怪力男の現彼女と四人の歴代彼女たち

音無威人

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あくまで序章に過ぎない

一人一殺友情大作戦と最期のわがまま

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「一人一殺友情大作戦、大成功だな」
 ダサ男がぼそっと呟いた。一人一殺友情大作戦って何?
「このヤンスの格好で分かると思うが、俺、ここで結婚式を開くつもりだったんだよ」
「ヤンスじゃなくてゴワスでごわす」
「やんす顔だから間違えんだよ」
 ダサ男もやんす顔だと思ってたのか。発想が同じなんて悔しい。
「で、愛する妹の想いに決着をつけるためにも結婚式に呼ぶつもりだったんだが、普通に開いたら修羅場になるかもしんねえと思って」
 スルーされた。ダサ男の癖に。バーカバーカ。
「こいつらにやっつけるぞ的な雰囲気出して、枝階段に突っ立ってろって頼んだのさ。他の奴は分かんねえけど、妹なら必ず助けるって確信があったからな」
 あれ、全然反応しない。ダサ男は何も聞こえてないみたいに話を続けている。
「人は共通の敵がいれば、一致団結するものだ。俺たちが明確な敵になれば、てめえらは友になれると踏んだのさ」
 こっちを全然見ない。どうして反応してくれない。
「だからてめえらを枝階段から落として死んだように見せたり、無様ってけなしててめえを怒らせたんだよ」
 ダサ男は使子じぇるこに視線を合わせた。あれはわざと怒らせたのか。
 はっ! 分かったぞ。ナレーションを無視しているのは、怒らせるつもりだからだ。
 ふっふ、無敵のナレーションを罠にかけようなんて一日早い。
「まぁ、ゴワスが英雄の彼女さんを落としたときは焦ったが」
「申し訳ないでごわす」
「いいさ。結果的には良い方向に向かったからな。ちなみにてめえらが生きてんのは、ウワンが涙芽で落下の衝撃を吸収したからだ」
 ツッコミポイントを無視された。うぅ。
「要は元カレの結婚相手を好きになったら、多少はショックも和らぐだろうと、こんな真似したってことだ」
「あなたがた元カノと今カノの仲が深まったと確信したら、我々が邪魔した結婚式を再開させるつもりでした」
篭狼こもろう殿は、比翼連理の丘で愛を誓うと永遠になれるという伝説を聞いて、あなた方を連れてきたのだ」
 うわああああああああああん!
「いきなり泣いてんじゃねぇ」
 ようやく反応してくれた。嬉しい。
「急に笑うんじゃねえよ。情緒不安定かてめえは」
 ナレーションを無視するダサ男が悪い。すっごく悲しかった。寂しかった。傷ついた。乙女の心を弄ぶなんて最低だ。
「俺、弄んだか?」
 何回も可愛いって言った。
「事実だろ」
 そういうところが弄んでるって言うんだ。バーカバーカ。
「ナレーションさん、顔ニヤけてますよ」
 使子じぇるこの指摘に、顔が真っ赤になった。表情に出るなんて恥ずかしい。
「心の声が漏れてるのは、恥ずかしくないあるか」
 恥ずかしい、超恥ずかしい。でも心の声を止めることはできない。気持ちを伝えるのもナレーションの仕事だから。
「何俺のこと好きなの?」
 …………。
「何無言になってんだよ」
 あまりの衝撃に空いた口が塞がらなかった。"私"はあろうことか、ダサさを体現した男に好意を抱いてしまったらしい。
「ダサさを体現した覚えはねぇけどな」
 バカな子ほど可愛いというのは本当だった。あくびをした姿が可愛かったことはポイントが高い。軽口の応酬が心地良かったことも理由の一つだ。
 でも一番の理由は、"私"が実体化する前から女だと気づいていたことにある。単純に嬉しかった。
「えっ?」
 使子じぇるこは驚いている。気づいてたっけと言わんばかりの顔だ。
 結婚式を邪魔したとき、ダサ男は言っていた。女をいたぶる趣味はないと。"私"に手を出すわけには行かないとも。あのとき、すでに女と気づいていたに違いない。
「てっきり私は実体がないから何もできないって意味かと思ってました」
 と、思っていた時期もありました。
「おい」
 気づいていたのか、気づいていなかったのか分からない。勘違いだったら恥ずかしい。
「俺が気づくわけねえだろ。モテルンダが女だって知らなかったんだから」
 乙女心を弄びやがってキーック。ダサ男の急所を狙ってやる。
「水色か。意外と可愛らしいな」
 ぎゃっ、言葉だけで蹴りを止めるとは。無敵のナレーションもビックリだ。
「そんな目で睨んでも可愛いだけだぞ」
 もうやだ。顔が火照ってきた。"私"はシバールにぎゅっと抱きつく。彼女はよしよしと頭を撫でてくれた。優しい。


「さて、世界の英雄さん、こっからはてめえの仕事だ」
 ダサ男は力男りきおの背中を押した。彼は視線をさ迷わせ、彼女たちの前に立つ。
「君たちと過ごした時間が、僕を英雄に押し上げてくれた。君たちと出会っていなかったら、僕はきっと天使大王に勝てなかった。ありがとう、僕を強くしてくれて。ありがとう、僕を助けてくれて。ありがとう、使子じぇるこさんの力になってくれて」
 力男りきおは深々と頭を下げた。
「僕は使子じぇるこさんと結婚する」
 力強い宣言に一瞬だけ顔をゆがめ、彼女たちはおめでとうと言った。ふっきれたのだろうか。幸せになって欲しいと思う。
「てめえはこれから先も女を泣かせそうな気がすんな」
 ダサ男は憎憎しげに舌打ちし、力男りきお使子じぇるこを並ばせ、その前にゴワスを立たせた。
「てめえら、結婚式に参加するか?」
 ダサ男は彼女たちに問いかけた。気を使っている。参加したくないなら、去っても良いと言わんばかりに。
「ミーは参加するよ」
「オレもだ」
「わらわもじゃ」
「私もあるね」
 愛した男の結婚式に参加する。それはどんな気持ちなんだろう。経験がないから分からない。
 けどあいつが結婚する姿をテレビ中継で見たら、イヤだなと思う。自分と関係なく、進むのは我慢ならない。
 それなら呼んで欲しい。諦めがつくだろうから。
「何のために?」
 一瞬だけ、ダサ男が"私"に目を向けた。すぐに彼女たちに視線を移す。心を見られた気がした。
「友のために」
 彼女たちの視線の先には、使子じぇるこがいた。
「兄は嬉しいぞ。愛する妹が成長して。皆様は良い方向に変わったか?」
 彼女たちは何も言わずに微笑んだ。ダサ男はほっと息を吐き、力男りきお使子じぇるこに視線を合わせる。
「世界の英雄さんと彼女さん、いろいろと悪かった。俺のわがままで結婚式をぶち壊して」
 ダサ男は地面に膝をつき、頭を下げた。力男りきお使子じぇるこは戸惑っている。
「責めたいわけじゃなかった。人生に別れってものはつきものだ。過去に付き合った相手のことを考えてたら切りがないって頭では分かってる。けど、妹の悲しんでる姿を見たら、いてもたってもいられなくなった。てめらには悪いことをしたと思ってる。これは俺の最期のわがままだ」
 ダサ男は立ち上がって、ゴワスの肩に手を回した。
「てめえらの晴れ舞台を祝う手伝いをさせてほしい」
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