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『二人の今後について語る夜』(仕事の出来る苦手な後輩×冴えないサラリーマン)
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しおりを挟む苦手な飲み会で、苦手な奴に絡まれるほど嫌なことはない。
「小原さぁん、楽しんでますか?」
五十嵐が私の横に腰を下ろして、ビールを差し出した。適度に酔いを滲ませたその笑顔に、計算高い愛嬌を感じるのは恐らくこの場に私一人だけだろう。
「ああ、まぁ楽しんでいるよ」
曖昧に笑いながらコップを差し出しビールを注いでもらう。
「よかった。小原さん、いつも飲み会の時、楽しくなさそうだから、心配してたんですよ」
「……ははは、ありがとう」
五十嵐の言葉に私は口の端をひきつらせながら笑った。いかにもこちらを気遣っているような言い方だ。この言葉に他意がないのであればよほどの無神経なのだろう。
「小原さんにはいつもお世話になっているから、いろいろ話してみたかったんですよね」
テーブルに肘をついて五十嵐が私の顔をのぞき込んだ。女の子をたらし込むにはうってつけの甘い笑みがそこにあった。
「え? 五十嵐、小原に世話になることなんかあんの?」
斜め前に座る同期の上野がニヤニヤと嫌な笑みを五十嵐に向けた。悔しいが上野の言うことはもっともだ。若手ホープの五十嵐と、中年の冴えない私の成績には雲泥の差がある。そんな彼に先輩らしいことを教えたことなどひとつもない。
「上野さん、ひどいですよー。ありますよ、いろいろと。ほら、えっと FAXの送り方とかコピー機の使い方とか!」
「なるほど! それだったら小原は社内一うまいからな」
隠すことのない豪快な嘲笑にカッと熱くなった。しかし酒の場で本気で怒るのは大人げない。私は曖昧に笑いながら、せり上がってくるものを苦いビールで流し込むしかなかった。
「おいおい、何楽しそうに話してるんだ?」
親友の瀬尾が私の横に腰をおろした。穏やかな笑みを浮かべているが、上野に向ける目は鋭い。同期だが出世頭の瀬尾はもう課長になっており、立場は上の人間だ。上野は慌てて「い、いや、五十嵐が小原にいつものお礼をしたいんだと」と自分の言ったことは濁してそそくさと去った。
「まったく、四十を前にしてああいうのはどうかと思うよ」
「あはは、ありがとう。さすが瀬尾課長様だ」
「おい、課長はつけなくていいって言ってるだろう」
瀬尾が苦笑する。だが、彼の苦笑はいつも慈しみを含んでいるので心地よくすらある。
「お二人、仲いいですよね? 同期でしたっけ?」
いつの間にか私と瀬尾の間に割り込んで、五十嵐が瀬尾にビールを差し出していた。苦手な飲み会でせっかく心安らぐ瀬尾と話せたのにと大人げなく心の中で舌打ちする。
その後も五十嵐は私たちの会話に入ってきて、ついに瀬尾と二人で話すことなく飲み会はお開きとなってしまった。
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