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さぁ、遊戯(ゲーム)のお時間です
2話
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「もう! 本当に緊張したんだからね!」
麦は膨れっ面になりながら俺の背中をポカポカと叩いてくる。
「ごめんって。昼食も夕飯もご馳走するから」
「本当に⁉ ……って、これ持ってたら全部無料じゃん!」
さっきのポーカーは最終的に麦の勝ちになった。
麦の手札は『♡9 ♢9 ♧A ♢J ♧Q』
相手の手札は『♡7 ♡9 ♧9 ♡J ♧Q』と双方ともに9のワンペア。ただ、Aを持っている麦の勝ちになった。
結果は俺と麦、両方ともプラス五百枚。最終目標の十万チップはまだまだ遠いが、滑り出しは上々だろう。
俺の今のランキングは三千人中九位。今は上位に居るが、遊戯をしなければ勿論ランキングは下がっていく。
早く次の遊戯を探さなければいけない。
「ねぇ、なんで駿が遊戯をしなかったの? 私よりも駿の方がポーカー上手だし」
確かに今まで麦とやってきたポーカーの勝敗は俺が八割くらい勝っている。だけど――。
「あんな不正をしないとチップを稼げないような奴に、麦が負けるとは思えないからな。それに、俺が遊戯をしていたら麦の所持チップは増えないだろ?」
俺はただ普通に入試試験を合格したいわけじゃない。
隣に立つ麦と一緒に合格したいんだ。
「でも、ギリギリだったよ」
「ギリギリでも勝ちは勝ちだ。有栖はもう少し自身を持てよ」
「う、うん。分かった」
まだ少し自信が持てていないような返事だけど、俺は麦の強さを知っている。昔からな。
「ねぇ、駿。早く次の遊戯しようよ」
そして、麦は遊戯が大好きだ。
昔も、俺が遊戯しようと麦に言うと、麦は『またするの~?』と少し嫌そうな表情を最初はするのだが、一度遊戯をするとスイッチが入るのか、直ぐに二戦目三戦目と始めようとする。
「あ! でもその前にあそこに行きたい!」
そう言って麦が指さした方向は、巨大カジノの端にあるカフェだ。
「ほらほら、行こー」
そう言われ、俺は麦に腕を掴まれ引っ張られながらカフェへと向かった。
洒落たカフェには多くの生徒が席を埋めていた。
やはり、みんな無料という言葉には弱いのか?
まぁ、俺も弱いんだけどな。
俺と麦はアイスコーヒーを購入し、空いている席に座った。
「なぁ、麦」
ここならあれを確認するには丁度いい。
「何?」
「麦の持っているスキルを教えてくれ」
ここでの遊戯において、スキルは勝つのに必須とも言える超重要な要素。
スキルの使い方で勝敗が決まると言っても過言ではない。
麦の持っているスキルを把握しておきたい理由としては、麦の持っているスキルに適した遊戯が何かを考え、見つけるためだ。
「うん。えーっとね……はい!」
麦はそう言って俺に端末の画面を見せてくれた。
「ど、どうかな?」
「うん。どれも結構使えるスキルだと思う……」
どれもかなり使えるスキルだ。
ていうか、Aランクのスキルが二つ、Bランクスキルが一つはかなりの幸運だな。
一方俺はAランク、Bランク、Cランクのスキルが一つずつ。
「ねぇ、君が紅羽くん?」
俺と麦のスキルを確認していると、目の前にスーツ姿の女性が立っていた。
「は、はい。そうですけど」
「ここ、いいかな?」
「はい」
「ありがとう」
そう言って女性は隣の席の椅子を麦の横に持ってきて座った。
「早速だけど、紅羽くん。私はこの学校の理事長を務めているの」
「理事長が俺なんかに何の用ですか?」
そう聞くと、理事長は俺に向けて一枚の紙を机の上に置いた。
「私はね、紅羽くんにこの学校に入学してほしいの」
「俺を? どうして俺を?」
「紅羽くんは八月に毎年開催される交流戦は知っている?」
「はい、勿論」
愛知、大阪、そしてここ東京にある三校で行う大型遊戯。
第一回、第二回とも、ここ東京が勝っている。
交流戦はネットで生配信され、視聴率も二年連続で相当良い。
「今年の交流戦。生徒は勿論、私も三連覇を狙っているの。だから、紅羽くんの力が必要なの。もし紅羽くんさえ良ければだけど、入学してほしい。ここで頷いてくれれば入試試験は即合格よ」
