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#25【10年目の真実〜其ノ三〜】
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「いやー、外は気持ち良いねー」
『それは良かったな』
休日の昼下がり、今日は初めてアールと一緒に外に出掛けてみた。と言っても、近所に散歩に出ただけだが。やはり部屋に籠ってばかりでは身体に悪い。人通りの少ない道を選び、私はアールに話しかける。
アールは何も感じないと言った様子だが、ふわふわと私の上を飛んでついて来る。まるで躾の良い犬のようだ。何となく可愛らしく思えてしまう。
緑から黄、そして茶へと変化した公園の木々の葉がハラハラと落ちている。冬も近くなって来ている。——私は不意に疑問に思ってアールに問いかける。
「ね、その格好で寒くないの?」
私はジャケットの上から厚手のストールを巻いている。しかひアールはと言うと、出会った時と同じ布切れ一枚だ。
『問題ない。氷河期もコレだった。』
「っ!温度感じないの?」
『感じはするが、問題ない。』
(あー、耐熱温度-60度~220度とかのタッパーみたいな物かな?)
と私は一人納得する。
折角出掛けたので、食材を買い足そうとスーパーに向かっていると聞き慣れた声で呼び止められる。
「あれー?咲ちゃんだー」
ふわふわとしたこの物言い…元旦那のナツだ。私はウンザリした顔で振り返る。奴の腕にはナイスバディな若い女の子がしがみついている。その状況で此方に声を掛けるとは流石はナツだ。
「あーどーもー」
私はナツをなるべく視界に入れないように目を細め、抑揚のない声で返答をする。
「ふふ、この間振りだね。お買い物?」
「まーねー」
ナツは私と、私の右肩の上を浮いているアールに視線を向けながら言って来た。
「いーねー、僕も一緒に行っちゃおーかなー?」
(何でだよっ!)
私は心の中でツッコミながらも、若い子の前で醜態を晒したくないのでにこやかに答える。
「雅が居ないところで貴方と会うわけには行かないので失礼しまーす」
その場を離れようとすると、ナツの横の女性がナツに擦り寄りながらにこやかに挨拶して来た。
「こんにちはー。ナッツさんのお店のお客さんですかー?」
(はて?お店?お客?ナッツさん?)
私が首を傾けていると、ナツが横から口を出す。
「違うよー、咲ちゃんは僕の奥さんだよー」
「っ!違うわっ!元だわっ!ってか、元でもなかったわっ!!」
思わず声を荒げてしまう……畜生、大人の余裕を見せたかったのに……。すると横の女性が驚いたように口を開く。
「えっ!ナッツさん、結婚してたの!?」
(ま、事実婚でしたけどね…いや、共同生活を営んでも居なかったらから…やっぱり法的にも事実上でも一切の婚姻関係は無いな。)
私はナツとの10年間を思い出し、改めてこいつとは無関係であると確信する。
「僕の奥さん、可愛いでしょ?」
しかし、奴はお構いなしに返答している。
「へぇ~こう言う人がタイプなんですね~?意外~!案外、普通~」
(あと、そこの若い君。[意外]って何だ?[普通]って何だ?)
無駄なマウントを取られ、こめかみをピクつかせる。うちの獰猛な肉食獣(雅)を召還してやろうか!?と内心思ったが、兎に角こいつら等からは離れるべきだと考え直す。
「何だか、誤解があるみたいですけど、此方の方とは無関係なので。失礼しますねー」
私は軽く会釈してその場を離れようとする。が、しかし!勘違いした若い子が喰らい付いてきた。
「ナッツさんの奥さんなんですよね?」
「そうだよー」
「違います!」
私は「余計な事を言うなっ!」と、ナツを睨み付ける。
「私はナッツさんは存じ上げませんので。」
と、伝えながら不意に彼女が初めに言っていた事を思い出す。
「えっと、ナッツさんは何をされている方なんですか?何かお店をされてるの?」
「えっ?知らないんですか?」
(えぇ、知らないから質問したんですよ?)
私はにこやかな笑顔を崩さずに彼女の話を聞く。
「ナッツさんは[ヘーゼル]っていうバーのオーナーさんですよー。すっごく人気で~系列店舗が都内に幾つもあって~飲食店の他にも輸入雑貨のお店とか~洋服屋さんとか~都内の他にも全国にも色々お店持ってるんですよね~?」
(は?お前、いつも金ないって言ってたよな?!)
