悪の組織がチートすぎる件

音無威人

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悪の組織がチートすぎる件

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「第十回、悪の組織対策会議を始める。私が今回の議長を務める温泉多摩子だ。よろしく」

「『温泉多摩子おんせんたまこ、彼女はヒーロー内において最も有名な女性である。その強さもさることながら、鋭さのある声、優れた容貌、凛とした佇まい、付いていきたくなるカリスマ性を兼ね備えた才色兼備な女性。男性だけでなく、女性にも……いや、むしろ女性にこそモテるパーフェクトな女性。これこそが敵である悪の組織からも女神と呼ばれる所以である。敵すらも魅了するその美しさ。彼女こそまさに女神』」

「少し照れるな」



「副議長を務めます。トウバ・ジャンです」

「『ヒーロー一の優男。そして苦労人。穏やかな物腰であるためか、頼みごとを断りきれずいつも雑用を任されている。またヒーローが起こした問題ごとを処理するのも彼の仕事だ。戦闘力に限っていえばヒーローの中でも最弱の部類。しかしそれを補って余るほどの頭脳が彼にはある。参謀として目覚しい実績を築き上げた彼は、みんなから多大なる信頼を寄せられている』」

「いやはや、お恥ずかしい限りです」



「はーいわたくし、先ほどからナレーションを務めさせていただいています活佳麗かつかれいです」

「……ナレーションいるかなぁ?」

「『冷たく響く声色で声を発したのは潮虎翔しおこしょうという男。キリッとした目に甘いマスク。左目には切り傷が刻まれている。見た目はまだ少年のよう。しかしながらその実力はエースと呼ばれるだけあり、ヒーローの中でもトップレベルの腕前。助けた女の子はみな潮虎翔に恋心を抱いていて、いつも激しい戦いが繰り広げられている……』」

「……やっぱいらないと思うんだけど」



「ヒャーハハハハ。いいねぇ、いいねぇ。すごくいいねぇ。とっても興味深いぜ僕ちん。僕ちんのナレーション、かっこよくしてくれよ佳麗ちゃーん。ヒャーハハハ」

「はーい分かりました。『かくも図々しくナレーションを頼んだのは、不可避零ふかひれいという極めて不可解な男。ありとあらゆる生物をねじ伏せる力を持っていて、ヒーロー最強との呼び声も高い。またヒーロー内において、あいつ絶対悪の組織と繋がってる、あの男が一番の敵だろなどと言われるぐらい信用できない人物でもある。所属すべき組織を間違えたアンチヒーロー、それが不可避零という男である。追伸、ヒーロー内で不可避零を仲間だと思っているヒーローは今のところゼロである』……どうですわたくしのナレーション満足していただけたでしょうか?」

「……僕ちん、ヒーローやめようと思う」

「どうしてです!? あなたがいなくなったらわたくし……」

「佳麗ちゃん……」

「とっても嬉しいです。なのでぜひやめてください。不可避零あなたのことは……多分すぐに忘れることだろうと思います」

「ヒャーハハハ。僕ちんもう帰る」

「まぁ、落ち着け不可避」

「でもよ、たまたま」

「殴るぞ不可避」

「さすがの僕ちんもそれは遠慮したいところだぜ」

「あのー皆さん。そろそろ会議始めてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、すまないトウバ。始めてくれ」

「では。今から会議を始めます。ここからの発言は挙手でお願いします」





「はーい」

「はい、佳麗さんどうぞ」

「はーい、わたくしこの前買い物をしていたら、突然雨が降ってきたのです。急なことだったので傘を持っていないわたくしは立ち往生してしまいました。どうやって帰ろうかと思っていたら唐突に傘が目の前に出現したのです。びっくりしたわたくしは傘を凝視しました。するとぶっきらぼうな声で『傘、貸してやる』と聞こえてきたのです。その声を聞いたわたくしはとても驚きました。なぜならその声の主はわたくしたちが敵対している悪の組織幹部、カキゴ・オリのものだったのです。驚きのあまりわたくしはカキゴ・オリを見つめてしまいました。カキゴ・オリはやはりぶっきらぼうに『困ったときはお互い様とよく言うだろ? 今オレ様はプライベートな時間なんだ。だからお前がヒーローであっても手を貸さない理由がない。オレ様は悪ではあるが、困っている女の子を見捨てるような情けない男にはなりたくないんだ。だからまぁ、ありがたくこの傘を受け取れ。……じゃあな』とわたくしに傘を押し付けて去っていきました。わたくしはその優しさに涙が出そうになり、ほんの少しだけ彼に好意のようなものを抱いてしまいました。これでわたくしの話は終わりです。ご清聴ありがとうございました」



「はい、ありがとうございます佳麗さん。皆さんはどう思われましたか?」

「……カキゴ・オリらしいと思うよ。僕は彼ほどのフェミニストを他には知らないし」

「だな。あいつは戦闘の最中ですら相手が女子なら絶対に手は出さない。そういう男なら佳麗が困っていたら助けるだろう」

「……えっ?」

「どうした不可避?」

「えっ、いやぁ、これって悪の組織対策会議だよね?」

「そうだぞ、それがどうかしたか?」

「どう考えても対策の話じゃなくて、惚れた話をしているようにしか思えないんだけど?」

「あぁ、その通りだ」

「その通りって、えっ、いいのそれで? 僕ちんもう少し実のある話をすると思ってたんだけど」

「いや、実のある話だろ。この会議は悪の組織の幹部がかっこよすぎて惚れちゃいそう、というか惚れてしまったんだけどどうしたらいいかな的会議だから。惚れた話から対策法を考えて、愛しのあの子をゲットしちゃおうぜみたいな会議だから何も問題ないだろ」