思いがけない提案だった。
「嬉しいですけど、お断りします」
俺は目の前に出された紙を理事長に戻してそう言った。
「俺は実力でこの学校に入学しますから」
「そう。じゃあ楽しみにしているわね。また今度」
そう言って理事長は席を立ち、カフェを出て行った。
「い、良いの? せっかくのチャンスなのに」
「ああ、別に良いよ」
「そ、そっか……あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「分かった」
☆
「り、理事長さん!」
私はカフェを出た後、理事長さんの所に急いで向かった。
勿論、お手洗いに行くのは嘘。
「君は、確か……七海さんだったわね。どうかしたのかしら」
「い、良いんですか?」
「良いって何が?」
「駿の事です。もっと説得しなくても良いのかなって思って」
駿が欲しいなら、あんなに直ぐに帰ったりしないと思う。私ならもっと、もっとお願いする。
「良いのよ」
「どうしてですか? 駿は――」
「それは良く分かってるわ。でもね、七海さん。チャンスが何度も訪れるって思っちゃダメよ?」
理事長さんは、人差し指を立ててそう言った。
「遊戯でもそうでしょ? 一度チャンスが来たら遊戯が終わるまでもうこないかもしれない。でも、もう一度くるかもしれない。もしかしたら一度もこないかもしれないわ」
「…………はい」
理事長さんの言う事は凄く胸に刺さる。私も、駿に同じようなことを昔に言われていたから。
「でもね、私は紅羽くんは放っておいても入試試験を合格すると思っているの。でも、それは七海さんが一番良く分かっているんじゃない?」
「じゃあ、なんであの提案を?」
すると、理事長さんは「ふふ」と笑った。
「あれは単なる『おまけ』みたいなものよ」
おまけ……か。
「じゃあ、遊戯を楽しんでね」
そう言って理事長は再び歩き始めた。
遊戯を楽しむ。それは大事な事。
駿も、いつも私にそう言ってくる。
「あ、あの!」
去っていく理事長を私はもう一度止めた。
「お願いがあります」
麦は膨れっ面になりながら俺の背中をポカポカと叩いてくる。
「ごめんって。昼食も夕飯もご馳走するから」
「本当に⁉ ……って、これ持ってたら全部無料じゃん!」
さっきのポーカーは最終的に麦の勝ちになった。
麦の手札は『♡9 ♢9 ♧A ♢J ♧Q』
相手の手札は『♡7 ♡9 ♧9 ♡J ♧Q』と双方ともに9のワンペア。ただ、Aを持っている麦の勝ちになった。
結果は俺と麦、両方ともプラス五百枚。最終目標の十万チップはまだまだ遠いが、滑り出しは上々だろう。
俺の今のランキングは三千人中九位。今は上位に居るが、遊戯をしなければ勿論ランキングは下がっていく。
早く次の遊戯を探さなければいけない。
「ねぇ、なんで駿が遊戯をしなかったの? 私よりも駿の方がポーカー上手だし」
確かに今まで麦とやってきたポーカーの勝敗は俺が八割くらい勝っている。だけど――。
「あんな不正をしないとチップを稼げないような奴に、麦が負けるとは思えないからな。それに、俺が遊戯をしていたら麦の所持チップは増えないだろ?」
俺はただ普通に入試試験を合格したいわけじゃない。
隣に立つ麦と一緒に合格したいんだ。
「でも、ギリギリだったよ」
「ギリギリでも勝ちは勝ちだ。有栖はもう少し自身を持てよ」
「う、うん。分かった」
まだ少し自信が持てていないような返事だけど、俺は麦の強さを知っている。昔からな。
「ねぇ、駿。早く次の遊戯しようよ」
そして、麦は遊戯が大好きだ。
昔も、俺が遊戯しようと麦に言うと、麦は『またするの~?』と少し嫌そうな表情を最初はするのだが、一度遊戯をするとスイッチが入るのか、直ぐに二戦目三戦目と始めようとする。
「あ! でもその前にあそこに行きたい!」
そう言って麦が指さした方向は、巨大カジノの端にあるカフェだ。
「ほらほら、行こー」
そう言われ、俺は麦に腕を掴まれ引っ張られながらカフェへと向かった。
洒落たカフェには多くの生徒が席を埋めていた。
やはり、みんな無料という言葉には弱いのか?
