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第6章 35歳にして、初めてのメイド喫茶!
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二十一時、店内はお客様やホストの甘い賑わいで満ちていた。
指名のない僕はホールと厨房で料理の盛り付けの手伝いをしたり、料理やお酒を運んだり、ヘルプとしてテーブルに入ったりと店内を慌ただしく動き回っていた。
お客様が帰られたテーブルを片付けていると、
「コウさん、五番テーブルのお客さん、今オンリーだから入ってもらっていいですか?」
「あ、はい! 分かりました!」
先輩ホストの人に頼まれ、僕は急いでテーブルを拭き上げ、ソファやテーブル下のゴミチェックを済ませて五番テーブルに向かった。
「こ、こんばんは~。コ、コウです」
「どうも……」
五番テーブルに来ていたお客さんは、痛んだ前髪の隙間から僕を軽く一瞥してぼそりと返事をした。
初回の方らしく、まだ指名はないようだ。
そういった場合、空いているホストが交代でテーブルにつくようになっている。
だから指名なしの僕でもヘルプ以外でこうしてテーブルに入ることができるのだ。
初めてで緊張しているのか、表情が固い。
何か思い詰めているような雰囲気さえある。
「お名前聞いてもいいですか?」
「……ユキ」
「ユキさんですね。僕はコウです、よろしくお願いします」
「……よろしく」
会話が続きそうにない気配にへこたれそうになったけれど、何とか気持ちを持ち堪えて話を続けた。
「い、いやぁ~、みんなかっこい人ばっかりだから緊張しますよね」
「……そうね」
「まぁ、僕は息抜きだとでも思ってお付き合いお願いします」
ははは、と笑ってみたけれど、ユキさんの表情は一ミリも動かなかった。
空回った笑いをどこに着地させるべきか思いあぐねながら、目を泳がせていると、
「……聖夜はまだ来ないの?」
突然聖夜さんの名前が出たので少し驚きつつ「今日はまだ来ていません。もう少しでくると思いますよ」と答えた。
ミーティングで聞いた今日のスケジュールでは、確か今日は愛良さんと同伴で来るはずだ。
「何時になったらくるのよ」
「えっと、もうそろそろとは思うんですが……」
苛立ちを含んだユキさんの声にたじろぎながら答える。
彼女はその曖昧な答えに苛立たしげな溜め息を吐いて、脚を組み直した。
「……分かった。来たらすぐに教えて」
「あ、はい、かしこまりました。指名をご希望ですか?」
「……まぁ、そんなものね」
ユキさんは話を打ち切るようにグラスのお酒をあおった。
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