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「シーラ…」
王宮に到着すると名乗ってもいないのに門が開いた。その先では、いつもより小さく見えるアーサーが少し青い顔をして私を出迎えた。
珍しく弱々しく私の名前を呼ぶアーサーに一喝いれる。
「下を向くなアーサー。お前がそうなれば、ついてくる者もそうなる。決して下を向くなと教えたはずだ。前に立つものは、いつも、いつでも前を向いて歩け」
アーサーはそれでもグッと何かを我慢しているような、苦々しい顔をしてただ、私が通り過ぎるのを見ていた。
王宮の中はいつもよりシンと静まり帰っているように感じた。皆、この事態を知っているのだろう。
王座の間に着くと、扉の前にはアーサーとオーランドの兄であるハーキマーが待っていた。
「すまない。シーラ。」
一言そう呟いたハーキマーは王座の間へと続く重い扉を開いた。正面には王座の横に立つオーランドと、王座に座る3人によく似た顔の王が待っていた。
「ブライトン副司令官。よくぞ、参った。平伏せずそのまま話を聞いてくれ。」
よく響くバリトンの声は国王の声だ。礼を取ろうとした私を止めて国王はそのまま話を始めた。
「辺境を突破された。ブライトンが負けるとは考えられない。争いが起こったとの報告も受けていない。だが、辺境の近くの街が突然一つ、攻め落とされた。何故だと思う」
「…私は参謀関係はあまり。ですが、考えられるとすれば…間者がいたか、ブライトンが裏切ったかどちらかでしょうか」
私が答えるとオーランドがビクッと肩を振るわせた。
ブライトンが裏切ったとは考えたくないが、私情でその可能性を潰してしまっては危険だ。
しかし、後ろからハーキマーが即座にそれを否定する。
「ブライトンが裏切ることはあり得ない。現に、辺境伯とランドルフは撃ち落とされた街の援護に出陣した。間者がいたと考えるのが自然だ。それに、その街はほとんど抵抗することなく包囲された。死者も出ていないようだ。」
ハーキマーの言葉を受けて少し考える。間者か…とにかく父上と兄が出たのだから私も出なければならない。
チラッとハーキマーに視線を送るとほんの一瞬、悲しそうな顔をしてすぐにいつもの精悍な顔つきに戻った。
王の方に向き直ると、王が決意したように強い声で私に向かって指示を出す。
「シーラ・ブライトンに出陣を要請する。ヒュー・アレキサンドライト部隊と共に、辺境の地の援護に迎え。」
「承知いたしました。」
オーランドは最初から最後まで泣きそうな顔をしていた。ダメじゃないか。そんな顔をしては。後でちゃんと叱ってやらねばならないな。
一礼をして、王座の間をあとにする。
少し歩き、中庭の廊下に差し掛かるとアーサーが待っていて、すかさず廊下に響くほどの声で私を叱った。
「なぜ、断らなかった!婚約したばかりなんだ、断ることだってできるだろ?」
少し、怒ったような顔だ。それが逆におかしくて、フッと笑ってしまった。
「断れるくらいなら王家直々に出陣要請してこないだろ。そもそも、王は私が婚約したことは知らない。実際にはまだ、手続きをしていない」
「は?!!?」
「シリルの人生に傷をつけたくなかったから婚約の手続きはしてない。隣国の動きが活発になっている事には気がついていた。近いうちに大きな戦いに出る事はわかっていたんだ。」
「そんな…じゃあ…でも!シリルは?!」
「私の事は愛さなくていいと言ってあるし、戦いが起これば行くと言ってある。それに、国が潰れればシリルだって無事では済まないだろ。だったら私は最前線で国を守る」
「シーラはそれでいいのか!守る者を残していって、後悔しないのか!!」
「バカが。私が守りたいのはシリルだけじゃない。お前やオーランドもだ。みんなまとめて守るためには根を絶やさなくてはだろう。私を誰だと思ってるんだ?私は負けないし、必ず全部守る。いいから黙って、一緒に来い。」
背中を丸めていつもより小さくなっているアーサーの背中を思い切り叩く。「うっ」と小さな声をもらしたアーサーがどんな顔をしているのかはわからない。
アーサーは、軽薄なようでいて誰よりも“愛”とか“想い”とかを大切にしている。情を持ちやすいし感情に流されやすい。
強くなるのにそんな感情はいらないと思いつつも、羨ましいと思っていた。