まぁ、俺も弱いんだけどな。
俺と麦はアイスコーヒーを購入し、空いている席に座った。
「なぁ、麦」
ここならあれを確認するには丁度いい。
「何?」
「麦の持っているスキルを教えてくれ」
ここでの遊戯において、スキルは勝つのに必須とも言える超重要な要素。
スキルの使い方で勝敗が決まると言っても過言ではない。
麦の持っているスキルを把握しておきたい理由としては、麦の持っているスキルに適した遊戯が何かを考え、見つけるためだ。
「うん。えーっとね……はい!」
麦はそう言って俺に端末の画面を見せてくれた。
「ど、どうかな?」
「うん。どれも結構使えるスキルだと思う……」
どれもかなり使えるスキルだ。
ていうか、Aランクのスキルが二つ、Bランクスキルが一つはかなりの幸運だな。
一方俺はAランク、Bランク、Cランクのスキルが一つずつ。
「ねぇ、君が紅羽くん?」
俺と麦のスキルを確認していると、目の前にスーツ姿の女性が立っていた。
「は、はい。そうですけど」
「ここ、いいかな?」
「はい」
「ありがとう」
そう言って女性は隣の席の椅子を麦の横に持ってきて座った。
「早速だけど、紅羽くん。私はこの学校の理事長を務めているの」
「理事長が俺なんかに何の用ですか?」
そう聞くと、理事長は俺に向けて一枚の紙を机の上に置いた。
「私はね、紅羽くんにこの学校に入学してほしいの」
「俺を? どうして俺を?」
「紅羽くんは八月に毎年開催される交流戦は知っている?」
「はい、勿論」
愛知、大阪、そしてここ東京にある三校で行う大型遊戯。
第一回、第二回とも、ここ東京が勝っている。
交流戦はネットで生配信され、視聴率も二年連続で相当良い。
「今年の交流戦。生徒は勿論、私も三連覇を狙っているの。だから、紅羽くんの力が必要なの。もし紅羽くんさえ良ければだけど、入学してほしい。ここで頷いてくれれば入試試験は即合格よ」
思いがけない提案だった。
「嬉しいですけど、お断りします」
俺は目の前に出された紙を理事長に戻してそう言った。
「俺は実力でこの学校に入学しますから」
「そう。じゃあ楽しみにしているわね。また今度」
そう言って理事長は席を立ち、カフェを出て行った。
「い、良いの? せっかくのチャンスなのに」
「ああ、別に良いよ」
「そ、そっか……あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「分かった」
☆
「り、理事長さん!」
私はカフェを出た後、理事長さんの所に急いで向かった。
勿論、お手洗いに行くのは嘘。
「君は、確か……七海さんだったわね。どうかしたのかしら」
「い、良いんですか?」
「良いって何が?」
「駿の事です。もっと説得しなくても良いのかなって思って」
駿が欲しいなら、あんなに直ぐに帰ったりしないと思う。私ならもっと、もっとお願いする。
「良いのよ」
「どうしてですか? 駿は――」
「それは良く分かってるわ。でもね、七海さん。チャンスが何度も訪れるって思っちゃダメよ?」
理事長さんは、人差し指を立ててそう言った。
「遊戯でもそうでしょ? 一度チャンスが来たら遊戯が終わるまでもうこないかもしれない。でも、もう一度くるかもしれない。もしかしたら一度もこないかもしれないわ」
「…………はい」
理事長さんの言う事は凄く胸に刺さる。私も、駿に同じようなことを昔に言われていたから。
「でもね、私は紅羽くんは放っておいても入試試験を合格すると思っているの。でも、それは七海さんが一番良く分かっているんじゃない?」
「じゃあ、なんであの提案を?」
すると、理事長さんは「ふふ」と笑った。
「あれは単なる『おまけ』みたいなものよ」
おまけ……か。
「じゃあ、遊戯を楽しんでね」
そう言って理事長は再び歩き始めた。
遊戯を楽しむ。それは大事な事。
駿も、いつも私にそう言ってくる。
「あ、あの!」
去っていく理事長を私はもう一度止めた。
「お願いがあります」
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