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しおりを挟むプロローグ
「そ、そんな……そんな馬鹿な……」
手足に力が入らず、目の前の景色が揺らぐ。
思わずよろめきテーブルに手をついたことで、その上に置いてあった花瓶がガシャンと音を立てて床に落ちてしまった。
しかしそんなことを気にかける余裕は、もう今の私には残っていない。
力なく床に横たわった私は、両腕を投げ出した。
――なぜ、私に毒が……? それにあの毒で死ぬことはないはずなのに……
「フローラ様……あまりに浅はかな行い、あなた様らしくありませんね」
ぼやける視界の中で意地悪く笑うのは、コルドー公爵である夫エドガー様の愛人ナターシャだ。
彼があれほど愛し合った私を捨てて、その愛を彼女へと捧げるようになったのは一年ほど前のこと。
偶然の出会いを果たした彼らの愛が盛り上がるまでにそう時間はかからず、すぐにナターシャはエドガー様のたっての希望でコルドー公爵家に召し上げられた。
裕福な子爵家出身の彼女は、表向きは私付きの侍女として……しかしその実は彼の愛人として迎え入れられたのだ。
もちろん彼女が正妻である私のことを敬うはずもなく、侍女としての業務に手をつけることもない。にもかかわらずエドガー様はそれを咎めることもせず、ただひたすらにナターシャの色香に溺れていった。
私が同じ部屋にいるというのに、人目も憚らずに口づけを交わす二人の姿を、何度見せつけられてきただろうか。
たった一年の間に、彼の心は全てナターシャのものになってしまったと言っても過言ではない。
当然のことではあるが、私の元へエドガー様が通うこともなくなり、夫婦の寝室は私一人だけの寝室へと姿を変えた。閨を共にすることがなくなった私は、コルドー公爵家の跡継ぎを産むこともできなくなったのだ。
そして次第に公爵からの愛を失った私の存在はないものとされ、屋敷の者たちもナターシャを新たな女主人として認め始めるようになってしまったというわけである。
――もしもナターシャに、子どもができてしまったならば……
私が一番恐れていたこと、それはナターシャがエドガー様の初めての子を産むことだった。
かつて二人で濃いほどに甘い時間を過ごし、私に持てるだけの愛を囁いてくれていた彼の心変わりに、私の心はついていくことができなかった。
きっとこのエドガー様の恋慕は一時的な気の迷いで、いつかコルドー公爵家の跡取りを産むのは私の役目であるという自負に、これまで支えられてきたのだ。
しかし月日が経つごとに彼のナターシャへの思いは減るどころか増していく一方で、むしろ私の存在がエドガー様の中から完全にかき消されていくのがわかった。
彼の瞳は虚ろで、そこに私の姿が映されることはない。
いつだって映るのは、ナターシャがわざとらしい上目遣いで彼を見つめる姿だけ。
既に体の関係もあったであろう二人の間に、子どもができてしまうのは時間の問題だった。
ナターシャが身籠もれば、その腹の子は正真正銘のエドガー様の子であると同時に、コルドー公爵家の正当な跡取りとなってしまう。
そうなれば正妻とはいえ、エドガー様からの愛を失い子を持たない私など、もはや厄介者と成り下がるだろう。
……いや、もう既にそうなりつつあるのかもしれない。
『跡取りを産むことのできないフローラ様は、公爵夫人にふさわしくありませんわ。いつか私の元にエドガー様の子が宿ってくれたなら……きっとあなた様は用済みになってしまいますわね』
不安を抱えていた私に、とどめを刺すようなナターシャの発言だった。
まだ子を宿していない下腹を撫でながら、得意げに笑ってそう告げる彼女の姿が憎らしくて、悔しくて、悲しくて……
その晩、私は涙が枯れるほどに泣いた。これ以上涙は出てこないのではないかと思うほどに、抱え込んでいた感情が次から次に溢れ出してきたことを覚えている。
ナターシャは、それ以外にも私に対して執拗な嫌がらせを続けていた。
