旅人が之く

焼きそば

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プロローグ3

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「ようきたな」

   ぶっきらぼうにおやっさんが歓迎する。いつものような厳つさを纏っておらず只々頑固親父に見えるのである。

「あらあら、グリーンさん、お久しぶりねぇ」
「はっ!ナミ夫人におかれましてはご機嫌麗しゅう。」
「堅苦しくなくていいんですよ、今日は貴方の退官をお祝いして何ですから。」

   奥から、おやっさんの奥さんが顔をのぞかせていた。これがまた驚くべきことで、この奥方はとんでもない幼妻、26歳である。年の差婚である。しかしながらおやっさんの方が尻に敷かれているらしく、奥方の方が剛毅、と噂されていた。
   尤も、内面はしっかりしているが、外見はそうでもない。めちゃくちゃ可愛い。10代と言われても驚かないぐらいに、である。

「おい、そんなこというと、現役軍人の俺が悪そうに見えるじゃねぇか」
「悪いに決まってるじゃない、悪いと思ってないなら世界中に謝罪の旅でもしてきて頂戴!」

   とても結婚3年目とは思えない。
   客間には先客がいる。アリア・ルマンド侯爵令嬢である。

「あら、この度は退官されたそうでいらっしゃるとか。おめでとうございます、と言っておきますわ。」
「はっ!ルマンド侯爵令嬢におかれましては本日もご機嫌麗しゅう。」
「ルマンド元侯爵令嬢でございますわ。今は平民ですの。」
「これは失礼」
「いいのよ。それと、昔のようにアリアと呼んでくださると大変嬉しいのだけれど。言葉遣いも砕いて、ね。」
「すまないな、アリア。」
「謝るのはこっち。ごめんなさいね。」

   何が、とは言えない。しかし、あえて言う必要もなかった。最近は色々あり過ぎた、アリアは少しだけ頬は痩けている。だが、白磁のような肌と、青い瞳、そして瞳と同じ色をした髪は依然と変わりなく美しいままである。

「それにしても、いつ見ても美しいね、君は。」
「そう。ありがとう。」

   いつものアリアにしては少しばかりそっけなかった。それを自分もわかっていたのだろう。アリアはとってつけたように言う。

「貴方も変わらない。いつまでも頑固で、馬鹿ね。」
「おい」
「馬鹿よ。大馬鹿。でも、優しいわ。」
「むぅ…」
「グリーン、私を愛したままはよくなくてよ、私を気遣わなくてよくてよ。」

   アリアの声は悲しげには聞こえない。多分本心なのだろう。

「私、モーガン将軍のうちに養子で入ることになったから。」
「ああ」
「だ、そうだぞ。グリーン。嬢ちゃんも生き方を決めたんだ。お前もお前の道を決めろや。」

   アリアの後ろにおやっさんがたっていた。その姿は中々キマっていた、が、直ぐに膝から崩れ落ちる。

「あんたもだよ!」

   本当に幼妻なのか、時々わからなくなる。

「ってて、、。で、お前さんはどうするんだ?」

   グリーンは少しの間考えた。勿論頭の中で考えていることはある。だが、それを言ってもいいのか悪いのか、躊躇われた。
おやっさんがじっと見つめてきた。だから言うことにした。

「俺、旅に出ます。世界を見て回りたいです。」

親父は少しだけ口を閉じてから、優しい顔をした。

「そうか、行ってこいや。」
「はい!ありがとうございます!将軍ジェネラル
「いいってことよ。」

   そう言っておやっさんは煙草を取り出して吸おうとした、が、奥方に頭を痛打され椅子から落ちて悶絶した。

「馬鹿!お腹の子供に悪いじゃないか!」
「つぅ…すまねぇ」
「え、おやっさん、子供ガキァ…」
「そう、できたのよ~。アリアの兄妹よ!妹よ!姉妹丼よ!」
「奥方、落ち着いて…」
「ああっ、お母様、と呼ばれてアリアちゃんからはお姉様、かしら、あっ、だめっ、ダメよっ、アリア、そこはラメェーー」
「落ち着け、落ち着け」