私は目を見開いてナツを見る。するとナツは相変わらず飄々とした様子で答える。
「だって咲ちゃん、頼られるの好きでしょ?小さい子がお姉ちゃんぶって頑張ってる姿見るの僕好きなんだよねぇ。ホッコリしちゃう。」
(っ!?わざとっ!?わざとクズな紐男を演じていただとっ!?10年間もっ!?何これっ!壮大なドッキリか何かですかっ!?長編大作過ぎるわっ!!ハリー○ッターかよっ?!)
最近、ナツ関連の新事実が発覚し過ぎて…正直キャパオーバーだ。疲れ果てた顔でナツを見ると、奴はふわりと笑って「ごめんね」と言って来た。
(それ絶対悪いと思ってない顔だよねっ!そして……無駄に顔が良いんだよっ!!)
「そーそー、咲ちゃんと僕が一緒に住んでたマンションだけど、咲ちゃんの名義で買い戻しておいたよ?戻りたかったらいつでも戻って来てね。」
(だからっ!新事実が多過ぎなんだって!!もう、勘弁してくれっ!)
私が頭を抱えながら情報を整理していると、アールが口を開いた。
『余裕のある大人な男か…イケオジだな』
(アールは何時ぞやの[イケオジ]発言について言及して来る…最近、イケオジにやたらと反応して来るけど、何なのっ?!)
私はイラッとしてアールを睨む。
「いやー、貴方様に褒められると照れるなー」
アールの言葉にナツは素で喜んでいるようで、あまり見たことのない無邪気な笑顔をしている。もしかしたら、親に褒められた子供感覚なのかも知れない。
「褒めてないと思うけど?マンションについては…取り敢えず雅に相談してみる。」
「咲ちゃんは何でも[雅ちゃん]だなー。」
(……確かに…割りと何でも[雅]だな…)
ナツに言われ、自分でも同感した。
『幼少時から一緒のようだからな。雛鳥と親鳥のような関係なのだろう。』
「成る程ー。ちょっぴり妬けちゃうなー。」
(いや、それ絶対何とも思ってない奴ー)
私はまたも目を細めてナツを見る。すると横の女性が不服そうに頬を膨らませてナツに言う。
「萌子、全然ついて行けないんですけどー?」
どうやら、ナイスバディの彼女は萌子ちゃんと言うらしい。するとアールが驚いたように口を開く。
『——成る程、若い器がするとこうなるのか』
(っ!?)
「ちょっと!何が成る程の訳?!私が前に同じ事したら[頬が痩けてるから空気入れてるのか]って、言って来たよね!?」
「ぶふっ、それは失礼ですって。思っても口しちゃダメですよーふふふ。」
(あんたも十分失礼だわっ!)
私がアールとナツを交互に睨み付けていると、萌子ちゃんがまたも不機嫌に言って来る。
「わざと萌子の分からない事言って楽しんでます?大体、奥さんなのにナッツさんのお仕事も知らないなんておかしくないですか?!」
痛い所を突かれる…私が黙っているとナツが口を開く。
「分かってないなー。そこが咲ちゃんの良い所なんだよー。元々、咲ちゃんは僕にとって特別な存在だけど、奥さんにしたいと思ったのは咲ちゃんだからだよ?」
『…………………』
(っ!え?どう言う事!?)
「咲ちゃんはねー、僕にも他人にも興味がないだよねー?だから仕事どころか、何処に行ってたかも、何をしてかも聞かれた事ないんだよー。ねー?」
(いや、聞いたことくらい…ある…よね?あれ?)
この10年間を思い返して見る……そして、はたと気付く。
家にずっといるから無職だと思ったし、お小遣い程度の額だけど、毎回お金を欲しがるから紐だと思った。「親はいない」と言っていたし、親類の話も聞いた事が無かったから天涯孤独だと思った。家に殆ど居ないし、街で女の人と一緒にいるのを何度か見かけたから浮気してると思った……
…けど、それらを敢えて確認した事は無かった…気がする……これ、雅の説教案件確定じゃない?私は青くなる。すると萌子ちゃんが口を開く。
「何それっ!そんなの全然ナッツさんの事好きじゃないじゃんっ!」
(っ!?確かにっ!あれ?私、ナツの事好きじゃなかったのかな?でも結婚しようとした訳だし…それって少なからず好きだからじゃないのかな…ん?そもそも、何でコイツと結婚しようとしたんだ?)
