旅人が之く

焼きそば

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一章

帝都の裏町

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   退職金400万ルツ、毎月の軍人年金、25万ルツ。因みに帝都の平均世帯年収が250万ルツ。退職金は銀行口座に全部入れた。今の手持ちは2万ルツ。カバンに生活必需品は全部入れた。あとは旅立ちを迎えるのみである。
   軽快なステップを踏んで歩いていく。念願の第二の人生、再就職の予定無しである。辛い職場はもうこりごりであった。
   そう、職場が悪い、社会が悪い、そんなことをナチュラルに考えるクソニートであった。財布を盗まれるまでは…

「あれっ?」

   財布がない。馬車に乗るのに払う前金がないのだ。少し考えて、さっきぶつかった時にスリにあったことに気づく。

「あんの野郎ォ!!」
「どうしたね、あんちゃん、財布でもすられたけ?」

   馬車のおっちゃんはかなりのほほんとしたおっちゃんはであった。ヒゲがモフモフしている。ドワーフか何かなのかもしれない。ドワーフでも驚かない。

「ああ、すられちまったよ。すまんが、他の客あたってくれや、乗れそうにねぇわ。」

   軽く謝っておくと、おっちゃんはは頰を掻いて、

「まあ、よくあることだ。他の街で金引き出してもいいね。乗ってくけ?」

と、誘っていただいたが、丁重にお断りした。ただ単に他人が泡銭を稼ぐのと、自分の働いて得た金が奪われるのが気に障ったのだ。
   クソガキは少しいったところの果物屋でくっちゃべっていた、狸鍋にしてやる。

「こんのクソガキャァ、掻っ捌いて狸鍋にぶち込んでやる!」

   怒気を発して怒鳴りつけると、クソガキはやべっ、と言って走り去っていく。

「おいあんちゃん、お願いだから、剣は抜いてくれんなや!」

   果物屋のおっさんがなにやら言っているが無視だ無視!腰に手をかけながら走る。クソガキは通路を左に曲がる。細道に逃げ込むつもりらしい。

「待ちやがれ、ンの野郎ォ!」
「わたたっ!ちょっ、このおっさん走るの超速え」
「元騎士道舐めんなァ!」

   クソガキは右手に、左に、何度も十字路を曲がる、ある程度距離があるからどこで曲がったかわからないようにするつもりかもしれないが甘い、近衛騎士の記憶力と視力はピカイチだ。
そして、三つ目の十字路を右折すると…


誰もいなかった。


「アレ?」

   キョロキョロと辺りを見回すが人っ子一人、、、いや、十人以上いる。

「おいおい、にいちゃん、どーしたんでぇ?こんなところによぉ~。」

   細身の緑の服を着たアスパラガスがいた。

「あ、アスパラガス、だと…?」
「じゃかぁしい!誰がアスパラガスじゃ、ここ一帯を仕切っているマフィア、グリーンスモーカーを知らんのか!」
「知らないんだが」
「はぁ?お前俺らを知らんやと?痛い目見してやらぁ!お前らァ!やれぇ!」

   十数人の男が前、後ろでピストルを構えている。

「チッ…」

   楽しい旅の毎日がここでぶっ壊されるとは思ってもみなかった。ヤりにいく。そう決めて、腰の剣を抜きながら走り出した瞬間である。
   乾いた音が響き、手前の男の側頭部が柘榴の様にかち割れる。