「……そうだよ不可避。僕らは幹部に惚れちゃったから今回の会議を行うことになったんだ。幹部は総じて僕らより強いから、知恵を振り絞らなきゃ見向きもしてもらえない。だからどうやって両思いになるか話し合うことに決めたんだ」

「……えーっと何それ、僕ちん聞いてないんだけど?」

「『なぜそのことを不可避零が知らなかったのか。それには理由がある。彼は誰かに惚れているわけではない。よって無関係だと判断され、知らされなかったのだ。それなのになぜこの会議に出席しているかというと、仲間はずれにされたと知った時の不可避零の顔を見てみたいというステキな理由からである。ぽかんとしたマヌケな顔を見れた。それだけでわたくしは満足である』ということなのですよ不可避零」

「ヒャハハハ……帰っていいかな割とマジで」

「それは却下だ不可避。第三者の意見を聞いてみたいという理由もあってお前を会議に出席させたんだ。職務は果たしてもらうぞ」

「僕ちん、こんなことするためにヒーローになったわけじゃないんだけど?」

「知るかそんなの」

「横暴だなぁー」



「次は私が話すぞ。こころして聞け。まず私が好意を抱いているのは悪の組織のリーダー、アボ・カドだ。私は以前、悪の組織をなかなか倒せない自分に不甲斐ない思いを抱いていた。そんな悔しい気持ちを胸に秘めたまま、川原でボーっと空を見上げていたら、突然アボ・カドが目の前に現れた。なぜここにいるのか分からなかったが、私はヒーローだから戦いを挑んだ。結果は手も足も出ず惨敗。私はよりいっそう悔しい気持ちを胸に抱いた。そんな私にあいつはこう告げた。『やはり強いな貴様は』私はふざけるなと憤慨した。『いやいや確かに貴様は俺に触れることすらできなかった。だがそれが何だ? 貴様以外のヒーローは俺と一度でも手合わせすると戦意を喪失して、以後挑みかかることをやめる。だが貴様は違う。何度戦っても諦めることすらない。愚直に俺に勝とうとしている。勝てないと分かっていてもだ。貴様は紛れもなくヒーローとしての資質と強さを持っている。ヒーローと名乗っていてもヒーローの強さを持たない輩は大勢いる。自分が危なくなると、仲間を置いて逃げ出すクズとかがな。その点、貴様は自分だけ残り、仲間を逃がすタイプだったな。俺はな嫌いじゃないんだ貴様と戦うのが。日に日に強くなっていく貴様を見るのはなかなか楽しくてな。だからさ、落ち込む必要なんてないんだよ貴様は。貴様は強い、この俺が保障しよう。感謝するが良い』などと言いやがった。私はだいぶ戸惑った。するとあいつは何を思ったか知らないが、急に私を抱きしめやがった。私は引き剥がそうとしたが、あいつが耳元で『貴様、確か女神と呼ばれていたな。分からなくもない……が、俺は別の呼び方を採用しようと思う。なぁ、……お姫様』なんて言うから私の心臓はこれ以上ないくらい音を立てて振動していた。あいつは多分そのことに気付いたんだろう。笑いながらあいつは『じゃあな、俺のお姫様』って去っていきやがった。後に残された私の頬は赤く染まり、胸には新たな思いが飛来し、散々だった。もうそれからは何をするにもあいつの顔が思い浮かんで仕方がない。だから私はこの感情を恋と呼ぶことにした。以上これで私の話は終わりだ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……おい、何か言えよ。恥ずかしいじゃないか」

「いやぁ、何と言うか、ベタぼれだなぁと思って」

「なぁっ! ベタぼれだと? おかしなことを言うな不可避!」

「だって何をするにもアボ・カドが思い浮かぶんだろ? それって大好きってことだよね? ヒャハハハハハ! いいねぇ、いいねぇ、すっごくいいねぇ。僕ちん応援するよ。女神様の恋の話なんて初めて聞いたし、会議を開くくらいなんだから、本気ってことだろ? さっきまでやる気なかったけど、たまたまのためだ。僕ちんも全力で会議に臨むことにしよう。ヒャハハハハッ、愉快愉快」