私の脳内が混乱していると——ナツの纏う空気がビリビリと刺々しくなり、珍しく不機嫌な物言いをする。
「んー、君ちょっと面倒臭いかも。そう言うのやめてくれる?」
ナツのいつもと違う様子に萌子ちゃんは慌てて取り繕う。
「違うのーっ、萌子は仲間外れが寂しくって~奥さん、ごめんなさーい。」
萌子ちゃんは泣きそうな顔をしながら、ナツの腕に豊満な胸を擦り寄せながら謝る。ナツはそんな萌子ちゃんの谷間を見ながら、いつもの様子に戻り微笑みながら言って来た。
「僕達お邪魔虫みたいだから、ここで失礼するねー。」
(……やりに行くのね)
私はナツと萌子ちゃんを細い目で見る。するとナツは鞄の中から徐に鍵を取り出し、私に手渡して来た。
「咲ちゃん、はい、マンションの鍵。咲ちゃんのマンションだからいつでも戻って来てねー。」
(っ!!)
「良いなー、奥さん。萌子もマンション欲しーなー」
「咲ちゃんは特別だから仕方ないよー。でも、君達は君達でみーんな等しく可愛いよ。」
そう言うと、萌子ちゃんを引き連れて去って行った。
「一体何だったんだ……」
私は手の中の見慣れた鍵を見ながら呟く。
遠くなった二人の背中を見送りながら、私は不意に気になりアールに尋ねる。
「ね、あの萌子ちゃんの魂年齢ってどのくらいなの?」
『あー、あれは今世が108回目だな。』
「っ!ひょえ~、還暦超えっ!?ってか、煩悩の数っ!」
『それでも少ない方だ。』
108回も生まれ変わっているのにまだ少ない方だとは…真実は小説よりも奇なりって奴だわ…そして、自分の0回のショボさ加減を痛感する。するとアールが煩悩ちゃんの背中を見ながら呟く。
『長らく腹毛動物や昆虫を繰り返しているが……人間のような動物は今世が初めてのようだな。…それにしても……ドローンアントの回数が多いな…』
「ドローンアント?」
『寿命が3週間程の女王アリと交尾する為だけに生きている雄アリだ。』
私はアールの言葉を受け、これから二人が行うであろう事を改めて想像する。
「……で、今世ではナツに捕まったと……飛んで火に入るナツの萌子ちゃん……」
(…ご愁傷様です…)
『それは良かったな』
休日の昼下がり、今日は初めてアールと一緒に外に出掛けてみた。と言っても、近所に散歩に出ただけだが。やはり部屋に籠ってばかりでは身体に悪い。人通りの少ない道を選び、私はアールに話しかける。
アールは何も感じないと言った様子だが、ふわふわと私の上を飛んでついて来る。まるで躾の良い犬のようだ。何となく可愛らしく思えてしまう。
緑から黄、そして茶へと変化した公園の木々の葉がハラハラと落ちている。冬も近くなって来ている。——私は不意に疑問に思ってアールに問いかける。
「ね、その格好で寒くないの?」
私はジャケットの上から厚手のストールを巻いている。しかひアールはと言うと、出会った時と同じ布切れ一枚だ。
『問題ない。氷河期もコレだった。』
「っ!温度感じないの?」
『感じはするが、問題ない。』
(あー、耐熱温度-60度~220度とかのタッパーみたいな物かな?)
と私は一人納得する。
折角出掛けたので、食材を買い足そうとスーパーに向かっていると聞き慣れた声で呼び止められる。
「あれー?咲ちゃんだー」
ふわふわとしたこの物言い…元旦那のナツだ。私はウンザリした顔で振り返る。奴の腕にはナイスバディな若い女の子がしがみついている。その状況で此方に声を掛けるとは流石はナツだ。
「あーどーもー」
私はナツをなるべく視界に入れないように目を細め、抑揚のない声で返答をする。
「ふふ、この間振りだね。お買い物?」
「まーねー」
ナツは私と、私の右肩の上を浮いているアールに視線を向けながら言って来た。
「いーねー、僕も一緒に行っちゃおーかなー?」
(何でだよっ!)
私は心の中でツッコミながらも、若い子の前で醜態を晒したくないのでにこやかに答える。
「雅が居ないところで貴方と会うわけには行かないので失礼しまーす」
その場を離れようとすると、ナツの横の女性がナツに擦り寄りながらにこやかに挨拶して来た。
「こんにちはー。ナッツさんのお店のお客さんですかー?」
(はて?お店?お客?ナッツさん?)
