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『ひねくれ人気ミステリ作家×苦労性家政夫シリーズ』
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また、穂積さんから「気に入らない」と言って家政婦の交代を派遣会社に要請することも少なくないらしい。
そんな人格に難ありの彼に、派遣会社の上司が言うには、俺は随分気に入られている、とのことだ。
正直なところ、嫌みを言われることも多く、ネチネチと料理や掃除の仕上がりに難癖をつけられることもあり、およそ好意的な態度をとられたことはない。
恐らく、穂積さんの俺に対する評価は他のよりはマシというくらいのもので、気に入られているというのは上司の買い被りだ。
穂積さんには一度「君は空気のようだね。存在感がなくて邪魔にならない」と言われたことがある。およそ人の気分をよくする言葉とはかけ離れているが、普段の穂積さんを基準で考えるとこれは最大級の褒め言葉だ。つまり、穂積さんは俺の存在感のなさを買っているのだろう。
この存在感のなさはひとえに母親のおかげである。俺の母親はヒステリックな酒飲みで、彼女からの理不尽な暴力や暴言から逃れるには極力存在を消すしかなかったのだ。その長年の努力の成果がまさかこんな形で役立つとは思ってもいなかったが。
穂積さんの提案は全くもって俺の本意に沿ったものではないものの、彼なりに俺の経済状況などを慮ってのもののようだ。もちろん、邪魔にならない使い勝手の良い家政夫を自分の家に置いておきたいというのが本当のところだろうが。
それでもあの傍若無人の彼から、一応俺のことも考えたようなことを言われて驚く。だが、彼の提案を受け入れるつもりは毛頭ない。
「……お気遣いありがとうございます。すごく有り難い提案なのですが、穂積さんの他にも俺を指名してくださるお客様がいるので……」
慎重に言葉を選びながら断りを入れたが、穂積さんの眉間には深く皺が刻まれた。
「……別に君じゃなくても代わりはいくらでもいるだろう。それこそもっと料理も掃除も上手い家政婦が」
穂積さんはそう言うと、険しい表情のまま味噌汁を啜った。ちなみに、穂積さんはなめこと赤味噌以外の味噌汁は認めない等の妙なこだわりもいくつかあり、それに対応するのも大変だ。
面倒なこだわりにも配慮しているというのに、こういった嫌みを言ってくるので全くもって腹立たしい。
「まぁ、確かに俺より優秀な家政婦さんはたくさんいますよ。それでも俺がいいって言ってくれる人もいるんです」
「そうか、それは余程マニアックな嗜好を持った客だろうな。そんな客の家にのこのこ上がるなんて気が知れないな。まさしく愚の骨頂。そういった奴らはマニアックかつ残虐に殺す変態が多いから気をつけたまえ」
「いや、皆さん普通の人ですから」
俺は溜め息を吐いた。職業柄なのか、穂積さんはやたら物騒な話に持って行く癖がある。
「そういう普通に見える奴の方がえげつない本性を隠しているものだ。そうとも知らず甲斐甲斐しく男達の世話をする君はやっぱり間抜けだな」
「いや、女性もいますけど……」
「まぁ相手がどんな変態でも金を払っている限り客には違いない。君の代わりなんていくらでもいるとはいえ急に辞めるのも角が立つだろう」
「……はぁ、そうですね」
色々聞き捨てならないが、この家の住み込み家政夫になれないことへの理解を示す言葉も聞こえたので突っ込みもとい正当な修正の言葉は飲み込んだ。
そんな人格に難ありの彼に、派遣会社の上司が言うには、俺は随分気に入られている、とのことだ。
正直なところ、嫌みを言われることも多く、ネチネチと料理や掃除の仕上がりに難癖をつけられることもあり、およそ好意的な態度をとられたことはない。
恐らく、穂積さんの俺に対する評価は他のよりはマシというくらいのもので、気に入られているというのは上司の買い被りだ。
穂積さんには一度「君は空気のようだね。存在感がなくて邪魔にならない」と言われたことがある。およそ人の気分をよくする言葉とはかけ離れているが、普段の穂積さんを基準で考えるとこれは最大級の褒め言葉だ。つまり、穂積さんは俺の存在感のなさを買っているのだろう。
この存在感のなさはひとえに母親のおかげである。俺の母親はヒステリックな酒飲みで、彼女からの理不尽な暴力や暴言から逃れるには極力存在を消すしかなかったのだ。その長年の努力の成果がまさかこんな形で役立つとは思ってもいなかったが。
穂積さんの提案は全くもって俺の本意に沿ったものではないものの、彼なりに俺の経済状況などを慮ってのもののようだ。もちろん、邪魔にならない使い勝手の良い家政夫を自分の家に置いておきたいというのが本当のところだろうが。
それでもあの傍若無人の彼から、一応俺のことも考えたようなことを言われて驚く。だが、彼の提案を受け入れるつもりは毛頭ない。
「……お気遣いありがとうございます。すごく有り難い提案なのですが、穂積さんの他にも俺を指名してくださるお客様がいるので……」
慎重に言葉を選びながら断りを入れたが、穂積さんの眉間には深く皺が刻まれた。
「……別に君じゃなくても代わりはいくらでもいるだろう。それこそもっと料理も掃除も上手い家政婦が」
穂積さんはそう言うと、険しい表情のまま味噌汁を啜った。ちなみに、穂積さんはなめこと赤味噌以外の味噌汁は認めない等の妙なこだわりもいくつかあり、それに対応するのも大変だ。
面倒なこだわりにも配慮しているというのに、こういった嫌みを言ってくるので全くもって腹立たしい。
「まぁ、確かに俺より優秀な家政婦さんはたくさんいますよ。それでも俺がいいって言ってくれる人もいるんです」
「そうか、それは余程マニアックな嗜好を持った客だろうな。そんな客の家にのこのこ上がるなんて気が知れないな。まさしく愚の骨頂。そういった奴らはマニアックかつ残虐に殺す変態が多いから気をつけたまえ」
「いや、皆さん普通の人ですから」
俺は溜め息を吐いた。職業柄なのか、穂積さんはやたら物騒な話に持って行く癖がある。
「そういう普通に見える奴の方がえげつない本性を隠しているものだ。そうとも知らず甲斐甲斐しく男達の世話をする君はやっぱり間抜けだな」
「いや、女性もいますけど……」
「まぁ相手がどんな変態でも金を払っている限り客には違いない。君の代わりなんていくらでもいるとはいえ急に辞めるのも角が立つだろう」
「……はぁ、そうですね」
色々聞き捨てならないが、この家の住み込み家政夫になれないことへの理解を示す言葉も聞こえたので突っ込みもとい正当な修正の言葉は飲み込んだ。
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