「『不可避零は気持ち悪い笑みを浮かべた。ヒーローというより悪魔といった方が適切であろう笑みだ。やはりこの男は信用ならない人間であることをわたくしは痛感した』」

「……傷つくぜ、佳麗ちゃん」

「存分に傷つけばいいのです」

「佳麗ちゃんってほんと僕ちんのこと嫌いだよね」

「はい」

「わぁー。つねりたくなるほどの満面の笑み。すっごくむかつく。だからさ、つねっていい佳麗ちゃん」

「ダメです。わたくしの頬はカキゴ・オリに触られるために存在しているのです。決して不可避あなたに触ってもらうために存在しているのではないのです」

「……何か気概が削がれた。次いこっか。翔? それともジャンがいく?」

「それでは私がいかせてもらいます」



「みなさんご存知の通り、私に戦闘力というものはありません。なので私はそれ以外で、みなさんを援護する力が必要だったのです。しかし私にはその方法というものが思いつかなかったのです。私には一体何ができるのか、そのことをひたすら考えていました。戦闘では足手まといになる毎日。私はいないほうがいいのではないか? ヒーローを目指すべきではなかったのではないか? そんな思いがずっとくすぶり続けていました。そしてある時、私が行った任務で絶体絶命のピンチに陥ったのです。私以外のヒーローはまともに動くことができないほど負傷していました。唯一私だけが軽傷ですみ、動くことができたのです。しかし私に戦闘力は皆無。そのときの相手は幹部の一人スープ。私は必死に考えました。状況を打破する術を。絶対心理、その能力はとても強大です。相手の心理を我がことのように理解し、感じる力。その能力によって私たちの行動は手に取るように分かる。そして私はふと思ったのです。それは逆に相手の行動も分かるのではないかと。私たちの心理を読んで次の行動を決めているのであれば、それを逆手にとって相手の行動を決めることができるのではないかと。私は早速行動に移すことに決めました。私はまずある一つのことを考えました。それは私がおとりになって、仲間を逃がすというものでした。それによりスープに私だけが戦うという認識を植えつけたのです。その認識を植えつけながら、私は心を無にしながらある作戦を紙に書いて、仲間たちに渡したのです。私はスープの前に一人で飛び込みました。そのことはスープは予測済みなので、何ら慌てることなく対処してきました。私はスープと戦いながら、作戦決行のときを待っていたのです。作戦というのはごく単純な一斉攻撃です。そしてそれは見事にスープに命中し、私たちは事なきを得たのです。スープは驚愕の表情を浮かべ『なぜ?』と囁くようにつぶやきました。私は作戦を書き記した紙をスープに見せました。スープは納得したように『そうか』と声に出しました。私は作戦を伝える時にただ絵を描いただけなのです。仲間たちはその絵の通りに行動しました。なので彼女は読み取ることができなかったのです。彼女が読み取れるのは次はこう動こうという考えや思い。見た映像を読み取ることは不可能。なので私たちは攻撃を命中させることができました。私はみなさんの役に立てたことに喜びという感情を覚えました。彼女スープは悔しそうでした。『むうぅー。まさかそういう方法があったとは。わらわの能力も完璧ではないということか。むうぅー、しかしお前さんに出し抜かれるとは思わなかったぞ。弱いとばかり思っていたのに。伊達にヒーローと名乗っているわけではないか。悔しいのー悔しいのー。もう一回勝負じゃ。今は疲れているからできんが。次こそはわらわが勝つぞ。いいか次はもうないと思えよお前さん。絶対わらわが勝つぞ!』私は彼女の悔しくてたまらないという表情に……とても心を奪われました。もっともっと表情を歪ませたいという感情が強く私の中に巻き起こったのです。その心理を読み取ったのでしょう。スープは怯えをあらわにしました。その顔に私はとてもゾクゾクしました。その瞬間私は気付いたのです。自分にSっ気が備わっていることに。私は彼女に近づき耳元で囁きました。壊したいと。彼女の怯えは頂点に達したのでしょう。涙目になっていました。その顔もとてもよく、ますます私のS心に火がついたのです。私は決めました。彼女を徹底的に苛め抜こうと。彼女はより深く涙を流し『嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃー! お前さん怖いぞ。ヒーローか本当に。わらわは乙女だぞ。か弱くはないけど乙女なのじゃぞ。苛め抜くとか酷いとは思わんのかー!』心からの叫びとはこのことを言うのでしょうね。しかしそんなことは私には関係ありません。私はヒーローであり、彼女は悪の組織。だから苛め抜くことはおかしくない。いえ、正常な判断だと私は思うのです。私は心からの愉悦を抑えることができず、満面の笑みを浮かべてしまいました。私の表情を見たスープは『あ、悪魔め!』と叫び、うわーんと泣きながらその場を去っていきました。私はこのときから彼女に会いたくてたまらず、会えたときには喜びを表すために徹底的に苛め抜いています。彼女は私に会ったら必ず涙目になるんですが、それがまた可愛くて可愛くて、もっともっと意地悪したくなっちゃうんですよね。以上で私の話は終わりです。いかがでしたか?」

「……ジャン、何か違う。お前だけ何か違う……」

「才能の違いというものでしょうか?」

「うっわー、すっごくむかつく。けどそういう自信の高さは嫌いじゃない。僕ちん好みだぜ」

「というか意外な事実です。トウバさんにそんな一面があったなんて」

「……人は見かけによらないということだね」

「トウバだけ方向性が違うような気もするが、まぁ、それもよしとしよう」

「ありがとうございます温泉さん」

「それじゃあ次は潮虎だな」

「……了解」



「……僕は常日頃から女の子にまとわりつかれてすごく困ってたんだ」

「何それ? 自慢?」

「……違うよ。不可避、僕は事実を言っているだけに過ぎない。それに本当に困るんだよ。行く先々で待ち伏せされて、ぎゃーぎゃーやかましく騒がれるんだよ。うざったいったらありゃしない」