私が首を傾けていると、ナツが横から口を出す。
「違うよー、咲ちゃんは僕の奥さんだよー」
「っ!違うわっ!元だわっ!ってか、元でもなかったわっ!!」
思わず声を荒げてしまう……畜生、大人の余裕を見せたかったのに……。すると横の女性が驚いたように口を開く。
「えっ!ナッツさん、結婚してたの!?」
(ま、事実婚でしたけどね…いや、共同生活を営んでも居なかったらから…やっぱり法的にも事実上でも一切の婚姻関係は無いな。)
私はナツとの10年間を思い出し、改めてこいつとは無関係であると確信する。
「僕の奥さん、可愛いでしょ?」
しかし、奴はお構いなしに返答している。
「へぇ~こう言う人がタイプなんですね~?意外~!案外、普通~」
(あと、そこの若い君。[意外]って何だ?[普通]って何だ?)
無駄なマウントを取られ、こめかみをピクつかせる。うちの獰猛な肉食獣(雅)を召還してやろうか!?と内心思ったが、兎に角こいつら等からは離れるべきだと考え直す。
「何だか、誤解があるみたいですけど、此方の方とは無関係なので。失礼しますねー」
私は軽く会釈してその場を離れようとする。が、しかし!勘違いした若い子が喰らい付いてきた。
「ナッツさんの奥さんなんですよね?」
「そうだよー」
「違います!」
私は「余計な事を言うなっ!」と、ナツを睨み付ける。
「私はナッツさんは存じ上げませんので。」
と、伝えながら不意に彼女が初めに言っていた事を思い出す。
「えっと、ナッツさんは何をされている方なんですか?何かお店をされてるの?」
「えっ?知らないんですか?」
(えぇ、知らないから質問したんですよ?)
私はにこやかな笑顔を崩さずに彼女の話を聞く。
「ナッツさんは[ヘーゼル]っていうバーのオーナーさんですよー。すっごく人気で~系列店舗が都内に幾つもあって~飲食店の他にも輸入雑貨のお店とか~洋服屋さんとか~都内の他にも全国にも色々お店持ってるんですよね~?」
(は?お前、いつも金ないって言ってたよな?!)
私は目を見開いてナツを見る。するとナツは相変わらず飄々とした様子で答える。
「だって咲ちゃん、頼られるの好きでしょ?小さい子がお姉ちゃんぶって頑張ってる姿見るの僕好きなんだよねぇ。ホッコリしちゃう。」
(っ!?わざとっ!?わざとクズな紐男を演じていただとっ!?10年間もっ!?何これっ!壮大なドッキリか何かですかっ!?長編大作過ぎるわっ!!ハリー○ッターかよっ?!)
最近、ナツ関連の新事実が発覚し過ぎて…正直キャパオーバーだ。疲れ果てた顔でナツを見ると、奴はふわりと笑って「ごめんね」と言って来た。
(それ絶対悪いと思ってない顔だよねっ!そして……無駄に顔が良いんだよっ!!)
「そーそー、咲ちゃんと僕が一緒に住んでたマンションだけど、咲ちゃんの名義で買い戻しておいたよ?戻りたかったらいつでも戻って来てね。」
(だからっ!新事実が多過ぎなんだって!!もう、勘弁してくれっ!)
私が頭を抱えながら情報を整理していると、アールが口を開いた。
『余裕のある大人な男か…イケオジだな』
(アールは何時ぞやの[イケオジ]発言について言及して来る…最近、イケオジにやたらと反応して来るけど、何なのっ?!)
私はイラッとしてアールを睨む。
「いやー、貴方様に褒められると照れるなー」
アールの言葉にナツは素で喜んでいるようで、あまり見たことのない無邪気な笑顔をしている。もしかしたら、親に褒められた子供感覚なのかも知れない。
「褒めてないと思うけど?マンションについては…取り敢えず雅に相談してみる。」
「咲ちゃんは何でも[雅ちゃん]だなー。」
(……確かに…割りと何でも[雅]だな…)
ナツに言われ、自分でも同感した。
『幼少時から一緒のようだからな。雛鳥と親鳥のような関係なのだろう。』
「成る程ー。ちょっぴり妬けちゃうなー。」
(いや、それ絶対何とも思ってない奴ー)
私はまたも目を細めてナツを見る。すると横の女性が不服そうに頬を膨らませてナツに言う。
「萌子、全然ついて行けないんですけどー?」
どうやら、ナイスバディの彼女は萌子ちゃんと言うらしい。するとアールが驚いたように口を開く。
『——成る程、若い器がするとこうなるのか』
(っ!?)