いつもより重い足を懸命に動かしなんとかトラティリア邸に帰るとシリルが心配そうに門の前で待っていた。
王宮に到着すると名乗ってもいないのに門が開いた。その先では、いつもより小さく見えるアーサーが少し青い顔をして私を出迎えた。
珍しく弱々しく私の名前を呼ぶアーサーに一喝いれる。
「下を向くなアーサー。お前がそうなれば、ついてくる者もそうなる。決して下を向くなと教えたはずだ。前に立つものは、いつも、いつでも前を向いて歩け」
アーサーはそれでもグッと何かを我慢しているような、苦々しい顔をしてただ、私が通り過ぎるのを見ていた。
王宮の中はいつもよりシンと静まり帰っているように感じた。皆、この事態を知っているのだろう。
王座の間に着くと、扉の前にはアーサーとオーランドの兄であるハーキマーが待っていた。
「すまない。シーラ。」
一言そう呟いたハーキマーは王座の間へと続く重い扉を開いた。正面には王座の横に立つオーランドと、王座に座る3人によく似た顔の王が待っていた。
「ブライトン副司令官。よくぞ、参った。平伏せずそのまま話を聞いてくれ。」
よく響くバリトンの声は国王の声だ。礼を取ろうとした私を止めて国王はそのまま話を始めた。
「辺境を突破された。ブライトンが負けるとは考えられない。争いが起こったとの報告も受けていない。だが、辺境の近くの街が突然一つ、攻め落とされた。何故だと思う」
「…私は参謀関係はあまり。ですが、考えられるとすれば…間者がいたか、ブライトンが裏切ったかどちらかでしょうか」
私が答えるとオーランドがビクッと肩を振るわせた。
ブライトンが裏切ったとは考えたくないが、私情でその可能性を潰してしまっては危険だ。
しかし、後ろからハーキマーが即座にそれを否定する。
「ブライトンが裏切ることはあり得ない。現に、辺境伯とランドルフは撃ち落とされた街の援護に出陣した。間者がいたと考えるのが自然だ。それに、その街はほとんど抵抗することなく包囲された。死者も出ていないようだ。」
ハーキマーの言葉を受けて少し考える。間者か…とにかく父上と兄が出たのだから私も出なければならない。
チラッとハーキマーに視線を送るとほんの一瞬、悲しそうな顔をしてすぐにいつもの精悍な顔つきに戻った。
王の方に向き直ると、王が決意したように強い声で私に向かって指示を出す。
「シーラ・ブライトンに出陣を要請する。ヒュー・アレキサンドライト部隊と共に、辺境の地の援護に迎え。」
「承知いたしました。」
オーランドは最初から最後まで泣きそうな顔をしていた。ダメじゃないか。そんな顔をしては。後でちゃんと叱ってやらねばならないな。
一礼をして、王座の間をあとにする。
少し歩き、中庭の廊下に差し掛かるとアーサーが待っていて、すかさず廊下に響くほどの声で私を叱った。
「なぜ、断らなかった!婚約したばかりなんだ、断ることだってできるだろ?」
少し、怒ったような顔だ。それが逆におかしくて、フッと笑ってしまった。
「断れるくらいなら王家直々に出陣要請してこないだろ。そもそも、王は私が婚約したことは知らない。実際にはまだ、手続きをしていない」
「は?!!?」
「シリルの人生に傷をつけたくなかったから婚約の手続きはしてない。隣国の動きが活発になっている事には気がついていた。近いうちに大きな戦いに出る事はわかっていたんだ。」
「そんな…じゃあ…でも!シリルは?!」
「私の事は愛さなくていいと言ってあるし、戦いが起これば行くと言ってある。それに、国が潰れればシリルだって無事では済まないだろ。だったら私は最前線で国を守る」
「シーラはそれでいいのか!守る者を残していって、後悔しないのか!!」
「バカが。私が守りたいのはシリルだけじゃない。お前やオーランドもだ。みんなまとめて守るためには根を絶やさなくてはだろう。私を誰だと思ってるんだ?私は負けないし、必ず全部守る。いいから黙って、一緒に来い。」
背中を丸めていつもより小さくなっているアーサーの背中を思い切り叩く。「うっ」と小さな声をもらしたアーサーがどんな顔をしているのかはわからない。
アーサーは、軽薄なようでいて誰よりも“愛”とか“想い”とかを大切にしている。情を持ちやすいし感情に流されやすい。
強くなるのにそんな感情はいらないと思いつつも、羨ましいと思っていた。
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