「ファンが聞いたら怒りそうなセリフだぜ。ヒャハッ」

「……どうでもいいよそんなの。僕は別にモテたいからヒーローやってるわけじゃないんだし。それに彼女たちは僕の見た目にきゃーきゃー言ってるだけで、僕自身を知ろうとも見ようともしない。そんな人たちにモテたって何も感じないよ。僕が好かれたいのは一人だけだからね」

「自分がかっこいいとは思ってるのか。何かむかつく」

「……僕の見た目がいわゆるイケメンというものに属しているのはまぎれもない事実だよ。それに不可避、見た目だけで言うなら君も十分合格点だ。ただ中身がいろいろと残念なだけで。それが一番取り返しのつかないことだけど」

「反論できない自分が悲しい」

「……まぁ、それは置いといて。僕が彼女に惚れるに至ったワケを話そう。最初に言っとくと、僕が惚れているのは歌鈴だ。僕がエースと呼ばれているのはご存知の通りだと思うけど。それってけっこうプレッシャーなんだよね。エースってさ負けちゃいけないんだよ。仲間を勝利に導かなきゃいけないから。エースは負けてはならない。けど悪の組織の幹部は強すぎる。カキゴ・オリの能力は『絶対凍結』触れるもの全てを凍らす。それはマグマであろうと例外ではない。だから僕たちの攻撃は全部凍らされて届かない。さらにアボ・カドの『絶対勝利』ただ負けないだけの能力。単純だけど恐ろしい力だよ。何をしたって負けないんだから。そんな恐ろしい力を持つ相手にエースは挑んで勝たねばならない。けど何度挑戦しても僕は勝てない。知ってた? 僕がヒーロー内で役立たずのエースなんて後ろ指差されてること。……多摩子隊長、さっき悪の組織に勝てない自分に不甲斐ない思いを抱いたって言ってたよね? すごく分かる。僕も悔しくて悔しくて仕方ない思いを抱いたから。そんなときにさ、出撃命令が出たんだ。敵は悪の組織幹部、歌鈴と下っ端数名。手が空いていたのは僕一人だったから、チャンスだと思った。これで幹部を一人で倒せば、役立たずのエースって呼ばれることもなくなる。けど、そんな甘いものじゃなかった。女の子とはいえ幹部。彼女、歌鈴の力は強大だった。『絶対支配』彼女の声を聞いたものは、細胞レベルで体を支配される。抗うことのできない支配力に、僕と彼女の力の差を思い知らされた。負けると思った。負けられないと思った。僕はエース。僕はヒーロー。その思いが折れそうになる心をぎりぎりのところで繋いでいた。僕は全身全霊を持って、彼女の支配に抗った。そして力を使いすぎたのか気を失ってしまった。気付くと支配は消えていて、なぜか歌鈴が僕を看病していた。僕が起きたことに気付いたのか、歌鈴は口を開いた。『なぜ、あなたは頑張るの? なぜ諦めないの?』僕はそれにエースだからと答えた。彼女は目を細め、僕の心を覗き込むかのように顔を近づけてきた。『本当に? あなたはそんな理由で頑張ったの? そんなちっぽけな肩書きのためにあなたは頑張ったの? 違うでしょ。あなたが頑張った理由、諦めなかった理由は他にあるはずよ』僕はそれを否定できなかった。『ねぇ、私知ってるの。あなたが役立たずのエースって言われてるの。でもねそれは関係ないはずよ。だってあなたをエースとして認めている人はちゃんといるでしょ。女神様やトウバ・ジャン、活佳麗、彼女たちはあなたを認めてる。エースとしてのあなたを。だから他の誰が役立たずのエースなんて言おうと関係ないの。あなたもそれは分かってたはずよ。だから頑張ったんでしょ。諦めなかったんでしょ。自分を信頼してくれている彼女たちの期待に答えようとして。あなたは仲間のために戦っているのよ……知ってる? エースってね。強いだけじゃなれないのよ。みんなから信頼されている人がなるの。あなたのことを悪く言う人は放っておけばいいのよ。あなたは信頼されている、だからエースなの。それにあなたはエースの名に相応しい強さを持っているわ。最後の最後で私の支配に打ち勝ったんだもの。少し……悔しかったわ。でも納得もしたの。これがあなたの力だって。……さすがエースね』彼女は僕に笑いかけた。それは決して敵に向ける笑顔じゃなかった。でもどうしてか僕も笑ってたんだ。何というか憑き物が落ちた気分だった。役立たずって言われないように頑張ってきたつもりだった。けど本当はそんなことじゃなくて、エースだとかも関係なくて、僕はただ仲間のために戦ってただけだった。僕はそのことに気付いていなかった。エースという言葉に固執するあまり、自分の本心が見えてなかった。でも彼女が気付かせてくれた。彼女は僕の内面をしっかりと見てくれる。僕はそんな彼女に敵意じゃない別の何かを感じた。そのときは何か分からなかったけど。彼女はクスクスと笑った後、真剣な顔になった。『でも最後のアレは無茶すぎるわ。全ての力を注ぐなんて。ヘタしたら死んでたわよ。あなたが死んだら彼女たちが悲しむわ。……それに私も悲しいわ。だから無茶なことはしないで』彼女はまるで懇願するかのような口ぶりだった。彼女もそれに気付いたんだろう。顔を赤くして照れていた。僕はその様子に愛しさのようなものを感じた。それからというもの彼女と出会ったときは戦いではなく、おしゃべりをするようになった。これで僕の話は終わりだよ」