「賞金首が、1,2ィ、3ン、4,5ぉと?ありゃ、若い兄ちゃんだな。おい、そこの兄ちゃん!一緒に人狩りでもしないかぇ?」

ショートカットの若い女だった。ラフな服装をして、銃を構えている。およそ兵士とは思えない。あと、おっぱいがでかい。

「ああ、いいぜ、そこのいい乳した姉ちゃんよ。あとで飲み屋でもどう?」
「舐めた男だッ!」

   そう言って女は銃をホルスターから引き抜くと二丁構えて、撃ちだした。それと同時に剣を構えて斬りかかる。
   鮮血が頭上に降り注ぐ。血は賊の討伐で見慣れていた。体当たりして、突き飛ばされた相手を剣で叩き斬る。全部、実戦で身につけた剣技だ。剣だけは誰からも師事してもらっことがない。モーガン曰く、早死にの剣だが、極めている、らしい。だから、最初から剣技で負けたことはない。公式では失格になることはあるが。今となっては道場剣術は過去の遺物、ダンスの一種と間違われることも、一流の剣使いに言わせれば当たり前のことであった。
   兎にも角にも死体にも、血にも既に慣れきっていた。だが、頭上から弾を撃たれるのは少し怖い。一発が鼻先を掠める。

「おい、危ねえじゃねぇか、帰ったら乳揉ませろ」
「うるせぇ、あんたこそケツの穴増やしてやんよ!」

   女は銃の向きを変えてアスパラガスに向けて構え、数初撃った。アスパラガスは赤い血を吹いて倒れる。ビクン、ビクンと陸に打ち付けられた魚のように跳ねて、そして、痙攣は静かになっていく。
   そして、最後の1人を斬り倒すと、10人以上いたマフィアの男たちは全員血の海に沈んでいた。

「いやぁ、やるねぇ、あんた。ピストル相手にビビらず当たりにかかるなんてねぇ。」

   女は既に下に降りてきていた。まだ、子供っぽさを外見に残している。ただ、乳はでかい。いいぐらいにスリムな女だった。

「おう、あんたもいいサービスだったぜ。また頼むよ。」
「うるせぇよこの色男ロメオが」

   同じ戦場にいた者が、最初は知らない仲でも、終われば憎まれ口を叩きあう、これはよく命をやりとりする職業ではよくあることだった。それは賞金稼ぎでも言えることだ。尤も軍人と賞金稼ぎが仲良くなる、など聞いたこともないことなのだが、それはグリーンがただ単に変人なだけであろう。

「まあ、いいや、やるかぇ?」

   そう言って女はニッと笑って煙草を突き出す。雑な仕草だ。男がやる職業をやっていれば、女も大抵こんな風になるのだろう。

「煙草か?やらねぇよ。」
「ちげぇよ。ヤクだよ。気持ちいいぜ」
「馬鹿野郎、やるわきゃねぇ…」

   そう、答えると女は目を細めた。

警察サツか?」
「ちげぇよ、馬鹿。」

   ふうん、と女は頷くと

「そうか、よくわからねぇが、まあ、深い詮索は無しだな。それがここの流儀だ。」

と言って、続けて

「まあ、あたしゃ、ジアってんだ。稼ぎだ。宜しく頼むぜ。」
「グリーンだ。」

   お互いに握手する。女の手だがゴツゴツしている。それは女がベテランのガンマンであることを意味していた。これなら背中を任せるに、まあ、誤射からして、信頼はできないが、技量は足りるだろう、と思った。

「細けぇこたぁ、まあ、おいおいでいいや、まあ、とりあえずいっぱいやろうぜ」

   軽くウインクして、ジアが言う。それが妙にキマっている。不思議な女だ、と思った。身体は華奢な方だ。裏町の女というのはこうなのかもしれない。この女も帝都の闇の中で、逞しく生きてきたのだ、グリーンはそう思った。

「すまねぇが、財布盗まれちまってな。茶髪で、グレーのランニングをきたクソガキだ。そいつを狸鍋にしてつつきながら、まあ、しっぽりいこうぜ」
「ど変態が。まあいい。そのガキのことならあたしが知ってる。まあ、呑んでからでいいだろ。それくらいはあたしがおごってやる。」
「りょーかい。ありがたくいただくぜ」
「返事が早いね」
「タダより美味い飯はねぇからな」
「チッ、後でとりたててやらぁ!」

   そう言ってジアは歩き出した。その姿も妙にキマっている。見ていて快いものだった。

   風が東に向かって吹いている。
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