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一章 百貫作家、現実を知る
その2 通販サイトが魅力すぎて
しおりを挟む「運動不足って、こんなに悪影響なんだなあ。作家が病気になりやすいってのは本当なんだ」
基本的に家から出ることはなく、買い物さえも大半は通販で済ましてしまう。
一人暮らしをして十年以上経つというのに、未だに自炊などもできないに等しい英明は、食事の大半をデリバリーか、通販で取り寄せた冷凍グルメで済ましていた。
また、全国から取り寄せたインスタント麺も非常によく愛食していた。
毎日一食食べても、一か月は持つくらいのストックを常に常備している。
たまにスーパーなどに買い物に行っても、できあいの物を買いこむか、ファストフードをファミリーパックで買い込み、一人で消化してしまうのだ。
時折、隣に住む女性からの差し入れもあり、英明の食生活は充実していた。
栄養のバランスさえ、考えなければ。
「お取り寄せグルメ……美味しいから食べ過ぎちゃうんだよね」
冷蔵庫を開けて、中から蓋のあいた二リットルのペットボトルを取り出すと、そのままグビグビと喉を鳴らして、中身のコーラを一気に飲み干す。
「ダイエットを少しは考えないと、いけないかなぁ?」
残りのコーラをそのままリビングへと持っていき、何本ある積み重ねている本のタワーを器用に避け、リビングのテーブルと対になっているソファーに腰を下ろすと、テーブルの上に置いていたお菓子ボックスからポテトチップスを取り出し、袋を開ける。
「運動不足と食べ過ぎが原因かな……たぶん。でも、そんなに過度な食べ過ぎをしているわけじゃないと思うんだけどなぁ」
袋の中に人差し指と親指の二本だけを入れて、塩カルビ味のチップスを取り出し、口に運ぶ。パリパリとした軽い食感と、コクのある塩カルビ味が最高の一品だ。
できれば期間限定ではなく、通常フレイバーにしてほしいものである。
「…………」
ものの一分ほどで、中身の半分以上を食べてしまった英明の口の中は、甘い食べ物を欲していた。チップスの塩分のせいである。そういえば、風呂上りで身体もほてっている。
少し身体を冷やす必要も、きっとあるはずだ。
英明はよいしょっと腰を上げ、先ほどの冷蔵庫へと戻り、今度は冷凍庫の中からバニラアイスを取り出しソファーへと持っていく。
北海道から取り寄せた、厳選ミルクを使用した非常に濃厚かつ滑らかな舌触りの、風味豊かな極上アイスだ。円状の蓋を開けて、一緒に持ってきたスプーンですくって、口に入れる。
ひんやり滑らかなバニラが、口の中でとろけた。
「風呂上がりのアイスは最高だなぁ」
一人暮らしが長いせいで、すっかりと独り言が板についている。
作家としての仕事をする時も、アイデアを口に出して確認することがある英明なので、今更自分の独り言が傍からみたら怪しいなどとは、欠片も思わない。
思われたところで、今は自室で一人きり。なんの問題もない。
あるのは、英明が手に持っているアイスのサイズの方だ。彼はごく普通に冷凍庫から取り出してきたけれども、それは一人分の小さなカップではなく、ファミリー向けの大きなカップであった。季節関係なくアイスを食べる習慣のある英明は、小さなカップではなく、大きなカップを、時としては業務用のカップで好きな時に好きなだけ食べるのだ。
他の食べ物も同じような感じなので、英明の家は一人暮らしだというのにずいぶんと立派な冷蔵庫を所有しており、特にお取り寄せ冷凍グルメを重宝している英明の冷蔵庫は、冷凍庫が大容量なのである。
英明はコーラとポテトチップス、それからアイスクリームをすべて食べきると、ようやく一息ついた。やはり風呂上がりのおやつは、最高である。
「……そういえば、コーラのストックが少なくなってきたかも……」
スマホを取り出し、いつも利用している大手の通販サイトを開く。早ければ、商品が註文していた翌日にでも届くので、英明はいつもここで頼むことにしている。
「……あーでも、ダイエットしなければいけないのかぁ……さすがに、百キロ越えはマズイよなぁ」
英明がごく普通に会社勤めをしている人間ならば、とっくに人間ドッグの検査で引っかかっていたことだろう。だがし、作家という自由職である英明は人間ドッグなど頭の片隅にもなかった。下手に、さほど大きな大病を患ったことがないことが状況を悪くしていた。
好きな時に好きなだけ好きなものを食べて、仕事で机に向かう以外はゴロゴロと寝転がり、運動など皆無な自堕落な生活を長年続けていた英明の肉体は、脂肪という形で表に出てきた。
今までダイエットなど考えたことはあっても、実際に実行しようと思わなかった英明の脳内に、ようやく「マズイ」という感情が芽生え始めた。
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