かつてエドガー様から贈られた首飾りや指輪を勝手に持ち出され、それらはもう二度と私の手元には戻ってこなかった。
舞踏会の場でもわざと私に恥をかかせるような真似を繰り返し、いつしか私は社交界でもその居場所を失いつつあったのだ。
しかしそれでも、彼女の振る舞いをエドガー様が咎めることはない。
夫の支えを持たない公爵夫人など、この国では名ばかりの存在だ。
このような状況でナターシャに子ができたならば……そんなことを考えるだけで気が触れてしまいそうになる。
もう、私の心は限界であった。
やがて朝から晩までその不安が頭から離れなくなり、私は一日中人目を避けて自室に引きこもるようになった。
部屋の中へと通すのは、私の身の回りの世話をしてくれている侍女のアリアだけ。
その頃には、エドガー様は夫婦の寝室と通じている自室を使用することはなくなり、わざわざナターシャの部屋の隣に自分の部屋を設けて、そこで毎日過ごすようになっていた。
もう、引き返すことのできないところまで来てしまったのだ。
エドガー様の愛を失ってしまっただけでもその苦しみは甚だしいというのに、その上私が手にすることのできなかった彼の子を、ナターシャが抱く姿を目の当たりにするというのか……
その焦りと恐怖が、私を変えてしまったのである。
――ナターシャが、子を産むことのできない体になれば……
そんな恐ろしい願望が心の中で渦巻き始めたのは、いつ頃からだっただろうか。
たとえもうエドガー様の寵愛が戻ってくることはなくとも、ナターシャに子が産まれることがなければ……
いつか気を落ち着けて、遠くから二人を笑って見守ることができるようになるかもしれない。
しかし彼女が子を産んでしまったならば、私は嫉妬と憎しみの渦に呑みこまれてしまうだろう。
自らの内に秘めた醜い感情が、いつのまにか破裂してしまいそうなほど膨れ上がってきたことに私は気づいている。
もうこれ以上指を咥えて、二人の仲睦まじい姿を見ていることはできない。
こうして私は、エドガー様とナターシャの間に子が生まれぬよう、彼女に毒を飲ませる方法を思いついたのである。
その企みが、後に悲劇を生むことなど知りもせずに……
第一章 もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません
この国では、魔術信仰が盛んだ。
王都から少し離れたところにある森の入り口に、魔術師たちがひっそりと店を構えているのは有名な話である。彼らは簡単な魔術から複雑なものまで、その報酬に応じて客の希望に応えてくれるのだ。
決行の日は、エドガー様とナターシャが二人で観劇へと出かけた日。
森と劇場は正反対の位置にあり、彼らの帰宅は夜遅くなることがわかっている。
今日を逃せば当分機会はないだろう。
私は金貨を袋に詰め込み、秘密裏にその店を訪れた。
コルドー公爵夫人ともあろう者が、そのような場所を訪れていることが知られてしまっては、私の立場が危うくなってしまう。
伴の者はごくわずかに、ヴェールを頭から被り顔を覆い隠すようにして素性を隠した。
店にいた魔術師は同じくヴェールを深く被った女性であり、その素顔は全くわからない。
私は彼女に掻い摘んだ事情を話し、ナターシャに子ができなくなるような術をかけてもらえないかと頼んだのである。
当初その頼みに対し、魔術師はあまりいい反応を示さなかった。
「人の道に反することをなさる覚悟はおありですか」
その言葉の意味が私の心に重くのしかかり、一瞬だけ決意が揺らぐ。
しかしその瞬間脳裏に浮かんだのは、エドガー様とナターシャが幸せそうに見つめ合いながら微笑む姿。
彼は私と恋に落ちて将来を約束し、結婚式で永遠の愛を誓ったというのに……
私に愛を囁いてくれたかつてのエドガー様は、もういない。
私がこの一年で変わってしまったのと同じように、彼もまた以前とは別人に変わってしまったのだろう。
――今さら後戻りなど……
いっそのことナターシャの命を絶ってしまえばいい。そうすれば、エドガー様は再び私の元に戻ってきてくれるかもしれない……