「……潮虎、そんなことを思ってたのか。確かに私はお前をエースとして認めている。けどな、だからといってそのことをプレッシャーに感じる必要はない。お前にだけ頼るつもりははなからないからな。私たちは仲間だ。一人で勝つ必要なんてない。みんなで勝てばいいんだ。ありきたりな言葉で悪いが、『一人はみんなのために、みんなは一人のために』だ」

「そうですよ潮虎さん。あなた一人になんて背負わせません。勝利したい気持ちはみんな同じです。みんなで勝利を導いていきましょう」

「えぇ、微力ながらも私もサポートさせていただきます。私たちはチームなのです。私の頭脳がどこまで役に立つかは分かりませんが、参謀として潮虎さん、あなたをお助けします」

「……みんなありがとう。僕はいい仲間を持った。幸せ者だよ」

「ふふ、同感だ。それにしても潮虎、お前歌鈴とけっこうラブラブじゃないのか?」

「……そうかな?」

「わたくしは脈があると思います。だって潮虎さんが死んだら悲しいって懇願するように言ったんですよね? それって死んでほしくないってことです。歌鈴さんはかなり潮虎さんのこと好きなんじゃないでしょうか」

「……そうだったら嬉しいな」

「潮虎さん、恋が実るようにサポートしますのでご安心ください。この会議はそのためのものなのですから」



「……ねぇ、一つ聞いていい?」

「? どうした不可避」

「何で、歌鈴は僕ちんの名前出さなかったの? えっ、つまり、僕ちん味方どころか敵側から見ても、仲間だって思われてないってこと? そうだよね、会議の目的知らされてなかったもんね。歌鈴の目から見ても僕ちんは輪に加われてなかったってことだよね。……ヒャハハハ……ハ……ハッ……。僕ちんの存在って何? 必要なの、いらないよね、そうだよね、ヒーロー内で信用してる奴いないって言ってたし、一般市民の人たちも僕ちんのことヒーローって思ってないかも。みんなはファンとかいるのに、僕ちんいないし。……ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハッ! いい、いい、いいよ、すっごくくだらないよ。あーあーあー、もうやめだやめだ。ヒーローなんてやってたって僕ちんいいことないし。もう帰る。二度と会うことはないと思うけど。でもお前たちにとってはそれがいいんじゃない? 僕ちんのこと嫌いなんだろ? ヒャハハハハハハハハハッ! あぁ、ほんとくっだらねぇはマジで」

「おい不可避待て!」



「『……不可避は吐き捨てるように言葉を残し、去っていった。後に残されたわたくしたちは呆然と佇むしかなかった。決して嫌っているわけではなかった。本気ではなかった。冗談のつもりだった。けれど不可避はそうは思っていなかった。これはわたくしたちの罪なのだろう』」







「あーあー何やってんだろう僕ちん。ヒーローやめるって言ったしな。もう戻ることはできない。まぁ、そんなつもりもないけど。やっぱ柄じゃなかったんだよ。僕ちんがヒーローなんて。……信用できない男……か。確かにその通りなんだけどさ。僕ちんって嘘つきだし。嘘をつくことだけがとりえの奴だしね。ヒーロー最強? はっ、バカバカしい。僕ちんが……俺が最強なわけないだろう。弱くて弱くて弱くて弱くてたまらないから、嘘で塗り固めたんだ。自分を強く見せるために。弱い自分自身を守るために。傷つかないように。偽ったんだろうがよ自分自身を! なのに何で傷ついてやがるんだよ、バカなのかお前は、不可避。騙したのはお前だろう? 偽ったのはお前だろう? 本心を見せなかったのはお前だろう? だから信用されないのも当然なんだ。信用できない? 当然だよな、お前は誰も信用していなかったんだから。信用しない奴が信用されるわけないんだ。お前は昔からずっと一人だったろうが! 今更仲間を得ようとしてんじゃねぇよ! お前がヒーローになったのはくっだらねえ仲間遊びをするためじゃないだろうが! 目的を見失うんじゃねえよ不可避! お前は俺は――怪物だろう? 不可避零、見失うな自分を。お前は怪物なんだから。感情を持つべきじゃないんだ。余計なことを考えるな。自分を強く持て。お前に必要なのは“意思”だ」



「――お前、不可避か?」

「! ――誰だ!」

「……そんなに殺気を飛ばすなよ。お前らしくないぞ。何かあったのか? さっきからずっと独り言つぶやいてたし、怪物だろうとかなんとか。お前はヒーローなんじゃないのか?」

