アンチの理由

音無威人

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アンチの理由

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 ケース1、好き嫌い
 この村にはたった五十人の村人しかいない。村の近くにはキノコが生えている。村周辺にしか生えていない特殊なキノコであり、村人全員がキノコを好んでいた。
 そんなある日、一人の村人が体調を崩し、そのまま帰らぬ人になった。村人は嘆き悲しんだが、悲劇はまだ終わっていなかった。何人もの村人が次々と死んでいったのだ。
 村人は恐怖した。なぜ死んでいくのか分からない。次は我が身かもしれない。身に迫る恐怖に、いつしか村からは住民だけでなく、笑顔も消え去っていった。
 そしてひと月も経たない内に村からは人がいなくなった。
 数年後、ある一人の学者と助手が村に迷い込んだ。食料を探して周辺を探索しているうちに、二人はこの村独自のキノコを発見した。だが二人は一切手をつけなかった。
 学者はキノコの専門家である。彼はキノコが毒を持っていることに気づいたのだ。
 そう村人はキノコの毒によって死んだ。キノコは突然毒を持つことがある。たとえば「スギヒラタケ」がそうだ。このキノコは元々は食用であったが、あるとき突然毒を持ち始め、スギヒラタケを食べた多くの人が中毒症状に陥ったという。

 村に生えていた特殊なキノコも突然変異によって毒を有し、それが原因で村は全滅してしまった。では村が全滅しないためにはどうすれば良かったのだろう?
 答えは簡単だ。村人五十人のうち、半分、いや四分の一でもいい。キノコ嫌いがいれば良かったのだ。たとえ半分以上が死んだとしても、キノコ嫌いの人々は生き残り、村を存続させることは可能だ。
 そうだからこそアンチは必要なのだ。もし人類すべてが同じものを好んでいたら、毒キノコのようになんらかのきっかけで食材が有害になったら、人類が滅亡してしまう危険性がある。だが好き嫌いが分かれていれば、何人かは必ず生き残る計算になる。これこそが世界にアンチが生まれる理由だ。人類が持つ種の存続本能が、人をアンチへと導いているのだ。



 ケース2、意見の不一致
 友人や恋人、家族と出かけるとき、意見が一致せずに揉めた経験はないだろうか? どういうわけだか最低一人は別の意見を出すことが多い。なんでもいいという奴に限って、結論がまとまったときに「そこはイヤだ」と口を挟む。
 なぜ周囲に合わせることなく、自分勝手に意見を口にするのだろうか。これにも理由があると私は考える。
 たとえば出かけた先で何らかの事故が起きたとしよう。事故の内容はなんでもいい。車が建物に突っ込んだ、火災が発生したなど何でも構わない。重要なのは死んでもおかしくない事故が起きるということだからだ。
 もし家族全員で出かけたときに事故が発生して、みんな死んでしまったとしよう。その時点で一族の血は途絶えるだろう。では意見が合わなければ、どうなるだろう?
 一人はファミレスに行きたい、もう一人はファーストフードを食べたいなど意見がバラバラになったとする。こういう場合はどうにかして意見をまとめようとするかもしれない。だが一旦別れて、後で集合するというのも一つの手だ。
 一緒に出かけてもバラバラに行動するのはよくあることだ。これも種を残したいという本能が関係してると言えよう。バラバラに行動すれば、もしなんらかのアクシデントが発生したとしても全員が巻き込まれる心配はない。家族のうち、一人でも残っていれば、血は後世に残すことが出来る。
 これは何も家族に限った話ではない。集団において、一人でも生かそうという意志が働いた結果、意見の不一致という現象は起きる。このズレこそが、生き延びようとする生物の生存本能なのだ。



 ケース3、対立や衝突
 グループにおいて、全員が全員仲が良いことは稀である。人が多くなればなるほど、どうしてもそこには対立や衝突が発生する。
 たとえ仲の良いはずの友人同士や家族の間でさえだ。ではなぜ対立や衝突が起こるのだろうか?
 グループの一人一人を分かりやすく国に例えてみる。ABCの三つの国があったとしよう。Aは絶滅危惧種に指定されている動物を食べる国だと仮定する。三つの国は仲が良いため、他の二つの国は一切口出ししなかった。結果、絶滅危惧種に指定された動物は本当に滅んでしまった。こうしたことが繰り返されれば、地球上からは動物がいなくなってしまう。
 ではAという国に対して、BとCの二つの国が反発の姿勢を取っていたらどうなるだろう。絶滅危惧種を食べるなと二つの国が釘を刺すことで、Aは少なからず行動が制限される。対立や衝突しあうことで、行動を抑止しているのだ。Aに対してBが対立、今度はBに対してCが衝突といった具合に、いわゆる三すくみの状態になる。お互いがお互いをけん制しているために結果身動きが取れない。
 さて話を友人同士や家族に戻そう。最小単位になっても同じことが言える。無闇な暴走を食い止めるために対立することで、一種の抑止力になっているのだ。
 たとえば飲酒運転は犯罪だ。お酒を飲んでいるにも関わらず、車を運転すれば、不慮の事故で死んでしまうかもしれない。誰も反対しなければ、結果的に命を落とす危険性がある。だからこそいくら仲が良くても対立や衝突することは大切なのだ。お酒を飲んで運転することは危ないと反発する人が一人でもいれば、危険性は下がる。
 このように対立や衝突、あるいは反発といった行為は、暴走や危険行動などを最小限に抑えるためには必要なことだと言える。これは危機回避行動が働いたことによる自己防衛本能でもあるのだ。自分に危険が及ぶかもしれないことを無意識に察知して、対立や衝突行動を取っているというわけだ。



 ――以上、三つのケースをご覧いただいた。一つ言っておきたいことがある。これは私の個人的な考えに過ぎない。人によってはこじつけだと言うかもしれない。しかし分かって欲しい。アンチを批判するのではなく、なぜアンチは生まれるのか、そのことに考えを広げたかったのだ。アンチは必要なものだと思えば、おおらかな心で受け入れることが出来るであろう。
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