶を言われた庭師が内心ホッとしたのは言うまでもない。
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