愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩

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23.シリル視点

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少しクセのある蜂蜜色の髪に透き通った青い瞳はもはやガラス玉のように輝いている。小柄で、一度見れば忘れない、妖精のような美しさだ。


しかし、その眼差しにはやはり兄弟なのだろう、アレキサンドライト殿下の面影がある。アレキサンドライト殿下の方が表情が豊かな分人間味がある。



「ああ!王太子殿下!!助けてください!この女がわたくしに暴力を!2階には教師が一人倒れています!こんな乱暴な女退学にしてください!!」


ノートンはここぞとばかりに彼に縋り付くように助けを求める。チラッとシーラを見ればスンとすましたようななんとも言えない顔をしていた。


「ノートン、何があったの?」

感情の困らないような、冷たい声で王太子が聞いた。待ってましたと言わんばかりにジムとルーンが話をする。


「あの女が急に暴力を振るってきました!みてください!僕も蹴られたんです!この王立のアカデミーでこんなこと許されませんよ!」


「そう。君、シリルだっけ?それと、そちらのご令嬢。こんな事してただで済むと思っているの?彼は公爵家の人間だよ?」



「オーランド様!こんな者達アカデミーから追い出してください!!!」



王太子は少し視線をきつくして僕を見た。まただ、王太子はいつもそうだ。あいつの作り話を全て信じて僕を罰する。違うと否定すれば、王族に逆らうのか!とノートンに攻められる。そして、キュア公爵からトラティリア公爵へと苦言を呈される。

キュア公爵家は王家に連なる家だ。
現国王の姉に当たる方が奥方だ。我が家より格が上なんだ。
王太子はそのまま何も言わずにしばらく黙り込む。その間にも、ノートンはいかに自分が被害にあったかを一生懸命に話し続けている。



「片方の話しか聞かないのかお前は」


突然、シーラが王太子に語りかけた。
もう勝ったも同然、と余裕そうにニヤニヤと笑っていた3人の表情が一瞬で変わる。


「なんだって?」

王太子がほんの少し、表情を変えた。怒っているのだろうか。



と問うたでしょう。私たちが悪だと決めつけて。見てもいなかったのに。」


「怪我をしているのはノートンだ、実際暴力を振るったんだろ?」



「怪我ならシリルもしている。私が助けたから軽症で済んだ。そいつらはそうやっていままでも、濡れぎぬを着せてきたんだろう。シリルに。」



「君、僕が王太子だってわかってて話してる?」


「は!権力にたよるか?ますます情けないな。これが次代の王か。」


シーラが…シーラがいつもと変わらない。それが僕にはとんでもなく心配でシーラの手をとり止めようとするが、チラッと見えた瞳には先ほどよりも強い怒りの炎が燃えているのがわかってそのまま声をかけられなかった。


「…名乗れ」


「シーラ・ブライトン。私が命をかけて守っている国はこんな者に託されるのか。」


「ブライトン…辺境伯!!」


王太子は明らかに動揺した。護衛権側近役の生徒達も瞳を大きく見開いて驚いている。


「王太子。貴方には権力がある。貴方が黒だと言えば、真っ白なものも一瞬にして真っ黒になる。判断を誤ってはいけない」


王太子がグッと何かを飲み込むかのように泣きそうな顔をする。その様子にシーラが珍しく首を傾げる。

「おいおい、ちょっと手加減してやってよ。」


突然2階の窓から軽薄な声が聞こえた。先ほど投げ飛ばされた教師が「いてて」と頭を押さえながら窓から覗いている。よく見れば…


「アレキサンドライト…殿下?」


「よぉ!シリルー!おい!シーラ2階からは飛び降りるな!怪我をするだろう。まぁ、怪我をしたのは俺だけど。」


「兄…上」


王太子の声が明らかに震えている。
アレキサンドライト殿下の登場で分が悪いと思ったのか、3人はコソコソと逃げていった。

人が少なくなった事で、耐えていたものが崩れたのか、王太子がボロボロと泣き出した。

シーラが「ハンカチはない」と思考停止してしまったので、仕方なく僕のハンカチを王太子にかした。


ままなくして2階から降りてきたアレキサンドライト殿下と合流した。「どうなっているのか」とシーラが小さな声で聞く。


「いやー…その前にオーランドがいくつか知ってる?」


「16だろ?」


「16ね。そうだよな。世間にはそう言っているもんな。実は、オーランドはまだ13歳なんだ。」



「シリルも13か?」


シーラが混乱しているのがわかる。


「僕は16だ。アレキサンドライト殿下は18でしたよね。」


「ちょっと事情があって年齢を偽らせてもらってるんだ。あれ?ブライトン辺境伯は知っているはずだけどこの事」


「父上が。締め上げておく」


「まぁ、そういうわけで、なんていうか…オーランドはまだ善悪の判断が苦手というか…」


「みなまで言うな。王太子殿下、無礼を致しました。お許しください。願わくば、私の忠告を胸に精進なされよ。」

シーラが、この場の誰よりもかっこいい。その言葉を聞いた王太子はさらに涙を流してうずくまってしまった。
あぁ、これは…これはあれだ。


「心細かった…のですか?」


王太子が勢いよく顔を上げた。鼻水まで出ている。


「僕もこのアカデミーで一人になってすごく…寂しかった。僕は逃げたけど、貴方は逃げられない。だから、強くあろうとしたんですか?」


コクンとうなづく彼は、よく見れば幼い。無理に虚勢を張っていたんだ。以前の僕のように。

「シーラは言葉はきついし、やられたら何倍にもしてやり返してくるけど…誰よりも優しいんです。貴方もそんな人を見つけられるといいですね。」

そう言って手を取りもう一枚ハンカチをお渡しする。頬を桃色に染めて僕の手をぎゅっと握り返してきてくれた。
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