「ちょっと!何が成る程の訳?!私が前に同じ事したら[頬が痩けてるから空気入れてるのか]って、言って来たよね!?」
「ぶふっ、それは失礼ですって。思っても口しちゃダメですよーふふふ。」
(あんたも十分失礼だわっ!)
私がアールとナツを交互に睨み付けていると、萌子ちゃんがまたも不機嫌に言って来る。
「わざと萌子の分からない事言って楽しんでます?大体、奥さんなのにナッツさんのお仕事も知らないなんておかしくないですか?!」
痛い所を突かれる…私が黙っているとナツが口を開く。
「分かってないなー。そこが咲ちゃんの良い所なんだよー。元々、咲ちゃんは僕にとって特別な存在だけど、奥さんにしたいと思ったのは咲ちゃんだからだよ?」
『…………………』
(っ!え?どう言う事!?)
「咲ちゃんはねー、僕にも他人にも興味がないだよねー?だから仕事どころか、何処に行ってたかも、何をしてかも聞かれた事ないんだよー。ねー?」
(いや、聞いたことくらい…ある…よね?あれ?)
この10年間を思い返して見る……そして、はたと気付く。
家にずっといるから無職だと思ったし、お小遣い程度の額だけど、毎回お金を欲しがるから紐だと思った。「親はいない」と言っていたし、親類の話も聞いた事が無かったから天涯孤独だと思った。家に殆ど居ないし、街で女の人と一緒にいるのを何度か見かけたから浮気してると思った……
…けど、それらを敢えて確認した事は無かった…気がする……これ、雅の説教案件確定じゃない?私は青くなる。すると萌子ちゃんが口を開く。
「何それっ!そんなの全然ナッツさんの事好きじゃないじゃんっ!」
(っ!?確かにっ!あれ?私、ナツの事好きじゃなかったのかな?でも結婚しようとした訳だし…それって少なからず好きだからじゃないのかな…ん?そもそも、何でコイツと結婚しようとしたんだ?)
私の脳内が混乱していると——ナツの纏う空気がビリビリと刺々しくなり、珍しく不機嫌な物言いをする。
「んー、君ちょっと面倒臭いかも。そう言うのやめてくれる?」
ナツのいつもと違う様子に萌子ちゃんは慌てて取り繕う。
「違うのーっ、萌子は仲間外れが寂しくって~奥さん、ごめんなさーい。」
萌子ちゃんは泣きそうな顔をしながら、ナツの腕に豊満な胸を擦り寄せながら謝る。ナツはそんな萌子ちゃんの谷間を見ながら、いつもの様子に戻り微笑みながら言って来た。
「僕達お邪魔虫みたいだから、ここで失礼するねー。」
(……やりに行くのね)
私はナツと萌子ちゃんを細い目で見る。するとナツは鞄の中から徐に鍵を取り出し、私に手渡して来た。
「咲ちゃん、はい、マンションの鍵。咲ちゃんのマンションだからいつでも戻って来てねー。」
(っ!!)
「良いなー、奥さん。萌子もマンション欲しーなー」
「咲ちゃんは特別だから仕方ないよー。でも、君達は君達でみーんな等しく可愛いよ。」
そう言うと、萌子ちゃんを引き連れて去って行った。
「一体何だったんだ……」
私は手の中の見慣れた鍵を見ながら呟く。
遠くなった二人の背中を見送りながら、私は不意に気になりアールに尋ねる。
「ね、あの萌子ちゃんの魂年齢ってどのくらいなの?」
『あー、あれは今世が108回目だな。』
「っ!ひょえ~、還暦超えっ!?ってか、煩悩の数っ!」
『それでも少ない方だ。』
108回も生まれ変わっているのにまだ少ない方だとは…真実は小説よりも奇なりって奴だわ…そして、自分の0回のショボさ加減を痛感する。するとアールが煩悩ちゃんの背中を見ながら呟く。
『長らく腹毛動物や昆虫を繰り返しているが……人間のような動物は今世が初めてのようだな。…それにしても……ドローンアントの回数が多いな…』
「ドローンアント?」
『寿命が3週間程の女王アリと交尾する為だけに生きている雄アリだ。』
私はアールの言葉を受け、これから二人が行うであろう事を改めて想像する。
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