愛のない結婚を後悔しても遅い

空橋彩

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あいつの名前はなんだったか…思い出せない。何度も押し返した男。隣国の王子だ。

あいつがこんなところまでなぜ入ってこられたんだ?辺境の関所をなぜ越えられたんだ?近づくにつれて奴がいやらしい笑顔を浮かべる。


声が届くギリギリのところまで近づくと奴が話しかけてきた。


「シーラ・ブライトン。婚約者とはお別れを済ませてきたか?」



「貴様には関係ない事。即刻、エルセの町を解放しろ!さもなくば…」



「どーする?僕を殺す?やってみろよ!」



金軍が到着するまではもう少しかかる。銀軍は森の中にいる。今はここには私一人しかいない。相手は約30名。
だが…奴の周りにいる者達はみな虚というか、苦しそうな顔をしている。


「その、周りの兵士達はやる気がない様だがな。」


私がそう、嫌味を言うと第5王子は余裕そうだった表情を一瞬強張らせ、周りを睨みつけるように見た。


「役に立たない人間だな。家族を殺すぞ!」


そう、脅された周りの兵士たちがビクッと肩を振るわせた。そして私を、こちら側をさらに怯えるような目で見つめた。



「エルセの者達か」



「そーだよ!ほら、どうするー?攻撃できるものならしてみろよ!!!」


よく観察すると、関所の上には縛られた女や子供たちと、黒い軍服の男達がずらっと並んでいた。卑怯な男だ。


「相変わらず卑怯卑劣。胸糞悪い」

頭で考えるだけにしておこうかと思ったが思わず口から出てしまった。奴は地獄耳でしっかり聞こえていたらしい。

「相変わらず口が悪いな。見た目は極上なのに勿体無い。そうだな、僕が調教してやろう。あははははは!」


「貴様の名前さえも思い出せない程だ、調教はお断りする」


プライドの高い奴だ、ものすごく醜く顔を歪めた。黒い髪に黒い瞳、元々キツイ顔をしているがその顔を歪めるとさらに恐ろしい雰囲気を強める。



「僕は隣国の王子だぞ!この、オトギリ・トウセイを侮辱するのか!!!!」




「そう思うならお前が自ら私を打てばいいだろう!卑怯な手を使って戦う前から負けを認めている様なものだ!」


「今だけだぞそんなに偉そうにしていられるのは!いけ!!お前達!いかないなら殺してやる!!」


そう言われて30人程の町人達は一斉にこちらへかけてきた。関所の上の人質達から悲鳴が上がる。
私は馬を降り拳にリングをはめ構える。

無傷で助けることは不可能と判断した。向かってくるモノ達の急所を次々と撃ち、意識を奪う。

オトギリは町人が倒れるたびに少しずつ後退していく。何か…何かを狙っている様だ。

あと数人、というところでオトギリが高笑いをする。


「まとめて蜂の巣だ!うて!!!」


その合図で関所の上にいた兵士が人質から手を離し一切に弓をかまえ、矢をいた。

その数ザッと30数本私だけなら避けられるが、倒れている町人を守りきれない。




「どけ!シーラ!!」

少しでもと思い剣を抜き前に出ると横からアーサー率いる金軍が飛び出してきた。鉄の盾を構えて矢を塞ぐ。そのまま、後方で構える鉄砲隊がを撃ち落とす。



「オトギリィーーー!!!」


アーサーはオトギリに向かって走り出す。アーサーの剣幕に怯えたのかオトギリはそのまま関所の後方へと逃げ帰っていった。

続いて駆けつけた父上と辺境の軍の者達がそのまま関所を取り戻した。拠点を少し前に出すことに成功した。



救助できた町の者達に話を聞く事ができた。ある日突然、家の前に黒い軍人が現れ、町は支配されたそうだ。前日まで変わった様子もなく、いつもと同じ日々だった。

各家庭から一人ずつ人質をとられ、従わなければ殺すと脅されていたらしい。反抗した何件かのもの達が怪我をしているらしいが、死者はいないという。
ここにいるもの達はちょうど半分程の家庭であと半分の家庭はまだ街に閉じ込められているらしい。


まだ、何か手があるのだろう、奴がこんなにあっさり引くはずがないし、父上がここまで手こずるなんておかしい。

関所の上に上がり町の方を見つめる。町の前に広がる森で様子を伺う事ができずもどかしい。


「シーラ。」


不意に後ろから声をかけられる。


「兄上。無事で」

振り返ると私によく似た顔の兄が立っていた。違うところと言えば髪が絹の様に美しく、肩までしか長さがない事。
華奢で私よりも少し小柄である事。
よく、女性に間違われて声をかけられるらしいが、声がなんせ父上の地を這う様なハスキーボイスを受け継いでいる。喋った途端にみな、全てを理解して逃げていくらしい。


「うむ。なんとかな。アサギも落ち着いた、会いに行くといい」



アサギにはかなり無理をさせてしまった。怪我をしていないといいが…この後すぐに顔を見に行こう。
その前に、兄に森の様子を聞くがやはり何かがおかしいと感じる。
兄も同じく違和感を感じるらしく、腕を組んで悩んでいる様な仕草をする。


「時々兵士の様な町人が何人か出されるが、抵抗もせずにこちらに助けを求めてくるだけだ。オトギリが何を狙っているのか、何が目的なのか全くわからない。捕虜にした者たちも、口を割らないというより知らないのだと思う。」


「オトギリだけが指示を出している訳ではないのか…影でオトギリを操っている奴がいるのか…奴はそこまで頭のいい男ではないはずだ。」


「いつも正面突破しかしてこなかったあの男がこんな卑怯な手を使うとは。俺はまた明日森へ戻る。シーラも来るか?関所には父上がいれば大丈夫だろう。」


話を聞いているだけでは埒があきそうにない。明日は兄と共に森の拠点へ行ってみる事にした。
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