愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩

文字の大きさ
40 / 89

35

しおりを挟む
「シーラ…」



王宮に到着すると名乗ってもいないのに門が開いた。その先では、いつもより小さく見えるアーサーが少し青い顔をして私を出迎えた。
珍しく弱々しく私の名前を呼ぶアーサーに一喝いれる。


「下を向くなアーサー。お前がそうなれば、ついてくる者もそうなる。決して下を向くなと教えたはずだ。前に立つものは、いつも、いつでも前を向いて歩け」


アーサーはそれでもグッと何かを我慢しているような、苦々しい顔をしてただ、私が通り過ぎるのを見ていた。
王宮の中はいつもよりシンと静まり帰っているように感じた。皆、この事態を知っているのだろう。
王座の間に着くと、扉の前にはアーサーとオーランドの兄であるハーキマーが待っていた。


「すまない。シーラ。」

一言そう呟いたハーキマーは王座の間へと続く重い扉を開いた。正面には王座の横に立つオーランドと、王座に座る3人によく似た顔の王が待っていた。


「ブライトン副司令官。よくぞ、参った。平伏せずそのまま話を聞いてくれ。」


よく響くバリトンの声は国王の声だ。礼を取ろうとした私を止めて国王はそのまま話を始めた。


「辺境を突破された。ブライトンが負けるとは考えられない。争いが起こったとの報告も受けていない。だが、辺境の近くの街が突然一つ、攻め落とされた。何故だと思う」


「…私は参謀関係はあまり。ですが、考えられるとすれば…間者がいたか、ブライトンが裏切ったかどちらかでしょうか」


私が答えるとオーランドがビクッと肩を振るわせた。
ブライトンが裏切ったとは考えたくないが、私情でその可能性を潰してしまっては危険だ。
しかし、後ろからハーキマーが即座にそれを否定する。


「ブライトンが裏切ることはあり得ない。現に、辺境伯とランドルフは撃ち落とされた街の援護に出陣した。間者がいたと考えるのが自然だ。それに、その街はほとんど抵抗することなく包囲された。死者も出ていないようだ。」


ハーキマーの言葉を受けて少し考える。間者か…とにかく父上と兄が出たのだから私も出なければならない。
チラッとハーキマーに視線を送るとほんの一瞬、悲しそうな顔をしてすぐにいつもの精悍な顔つきに戻った。
王の方に向き直ると、王が決意したように強い声で私に向かって指示を出す。


「シーラ・ブライトンに出陣を要請する。ヒュー・アレキサンドライト部隊と共に、辺境の地の援護に迎え。」


「承知いたしました。」



オーランドは最初から最後まで泣きそうな顔をしていた。ダメじゃないか。そんな顔をしては。後でちゃんと叱ってやらねばならないな。


一礼をして、王座の間をあとにする。
少し歩き、中庭の廊下に差し掛かるとアーサーが待っていて、すかさず廊下に響くほどの声で私を叱った。


「なぜ、断らなかった!婚約したばかりなんだ、断ることだってできるだろ?」


少し、怒ったような顔だ。それが逆におかしくて、フッと笑ってしまった。


「断れるくらいなら王家直々に出陣要請してこないだろ。そもそも、王は私が婚約したことは知らない。実際にはまだ、手続きをしていない」


「は?!!?」


「シリルの人生に傷をつけたくなかったから婚約の手続きはしてない。隣国の動きが活発になっている事には気がついていた。近いうちに大きな戦いに出る事はわかっていたんだ。」


「そんな…じゃあ…でも!シリルは?!」


「私の事は愛さなくていいと言ってあるし、戦いが起これば行くと言ってある。それに、国が潰れればシリルだって無事では済まないだろ。だったら私は最前線で国を守る」



「シーラはそれでいいのか!守る者を残していって、後悔しないのか!!」



「バカが。私が守りたいのはシリルだけじゃない。お前やオーランドもだ。みんなまとめて守るためには根を絶やさなくてはだろう。私を誰だと思ってるんだ?私は負けないし、必ず全部守る。いいから黙って、一緒に来い。」


背中を丸めていつもより小さくなっているアーサーの背中を思い切り叩く。「うっ」と小さな声をもらしたアーサーがどんな顔をしているのかはわからない。

アーサーは、軽薄なようでいて誰よりも“愛”とか“想い”とかを大切にしている。情を持ちやすいし感情に流されやすい。
強くなるのにそんな感情はいらないと思いつつも、羨ましいと思っていた。

いつもより重い足を懸命に動かしなんとかトラティリア邸に帰るとシリルが心配そうに門の前で待っていた。
しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

2度目の人生は好きにやらせていただきます

みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。 そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。 今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...