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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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「おいおい、なんだよ右京」
「何って、人気ホストになりてぇ発作ですよ」
「なんだよそれ」
和んだ笑いがその場に広がる。
僕もつられて笑ってしまった。
「俺も王子様キャラにしようかなぁ」
「いや、その身長で王子様は無理だろ」
「身長のことは言わないでくださいよ!」
「白雪姫の七人のこびと役ならできるんじゃね?」
「ひどい! つーか、お遊戯会の配役の話じゃないですからね!」
さっきまで場に満ちていた嫌な空気はいつの間にか消えて、気づけば右京君を中心に楽しい笑いが広がっていた。
「あー、もういいです。ひどい先輩たちに抉られた傷は優しい幸助さんに癒やしてもらいますから」
着替えを終えた右京君は僕の肩に腕を回した。
「おいおい、オーナーに殺されるぞ」
「大丈夫ですよ、バレなきゃ」
「口止め料、明日持って来いよ」
「はいはい、お疲れ様でーす」
ひらひらと先輩ホストの人たちに手を振りながら、右京君は僕の肩を抱いたまま更衣室を出た。
「……右京君、ありがとう」
更衣室のドアが閉まったのを確認して、右京君に言った。
「なにがですか?」
「話を逸らしてくれたことだよ。正直言うと、僕はああいう空気苦手なんだ。だからすごく助かったよ」
「ああ、俺も同じです。ああいう陰でコソコソ笑うの大嫌いなんです。だから全然幸助さんは気にしなくていいですよ」
気を遣わせない笑顔でそう言う右京君は本当にいい子だなと思った。
「竜鬼さん、前はナンバーツーだったんだけど、聖夜さんが入ってきてからその座をとられちゃって……。それで敵対心持つのはまぁ分からなくはないけど、ああいうのは幼稚ですよね」
右京君がハァと大きくため息をつく。
「あんな空気になったときいつも右京君が話題転換してるの?」
「いや、いつもじゃないですよ。あまりにも目に余ったときだけです。でも今日は幸助さんも巻き込むからなんか腹立ってきて……」
「……右京君はきっと人気ホストになるだろうね」
「え! き、急にどうしたんですか?」
突然、僕が褒め出したものだから右京君が目を丸くしてうろたえている。
助けてもらったお礼のお世辞と思われただろうか。
でもこれはお世辞でもなく本心だ。
「右京君を見てたらそう思ったんだ。右京君ってすごく空気を読むし、人がいやがることをしないし、さっきみたいにその場のいやな空気を変えることができるし、本当にそれってすごいことだと思う。それって誰にもまねできないことだからきっと唯一無二の人気ホストになれるよ」
さっきの右京君を思い返しながらそう伝えると、右京君は顔を赤くして困ったような嬉しいような複雑な顔をして目を泳がせた。
「い、いや、でも俺、背が低いし……」
「そんなの関係ないよ。お客さんも背の高い人を求めてる人ばかりじゃないだろうし、現に右京君を好いて来てくれるお客さんもいるじゃない。僕は絶対いつか右京君は人気ホストになるって思うよ」
僕が力強く言い切ると、右京君はちらりと僕の方を見て、それから照れくさそうにはにかんだ。
「へへ、幸助さんにそう言われるとすごく嬉しいです。なんか本当に人気ホストになれそう」
「なれるよ!」
再度、断言すると、右京君は目元をさらに緩めた。
「……やっぱり幸助さんにはかなわないなぁ」
「え?」
「いいえ、なんでもないです。じゃあもし俺が人気ホストになったら、その時は幸助さんにお祝いしてもらいますからね!」
「もちろん! ……あ、でもドンペリとか高いものは無理だよ?」
「幸助さんにそんな高いもの買わせたりしないですよ。そうだなぁ……例えば一日幸助さん独り占め券とか」
「そんな肩たたき券より安上がりで魅力のないものでいいの……?」
「いいんです! というかむしろそれが欲しいです!」
なぜか少し鼻息を荒くして詰めてきた。
おそらく万年指名ゼロの売れない僕を気遣っているのだろう。
「分かったよ。じゃあ、いつ人気ホストになってもすぐ出せるように作っておくね」