「……いつからいたんだ月見……」

「えっと……『あーあー何やってんだろう僕ちん』から……かな?」

「最初からっっっ!? ……うっわぁー何だろう。すっごく恥ずかしい気分に陥ってきた。そして死にたくなってきた。いい病院知らないか?」

「なぜ病院の話がでてくるのか、皆目検討がつかない私がいるわけだが?」

「知らないのかよ月見。……安楽死をもたらしてくれるのは病院なんだぜ」

「ヒーローが安楽死していいのか?」

「俺はもうヒーローじゃねえよ。さっきやめてきたところだからな。それに……」

「何だ?」

「俺はずっと死にたかったからな。自分で死ぬのは怖い。けれど死にたい。まぁ、でも俺が薬程度で死ぬことができるかどうか、それが一番の問題なんだけどな」

「……お前本当に不可避か? 雰囲気も口調も私が知っているものと全然違うんだが?」

「こっちが俺の素だ」

「そうか……。私は今のお前の方が好きかもしれん」

「それはどうも」

「……素っ気無いな。もっと仲良くしようぜ。ダーリン」

「気持ち悪いことを抜かすんじゃねえよボケ」

「誰がボケだこら! ……根性なしのくせに」

「……ん、だと。誰が根性なしだ誰が!」

「お前のことだよ不可避。自分で死ぬのは怖い? それが根性なしじゃなかったら何だというんだ? ……それに……自分が傷つかないよう嘘で塗り固め、本心を偽り続けたお前は根性なしだろ?」

「ぐっ……」

「反論できないか? そうだろうなぁ。傷つくのが怖いから本音を明かせなかった。そんな弱虫のお前がなぜヒーロー最強と呼ばれるんだか……まったく分からないよ」

「……俺だって分かんねぇよ」

「……お前の偽りに気付いていた奴はどれぐらいいるんだろうなぁ?」

「多分お前だけだ月見」

「そうかそれは嬉しいよ。私だけがお前を知っている。愉快、愉快、愉快」

「俺の気分は愉快とはほど遠いけどな」

「そういうな。……私はな、ずっと知りたかったんだお前のことを。いつもお前は自分を見せなかった。私たちと戦っているときでさえ、お前は自分を偽っていた。お前の力は私たちよりもずっと強いはずだ。けどお前はその力を決して使わなかった。私はそのことをずっと疑問に思っていた。けど今になってその答が分かった」

「言ってみろ採点してやる」

「……お前は死にたかった。それが理由だ。お前がヒーローになったのは私たち悪の組織に殺されるためだな。でも殺されるだけなら悪の組織に入って、ヒーローにやられるのでもよかった。しかしお前はそうしなかった。お前は理解していた。ヒーローでは決して自分を殺せないことを。だからお前は悪の組織に殺される道を選んだ。でもそうやってヒーロー活動をしていく内に、お前は思ってしまった」

「……何を?」

「……多分楽しいって。ヒーローをやっていく中でお前は、生きたいという気持ちが芽生えてしまった。けどやはりお前は死にたかった。だからずっと自分を偽った。この感情は偽りの自分のものだから、本心ではないから。そう言い訳するために。しかしそれが瓦解してしまった。だからお前は今、偽りではない本当の自分で私と対峙している。と、私は推測する。正解であれば嬉しいが」

「……百点満点だ。月見、褒めて遣わす」

「ははっ、ありがたき幸せ」

「…………」

「…………」

「……あーあ、ほんと何やってるんだか」

「……お前の偽りが崩壊した理由。できれば教えて欲しいんだが」

「いいぜ、話してやる。実はかくかくしかじかで」

「……便利な言葉だよなかくかくしかじか」

「月見お前もそう思うか」

「それで伝わると思うのか?」

「……思わない」

「そうだと思ったよ」

「今度はちゃんと話すさ。実は――」



「なるほどな。そんなことがあったのか」

「あぁ。バカバカしいだろ? 敵に惚れたから会議を開くって」

「いや、そうは思わない」

「? 何で」

「実を言うとな。私のところも似たような会議を開いていた。まぁ、だから抜け出してきたのだが」

「それってバカバカしいから抜けだしたんじゃないのか?」

「いや……違う。何と言うか……そう悲しくなってきたんだ。私にはあいつらみたいに想いを話すことができないから。私だけ仲間はずれのような気がして、会議の場にいるのが耐えられなくなって……抜け出してきた。あいつらとお前のところのヒーローが惹かれあっているのは間違いないと思う。しかしそうなると私は一人になってしまう。私だけ相手がいない。それは……淋しい。好きになるのも好きになられるのも……羨ましい。……私だって女なんだ。恋ぐらい……してみたい。けど……私は悪の組織だから。……好きになってくれる奴なんていない」

「……どうして……そう言える? 悪の組織だから好きになってくれる奴がいない……それならアボ・カドやカキゴ・オリ、スープや歌鈴はどうなる?」

「……アボ・カドとカキゴ・オリはかっこいいだろう。外見だけじゃなく、中身も男前だ。だからモテるのは当然。スープは守ってあげたくなる可愛さがあって、歌鈴は包み込む母性がある。惚れるのも当然だろう? ……けど私にはそんなものない。庇護欲を刺激する可愛らしさ、導く気高き美しさ、それに女神様のような凛とした内面からほとばしる美も私には備わっていない。……私を好きになってくれる物好きなんかいるもんか……」

