無気力聖女は永眠したい

だましだまし

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ナーシャの気持ち

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「ナーシャ様、木の実探しを手伝ってもらえませんか?」

ラーウェイに声をかけたれたのはルーベンの領境となる森の街道脇で休憩しているときだった。

野宿の時でさえ何かしらの採取に誘われたことは無い。
不思議に思いつつもナーシャは少しワクワクした気持ちになった。
「よろこんで!」

一瞬ラーウェイを咎めるような素振りをしたレバンスが心配そうに見送る。

近頃ラノ村から謎のモヤモヤが時々顔を出すので気分転換になりそうで本当に嬉しかった。
なのにレバンスの表情を見て何だか切ないような気持ちになる。

(もう!本当になんなのかしら…)



レバンスは本当は引き止めたかった。
いつもの採取のようにラーウェイ一人に行って欲しかった。
しかし…以前ラーウェイもナーシャを口説くと言っていた。
その事に遠慮してしまって見送ったのだ。
我ながらお人好しだと思いながら…。


そんな気持ちのレバンスだったのでレバンスの表情は殊更切ない気持ちを押し込めたものだった。


その顔を見たことでナーシャは分かったことが一つ出来た。

モヤモヤしたり、切なくきゅうっとしたり…それにはレバンスが関係しているのは間違いなさそうだと…。


グルグルとそんな事を考えていたのでラーウェイの声に小さく驚いてしまう。

「これこれ、これ、美味しいんですよっ」

いつの間にか随分と森の奥に来たように思えた。
ラーウェイが指し示す木の上には桑の実が沢山なっている。
桑にしてはかなり大きな木だ。

「ここにあるって知ってたの?」

周りは似たような木ばかりなのに迷い無く進んできたはずだ。

「はいっ!この森は庭みたいなものですからね。あの休憩出来るスペースから近いんでルーベンの騎士なら殆ど皆この木は知ってますよ!」

思ったほど奥までは来ていなかったのかもしれない。
それだけ考えてしまっていたことにそこで気付いた。


笑顔で返したラーウェイは口の広い籠を手渡してきた。

「私が上に登るので籠を上に持ち上げて受けて下さい」

スルスルとラーウェイが木に登り、器用に実をプチプチ採ってはナーシャが頭上に持ち上げている籠に投げ入れていく。



そんなラーウェイを見ながらまた考え事の沼にはまっていく。
そういえばモヤモヤはラーウェイには起こらない。
一緒に旅をすると決まったときに神様がくれた縁の人かもしれないと思ったりもしたのに、そんな可能性を感じない。

なのにレバンスならば…?

前回も、今回も、優しくて話していて楽しいレバンス。
前回も別れがたくて…今回は私から話しかけてしまった。


ここまで考えたとき、唐突に理解した。

レバンスに恋したかもしれないと。

自覚すると急に恥ずかしくなった。
どうしてラノ村であんな事を言ってしまったのか。
レバンスは独立後伯爵になるらしいのに。
自分は逆に平民になるのに…!

結婚の申し込みをされると思うなんて…前回と今回は違うのに!


「持つよ」

気付けばラーウェイは降りてきて籠を受け取ってくれていた。
ナーシャの顔を見てニコリと笑う。

「赤いですよ。もしかしてレバンスのことが好きってちょっと離れただけで自覚しました?」

「なんでそれを…!?」

自分でも無自覚だった気持ちが、たった今自覚した気持ちが、何故ラーウェイにバレているのか不思議で仕方ない。
ものすごく驚くとラーウェイは揶揄うように続けた。

「荷馬車から二人がずーっと仲良く喋ってるの見てましたからねぇ。こりゃくっつくなーって」
「えぇ!?」
「なんか既に恋人同士感があったんですよ。いやー気まずい気まずい」


揶揄われるのは恥ずかしかったが『くっつく』『恋人同士感』につい嬉しくなってしまう。


自分で思っているよりレバンスの事が好きだったらしい…。
なんだか早く戻りたくて帰りの足取りは軽くなっていた。
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