そんな最悪の考えが頭の中をよぎったこともあったが、なぜかその考えを現実にしようとは思えなかった。
彼女を子どもが産めない体に変えてしまったところで、エドガー様が私の元に戻ってきてくれるかはわからない。しかしナターシャの命の灯火を自らの手で消し去るような真似は、とてもではないができなかったのだ。
「……そのような道は、既に踏み外してしまいました」
これが、先ほどの問いかけに対する私の答えである。
あの二人の関係に嫉妬し憎しみを抱き始めた瞬間から、既に私は高潔な公爵夫人などではない。
もはやこれ以上、堕ちるところなどないのだ。
私の答えを聞いた魔術師は一度だけ頷くと、何やら小瓶を開けて角砂糖のように見える白いものを取り出した。
そしてそれをテーブルの上に敷かれた布の上に広げると、別の小瓶に入れられた紫色の液体を上から振りかける。同時に何やらぶつぶつと呪文を唱え始めた彼女であったが、次の瞬間……
「えっ……確かに紫色だったはずなのに……」
私はこの目で初めて見る魔術に釘づけとなった。
みるみるうちに液体が色をなくして、白い物体の中へと吸い込まれていくではないか。
そして先ほどと全く変わらぬ見た目のそれを、彼女は指で摘んで元の小瓶へと戻していく。
やがて全て詰め終えてコルクの栓を閉めると、ゆっくりと私の方にそれが差し出された。
「見た目も味も、砂糖と同じでございます。この中にあるもの全てに術がかけられておりますので、こちらを飲み物に溶かすなどして相手に飲ませてください」
「全て飲まないと効果は得られないの?」
「いいえ。一粒で十分な効果が得られます。数が多いのはもしも失敗してしまった時のため……予備のものでございます」
なるほど、ナターシャが思い通りにその毒砂糖を口に含んでくれるかは確かにわからない。
少しくらい金額が上がっても、万全の対策をしていた方が安心だろう。
――私ったら。何を考えているのかしら……
人を不幸に陥れるための方法を、これほど真剣に考えて模索している自分の姿が滑稽で、哀れで、自嘲気味に笑ってしまう。
「……ありがとう。それで十分です。お代はいくらになるかしら?」
私は後ろで控えていた伴の者に目配せし、金貨の入った袋を受け取った。
この国のひと月の賃金は、平均して銀貨三十枚ほどだと聞いたことがあるが、なんせ今回は特別に危険な術だ。それを遥かに上回る額が必要なことくらいは予想済みである。
「本来ならば金貨五枚というところなのですが、今回の術はかなり複雑で危険なもの……さらに金一枚を足していただければと」
「そう。わかったわ、金貨六枚ということね」
言われた通り麻袋の中に手を入れて、必要なだけの金貨を取り出す。
私はコルドー公爵夫人である前に、元ウィルソン侯爵家の娘だ。
持参金を含め、自分で自由に使うことのできる資産なら十分に持っていた。
今回の代金も、私にとっては簡単に支払うことのできる額である。
ただ、どんなに金を積んだところで手に入れることのできないものが、人の心というもの……
実は先ほどナターシャに術をかけてほしいと依頼をした際に、エドガー様の気持ちを私の元へ戻すような術をかけることは可能かと尋ねてみたのだ。
しかし、魔術師にはきっぱりとそれを断られてしまった。
『人の心ほど移り気なものはございません。今術をかけたとしても、その効果は一時的なものでございます』
確かに術で一時的に彼の気持ちを取り戻したところで、またナターシャのような存在がいつ現れるかわからない。
彼女曰く、永遠に相手の心を縛りつけておくことのできる術もあるようなのだが……それはさらに危険な術であり、相手は抜け殻のようになってしまうかもしれないと話していた。
そのような状態でエドガー様をそばに縛りつけておいたところで、果たしてそれは本当に幸せなのだろうか。私が望む未来なのだろうか。
そしてそれほどまでに危険な術を頼む気概も、私にはなかったのである。
私は提示された額をテーブルの上に置いた。
