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第5章 35歳にして、愛について知る
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人を利用するのは簡単だ。
ただ人の心の隙間から入り込んで、その心を乗っ取ればいいだけだ。
心を乗っ取るなんていう言い方をすると、すごく難しいような感じがするが、それほどでもない。
誰もが心の底にある、認められたいだとか、褒められたいだとか、愛されたいだとか、そんなありふれた欲求を満たしてやればいいだけの話だ。
あの看護師も、厳格そうで一見手強そうに見えるがそうでもない。
むしろああいう人間の方が、そういった欲求が強いのでひとたび懐に入り込めば、簡単に利用できる。
「あの、すみません」
呼びかけられ振り返ると、そこには花束を持った背の低い若い男と、髪型も髪の色も、ピアスの数も、何もかも普通とは正反対にいるような男が立っていた。
「そこの部屋って青葉幸助さんの部屋ですよね?」
「そうだけど、君たちは?」
にこやかに、けれど牽制も込めて二人を見遣る。
「俺たち青葉さんの同じ職場の者です。俺は右京って言います」
そう言って背の低い方の男がぺこっと頭を下げた。
派手な外見だが、中身はしっかりしているようだ。
「そしてこっちが……」
「篝桜季でぇす~。よろしく~」
頭の緩そうな男が手をひらひらと振った。
晴仁はその名前に目を眇めた。
右京は呆れ果てた顔でため息を吐くと、晴仁に向き直った。
「連れがこんなんですみません。お見舞いに来させてもらったんですけど、えっとあなたは……ご親戚、ですか?」
「ああ、紹介が遅くなってすまないね。僕は吉井晴仁、幸助の同居人だ」
「ど、同居!?」
目を丸くする右京に晴仁は苦笑した。
「ははは、大の男が同居っていうと驚くよね。まぁ節約をかねて一緒に暮らしてるんだ」
「あ~、今らっきょうえっちなこと考えたでしょぉ。いや~ん、不潔~」
「ち、違う! そんなわけないだろ!」
にやにやと笑う桜季に目を吊り上げて右京が怒鳴った。
「いやいや~、意外とそんなことあるかもしれないよぉ」
そう言うと、桜季はちらりと意味深な視線をこちらに向けた。
「はじめましてぇ。青りんごから噂はかねがねきいてまぁす。……春雨、さん?」
その呼び名を聞いた瞬間、屈辱にも似た怒りが全身を駆け巡った。
こんな激しい感情を覚えたのは、重なり合うウサギりんごを見たあの時以来だ。
晴仁は何とか湧きあがる激しい感情を抑えながら笑みを浮かべた。
「僕も君の話はよく聞いてるよ」
「えぇ~、マジですかぁ? やったぁ! うふふ~、青りんごったら家に帰ってまでおれのことで頭いっぱいなんだねぇ」
「桜季さんがこき使うからただ愚痴ってるだけじゃないんですか……」
「失礼だなぁ。おれは青りんご可愛がってるよぉ」
心外とばかりに頬を膨らませる桜季に、右京は顔を顰め白けきった視線を向けた。
「あははは、そんな悪い話は聞いてないよ。職場の人は優しいっていつも話しているよ」
忌々しいことに、だ。
ホストという職業が幸助に合っていないことは火を見るより明らかだが、意外にも人間関係が良好なためまだ続けることが出来ている。
--ああ、本当に忌々しい。
心の内で大きく舌打ちする。
ただ人の心の隙間から入り込んで、その心を乗っ取ればいいだけだ。
心を乗っ取るなんていう言い方をすると、すごく難しいような感じがするが、それほどでもない。
誰もが心の底にある、認められたいだとか、褒められたいだとか、愛されたいだとか、そんなありふれた欲求を満たしてやればいいだけの話だ。
あの看護師も、厳格そうで一見手強そうに見えるがそうでもない。
むしろああいう人間の方が、そういった欲求が強いのでひとたび懐に入り込めば、簡単に利用できる。
「あの、すみません」
呼びかけられ振り返ると、そこには花束を持った背の低い若い男と、髪型も髪の色も、ピアスの数も、何もかも普通とは正反対にいるような男が立っていた。
「そこの部屋って青葉幸助さんの部屋ですよね?」
「そうだけど、君たちは?」
にこやかに、けれど牽制も込めて二人を見遣る。
「俺たち青葉さんの同じ職場の者です。俺は右京って言います」
そう言って背の低い方の男がぺこっと頭を下げた。
派手な外見だが、中身はしっかりしているようだ。
「そしてこっちが……」
「篝桜季でぇす~。よろしく~」
頭の緩そうな男が手をひらひらと振った。
晴仁はその名前に目を眇めた。
右京は呆れ果てた顔でため息を吐くと、晴仁に向き直った。
「連れがこんなんですみません。お見舞いに来させてもらったんですけど、えっとあなたは……ご親戚、ですか?」
「ああ、紹介が遅くなってすまないね。僕は吉井晴仁、幸助の同居人だ」
「ど、同居!?」
目を丸くする右京に晴仁は苦笑した。
「ははは、大の男が同居っていうと驚くよね。まぁ節約をかねて一緒に暮らしてるんだ」
「あ~、今らっきょうえっちなこと考えたでしょぉ。いや~ん、不潔~」
「ち、違う! そんなわけないだろ!」
にやにやと笑う桜季に目を吊り上げて右京が怒鳴った。
「いやいや~、意外とそんなことあるかもしれないよぉ」
そう言うと、桜季はちらりと意味深な視線をこちらに向けた。
「はじめましてぇ。青りんごから噂はかねがねきいてまぁす。……春雨、さん?」
その呼び名を聞いた瞬間、屈辱にも似た怒りが全身を駆け巡った。
こんな激しい感情を覚えたのは、重なり合うウサギりんごを見たあの時以来だ。
晴仁は何とか湧きあがる激しい感情を抑えながら笑みを浮かべた。
「僕も君の話はよく聞いてるよ」
「えぇ~、マジですかぁ? やったぁ! うふふ~、青りんごったら家に帰ってまでおれのことで頭いっぱいなんだねぇ」
「桜季さんがこき使うからただ愚痴ってるだけじゃないんですか……」
「失礼だなぁ。おれは青りんご可愛がってるよぉ」
心外とばかりに頬を膨らませる桜季に、右京は顔を顰め白けきった視線を向けた。
「あははは、そんな悪い話は聞いてないよ。職場の人は優しいっていつも話しているよ」
忌々しいことに、だ。
ホストという職業が幸助に合っていないことは火を見るより明らかだが、意外にも人間関係が良好なためまだ続けることが出来ている。
--ああ、本当に忌々しい。
心の内で大きく舌打ちする。
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