   奥方の顔がいきなり恍惚としたものとなった時は焦った。アリアと顔を見合わせて苦笑する。お前も大変だな、と目線だけで語ると、貴方も大変ね、と言った目線が帰ってくる。多分これからの無職ライフのことだろう。

「じゃあ、グリーン・マーリンドルフ元中隊長のこれからの人様への優しさと、気ままな人生を期待して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」

   奥方の料理はとても美味しい。ここの奥方は使用人も料理人も雇わない。それだけにとても温かい料理が食べられるのだ。勿論、グリーンの大好きなビーフシチューも、である。
   モーガン一家の食事はいつでも楽しい。今も、奥方とおやっさんの馴れ初めを語っている。モーガン一家には七不思議があり、そのうちの一つに、奥方とおやっさんの馴れ初めの話が毎回変わっている、というものである。その昔、グラがきいたらしいが、全部本当、と返され、おやっさんも笑顔で頷いていた。おやっさんの服は汗でべちょべちょであったが。
   こんな毎回揉めたり、尻に敷いたりの夫婦だが、やはり仲はとてもいい。今も馴れ初めを語りながら奥方はおやっさんの肩にもたれかかっている。それをニコニコとして見つめていると肩に重みが加わった。みると、水色の髪。アリアである。いい匂いがする。

「ねーぇー、あーしのころ、ろーおもぅてんのよぉー」

   前言撤回。臭い。超酒臭い。しかも目が据わっている。

「あーしは、皇子がっ、ふええぇぇ…」

   どうやら、愛しの君は泣き上戸らしい。いらないことを知ったような気がする。

「わーった、わーったから、ほら、泣くなよ…」
「グスッ…」
「むぅ…」
「zzz」
「と言うか、君は寝るな!寝るなら寝台に行けよ!」
「…えへへ、グリーンのことはだぁい好きだよぉう?」
「…チッ」

   寝たふりしやがって、と少しばかり憎々しく思う。こういう時だけ調子のいい…

「ヒューヒュー、お熱いねえ、お二人さん!よっ、理想のカップルぅ!」
「奥方様、それ、ブーメランですよ」
「あらそーぉ?ねぇ、あたしたち理想のカップルですって、嬉しい?嬉しいわよね?嬉しくないとは言わせないわよ?貴方」
「ああ、そうだな」

   一見するとおやっさんはニコニコ笑いながら同調している。冷や汗をすごい量でかいていることさえ除けば全くもっていつも通りである。これには笑うしかなかった。悟った目でグリーンを見ているのも面白かった。

「んじゃあ、そろそろ…」

   腰をあげようとした、が、引っ張られてまた椅子についてしまう。

「こら、アリア…」
「待って、待ってください、お願い…」

   アリアの顔は必死であった。アリアの頭を撫でてやる。すると直ぐに穏やかな顔に戻った。

「決まり、だな。」
「よぉーし!朝まで呑むわよぉ~!」
「ほんと、すいやせん」
「いいってことよ!あたしの娘の為よ、ねぇ、貴方?」
「ああ、そうだな」

   おやっさんが遠い目をしている。今ちょっと眉を顰めた。多分太ももをつねられたのだろう。

「ありがとうございやす。」
「まあ、な。息子に帰る場所を残しておいてやるのも、親の仕事ってやつなんじゃねぇのか?」
「そうよ、グリーン君はここにいつでも、好きな時に帰って来ればいいの、あんたはここに家があって、家族がいる。それでいいじゃない。」

少しだけ奥方の目が潤んでいた。奥方はパンと自分の頬わ両手で軽くはたくと破顔した。

「飲みなおしよっ!」

俺たちは朝まで飲んだ。
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