魔術師は長い黒塗りの爪で金貨を数えて頷くと、それを引き出しの中へと仕舞い込む。
手に入れた毒砂糖入りの小瓶は、伴の者には渡さずに大切に自らの外套の中へと隠した。
万が一どこかで落としてしまったならば、大変なことになるだろう。
屋敷の自分の部屋に着くまで、しっかりと自らの手で持って帰るのだ。
そんな覚悟を決め、外套の上から小瓶を守るように手を当てる。
代金を支払い、無事に毒も手に入れた。
そうとなれば、一刻も早くコルドーの屋敷へと戻らなければならない。
この店に長居するのはあまりよくないだろう。
「無理を言ってしまい申し訳ございませんでした。助かりましたわ、ありがとうございます」
私は魔術師に向けて軽く頭を下げると、くるりと体の向きを変えて入り口の方へと足を進める。
すると、背後から突然声をかけられた。
「お気をつけください。人間というものは、想像以上に恐ろしいものです」
なぜ彼女がそのようなことを言ったのかはわからなかったが、ひとまず私はその忠告に頷くと店をあとにする。
外に出ると、そこは相変わらずの雪景色だった。
その真っ白な光景が、どうしようもなく私の心に虚しさを与えてくる。
――誰かに毒を盛ろうだなんて……
自分がこれほど恐ろしいことを考える日が来ようとは、思いもしなかった。
確かに彼女の言う通り、人間というものは内に恐ろしいものを秘めているのかもしれない。
それからというもの、いつナターシャにこの毒砂糖を飲ませるか、そのことしか考えることができなくなった。
いつもなら彼らの放つ甘い空気に反吐が出そうになり、居場所もなく自室で鬱々とした日々を過ごしていたというのに……
そのようなことも気にならないほどに、私の頭の中は決行の日のことでいっぱいだったのだ。
そしていよいよやってきたその日。
今日はエドガー様が領地の視察のため、朝から晩まで屋敷を留守にすることが決まっている。
つまり屋敷には使用人たちの他に、私とナターシャしかいないのだ。
やるなら今日しかない、そう思った私は彼女をお茶へと誘うことにした。
しかし好都合なことに、なんと向こうの方から誘いがやってきたではないか。
普段はエドガー様が離れることなくそばに張りついているため、なかなか彼女と二人きりの時間を持つことはできない。
この後に待ち受ける重大で危険な任務に震えてしまいそうになりながらも、私は平静を装って支度を整えていく。
ナターシャの方から誘いを受けたものの、場所は私の部屋がいいだろう。
そうでなければ、あの砂糖をうまく彼女の飲み物の中に溶かすことが難しくなってしまう。
そんなことを考えて行動している自分の変わり果てた姿に虚しさが襲いかかるが、今はそのような感傷に浸っている場合ではないのだ。
私付きの侍女であるアリアに用意してもらった温かい紅茶……あえてティーポットは二つ用意させ、ナターシャの方に例の砂糖を一粒だけ落とした。
中へと転がり落ちた砂糖はじわじわと溶けていき、やがてその姿を完全に消す。
甘味があるだけで無臭であると聞いてはいたものの、なんだか不安になってしまってひと際香り高い種類の茶葉を選んでいた。見た目からは毒が溶け込んでいるとは思えない、普段通りの色鮮やかな紅茶があっという間に出来上がる。
怪しまれぬように、ナターシャが席についてからアリアにこれを注いでもらうのだ。
アリアは口数の少ない侍女ではあるが、結婚当初から私付きとして仕えてくれており、この屋敷の中で数少ない信頼できる者であった。
先日魔術師の元を訪れた際にも、彼女は付き従ってくれている。
果たして先日の店での会話が、奥に控えていたアリアに聞こえていたのかはわからない。
だがもはやそのようなことも、どうでもよかった。
とにかく一刻も早く、この地獄のような苦しみから抜け出したくて必死だったのだ。
やがて昼食を終えたナターシャが、私の部屋へとやってくる。
……エドガー様からもらった数々の装飾品たちを身に着けて。
そんな何気ない行為の全てが私の心に癒えない傷をつけていることに、彼女は気づいているに違いない。
