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★7 モヤモヤと

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長い校長の話に「異世界でも入学式ってこうなのねー」とどこか懐かしさを感じてしまう。


ギリギリになってしまったから後ろの方の席なのだけど、それを良いことに周りを観察。
大体見知った子女子息たちだけど改めてマジマジと見ると気付けた事があった。

この世界が乙女ゲームの世界だろうと仮定した時から、多分宰相の息子とか騎士団魔法師団の子息とかが攻略対象なんだろうなぁなんて思ってはいたのだ。
そこで、彼らを改めて観察しようと思ったんだけど、とても見つけやすい。
多分髪の毛の色が目を引くのよね。
私もヒロインもそうだし…創作物の世界ならではね。

大体主要な役職付きの父親を持つ息子たち全員同じ学年なんて出来すぎだもの。
しかも滅多に現れない光属性持ちと闇属性が同じ年に現れてこれまた同じ年…不自然過ぎるわ。


他に目を引くのは…彼は辺境伯子息だったかしら?
あまり見かけないから彼は顔を思い出せないけど、他の人たちは皆タイプ違いにイケメンだし多分彼も顔は良いんだろな。
じゃあ攻略対象は5人なのかしら?

そう思っていたが、各クラスの担任と副担任の紹介で攻略対象は6人だと思い直した。


副担任のルイード・ナルガス子爵。
たしか若くして爵位を継承した物腰柔らか目のイケメンだったはず。
何度かパーティーで見かけている。
目を引く髪色の人が攻略対象なのなら、目立つ桃色の髪の持ち主だから彼も攻略対象なのだろう、多分。

婚約者のセイン王子は難しいかもしれないけど、騎士団と魔法師団、それぞれの団長の息子たちと宰相の息子、辺境伯の息子、あとナルガス先生…。
とりあえず、この5人は出来るだけ避ける学園生活を送ろうと決意する。


組分けの名称は「空」と「海」。
王家の紋章の色が青でモチーフに天使と人魚が描かれているからだろう。
王立の学校らしいクラス名である。

身分が上の者から呼ばれるのを利用して私はクラスに行くと2人分の席を確保した。
どうせならソフィともう少し親睦を深めておきたい。
悪い子でなさそうだし、あわよくば仲良くなって断罪回避したいところである。

「あと…創作物定番だったヒロインがこの世界に詳しい転生者ってパターンかどうか探りを入れたいわね」

何か動きがないか様子が気になり式のあったホールへと向かう。
伯爵家の子たちとすれ違ったからソフィももうすぐホールから出てくるだろう。

出入り口が見えて来たところで藍色の髪をした男がその近くの柱にもたれかかっている事に気がついた。
「…ソフィを待っている、とか?」
思わず身を隠し様子を伺う。


案の定セイン王子は出てきたソフィに何やら話しかけ、穏やかな表情を浮かべていた。
何を話しているかまでは分からないがソフィの態度は素っ気なく見え、エスコートの手まで気付いてないふりしたように見えた。

何故かホッとしたような気持ちになる。
「これは何に対しての安堵かしら…?」

ソフィがよく見かけたハーレム狙いの痛いヒロインじゃないと思える行動をしたから?
セイン王子に好意が無さそうな事から断罪されずに済みそうだから?
セイン王子を取られなくて済むヤキモチ?

「うん、最後のは無い」
我ながら嫌な気持ちになる仮説を上げてしまった。


ソフィに話しかけるタイミングも無くしたし気持ちも萎んだので教室で待とうと来た道を戻ろうとしたとき、廊下でふざけていた男子にぶつかりそうになった。

「! 失礼」
「おっすまねぇ! っあ、申し訳ありませんデス」

謝罪を言い直す相手を見ると騎士団団長子息だった。
アッカーマン伯爵家の次男、ゼクス・アッカーマン。
セイン王子の未来の専属護衛候補である彼とは王城や王家関連のお茶会やパーティーで何度も顔を合わせている。
私が婚約者として内定してから更に顔を合わせることが増えた相手の一人だ。
あっけらかんとしていて話しやすい性格をしているがストイックとも思えるほどの努力家で好感が持てる。

「あら?貴方、騎士を目指していたんじゃなくて?」
「そうッス。でも俺、魔力が高いらしくて入学する羽目になったんですよ」

私が闇属性と分かってから初めて顔を合わせたが以前と変わらず話してくれる。
異性でなければ仲の良い友人になれただろう。
少し不服げに口を尖らせる様は子供っぽく、本当の弟より弟みたいで可愛い。

「じゃあ魔剣士になれるかもしれないわね」
「! 俄然やる気出ました!さっすがリザベラ様ですね!」
「そのつもりじゃなかったの?」
「魔道士になるしかないと思ってたっす」

照れ臭いのを誤魔化すように頭をかくゼクスについ笑ってしまい、先程までの萎んだ気持ちが嘘のようだ。

「あっ」

そんな時にセイン王子の声が響き、ほぼ同時にゼクスが私を守るように手を広げてしっかりと立った瞬間だった。
彼と誰かが強めにぶつかったらしい。
ゼクスが盾になってくれたので見えないが、どうやら相手は倒れたらしい。

セイン王子が何か言いながら駆け寄ってくる。
その対象はゼクスが手を差し伸べた相手だろう。


攻略対象2人に悪役令嬢、そしてヒロイン。



こんな出来すぎな状態に入学早々なるなんてやっぱりここは創作物の世界なのね…。
どこか俯瞰したような、ここにいていないような、そして虚しいような…。

転んでしまったソフィの心配よりそんな気持ちが胸を占めた。
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