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第7章 35歳にして、ご家族にご挨拶!?

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「残念だけど青りんごはおれのものだから諦めてねぇ」

 桜季さんはそう言うと見せつけるように、ちゅ、ちゅ、と僕の額にキスをした。

「だから違うって言ってんだろうが! 俺を勝手にホモにすんな!」
「えぇ、でもぉ、青りんごのことよく褒めてるじゃん~。たまにヘマはするけど仕事は真面目だとか、掃除は完璧だとか、あと笑顔が可愛いとかぁ」
「可愛いとか一回も言ったことねぇ!」
「あれ~、否定するのはそこだけなんだぁ」
「……っ」

 桜季さんの指摘に蓮さんが失言してしまったかのように言葉を詰まらせた。

 ……ということは、可愛いというのは桜季さんの嘘だけど、その前の褒め言葉は本当だってこと?

 思わず嬉しくなって目を輝かせていると、

「ちょっとお兄様! 職場の先輩に対してヘマをするとか失礼じゃありませんかっ」

 目を尖らせてたしなめる蘭香ちゃんにハッとする。
 そうだった、僕は今蓮さんの上司役なのだ。蓮さんが陰で僕を褒めてくれていたという事実が嬉しすぎてその設定を忘れかけていた。
 危うくいつものように敬語で「ありがとうございます!」と言ってしまうところだった。

「あ、いや、蘭香ちゃん気にしないで。いつも蓮君には僕のミスをフォローしてもらったりしてるから。それに僕らの職場そういうの気兼ねなく言える環境だからそんなの日常茶飯事」
「青葉さんがそう言うなら……でもお兄様! 目上の方にはちゃんと敬意を持って接しないといけませんよ」
「分かってるよ」

 くどくどと注意する蘭香ちゃんを、心の溜め息が聞こえてきそうな顔をして蓮さんがあしらう。

「……さっきの本当ですか?」

 二人に聞こえないようこっそりと桜季さんに訊いてみた。

「さっきのってぇ?」
「さっき、その、蓮さんが僕のことを褒めてくれてたって」

 図々しい質問かと思ったけれど、訊かずにはいられなかった。
 いい答えを期待して待っている僕に、桜季さんがフッと小さく笑った。

「どうだろうねぇ、レンコン曰くおれの言うことは九割は嘘らしいよぉ」
「そうですか……」

 なんだ、やっぱり冗談だったのか……。

 厚かましくも期待してしまった僕は肩を落とした。

「でもぉ、九割嘘なら一割はホントってことだよねぇ」
「え?」

 桜季さんの言葉に顔を上げると、にっこりと意味深な笑みを向けられた。

「答えは今度レンコンに直接訊いてみるといいよぉ」
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