それをわかっていて、あえてそうしているのだ。ナターシャとは、そういう女なのだから。
「お招きいただきありがとうございます。私の方がお誘いしたというのに、申し訳ございません」
甘い声でそんなことを告げた彼女は、アリアに促されてソファに腰掛けた。
長い金色の巻き髪がはらりと肩から落ちていく様子に、不意に過去の記憶が頭をよぎる。
あれはエドガー様と結婚する前のこと……
『私、自分の髪の色は嫌いです。もっと華やかな……そうですね、輝くような金色の髪に憧れますわ』
両親共に暗色の髪を持つ私は黒髪で、この漆黒の色が幼い頃から不満だった。
髪飾りをつけてもあまり映えず、顔周りの印象も暗くなってしまうように感じていたのだ。
しかしある日いつものようにこんな不満を漏らした私に対し、かつてのエドガー様はこう告げた。
『君のように美しい黒髪は見たことがないよ。月明かりで艶めいて、思わず触れたくなってしまう』
『エドガー様……』
『今度黒髪に似合う髪飾りを贈ろう。きっと美しいはずだ』
彼はそう言って微笑むと、私の髪に優しく唇を落としてくれたのであった。
「フローラ様?」
突然かけられたその声に、ハッと意識を取り戻して正面を見れば、わずかに首を傾げてこちらを見ているナターシャと目が合う。
――いけない、なぜこのような昔のことを……
すっかり忘れていた彼との甘い日々の記憶が突然蘇り、必死にそれを頭の中から追いやろうとする。もうあの頃の彼はいないというのに、私一人だけが過去の世界に取り残されたままなのかもしれない。
だがこれから私は、人の道に外れたことをおこなうのだ。
エドガー様やナターシャよりも、さらに成り下がった人間になってしまうことだろう。
本当に後悔はないのか?
そう自分自身に問いかけるが、もう後戻りはできないところまで来てしまった……というのが答えであった。
「ごめんなさい、お待たせして……今お茶を淹れますわね」
気を取り直してアリアに指示を出し、私もナターシャの正面へと腰掛ける。
そしてナターシャのティーカップに紅茶が注がれたことを確認すると、私の前に置かれたティーポットを持って自らのカップに中身を注いだ。
「とてもいい香りです」
「それはよかったですわ。今日のためにとびきり香りのいい茶葉を用意しましたから」
「まあ、わざわざありがとうございます」
ぺらぺらとそんな出まかせを口にする自分に驚く。
ああ、自分はこれほど浅ましい女であったのかと……
紅茶は怪しいものではないとナターシャに証明するためには、まず自分が口に含んで彼女を安心させた方がいいだろう。
そう考えた私は、未だティーカップに手を伸ばさない彼女を急かすかのように、自分からカップを手に取った。
そして、そのまま数口続けて紅茶を口に含む。
途端に広がる華やかな香り。しかし砂糖の入っていない渋味のある紅茶……のはずが、なぜかそれは痺れるほどに甘かった。
――え……? 変ね、私の方の紅茶には砂糖を入れていないはずなのに。
そんなことを考え始めた途端、急に眩暈がし始めて気分が悪くなった。
思わず口を手で押さえて顔を背ける。
「フローラ様? いかがなさいました? ご気分でも?」
のんびりとした甘い声でこちらの様子を窺うナターシャは、未だに紅茶には手をつけていない。
そしてその心配そうな言葉とは裏腹に、彼女の表情には笑みが浮かんでいた。
まさか私は毒の入った方の紅茶を飲んでしまったのだろうか?
しかしそんなことはありえないはずなのに、なぜ……
「っ……なんでも、ありませんわ……少し眩暈がしただけで……」
「ですが、お顔の色が悪いように見えますわ」
「いえ、すぐに……落ち着きますから……」
たとえあの毒を私が誤って飲んでしまっていたところで、命を奪われることはない。あの術の効能は飲んだ者が今後身籠ることを妨げるというものだけで、命を危険に晒すことはないからだ。
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