「やった! すげぇ楽しみ!」
子供みたいに無邪気な笑顔で喜ぶ右京君を見ていたら、さっき胸をざわつかせた嫌な気持ちはすっかり消えていた。
「何って、人気ホストになりてぇ発作ですよ」
「なんだよそれ」
和んだ笑いがその場に広がる。
僕もつられて笑ってしまった。
「俺も王子様キャラにしようかなぁ」
「いや、その身長で王子様は無理だろ」
「身長のことは言わないでくださいよ!」
「白雪姫の七人のこびと役ならできるんじゃね?」
「ひどい! つーか、お遊戯会の配役の話じゃないですからね!」
さっきまで場に満ちていた嫌な空気はいつの間にか消えて、気づけば右京君を中心に楽しい笑いが広がっていた。
「あー、もういいです。ひどい先輩たちに抉られた傷は優しい幸助さんに癒やしてもらいますから」
着替えを終えた右京君は僕の肩に腕を回した。
「おいおい、オーナーに殺されるぞ」
「大丈夫ですよ、バレなきゃ」
「口止め料、明日持って来いよ」
「はいはい、お疲れ様でーす」
ひらひらと先輩ホストの人たちに手を振りながら、右京君は僕の肩を抱いたまま更衣室を出た。
「……右京君、ありがとう」
更衣室のドアが閉まったのを確認して、右京君に言った。
「なにがですか?」
「話を逸らしてくれたことだよ。正直言うと、僕はああいう空気苦手なんだ。だからすごく助かったよ」
「ああ、俺も同じです。ああいう陰でコソコソ笑うの大嫌いなんです。だから全然幸助さんは気にしなくていいですよ」
気を遣わせない笑顔でそう言う右京君は本当にいい子だなと思った。
「竜鬼さん、前はナンバーツーだったんだけど、聖夜さんが入ってきてからその座をとられちゃって……。それで敵対心持つのはまぁ分からなくはないけど、ああいうのは幼稚ですよね」
右京君がハァと大きくため息をつく。
「あんな空気になったときいつも右京君が話題転換してるの?」
「いや、いつもじゃないですよ。あまりにも目に余ったときだけです。でも今日は幸助さんも巻き込むからなんか腹立ってきて……」
「……右京君はきっと人気ホストになるだろうね」
「え! き、急にどうしたんですか?」
突然、僕が褒め出したものだから右京君が目を丸くしてうろたえている。
助けてもらったお礼のお世辞と思われただろうか。
でもこれはお世辞でもなく本心だ。
「右京君を見てたらそう思ったんだ。右京君ってすごく空気を読むし、人がいやがることをしないし、さっきみたいにその場のいやな空気を変えることができるし、本当にそれってすごいことだと思う。それって誰にもまねできないことだからきっと唯一無二の人気ホストになれるよ」
さっきの右京君を思い返しながらそう伝えると、右京君は顔を赤くして困ったような嬉しいような複雑な顔をして目を泳がせた。
「い、いや、でも俺、背が低いし……」
「そんなの関係ないよ。お客さんも背の高い人を求めてる人ばかりじゃないだろうし、現に右京君を好いて来てくれるお客さんもいるじゃない。僕は絶対いつか右京君は人気ホストになるって思うよ」
僕が力強く言い切ると、右京君はちらりと僕の方を見て、それから照れくさそうにはにかんだ。
「へへ、幸助さんにそう言われるとすごく嬉しいです。なんか本当に人気ホストになれそう」
「なれるよ!」
再度、断言すると、右京君は目元をさらに緩めた。
「……やっぱり幸助さんにはかなわないなぁ」
「え?」
「いいえ、なんでもないです。じゃあもし俺が人気ホストになったら、その時は幸助さんにお祝いしてもらいますからね!」
「もちろん! ……あ、でもドンペリとか高いものは無理だよ?」
「幸助さんにそんな高いもの買わせたりしないですよ。そうだなぁ……例えば一日幸助さん独り占め券とか」
「そんな肩たたき券より安上がりで魅力のないものでいいの……?」
「いいんです! というかむしろそれが欲しいです!」
なぜか少し鼻息を荒くして詰めてきた。
おそらく万年指名ゼロの売れない僕を気遣っているのだろう。
「分かったよ。じゃあ、いつ人気ホストになってもすぐ出せるように作っておくね」
「やった! すげぇ楽しみ!」
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