「…………マジかお前マジか。あれかバカかバカなのか」

「なっ! 不可避、お前それは酷いぞ。私がこう落ち込んでいるというのに。……いやお前も落ち込んでいたのか。悪かった私まで落ち込んで……」

「いや、そうじゃなくて。お前、自分のことどう思ってんの?」

「……女らしさが微塵もない、男勝りな戦士というところかな」

「はぁー、そうかよ。やっぱお前バカだろ」

「おい何度も言うなよ。怒るぞ」

「なぁ、俺はそう思わないんだが。男勝りな戦士には決して見えないぜ」

「……じゃあどう見えてる?」

「……そうだな。守ってあげたくなるほど可愛らしいお嬢様だ。ヒーローをやめるって言葉を撤回して、お前だけの専属ヒーローになるのもいいかもな。そう思うほど俺の目にはお前が魅力的に見える」

「…………」

「……なんか言えよ。じゃないと俺すごく恥ずかしいんだが」

「……今のはお得意の嘘か」

「違う。俺の本心だ」

「う、嘘だ」

「嘘じゃねえよ。言っとくけど今のお前相当可愛いぞ。『……私を好きになってくれる物好きなんかいるもんか……』このセリフでなぜか抱きしめたいという欲求が俺の中に生まれた。好きになってほしいんだろ? 俺がなってやろうか……お前を好きに」

「…………」

「……無言とかやめねぇ?」

「……なぁ、お前まだ死にたいと思ってるか?」

「……どうだろうな? 少しだけ薄れてるような気もするけど。でも俺は生きるべきじゃないと思ってる。……怪物だからな俺は」

「だったら好きになってやるとかいうな!」

「……すまん。悪かったな。もう言わない」

「…………」

「…………」

「……なぁ、何で死にたいんだ?」

「それは俺が怪物だからだよ。……昔さ、俺がまだ小さいときに好きな女の子がいたんだよ」

「……何か嫌だな」

「そうかよ。……続けるぜ。俺はそいつが好きでけっこう仲が良かったから、その子も俺のことを好いてくれていると思っていた」

「ということは違ったのか?」

「いや、多分その子も俺のことを好きだったと思う。けど、俺は嫌われた。……その俺が小さい頃住んでいたところにな、化け物が現れたんだ。んで、俺が好きだった子が襲われそうになった。だから俺は助けたんだ。俺はそのときから普通じゃない力を持っていた。その力を使って、化け物を木っ端微塵に打ち滅ぼした。めでたしめでたしとはならなかった。その子な、恐怖に引きつった顔で俺を見るんだ。化け物を見ていた目で、俺を見るんだ。『ば、化け物』その子は逃げた……俺から。何かすごく傷ついた。俺は助けただけなのに。それで家に帰った。そしたらどうなったと思う? ヒーローがさ、いたんだよ。俺の両親と好きだったその子と一緒に。母親が俺に向かって言うんだ。『この化け物を早く殺して! こんな怪物が私の子どもなわけない。きっと間違ったのよ。お願いだからヒーローさんどうにかして』俺は忘れない。あの目を忌々しいものを見る目を。脳裏に焼きついている。それで……逃げた。俺はヒーローの攻撃から逃げて逃げて……殺した。そして俺は理解した。自分が普通じゃないことを。ヒーローすら上回る自分の力を。両親は恐れた。俺の力を。いつか自分たちに危害が加わるんじゃないかと恐れた。それからずっと狙われた。両親が依頼した刺客どもに。俺は一人で戦った。けど疲れたんだ、どうしようもなく。そしたらさピタリと刺客が来なくなった。調べてみるとよ、両親と好きだった子が化け物に襲われて死んだらしい。だから来なくなった。俺はどうするべきか迷った。生きるべきなのか死ぬべきなのか。俺は生きていていいのか? 怪物は死んだ方がいいんじゃないか? でも自分で死ぬのは怖い。死にたい怖い。俺は自分を殺せる可能性を持つ奴を探した。で、お前たちを見つけた。お前たちと敵対しているのはヒーローだった。俺は自分の力を隠して、ヒーローのチームに所属し、お前たちに殺される時を待った。んで今に至る。分かったか?」

「……あぁ。辛い記憶だな」

「……そうなんだろうな。だから俺は死にたい。けど……お前と一緒に生きるのもいいかも知れないって今思ってる」

「……私はお前に生きて欲しいと思う。私はお前と一緒にいる時間が嫌いではない。お前が死ぬとこの気持ちを味わえない。だから……死なないで欲しい。今のお前は一人じゃないはずだ。死ぬ必要なんてない。だって今のお前は怪物じゃなくてヒーローなんだ」

「俺やめたって言わなかったか?」

「じゃあ……私だけのヒーローになれ」

「……恥ずかしくないかそのセリフ」

「……少し。だがお前も専属のヒーローになってもいいと抜かしたはずだが?」

「実を言うと少し恥ずかしかった。でもお前が悲しんでる姿は見たくなかったから我慢した」

「そうか。なぁ、もう一回聞くけど、死にたいか?」

「……さぁな。……でも今はお前の為に生きたいって思ってる」

「そうか嬉しいよ。……お願いしていいか?」

「何でもどうぞ」

「こう、ぎゅって抱きしめてほしい」

「お前が望むなら」





「『二人は互いの存在を確かめるように、強く強く抱き合った』」



「!?」

「!?」

「いやー驚きですね。まさか不可避が逢引きしているなんて。というか本来はそういう喋り方なんですね。偽りの方も嫌いではありませんが、こっちの方が距離が縮まりそうなので好きですね」

