35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)

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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!

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店員さんを呼んでからがまた大変だった。
店員さんの次は警察を呼ぶこととなり、警察が来たら詳しく事情聴取を、ということで警察署まで行き、僕らが解放されたのはどっぷり日が暮れてからのことだった。

聖夜さんより少し早く事情聴取が終わり、警察署前のベンチに座って待っていると疲れ切った顔で聖夜さんが署から出てきた。

「疲れた……」
「お、お疲れ様です。大丈夫ですか?」

ベンチから立ち上がって、労るように聖夜さんに声を掛けた。

「体は大丈夫だけど、なんつーか、いろいろ疲れた」
「いろいろありましたもんね……」

怯えるばかりの僕と違って、不良少年らと対峙した聖夜さんは僕とは比べものにならない疲労感を覚えているに違いない。

「あー、クソ! あいつらのせいでガチャし損ねた!」

聖夜さんは苛立たしげに自分の頭をガシガシと掻いた。

「今からまた行きます?」
「んー、やめとく。余力ないわ……」

疲れの滲んだ溜め息を吐く聖夜さんに、僕は申し訳ない気持ちになった。

「……すみません。僕がカツアゲなんかにあうからこんなことになって」
「は? なんでアンタが謝るんだよ。悪いのはあいつらだし。つーか、前々からオタク狩りにはむかついてたんだよ。むしろ今日やり合えてよかった」

聖夜さんは機嫌良く笑った。

「つーか、アンタ意外とやるよな。看板で殴った時はびっくりした」
「いやぁ、あの時はもう切羽詰まっていて……」
「しかも謝りながら殴るっていうのがアンタらしいよな、っ……」

笑っていた聖夜さんが顔を顰めた。
どうやら頬の切り傷が笑った拍子にまた少し開いたようだ。

「あ! 大丈夫ですか?」
「平気だよ。このくらいケガの範疇にも入らないだろ」
「でも一応消毒しとかないと……。ちょっとこっちに来てください」

僕は聖夜さんの腕を引っ張って無理矢理さっき僕が座っていたベンチに座らせた。
そして、鞄から消毒液とティッシュを取り出した。

「……どこの漫画のヒロインだよ。でもおっさんが常備してると気持ち悪いな」
「常備してるわけじゃないですよ! 先に事情聴取が終わったのですぐ近くのドラッグストアで買ってきたんです」

消毒液で濡らしたティッシュで傷口を拭くと、聖夜さんが少し眉を顰めた。

「染みますか?」
「いや、……なんかくすぐったい」
「じゃあ、そんなに深い傷じゃなさそうですね」

ほっとした。
僕のせいでホストの商売道具でもある顔が傷ついたら、聖夜さんとの時間を楽しみにしているお客さんから殺されかねない。

「あ! あと、これ。いいのを見つけましたよ」

ドラッグストアで買った絆創膏を僕は得意げに鞄から取り出した。
フラキュアの絵がのった絆創膏だ。

「これ、絶対聖夜さんが喜ぶだろうなぁと思ったんです」

絆創膏なんてなかなかつける機会もないし、きっと喜ぶだろうと思って買ったのだけれど、聖夜さんは眉根を寄せて僕と絆創膏を交互に見遣った。

「……アンタはこの絆創膏を顔につけてこの街中を歩け、と」
「……あ!」

そういえば絆創膏をつける場所は顔なのだ。
顔なんてみんなに一番見られる場所じゃないか!
フラキュア好きだから喜ぶと安易な考えしか思い浮かばなかった自分が恥ずかしい。
慌てて絆創膏を仕舞おうとすると、聖夜さんが僕の手から絆創膏を取った。
そして、自分の頬にそれを貼った。

「……まぁ、暗いから見えないだろうし、可愛い紅葉たんには罪はないからな」

そう言うと、聖夜さんは立ち上がって先に歩き始めた。
きっと聖夜さんの気遣いなのだろう。
僕は嬉しくなって、自然彼の背を追う足取りも弾むようにかろやかになった。

「そうですね。それに聖夜さんなら何でも似合うから大丈夫ですよ!」
「……そういう台詞は客に言えよ」
「あはは、まだ指名ゼロなもので言う相手がいません」
「……笑顔でそんな悲惨な現実言うなよ。こっちが申し訳なくなってくる」
「え!? 悲惨ですか?」
「自覚なしかよ。まぁ、指名客がつくまでは俺のヘルプに入れてやるよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」

僕がお礼を言うと、聖夜さんは吹き出すようにして笑った。

「ヘルプで喜ぶとか、変な奴」

頬に貼られたフラキュアの絆創膏が笑うたびにしなって聖夜さんの笑みに溶け込んでいった。
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