美形×平凡 短編集(ヤンデレ・執着攻め多め)

綺沙きさき(きさきさき)

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『ひねくれ人気ミステリ作家×苦労性家政夫シリーズ』

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「な、ななな、なんで、こんなのが俺に……」
「さぁな。模様の意味に気付かず買って善意で君にあげたのか、それとも知った上であげたのか……もしくは念を込めて作って君にあげたのかもしれないな。異常者の心理は俺たち常人には分からないよ。まぁ、だからそれを書くのが楽しいんだけどな」
 穂積さんは楽しげに喉の奥で笑うと、しゅるり、とエプロンの紐を解いた。
 そしてそれを俺から脱がせると、紺地に乱舞するおぞましい文字たちをしげしげと見つめた。
「すごい作り込んでるな。微かにだが独特な臭いがする。この糸、もしかすると白髪を赤く染めたものだったりするかもな」
「笑えない冗談やめてくださいよ……」
「俺は冗談なんて言わない。そんなこと考えるのも口にするのも時間と労力の無駄だ。冗談というのは馬鹿が己の低能さを誤魔化すために使うもので、俺には無用の長物だ」
「……嫌みは言うくせに」
「嫌み? 事実を述べているだけだが、それを嫌みと受け止めるということは、図星ということだ。人間、自分の本質を言い当てられると防衛反応として怒りを覚えるからな」
 この嫌みを口にする時間も無駄以外の何ものでもないと思うのだが、それでも、こういう状況ではいつもと変わらない穂積さんの悪態に安堵する。まさか穂積さんの嫌みにほっとする日が来るとは思いもしなかった……。
「知り合いに呪術に詳しい人間がいるから処分して貰ってやろう」
 穂積さんはエプロンを持ってスッと立ち上がった。
「……これをあげた人間の真意は分からないが、近付かないほうが賢明だな。いくら脳みそが腐りかけているとは言えそのくらいは分かるだろ?」
 穂積さんの嫌みが気にならないくらい怯えきった俺は、コクコクと何度も頷いた。その様子に満足したように目を細め歩み始めた。
「あ、そうだ」
 脱衣所を出る前に、穂積さんが振り返った。
「この後料理するんだろう? いいエプロンがあるから貸してやろう。後でここに置いておく」
 恐らくあのばあやさんが使っていたフリルのエプロンだろう。替えは持ってきていたが、ここで断ってへそを曲げられては困る。あのエプロンはプロの手で処分して欲しい。
 フリルを拒絶する男の矜持を押し殺しながら、俺は小さな声で「……お願いします」と答えるしかなかった。
 
 その日、穂積さんの嫌みは健在ではあったが、なぜか機嫌が良かった。どうやらこの人は機嫌の善し悪し関係なしに嫌みを口にしないと生きていけないようだ……。
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