「あぁ、にしても不可避にそういう過去があったとはな。その女はとんでもない悪女だったんだな。不可避のどこが化け物なんだ。こいつほど他人のために戦うヒーローもいないだろうに」

「まぁまぁ、その方は見る目がなかったんでしょう。しかしそれは不可避さんも同じかもしれませんが。私たちだってあなたの偽りには気付いていたんですよ。だからからかってたんです。あなたの本当が見たくて。それがあなたを傷つけていたことは申し訳ないですが」

「ん? トウバ、Sだったら傷つけるの嬉しいんじゃないのか?」

「何を仰いますやら。スープを苛め抜くこと以上にゾクゾクすることなどあるわけないでしょう?」

「……おい、わらわとしてはすごく不本意な情報なのじゃが。というかなぜ抱きしめるのじゃ? お前さん離すがよい」

「あぁーほんと可愛いなースープ。私たちも不可避さんと月見さんのようにラブラブになりましょう」

「嫌じゃー。わらわは優しい奴がいいんじゃ。お前さんみたいに意地の悪い男は好みでない!」

「ほほう、そうですか。これはおしおきが必要ですね」

「……あの男あんなキャラだったか?」

「私もさっき知ったばかりだ」

「まぁ、いい。それより俺も貴様を抱きしめたいんだが?」

「なっ! ダメに決まっているだろう!」

「なぜ?」

「そ、それは……恥ずかしいからだ。人前だし、それに心の準備というものが……待てまだ抱きしめることは許可していない!」

「俺が許可したから問題ない。だろう……お姫様」

「う……うぅ」

「いいなぁ、多摩子さん。わたくしも……」

「ん」

「はい? 何でしょうかこの手は」

「はぁー、オレ様はプライベートな時間なんだ。分かるだろ。手繋ごうってことだ」

「あ、はい。ふふ……嬉しいです」



「……えっ、何これ?」

「……不可避、君ともあろうものが僕たちの存在に気付かないとは」

「翔! お前、いつからいた。一体いつからお前らはいたんだ?」

「……『あーあー何やってんだろう僕ちん』からだね」

「最初からっっっっ!? ……何かさっきもこのセリフ言ったような気が?」

「言ってたわね。確か月見が来たときに似たようなことを」

「あー、思い出した」

「…………」

「月見、どうしたの? 元気ないわよ大丈夫?」

「……お……お前ら」

「月見……?」

「邪魔すんなぁああー!」



『!』



「何で急に現れるんだ! せっかく不可避と二人きりだったのに。滅多にないことなんだぞ。二人で居れるときなんて! なのに……なのに……何で邪魔するんだよ。バカ!」

『…………』

「月見、あなたってそんなに不可避零のこと好きなのね。ごめんなさい邪魔して」

「あっ! ち、違う。私は別に不可避のこと好きというわけじゃ……」

「そうか。やっぱり死のうかなぁ」

「あっ、ダメ」

「うっわぁー、そんなに抱きつかれるとは思わなかった。つうーか月見、お前可愛すぎ」

「うおっ! 急に抱きしめるなビックリするだろ」

「さっきぎゅってしてほしいって言ったのは誰だったかな?」

「う……私だが。けどこんな人前でやれとは言ってない。二人きりの時にという意味で」

「それは俺と二人きりになりたいととっていいのか?」

「……好きにしろ」

「……そうする」



「……ラブラブだなぁ」

「そうね。……私たちもいちゃつかない?」

「……喜んで」



「つーかこの状況何? 何でこんなことになってんの?」

「さぁ、けど今更過ぎないか」

「いや、そうだけど」

「というか私とお前の会話聞かれてたんだよな?」

「……あぁ」

「……ということは私だけのヒーローになってほしいという会話も?」

「……専属のヒーローになるのもいいという会話も?」

「…………」

「…………」

「言わなきゃよかったと思っても遅いんだろうな」

「そうだな」



「ところで不可避。ヒーローやめるのか続けるのかどっちだ? 私としては続けて欲しいんだが」

「あーどうしようか」

「続けたらどうだ? 私はヒーローとして戦ってるお前の姿を見るのが好きだから。続けて欲しいんだ。ダメか?」

「……いや、ダメじゃない。……悪いけど戻っていいか?」

「当然だ不可避」

「ありがとうたまたま」

「……偽りを除いてもその呼び方は変わらないのか?」

「この名称は本心から言っていた」

「殴るぞ」

「ごめんこうむる」

「そうか。まぁ、私は懐が広いから許してやる」

「さすがたまたま」

「ただし、次はないと思え」

「……はーい」



「『こうしてわたくしたちヒーローと悪の組織の恋の絆が深まったのです。わたくしたちの愛はこれからも育まれていくことでしょう』」



「……つーか俺ら仲良くしていいわけ」

「こういうのは気にした方が負けなんだよ不可避。お前は嫌か? 私と愛を育むのは?」

「……ヒャハハ。嫌じゃねえよ月見。……嫌じゃねえんだよこういう状況。俺がずっと欲しかったものだから」

「……おめでとう不可避」

「ありがとう月見」
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